皇室の活動を維持するため、現行憲法下で初の皇室典範改正に向けた動きが前進した。だが、安定的な皇位継承に道筋をつけるという根本的な問題が置き去りだ。
皇族数確保策を巡る国会案がまとまった。天皇陛下の長女愛子さま(24)ら女性皇族が結婚後も身分を保持できる案と、旧宮家出身の男系男子を皇族の養子にする案を、主要政党の多くが了承した。一方、参院で野党第1党の立憲民主党は養子案を容認しなかった。
皇室典範は、女性皇族が一般男性と結婚する場合、皇族を離れると定める。陛下より若い世代の未婚皇族6人のうち、秋篠宮さまの長男悠仁さま(19)を除く5人が女性だ。手をこまねいていれば、減少に歯止めがかからない。
女性皇族本人の意向を尊重し、皇室に残るかどうか選択できるようにしたのは妥当だ。与野党がおおむね賛同している。女性皇族の人生設計に直結する問題であり、速やかに実現させるべきだ。
国民総意でない養子案
女性皇族の夫と子を皇族とするかどうかが焦点だったが、今回は結論を棚上げした。子を皇族とした場合、父方が天皇の血を引かない女系天皇につながると、自民党などが警戒したためだ。
だが、夫と子が憲法上の政治・経済活動の自由を持つ一般国民のままでは、皇室が利用される恐れがあると指摘される。現在の皇室は家族一体で公務を行っており、夫と子も皇族とするのが自然だ。
一方、父方が天皇の血を引く男系男子を養子とする案を容認したことは問題である。
約80年前に皇族を離れた旧11宮家の子孫が対象となる。一般国民として生まれ育った人を、敬意の対象として国民が受け入れるか疑問だ。憲法14条が禁じる門地による差別にあたるとの見解もある。男系でたどると今の皇室との血縁は遠く、室町時代までさかのぼらなければならない。
毎日新聞の5月の世論調査では、女性皇族の身分保持を63%が支持し、養子案の支持は36%にとどまった。
憲法1条は、天皇の地位は「国民の総意に基づく」と定める。自民と日本維新の会は連立合意書で養子案を「第一優先」と明記したが、「総意」とはいえない。
そもそも旧宮家出身の男系男子を皇族とする案は、小泉純一郎政権下の2005年にまとめられた有識者会議の報告書で採用されなかった。国民の理解と支持、安定性、伝統のいずれからも問題があるとされたからだ。制度維持のために女性・女系天皇を容認した。
歴代天皇の半数近くは側室の子だったが、今日の社会通念で側室は認められない。男系維持に固執する限り、女性配偶者に男児出産の重圧がかかり続けることになる。制度として持続させることは極めて困難だ。
象徴に沿った皇室像を
女性が社会進出し、性差による役割分担が問題視されるなど、国民の価値観は変化している。象徴天皇制は伝統や血統だけでなく、国民の理解と共感によって支えられている。
皇室は戦後、女性配偶者を一般国民から迎えるなど社会状況に合わせて柔軟に対応してきた。
毎日新聞の世論調査では、女性天皇への賛成は72%に上る。女性・女系天皇を認めるかどうかも含めて検討しなければ、制度面からも国民の理解の面からも、いずれ行き詰まりかねない。
にもかかわらず、森英介衆院議長は8日の記者会見で、養子に男子が生まれれば皇位継承権を持つと語った。幅広い合意を目指した国会案から逸脱した発言で、男系にこだわる自民の本音が透けて見えた。
17年に上皇さまの退位を実現する皇室典範特例法が成立した際、与野党が合意した付帯決議は、安定的な皇位継承の方策や女性宮家の創設などを検討するよう政府に求めた。だが、21年の政府有識者会議の報告書は唐突に養子案を盛り込む一方、皇位継承の議論には踏み込まなかった。
今回の国会案も小手先の皇族数確保策にとどまり、肝心な問題に正面から答えていない。新たに有識者会議を設けるなど、仕切り直して議論を深めるべきだ。
現在の皇室は「国民とともに」あろうと模索し、その姿が支持されてきた。男系継承という伝統を守ろうとするあまり、人々の意識とかけ離れてしまっては、「国民統合の象徴」にそぐわない。
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