起きても隣にチャニヒョンは居ない
まぁ、いつものことなんだけどね
でも昔はいつも隣に温もりを感じて朝を迎えていたわけだから、たまにこうして彼を求めてしまう
「んっ〜、今日何しよっかな」
考えても仕方のないことは思考放棄し、今日という休日をどう過ごそうか思考を巡らせていた
チャニヒョンのところへ行くことは出来ない
きっと真剣に曲作りを行っているから
邪魔は出来ない
チャニヒョンはこんな風な割り切った関係が好きなんだろうな
だから僕もこの関係性を気に入っているし変えようとも思わない
「そういえばリノヒョンにこれ渡さなきゃ…」
"これ"というのは先日リノヒョンから借りたパーカー
事務所から帰るとき寒くて肌を擦っていた僕にリノヒョンが「ん、貸してやる」と言って渡してくれたパーカー
リノヒョンも寒かっただろうに…、僕はそのとき余裕が無くてその心配をしていなかったが後々考えてみたら相当あの日は寒かった
皆奥歯をガチガチいわせていたから
だから申し訳ない気持ちが少しと感謝の気持ちでいっぱい
だからリノヒョンの部屋へ行こう
リノヒョンも今日はオフだった筈だからついでにおしゃべりに付き合ってもらおう
*
「リノヒョーン」
「ん?スンミナ何?」
僕が部屋に入るとリノヒョンはクッションに顔を埋めて何やら呻いていた
いや、なにやってんのマジで
リノヒョンは僕の腕に抱いているパーカーを見て「あぁ」と言って部屋に入れてくれた
「ヒョンありがと」
「別に、暑かったからついで」
「そんなわけないじゃんㅋ」
「それがな、俺に限ってはあるんだよ」
「てかさスンミナ今日この後暇??」
「ん?暇だよ」
「じゃあさ、このカフェいかない?」
「えっ!?ここコーヒーが美味しいって有名なとこじゃん」
「ん、で?」
「行くっ、行きますㅎ」
「ん」
ヒョンからのお誘いなんて滅多にない
ましてや僕と二人きりでなんて言語道断
滅多にない機会にヒョンの体調が悪いのかとヒョンの額に手をやったが「なにやってんの」と言われただけで額の熱さはさほど僕のと変わりなかった
*
そこからは色んな話をした
僕もヒョンもあまり長く話す方では無いけど、今まであまり話していなかったから積もるものもあったのだろう。
気がつけば時刻は六時を示していた
「やばっ、もう六時じゃん」
「ご飯の準備しなきゃ」というリノヒョンの言葉を聞きながら"まだ帰りたくない"と思う僕がいる
どうせ帰ってもすることはないし
「スンミナ??」
そう言って首を僕の顔を伺うヒョン
そういえばチャニヒョンとこんな風にゆっくり会話したのはいつだったかな
チャニヒョンは僕と話せなくて寂しくないのかな
もう僕に飽きちゃったのかな
急にリノヒョンと全く関係のない思考に走る
チャニヒョンのことを思い出すだけで目頭が熱くなって涙が出そうになるのをぐっと堪える
僕の顔を見てリノヒョンは何かを察したようで、"はぁ"とため息をついてから
「俺ここのドーナツ食べていきたいからもうちょっと付き合ってよ」
と言った
*
暫く沈黙が続いた
ヒョンに気を使わせてしまったのが申し訳なくて下を向く
暫しの沈黙を破ったのは予想通りリノヒョンだ
「スンミナ」
「えっ、あ、ヒョン、リクスとイエナのご飯は?」
「ん?あいつらだってもう子供じゃねえし、出前だって取れる」
「んっ、そうだよね」
「それよりさスンミナ」
「何があったのか話してみてよ」
「……………そんなド直球に……」
「焦らしたら不安な時間増えるだけじゃん」
確かに。正論だ
ヒョンはヒョンなりに僕のことを心配してくれているのか
そう思うとチャニヒョンに対する不安とリノヒョンの優しさに涙が出てきた
「……………何に泣いてんだよ」
「……………………」
「言いにくい??」
フリフリ
そんなことはない、ただこの不安を口にするとそれが現実だと認めてしまうことになるから
僕はその現実を受け入れる程の器を持っていないから
するとリノヒョンは"大丈夫、大丈夫"と僕の頭を撫でた
いつものヒョンからは想像できないくらい優しく撫でてくれた
チャニヒョンにもこうやって撫でてもらってたっけ…
同時に僕の中で何がの糸がぷつりと切れた
「ぅ、うぁ、グスッ」
目からどんどん涙が溢れてくる
そんな僕を見たヒョンは穏やかな表情変わり、泣き止むまでずっと頭を撫でてくれた
