魔法使いの希望と絶望から生まれたテーマ曲
──Eveさんが手がけるオープニングテーマ「風のアンセム」 feat. suis from ヨルシカは書き下ろし楽曲ですが、何か要望は伝えられましたか?
世界観へ誘うウェルカムなムードがあるべきだと思ったので、「ようこそ、これから始まるよ」という希望や、未知に対するワクワクを感じられるような曲を依頼しました。あと、ココへの祝福ですね。“仕立て屋で働いていたココ”の死と同時に、“魔法使い・ココ”が生まれる物語なので、それを前向きな雰囲気で表現したいと伝えた記憶があります。
──楽曲を聴かれたときの印象はいかがでしたか?
素晴らしいですよ。ワクワクします。ヨルシカさんとのフィーチャリングはEveさんのアイデアなんですが、声を重ねることによって「1人じゃない」という思いをみんなで共感できるような感覚がありますよね。楽器も世界観に合わせたものを使っていただいていますが、Eveさんのスタイルそのままに楽曲として仕上がっているっていうのは……語彙力を失っちゃいますけど、ちょっとやばいですよ。
──希望を感じるオープニングテーマに対し、Nakamura Hakさんが歌うエンディングテーマ「ただ美しい呪い」ではココの抱える絶望にフォーカスしているような印象を受けました。
魔法使いたちの原動力っていうのは本当はドロドロしたもので、魔法に希望は見出しているけど、同時に魔法への絶望も孕んでるような気がするわけですよ。それは自分たちのように絵を描く人たちとも、ちょっと共通してる部分があって。
──と、言いますと?
アニメーションを生業とする人たちは絵と向き合いながらどこかで絶望していて、その絶望に向かい尽くした先で何かを掴んで、それが最後の希望になる。そんなことを考えていたときに(Nakamura)Hakさんのデモを聞いて「見つけた!」と思いましたね。彼女も同じように感じながら、それでも歌っているように聞こえて。ココたちと僕ら、それぞれ向き合うものが違うけど、共通する絶望を感じている。その絶望と、その先に見える希望を歌うHakさんのデモを聞いたときは、バチンとはまった気がしました。
──エンディングは第3話と第5話で「夜に浮かぶ」、第8話で「光り」が流れ、Nakamura Hakさんの楽曲が3曲使われていましたが、とても珍しいことですよね。
デモを3曲いただいたのですが、彼女から出てきたものを1曲に絞って、ほかの曲をなかったものにしたくなくて、「全部使うのはダメかな」って聞いたら、周りはザワつきました(笑)。各話のディレクターに聞いてもらって、フィットする話数を選んでもらっています。みんな彼女の張り詰めた雰囲気を感じ取っていると思うので、非常に映像にも力を与えてくださいました。
──祝福を歌うオープニングテーマと、エンディングの「ただ美しい呪い」。祝福と呪いは表裏一体とも言われますが、見事な対比になっていました。
そこは非常に意図しました。そして2つの楽曲は、内容に非常に寄り添って書き下ろしていただいています。アニメ制作を通じて、いろんなセクションが「とんがり帽子のアトリエ」という作品の魅力をそれぞれ表現して確かめ合っているという感じがして、とてもうれしかったですね。
スタッフたちが描きたがる“ベストフデムシ”
──第5話「巨鱗竜の迷宮」では、ココたちが“竜の砂床”を描くシーンがかなり躍動的に表現されていたことが印象的でした。
子供たち4人が初めての危機に直面して、初めて力を合わせなきゃいけないという重要なシーンで、どう描くかはずいぶん議論しました。あのとき彼女たちは、今持てるすべてを出し尽くしています。全力で体も使って、アイデアを出してそれを叩いて叩いて……そして生み出した魔法はすごく力のこもったものだろうと。あの躍動感はそれを表現しています。
──あの躍動感は、子供たちの全力の表れだったんですね。キャストさんの演技でもキャラクターの心理描写が豊かになっていると感じますが、ココ役の本村玲奈さんはオーディションで決まったのでしょうか。
