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君は推せない/Novel by マコト

君は推せない

2,741 character(s)5 mins

■槍にオレでいいだろと言われる弓の話。

■6/27(日)のエアブーで2冊目の再録本を発行しました。
紙で欲しい方向けですが、よろしくお願いします。

『槍弓詰め合わせパックⅡ』
オンデマンド印刷/A5/60ページ(表紙込み)/350円/あんしんBOOTHパック
https://1208781.booth.pm/items/3060238

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 突然だが、私の推しは顔が良い。
 けして好意故の欲目などではなく、客観的な事実として、私の推しは大層顔の良い男であった。
 メディアでも散々とイケメンだと称されているし、その見目の美しさから光の御子だなんて二つ名まで持っている。新しい供給がある度、ファンの多くがまずは語彙を失い、ただただ顔が良いと呻いてしまう程に顔が良い男。それが私の推しなのである。
 顔だけが理由で推しているわけではないが、そんな相手が推しなのだ。気が付けばスマートフォンの画像フォルダが推しの画像ばかりになっているのも、仕方のないことだろう。
「それがお前のスマホがキャスターだらけになってる理由か?」
 ぶすりと顔を歪ませたランサーが忌々し気に吐き捨てた。
 ランサーは、私の推しである男性アイドル――キャスターの甥だ。遺伝子の強さに慄いてしまう程にキャスターによく似ているのだが、その麗しい顔が盛大に顰められていて、思わずこちらまで顔を顰めてしまう。
「何故それで君が不機嫌になるんだ。そもそも、人のスマホ画面を勝手に覗き込んできただけでもどうかと思うが、その中身を知って勝手に不機嫌になるなぞ失礼にも程があるぞ」
 画像の整理をしているところを突然後ろから覗き込んできたうえ、そのフォルダの中身がキャスターの画像ばかりだと気付いた途端に機嫌を急降下させたランサーに苦言を呈する。
 勝手に画面を覗かれた挙句、何だその写真は、と地を這うような声で唸られた私の方こそ、不機嫌になる資格があるのではないだろうか。
 そう思いつつ、まああまり良い気にはならないだろうな、と胸の内で頷いてしまった。
 何せランサーはキャスターに本当によく似ているのである。私のスマートフォンに大量に保存されている画像はキャスターのものだが、傍から見たらランサーと見分けがつかないに違いない。友人とはいえ、むくつけき男のスマートフォンに自分とよく似た写真が大量に保存されている状態なのだ。気分は良くないだろう。
 だが、よく似ているとはいえ、私の画像フォルダに並んでいるのはランサーではなくキャスターの画像だ。ランサーにどうこう言われる筋合いはない。
「……じゃねえか」
「ん?何だ?」
「それならオレでもいいじゃねえか!」
 がばりと顔を上げて突然吠えたランサーに、思わず、は、と間抜けな声が零れた。意味の解らぬ言葉に疑問符が飛び回る。
「何を言っているんだ君は」
「見た目はほぼ同じ。声だって似てるし、お前が褒め讃えている歌やダンスだってあいつと全く同じだけのパフォーマンスができる自信がある」
 なら、とランサーは口を歪ませた。
「お前が推すの、オレでもいいじゃねえか」
「は?」
 なあ、と何やら必死な様で紡がれた言葉が理解できず、再び間抜けな声が零れ落ちた。
 オレでもいいじゃないか?何を言っているんだ。
「いや、君、何を言っているんだ?」
「だから!キャスターじゃなくて、オレを推せって言ってんだよ!」
 聞き返した結果の答えがやはり理解できなくて、思わず額に手を当ててしまった。何を言っているんだ本当に。
「何故、キャスターではなくて君を推せなどという意味の解らない言葉が出て来るんだ」
「お前のスマホにキャスターの写真が保存されているのが気に食わん。推しだのなんだのは知らんが、お前の好意がオレじゃなくてキャスターに向いてるっつうのも腹が立つ。顔がいいだのなんだの言うなら、オレの方を見ればいいじゃねえか」
 なんせ見た目はほぼ同じだ。
 そう顔を顰めながらも言い放った男に絶句する。確かにランサーはキャスターによく似ている。きちんと見れば違いがあるが、ぱっと見では見間違えてしまうレベルであるし、場合によっては別人だと一切気付かれないこともあるという。けれど、それで何故キャスターではなく自分を見ろなどと言うことになるのか。
「この際最初はアイツの代わりでもいいから、キャスターじゃなくてオレを推せよ!」
 随分と真剣な顔でキャスターの代わりでも良いなどと言い出したランサーに唖然とした。本当に、何を言っているんだ。
「君を、キャスターの代わりに?」
 思わずランサーの言葉を繰り返してから、それでは順番がおかしいだろう、と胸の内で呟いてしまった。
 そう、それでは逆になってしまう。だって私は、ランサーへの想いを誤魔化すために、キャスターのことを見始めたのだ。
 今では本気でキャスターを推しているし、ランサーの代わりにキャスターを、などと思い付いた過去の自分を殴りに行きたいと常々思ってもいるが、キャスターを見るようになったきっかけは、友人であるランサーへの愚かな想いを、恋心を誤魔化すことだったのである。
 そうだというのに、今度はキャスターの代わりにランサーを見る?どう考えてもおかしいし、本末転倒にも程があるだろう。
「無理だ」
「何でだよ!アイツのことが好きだっつうんなら、オレでもいいじゃねえか!」
 否定した途端、だん、と机を叩いてランサーが吠えた。赤い瞳の中で炎がちらりと燃えていて、綺麗な赤だなと、そんな場違いな感想が浮かんだ。
「良いわけがないだろうが」
 胸の内でしか言えないが、キャスターの代わりにランサーを見るなど、そんなの本当に本末転倒にも程がある。そんなこと、できるわけがないだろう。
 大体、恋する相手を推しの代わりにする馬鹿など、どこにいるというのか。
 口にはできない悪態を吐きながらランサーを見れば、何故か酷く悔しそうな顔をしていて、思わず首を傾げてしまった。

 +++

「何でオレの方を推してくれないんだよ!」
 大学のテラスにどこか悲痛な叫びが響き渡った。
 発信源である青い髪の男と、その男の前に座る白髪の男を視界に収めて、オレは何度目かもわからない溜息を吐いた。公衆の場であるにも関わらずそれなりの大声で会話が続けられているものだから、聞きたい訳でもないのにその内容が耳に入って来て、ああもうどうにかならないものかと、頭を抱えてしまいたくなる。
「ねえロビン、あれってさあ」
 向かいに座ったビリーが呆れたように言葉を紡ぐのに、遠い目をしながら頷く。
「その通り。好きだと一言伝えりゃあ、恐らく片が付く話ですよ」
「だよねえ…?」
 あれも青春って思えば良いのかな、と腕を組んだビリーに、もう一度重い息を吐いた。
 青春。全くなんて便利な言葉だろうか。
「好きって言おうとすると頭がいっぱいいっぱいになって、何にも言えなくなっちまうんだと」
「…誰が?」
「クー・フーリンの旦那」
 わぁお、青春だ。そう呟いたビリーに、全くだ、と心の底から頷いてしまった。

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