*
「落ち着いた??」
「ん、ありがと」
「お前、ここがうるさい場所でよかったな」
「ほんと、じゃなきゃ涙なんて出なかったよ」
「そろそろ話せよ」
「さっきまでの優しさどこに行ったの……」
「今だって優しいだろ」
「まぁね」
「…………………」
「そんなに見ないでよ」
「勿体ぶらずさっさと話せ」
「そうだね………………」
「リノヒョンは恋人いる?」
「ん…………、いない」
「そう、僕はいる」
「ふーん、で?」
「急かさないでよㅎ」
「てか反応薄いね、もしかして気付いてた?」
「……相手は知らないけどそんな気はしてた」
「そう…、だったらこの際教えといてあげる。」
「僕の恋人はね、チャニヒョンだよ」
「………へぇ」
一瞬表情を曇らせたけど直ぐに元の表情に戻って僕の話にみみを傾けてくれる
よく考えたらメンバー同士の恋愛って嫌だよね
でも今は話したって良いよね、リノヒョンが話せ、って言ったんだから
「それでね、前までは一緒に寝てくれてたんだけどね、ここ数ヶ月はさっぱり…」
「ずっとお仕事で忙しくて、邪魔しちゃいけないって分かってるのに…、話せない時間が増えて、辛くて……」
「……………なんとか言ってよ、リノヒョン」
「……………話せばいいじゃん、チャニヒョンに」
「話せないの?辛いって素直に」
ヒョンのさっきの沈黙がヒョンがしっかり考えてくれたということはわかった
でもねリノヒョンが思うほどチャニヒョンも親バカじゃないよ
「無理だよ」
「…なんで」
「付き合ってみて分かったんだ、チャニヒョンは確かに素直に甘えられたりすると嬉しいけど、限度は普通の人と同じ」
「僕は今まで散々寂しいを伝えてきた、チャニヒョンが話していいよ、って言ってくれたから」
「でも甘えすぎちゃったみたい、最近は少しそういうの嫌がってるように思うの」
「………………」
僕は心を落ち着かせようと大きく深呼吸をする、
「だから僕、チャニヒョンと別れようと思う」
「え?」
今まで少し険しい表情もしながらも真剣に話を聞いてくれていたヒョンが声を上げた
「なに?」
「え、いや、唐突でびっくりしただけ…」
あぁ、急だったから理解が追いつかないのか…
「僕も驚いてるよ、あんまり抵抗なくこの言葉が言えることに」
「やっぱり僕も心の何処かでわかってたんだろうね…、このままじゃお互いにとって駄目なんだって」
"別れる"この言葉を発したあとも案外すっきりしている
心做しか安心している自分もいる
リノヒョンに話を聞いてもらって、話しているうちに頭で整理ができていたのかもしれない
僕はこのまま辛い思いをするのが恐かっただけだ
僕はチャニヒョンのことを愛しているから別れるなんて考えたこともなかった
だから辛くとも、苦しくともずっと付き合っているのだと思っていた
でも違った
辛くて、苦しいときは手放しても良いんだ
悲しいことがあったとき休息をとるように僕にもこの想いの休息が必要なんだ
辛くて苦しいとき、人が人生の終止符を打つように、僕のこの感情にも終止符を打たなくてはならない
チャニヒョンはもう打ってくれているはずなんだ
あとは僕だけ
僕とチャニヒョンの物語のページは既に埋まっていた
もう書ききれないんだ
書き手によって増やすことができるページ数を僕達はもう望んではいなかった
_____________________そろそろ句点を付けなければ
「いい顔してんじゃん……」
「へへっ」
ヒョンは寂しそうな顔で笑った
きっと僕の心に寄り添ってくれているのだろう
そうだとしたら大丈夫だよ
もう寂しくない
「ありがと、ヒョン、随分楽になった」
「なら良かった」
そしてとっくの前に取ってきたドーナツを食べながら
「たまにはヒョンと二人きりっていうのもいいね」と言ってみた
きっと"生意気いってんじゃねぇ"とか言われるだろうな
そう思っていると暫くして「ん……」と返ってきた
そんなに心配をかけてしまっただろうか
このヒョンの優しさや心配は不器用だからどれほどのものかは分からない
でも今こんなにも大人しい、相当心配をかけてしまったんだろう
「ヒョン」
「なに」
「ありがとう」
「うん……」
「帰ろっか」
カフェの代金を払い僕らは店を後にした
勿論感謝の意を込めて、カフェの代金は僕の自腹だ