そうです。僕が監督した「漁港の肉子ちゃん」で本村さんが声優デビューしたので、彼女のことは知ってはいました。本村さんの柔らかい雰囲気にハマる役があったらお願いしたいなという気持ちはありましたが、純粋にオーディションで役を勝ち取っています。本村さんは演じることに喜びを感じていて、そのワクワクするさまはココそのものなんですよ。
──本当にピッタリです。花江夏樹さんが演じるキーフリーも、優しくてミステリアスな雰囲気が魅力的です。
道が交わるならキーフリー役は彼がいいなと思っていたし、一緒にキャラクター作っていけるとも思っていました。ただ、彼からすると毎回難題をふっかけられるので、身構えていたかもしれませんけど(笑)。本村さんも花江さんも役に対する向き合い方が非常に真摯で、こちらのディレクションを交えながらキャラクターに迫っていってくれました。
──フデムシは久野美咲さんが演じられていますが、すごくかわいいですよね。アニメで魅力が増したように感じました。
久野さんがフデムシ役というのは、贅沢でよもやという感じですけれど(笑)。アニメーターたちもフデムシがかわいいもんだから、みんな描きたがりましてね。勝手に足してくるんですよ(笑)。ココたちが話している脇のほうで一生懸命芝居とかしていて。
──あはは(笑)。マンガでは小さく描かれていたフデムシの演技が、アニメでフォーカスされるシーンもありました。
これはもう拾わない手はないだろうと(笑)。あと白浜先生は「とんがり帽子のアトリエ」を、小さな子が手にとっても、怖がらせすぎないようにしたいとおっしゃっていました。フデムシにはホッとさせてくれるかわいさがありますし、怖いシーンの緩衝材として登場してもらっています。本当にスタッフから愛されていますし、みんながそれぞれのセクションで“ベストフデムシ”を狙ってます(笑)。
──今後の登場も楽しみです。フデムシだけでなく、マンガで少しだけ登場する動物も細かく描かれています。こんなふうに動くんだと、見入ってしまいました。
注目していただけてうれしいです。「とんがり帽子のアトリエ」の世界にいる動物はすべて空想上の生き物なのですが、原作でも動作がちゃんと研究されていて、どの足から踏み出すかという歩き方も描かれています。でもいざ描き出すと大変奥深くて……。例えば羽根馬車なら、引いている生き物は走り出してから羽ばたくのか、すぐに羽ばたけるのかということを考え始めるんですよ(笑)。
──考えることと情報がどんどん増えていきますね……。
生態系は可能な限りしっかりと再現していて、それが世界観を彩る材料になっています。舞台が変われば植生も変わるので、ぜひそういう部分にも注目していただけるとうれしいですね。
──スタッフの皆さんのこだわりは、作品のファンにも、アニメで作品を知った人にも届いていると思います! 最後に、アニメを見ている読者にメッセージをお願いします。
アニメは世界中の「とんがり帽子のアトリエ」ファンの皆さんとともに、ココたちの活躍を楽しむということを目標にしているので、各キャラクターたちを見守っていただいて、その挑戦やドキドキを一緒に味わっていただけるといいなと。僕らもキャラクターと一緒にワクワクドキドキしながらアニメを作っていますので、その高まりを感じて応援していただけたらありがたいです。またアニメはマンガのページをめくるように丁寧に作りました。マンガ片手に視聴していただいてもいいですし、マンガを何度も読み返すように、アニメを繰り返し観ていただけたらうれしいですね。
プロフィール
渡辺歩(ワタナベアユム)
1966年9月3日生まれ、東京都出身。1986年、スタジオメイツに入社し、1988年にシンエイ動画へ。同社では監督として「帰ってきたドラえもん」「のび太の結婚前夜」「おばあちゃんの思い出」といった短編や、劇場長編「映画ドラえもん のび太の恐竜2006」を担当した。フリー転身後、「宇宙兄弟」「恋は雨上がりのように」「サマータイムレンダ」などTVアニメの監督を務める。また映画「海獣の子供」「漁港の肉子ちゃん」の監督も担った。2026年4月からは「とんがり帽子のアトリエ」「あかね噺」2作の監督作が放送されている。


