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本日、証拠保全を行いました


本日、著作権侵害事件において証拠保全の手続を実施しました。

「証拠保全ってどういう手続きなの?」というご質問をいただくことがありますので、今回はこれを機会に解説させていただきます。


証拠保全とは

証拠保全とは、裁判で使う証拠が将来消滅したり改ざんされたりするおそれがある場合に、あらかじめその証拠を保全しておく手続きです(民事訴訟法234条)。

通常、証拠の取り調べは訴訟が始まってから行われます。しかし、それを待っていては手遅れになりかねないケースがあります。そのような場合に、訴訟前または訴訟中であっても、裁判所に申し立てることで早期に証拠を確保できる制度です。


裁判官が自ら現地へ赴く

証拠保全の最大の特徴は、裁判官が自ら現地に出向くという点です。

通常の証拠収集では、相手方に対して文書提出命令を出したり、当事者照会を行ったりしますが、相手方が任意に応じなければ実効性に限界があります。

証拠保全ではそれが異なります。裁判所の決定が出れば、裁判官・書記官が相手方の住居等に実際に赴き、その場でパソコンの中のデータ等を検証します。そして、確認した内容をその場で「証拠保全調書」として記録化します。

この調書は裁判官の関与のもとで作成された公的な記録ですので、後から「そんなデータは存在しなかった」「記録は残っていない」などと相手方が争うことは極めて困難になります。

また、証拠保全は相手方に直前まで知らされずに実施されるのが通常です。事前に知らせてしまえば、その間にデータを消去されるおそれがあるためです。裁判所の決定に基づき、執行の直前に相手方へ決定書が送達され、そのまま検証が行われます。


著作権侵害事件で証拠保全はできるのか

できます。 著作権侵害に基づく損害賠償請求事件においても、証拠保全の申立ては認められています。

たとえばBitTorrent等のファイル共有ソフトによる侵害事案では、侵害者のパソコンの中に、どの作品のファイルをダウンロード・アップロードしていたかを示す記録(torrentクライアントの設定ファイルや再開用データ等)が残されています。これらは侵害行為の内容や期間を直接示す重要な証拠です。

しかし、これらのデータは侵害者自身のパソコンの中にあるため、権利者側からはアクセスできません。そして、侵害者がその気になれば、ファイルを削除したりソフトをアンインストールしたりすることで、いつでも消し去ることができてしまいます。

このような場合に証拠保全を活用することで、データが消される前に、裁判官立会いのもとで記録として固定することができます。


証拠保全が認められるための要件

裁判所が証拠保全の申立てを認めるには、大きく次の2点が必要です。

① 証拠を使う必要性があること 将来の訴訟で証拠として用いる可能性があること。

② あらかじめ証拠を収集しておく必要があること(事前の必要性) 訴訟が始まってから証拠調べを待っていては、証拠が消滅・改ざんされるおそれがあること。

ファイル共有ソフトによる侵害事案では、証拠が相手方の支配領域内(自身のパソコンの中)にあり、削除が容易であるという事情そのものが、②の要件充足に直結します。


どのような相手に証拠保全を行うのか

誤解のないように申し上げますと、当事務所は、すべての発信者に対してこのような手続をとっているわけではありません。誠実に対応いただける方とは、話し合いによる解決を基本としています。

証拠保全という強い手段を用いるのは、不誠実な対応に終始する発信者に限られます。

典型的なのは、「プロバイダのログ保存期間が経過するまでは示談交渉に応じない」という方針を掲げる対応です。一見すると交渉の前提条件のように見えますが、ログ保存期間の経過を待ったところで、すでに開示された発信者情報が消えるわけではありません。その実質は、交渉を引き延ばして消滅時効の完成を待つことにあると言わざるを得ないケースが少なくありません。

つまり、「交渉しない」と言いながら時間稼ぎをし、その間に手元のパソコンから侵害の痕跡を消し、時効による責任免脱を狙う――こうした対応をとる発信者に対しては、話し合いによる解決は期待できません。

このような場合にこそ、証拠保全が機能します。相手方が証拠の消去に動く前に、裁判官立会いのもとでデータを記録として固定し、訴訟による解決に移行するのです。引き延ばしは解決を遠ざけるだけでなく、より重い手続を招く結果になります。


証拠が消されていた場合――それは「証拠隠滅」です

検証期日に現地へ赴いたところ、データが削除されていた。ソフトがアンインストールされていた。――このような場合、相手方は「証拠を消せば責任を免れる」と考えているのかもしれませんが、実際にはまったく逆の結果を招きます。

① 削除の痕跡は残る

まず前提として、データの削除は「なかったこと」にはなりません。ファイルの削除やソフトのアンインストールは、それ自体がパソコン上に痕跡を残します。「いつ・何が消されたのか」は技術的に分析可能であり、証拠保全決定の送達を受けた直後に削除が行われていれば、その事実自体が雄弁に侵害を物語ることになります。

