オルタナティブ民俗学の一分野「出版民俗学」の提案書
――もう一つの民俗学としての出版文化研究
はじめに(例を出して)
「オルタナティブ民俗学」としては「出版民俗学」のほか「学校民俗学」、「サラリーマン民俗学」などを考えているが、まず「出版民俗学」は具体的に何をするのかをお示ししたい。
下の表は、猟奇とか変態とか、猥褻、花街、性癖、見世物など、戦前の性科学研究雑誌から、戦後のカストリ雑誌、平成期の『GON!』や『BUBUKA』などで扱われた主題を、とりあえず分類したものである。
私は特に「カストリ雑誌」を研究しておらず、性文献にも興味が深い訳ではない。
だが、この主題分類を作ったのは、戦前の「変態」の意味は、現代では異なること、そして戦前から、性・犯罪・実話・花街・猟奇などがいっしょくくたにされており、識者によってそれらの統一概念として、「地下本」と呼んだりするが、中には地下出版とは関係がないものもあり、「非合法」や「発禁」という評価軸では分類には限界があると感じていた。
ところが、こんな簡単な分類さえ出版研究ではされてはいないのである。
そこで「出版民俗学」と名付けて、分類しようというわけである。
例えば、ある古書店の目録を見ると、いわんとする事は伝わるのだが、
内容を次に分類している。
・売春
・花街
・エロ、グロ、ナンセンス
・中村古峡
・明治造化機本・通俗医学・性科学
・盛り場風景
・庶民の娯楽(暮し、芸能、スポーツ、文学、雑誌)
・緊縛SM
・戦後カストリ雑誌
・戦後性風俗硏究
・同性愛
・趣味人
・伝奇伝説
などと分類はされているが、「その他」あるいは「049雑書」という受け口がないため、概ね分類されているのだが、たまに店主の恣意的な配列となっている(店自体には高評価である。ただ、分類は難しいことをいいたいだけです)。
例えば「緊縛SM」の欄になぜか「戦後性風俗硏究」に入るべき雑誌があったり、「戦後性風俗硏究」の欄に、東京たべあるきの本がある。
一番解せないのは「趣味人」の欄になぜか「地下本」として謄写版の猥褻本が配列されていることである。
そして逆に、「趣味人」に配列すべき、戦後の趣味誌・地方誌がなぜか「戦後カストリ雑誌」に分類されており、せめて文芸雑誌は「庶民の娯楽」に入れたらどうかと感じた。
おそらくだが、分類する際に評価軸が一定ではなく、混合しているのではと思う。
「戦後カストリ雑誌」には猟奇も変態も実話も読切講談も入れている。
しかし、ここと対をなすような戦前判が、「エロ、グロ、ナンセンス」という名前なのだ。
エロとグロが混ざっているため、隣の「売春」「花街」などと重複している。エロがあちこちの分類に当てはまる状態である。
例えば「中村古峡」(変態心理・犯罪心理)の欄には北野博美の『性之研究』誌がなぜか紛れている。
そして「中村古峡」(変態心理・犯罪心理)に、久保盛丸の著書が複数冊あるが、むしろ久保盛丸という人物からは「趣味人」であるし、主題的には「エログロナンセンス」でも「明治造化機本・通俗医学・性科学」に配列されてもよい書籍である。
この分類では評価軸に、趣味人や、梅原北明・中村古峡という「人物」軸が介在している事が、分類が一意でなく相互に当てはまるという、ピットホールであろう。
そして「エロ・グロ・ナンセンス」だが、「ナンセンス」が主題の古書とは、存在するのだろうか?
確かにこのフレーズはよく言われるところだ。
しかし私は「エロ」=猥褻関係、グロ=猟奇、犯罪関係と理解ができるが、「ナンセンス」だけはわからないのだ。
よって「エログロナンセンス」という分類軸はなくし、
大分類のエロ=「性」には、中分類の花街・売春・性科学・性志向・性倒錯を包含し、
大分類のグロには、中分類として「犯罪」「猟奇」「異常」「社会病理集団」や「裏面」などを包含させるとよいのでは?
