1960年代アメリカで、ある物質がアスピリンより七倍安全だと判明しながら、市場から姿を消した。その物質の名はDMSO(ジメチルスルホキシド)。なぜ「奇跡の薬」は製薬業界の表舞台に立てなかったのか。
硫黄原子を中心とするDMSOの分子は、水にも油にもなじむ不思議な性質を持っている。 通り抜ける能力の源だ。それだけではない。DMSOは他の薬剤を「運ぶ」キャリアとしても機能し、コルチゾンの効果を10倍から1000倍にまで引き上げる実績がある。体内に入ると大半は有機硫黄(MSM)に酸化され、結合組織の再生を促す。約0.5〜1パーセントは還元されてジメチルスルフィドとなり、これがニンニクや牡蠣に似た一時的な体臭の原因だが、無害である。
実際の使い方は意外にシンプルだ。外部に使う場合は60〜80パーセントの水溶液を患部にブラシやスプレーで塗る。飲む場合は水やジュースで薄めて、体重1キロあたり0.05〜1グラムが目安となる。体重70キロの人なら3.5グラムから最大70グラムまで安全に摂取できるというデータがある。注射や点滴も可能だが、その場合は無菌調製の厳格なルールを守らねばならない。
ここで視点を反転させてみよう。DMSOは強力な抗酸化物質である一方で、MMSや過酸化水素といった酸化剤と組み合わせると、感染症や癌細胞に対して驚くべき相乗効果を発揮する。抗酸化と酸化。一見すると相反する作用が、なぜ共鳴し合うのか。その答えは、DMSOが「運び屋」として酸化剤を組織深くまで届け、同時に自らは有害なヒドロキシルラジカルを捕捉するという二役をこなすからだ。プロカインと併用すれば、注射なしで瘢痕(傷跡)の干渉場治療も可能になる。
応用範囲は想像を超える。スポーツ傷害、関節炎、腱炎、帯状疱疹、副鼻腔炎、褥瘡、火傷といった急性から慢性まで。さらに驚くべきことに、自閉症スペクトラムやダウン症の子供たちの発達を支援した事例も複数報告されている。癌治療においては、単独でも、またヘマトキシリンやDCA(ジクロロ酢酸)、乳酸、αリポ酸といった物質との併用でも、有望な結果が示されている。
動物への応用も重要な柱である。馬や犬の関節疾患、怪我、炎症に対して外部投与や点滴が広く行われている。特に競技馬の治療では定番となっており、ある馬はDMSOとCDS(二酸化塩素溶液)の点滴で蹄葉炎から回復したという。
製薬業界がこの物質を軽視した理由は単純だ。特許が取れない。天然由来で安価なDMSOからは、巨額の利益を生み出せない。だが消費者である私たちは、この構図を逆手に取ることができる。アスピリンより安全で、数十種類の疾患に効果があり、値段は1日あたり数十円の治療薬。それがなぜ薬局の棚に並ばないのか。その答えを問うことが、医療の常識を揺るがす第一歩になる。
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書籍 『The DMSO Handbook: A New Paradigm in Healthcare』(『DMSOハンドブック:ヘルスケアにおける新たなパラダイム』)Hartmut P. A. Fischer(自然療法士、元製薬研究者)2015年