② 民事上の不利益――裁判所の心証と真実擬制

検証物の提示を正当な理由なく拒んだり、検証を妨げる目的で検証物を毀損した場合、裁判所は相手方(権利者側)の主張を真実と認めることができます(民事訴訟法232条1項・224条)。

つまり、証拠を消したからといって「侵害の立証ができなくなる」のではなく、むしろ「侵害があったものとして扱われる」方向に働くのです。証拠隠滅は、民事裁判において自らの首を絞める行為にほかなりません。

③ 刑事上のリスク――証拠隠滅は犯罪になりうる

ここで見落とされがちな重要な点があります。BitTorrentによる著作物の違法アップロードは、損害賠償の対象となるだけでなく、著作権法上の犯罪でもあるということです(著作権法119条1項。10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科)。

そして刑法は、刑事事件に関する証拠の隠滅を犯罪として処罰しています(刑法104条・証拠隠滅等罪。3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)。

ここには注意すべき構造があります。

  • 侵害者本人が自分の事件の証拠を消した場合、刑法104条は「他人の刑事事件」の証拠を対象としているため、本人自身はこの罪では処罰されません(もっとも、前記②の民事上の不利益は免れません)。

  • しかし、第三者が関与した瞬間に、話は変わります。 家族や知人など第三者が証拠の削除を行えば、その第三者には証拠隠滅罪が成立します。本人がその第三者に削除を依頼した場合には、判例上、本人にも証拠隠滅罪の教唆犯が成立するとされています。

  • さらに、第三者が侵害者に対して「データを消しておいた方がよい」「ソフトをアンインストールせよ」などと指導・助言していた場合はどうでしょうか。本人による自己の証拠の隠滅自体が不可罰であることとの関係で、これを唆した第三者の罪責については学説上争いがありますが、教唆犯の成立を肯定する見解も有力に主張されています。少なくとも、削除行為に第三者が手を貸した場合や、本人と一体となって削除を実行したと評価できる場合には、共同正犯・幇助を含む刑事責任の成否が正面から問われることになるでしょう。

④ 助言者が法律専門家であった場合

仮に、証拠の隠滅を指導・助言していたのが弁護士などの法律専門家であった場合、問題はさらに深刻です。

弁護士には、虚偽の証拠を提出したり、証拠の偽造・隠滅に関与したりすることを禁じる職務上の規律があります(弁護士職務基本規程)。依頼者に証拠の削除を指南する行為は、刑事責任の成否以前に、弁護士としての懲戒事由に該当しうる重大な非行です。

証拠保全の検証結果から、組織的・定型的な証拠隠滅の痕跡――たとえば複数の事件で同じタイミング・同じ態様の削除が行われている等――が浮かび上がった場合、その背後に誰の指導があったのかは、当然に検証されるべき事項となります。

⑤ まとめ――消すことは解決ではない

証拠を消すという選択は、民事では真実擬制と心証悪化を招き、刑事では本人や関与者の新たな犯罪を生み出しかねず、助言者にとっては資格を賭けた行為になります。失うものばかりで、得るものは何もありません。

データを消すのではなく、誠実に話し合いのテーブルに着くこと。それが、本人にとっても最も損失の小さい解決への道です。


刑事告訴との使い分け

前述のとおり、BitTorrentによる違法アップロードは刑事罰の対象でもあります。そのため、権利者には民事手続(損害賠償請求)と刑事告訴という2つの選択肢があります。

どちらの手段をとるか、あるいは両方をとるかは、基本的に権利者の判断に委ねられています。著作権侵害罪は原則として親告罪であり、権利者の告訴がなければ起訴されません。つまり、刑事手続を動かすかどうかの鍵を握っているのは、権利者自身なのです。

実務上の使い分けの目安は、相手方からの回収可能性にあります。

たとえば、相手方が不動産を所有している場合や、安定した給与収入がある場合には、民事手続が有効に機能します。損害賠償請求訴訟と併せて、不動産の仮差押え給与債権の仮差押えといった保全処分を検討することで、判決を得る前の段階から責任財産を確保し、確実な回収につなげることができます。財産の処分や隠匿を防いだうえで判決・強制執行へ進むという流れです。

他方、誠実な対応が期待できず、民事上の責任追及だけでは適正な解決が見込めない事案では、刑事告訴を選択肢として検討することになります。

なお、民事と刑事は択一の関係ではありません。損害賠償請求を進めながら刑事告訴を行うことも可能であり、事案の性質に応じて組み合わせて対応します。


権利者にとっての意義

著作権侵害事件においては、侵害行為の内容・規模・期間の立証が、損害賠償請求の成否と金額に直結します(著作権法114条)。

侵害の決定的な証拠が相手方の手元にしかない、というのは権利者にとって構造的に不利な状況です。証拠保全は、この情報の非対称性を裁判所の手続によって乗り越えるための有力な手段であり、当事務所では権利者の実効的な救済のために必要な場合に活用しています。


弁護士法人ITJ法律事務所では、著作権侵害に関する各種ご相談をお受けしております。お気軽にお問い合わせください。

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