警察署の隣で15年近くも営業してきた会社が悪質な詐欺会社だとは、一体誰が想像しただろう。実際には在庫がない中古車が購入できるかのように装って手付金をだまし取っていた中古車販売会社社長が、詐欺容疑で警視庁戸塚署に逮捕された。警察の威光まで借りて信用させ、一度契約させれば絶対に応じない。手口は何ともお粗末で、被害申告が次々と寄せられていた。
(※12月8日にアップされた記事を再掲載しています)
在庫ないのに「見つかりました」
東京都新宿区の戸塚署に隣接するマンションの1階にたたずむ中古車販売会社「ガレージD・O・G」。今年5月下旬、仙台市から上京してきた男性(22)が訪れた。
男性はあるトヨタ車の購入を希望しており、同社にあると聞いてやってきた。しかし、担当者から「もう商談に入ってしまっている」と言われ、男性は落胆して帰路についた。
6月上旬、同社の社長で、今回詐欺容疑で逮捕された西山知宏容疑者(37)=東京都渋谷区恵比寿=から突然連絡があった。
西山容疑者は「同じ車を探す」と男性に確約した上、7月上旬には「見つけた」と連絡し、メールで車の画像も送信。喜んだ男性に西山容疑者は「車を買い付ける業者に保留してもらうので、10万円が必要」などといって手付金として男性に10万円を支払わせた。
しかし、実際には同じ車は見つかっておらず、画像の車は英国への輸出が決まっていて在庫などなかった。
そうとは知らない男性は、西山容疑者と300万円で購入することに合意。ローンでの支払いを希望したが、西山容疑者は9月になって「審査をしたところ、200万円までしかおりないので、100万円は現金で払ってほしい」と要求してきた。男性が「払えない」というと、「それなら8万円でいい」と一気にトーンダウン。
余りの落差に不審に思った男性がキャンセルしようとすると、言を左右にして応じなくなり、連絡が取れなくなってしまった。困り果てた男性は戸塚署に告訴し、西山容疑者は逮捕されることになった。
「長年警察署の隣で営業してきたから安心して」
捜査関係者によると、署にはこれまでに仙台市の男性を含む5件500万円の被害相談が寄せられているという。中には通常の代金以外に高額の整備費を要求される例もあった。
西山容疑者は、中古車購入に慣れていない顧客に対しては「初めてで不安だろうけど、隣が警察署だから、何かあれば駆け込めばいい」「長年ここで商売しているんだから安心して」などと立地をうたい文句にして信用させていた。
会社のホームページには、「お客様の立場に立ったお店作りをスタッフ一同追求」「(車のオークションで)お客様のニーズにあった商品を必ずお探ししてきます」などとうたっている。
捜査関係者によると、ガレージD・O・Gは平成15年に設立。戸塚署に相談が寄せられるようになったのは、今年に入ってからだという。捜査関係者は「資金繰りに困ったのではないか」と推測する。
従業員や取引先にも恫喝
西山容疑者がターゲットにしたのは、顧客だけではなかったことが、これまでの捜査で明らかになっている。中古車を西山容疑者に卸すプロの中古車販売業者にも及んでいたのだ。
捜査関係者によると、中古車を買い付ける際、代金は納入時に現金で支払うはずだったにも関わらず、新人のアルバイトなどに「代金は明日振り込むと聞いている」と説明させて車だけ置いて帰らせ、そのまま代金を払わないこともあったという。
翌日から西山容疑者は、車を納入した取引先に一方的に電話をかけ、「新人のバイトが言ったことだから知らない」などと連日怒鳴りつけ、相手があきらめるまで続けていた。
アルバイトに対して怒鳴り散らすこともあり、「ブラック」な職場環境もあいまって、次々に辞めていったという。業界でも悪評が広まっており、署にもさまざまな相談が寄せられていた。
捜査関係者は「口頭でのやり取りで、言った言わないになると証拠を見つけるのが難しかった。今回は実際にはない車の画像を添付したメールなど、やり取りが記録されていたので、ようやく逮捕することができた」と胸をなで下ろす。
調べに「やっていません」と否認している西山容疑者。これまで脅され、泣かされてきた被害者たちにツケを払うときが来たのだろうか。