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明け渡す正体(新快・快新・K新)/Novel by シン

明け渡す正体(新快・快新・K新)

2,245 character(s)4 mins

快新、新快。K新。正体がバレた瞬間。
快新で付き合っててKIDバレはしてなかった快斗。
動揺したけど快斗を絶対的に受け入れる新一の話。

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身を竦めるより早く、その手は捉まれた。
自分を支えるたった一つの腕。
怪盗は、少し息を詰めると、一息で探偵を引き寄せ支えた。
とてもそのような腕力があるとは思えない怪盗に、しかし確実に命を救われた彼は、自分を支える舞わされた腕。
目の前の人物の、
その先にいる人物を見上げようとして、
抱きしめられる。
「見るなよ、名探偵」
何よりも傍で掛けられたその声に、動きを止める。

怪盗は、普段と同じでありながら、少し動揺を含んだその声を、探偵へと向けた。

「見たら、お前は日常に戻れなくなる」


「にち、じょう―」
「そう。お前が今生きている世界だ」
何故このような状況で、このような言葉を、怪盗に抱きしめられて自分は聞いているのだろうとどこか遠く、頭の隅で思う。
しかしそれは表面に現れることなく、ただ普段と同じ様な―ただこの状況により、少し危機感の増した―挑戦的な口調で返事を返した。
「意味がわからないな。俺はただ目の前の怪盗の正体を拝んでやろうと思っただけだ」
「だから、それがよくないっつってんだろ」
「何で」
砕けた口調が一瞬出る。―それは怪盗が探偵と話す時の癖だが―探偵は心底わからないという様な声を出した。
いや、もしかしたら、わからないと思い込みたかっただけなのかもしれない。
「お前の日常が壊れるぞ」

背後から月が被る。
逆行の中、柔らかに微笑う口元。
シルクハットに隠された瞳が覗き、その慈愛に溢れた視線が、此方を―
新一を、真っ直ぐと見つめて。


『新一、綺麗だよね』


白くなる。
「ま、さ か……」
こんなに優しく抱かれているのに。腕の力はちっとも弛まなくて。
その清潔な白いスーツからは、どこか安心感を齎す香りがして。
「お前」
頬に髪が当たる。黒くて柔らかい、ふわふわとした毛先。
同じくらいの身長の、同じくらいの年齢の、同じくらいの―
「かい、―」

「みないで、名探偵」

抱きしめられた手は縋るように震えて。
言葉が続けられなかった。
その名を呼ぶことが、許されないのだと悟った。
そして、その唇に乗せようとした名が、『彼』のものだと、確信してしまった。

(かいと)

見開かれた瞳は、そのまま満月へと向けられている。
しがみつくように抱き付く怪盗は、決して顔を見せないよう、振り向けぬように頭を固定してしまった。
『見ないで』
一瞬だけ曝け出せられた素顔。
その声が、泣きそうなほど弱かったから。
見てはいけない。―言ってはいけない。そう、思った。


その背に、恐る恐る手を伸ばす。
両手で包み込むと、びくりとその身が反応した。
先ほどからの震えは、治まらなくて。
新一は、肩口まで手を上げると、緩やかに撫で摩る。
そして、小さく囁き掛けた。
「キッド」
背を握り締められた手に力が篭る。
落ち着かせるように軽く叩き、そしてもう一度囁く。
「キッド、……キッド、聞いてくれるか」
弛まない腕に、僅かにしか動かない顔を寄せ、耳元で囁く。
「俺は、お前の望まないことは、しない。―決して、絶対に、だ」
だから、もう
「怯えるな」

(かいと―)

音にはならない呟きに、怪盗は反応した。
頷いたのがわかる。
ぎゅっと抱き付く腕の震えが、少しでも治まるようにと、新一は怪盗の背を撫で摩った。
「大丈夫だ―」
寄り添うように、その背を抱きしめて。
いつも笑っていて、無防備な姿を見せていた彼が、それでも暗い目をしている時があるのを知っていた。
だから決めていたのだ。
彼が気に病むことを、少しでも減らしてやれればと。
そのためなら、自分は何でもできると。
「―私、は」
キッドの震える声に、新一は相槌を打つ。
小さな震えのまま抱きしめられても、抱きしめても。彼が彼であることには変わりがないのに。
(キッド―)
快斗。
どちらで呼んだかわからなかった。心の中で呟く。
日常は壊れない。俺が壊さない。
決して、彼が怯えるような、望まない世界を創ることだけはしない。
―安心して帰る場所は、ここにある。
彼のいる場所を壊すつもりはないのだと、抱きしめることで新一は示した。
擦り寄るように頬を寄せて。首筋に顔を埋める。
伝わればいい。この思いが全て。
胸を切り裂いて、心臓ごと彼に渡して。全ての思いを彼が知ればいいのに。
新一は全ての思いをその抱擁に込めた。
縋り付く腕が、抱きしめる強さに変わる。

「俺は、世界を壊しても。やらなきゃならないことがあるんだ」
口調が、僅かに変わった。
怪盗としての柔らかなものから、意思の篭った、自分の知るあの声に。
あぁ、と頷きながら、新一は彼の鼓動を聞いている。
伝わる鼓動は、穏やかなものに変わり。いつもの彼だと心が落ち着いた。
自分の好きな音だ。彼の意思のある声と、いつもの凛とした気配と。
「知っておいて欲しい」
お前は、未だ知らないようだから。
新一はそう呟く。耳を傾ける怪盗を抱く力を僅かに強め、その首に擦り寄るように顔を伏せた。
「俺は、お前のやることを信じれる」
「―」
「お前がお前であれば、それでいい」
告白だった。
胸に秘めていた。けれど言うつもりのなかった言葉。
暗い目をすることのある彼に告げたくなかった。重荷になる気がしたから。
気付くまで待とうと思っていた。けれど。
言うべきだと思い、新一は声に出した。

抱きしめた怪盗の、腕の力が増す。
ありがとうと、小さく聞こえた。



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