また、戦後のカストリ雑誌と、戦前の雑誌を混ぜると管理上支障があるなら、それでも良いが、あくまで「主題別」の軸だと決定したら、人物や戦前・戦後の年代など、他の評価軸は混ぜない方がよい。
そもそも戦後の「カストリ雑誌」に注目して分類項目としていることも、評価軸が他と異なるため、これを活かすのであれば、いっそのこと、
「カストリ雑誌群」「SM雑誌群」「高橋鐵周辺の性雑誌群」「『夫婦生活』周辺の夫婦雑誌群」「梅原北明周辺の性雑誌群」「エロ関係研究書籍群」「グロ関係の研究書籍群」「謄写版ワ印地下本群」と、媒体別に軸に分けたほうがすっきりするのではないか。
さて、具体的なことをもう一つ上げよう。
それは「なろう系」などの仮想世界系の漫画や小説の分類体系だ。
例えば、キャラクターを分類すると、このようになる。
ほかにも、異世界の契機分類、物語の陳述類型分類、行動と精神分類、承認形式の分類なども作ったが、煩瑣になるので、
とりあえず、「物語の構造類型の分類」を下に掲出する。
このように、分類すると、いろいろな世界が見えて来る。
蒐集し分類し体系化をする、
それが私の提唱する「オルタナティブ民俗学」である。
第一弾として、「出版民俗学」の企画提案を下記に記述します。
一 企画趣旨
近代以降の日本において、出版物は単なる情報媒体ではなく、人間関係・金銭流通・地域共同体・政治運動・詐欺・宣伝・趣味活動・名望形成など、多様な社会現象と結びつきながら発達してきた。
しかし従来の出版史研究は、出版社・著者・雑誌・制度・言論を縦軸に、文学史・思想史・新聞史・ジャーナリズム史などを横軸として、「正統的」領域に重点が置かれ、周縁的・雑多・逸脱的・非正規的・半合法的・俗悪とみなされた「制度外出版文化」の活動は十分に研究対象とはされてこなかった。
そこで提唱したいのが「出版民俗学」である。
これは、出版文化の周辺に存在した慣行・商法・流通・人間関係・俗習・地下的技術・裏面的知識体系を、民俗学的視点から記録・分析する試みである。
換言すれば、「制度化された出版史」ではなく、「現場で生きられた出版文化」の歴史を対象とするものである。
本分野は、正規出版社のみならず、地方雑誌・個人出版・業界紙・広告媒体・謄写版文化・趣味誌・講義録・海賊版、部数の水増し、広告販売手法、不当利益的な自費出版、なども含め、「紙媒体を介した社会的実践」全体を視野に入れる。
これらを「逸話」ではなく「反復継続される一つの”型”」として捉え、出版という文化の実態を、より人間的で、より社会的なものとして出版文化史に於ける別の地層を描き出し、後世に記録することを目指す。
二 提唱の背景
現在、出版文化の研究は、文学研究・メディア史・図書館情報学などに分散している。
しかし、それらはしばしば「正式出版物」「商業出版」「著名作家」を中心に論じる傾向が強い。
確かに出版は、近代以降の日本社会において知識・教養・権威・宣伝・扇動・信用形成を担ってきた。
しかしその実態は、書籍や雑誌そのものだけでなく、広告、名簿、権威付け、営業、流通、再利用、複製、販売促進など、多数の周辺実務によって成り立ってきた。
一方で、現実の出版世界では、
* 原稿の転載と剽窃
* 賛助員・名士による信用や資金調達
* 広告と記事の癒着
* 地方印刷業者による兼業出版
* 謄写版による「ワ印」本の地下的流通
* 趣味家の交友による交換文化
* 「限定版」や「復刻版」の蒐集市場化
* 出版と詐欺的商法の接続
* 「雑誌を出すこと」自体の自己表現化
など、多様な実践が存在していた。
これらは「出版産業」の周辺現象ではなく、むしろ近代日本における知識流通の実態そのものであった可能性があるが、断片的な回想、事件記事、業界証言、俗説として散在し、体系的に記録されにくかった。
いま必要なのは、出版の“正史”だけでなく、“周縁の実務”も文化史として記述する視点である。
三 問題提起
今日、出版をめぐる議論は、読書離れ、電子化、出版不況、表現の自由、AI生成物などに集中しがちである。
しかし、出版の現場で繰り返されてきた具体的な商法や営業慣行・編集手法、グレーな実務、広告と取材に於ける名目と実態のずれ、権威や信用の売買といった問題群は、十分に整理されていない。
その結果、
過去の被害や教訓が継承されにくい
現在の類似事象との比較ができない
出版の文化的複雑さが単純化される
という問題が生じている。
「出版民俗学」は遵法だけでない、グレーな出版裏面史”も包含し、この見落とされてきた層を可視化することで、出版をより立体的に理解することを目指す。
四 定義と視点
本提案における「民俗学」とは、旧来の地域共同体の年中行事や風俗・習慣・伝承のみを扱うものではない。
ここでは、ある業界や実務共同体の内部で、「繰り返され、模倣され、伝達され、変形される慣行や型」を広く民俗として捉えている。
したがって「出版民俗学」は、出版業界における以下のような対象を含む。
制度外・周縁的・半合法的な出版実務
表向きの理念と実務のずれ
口伝的に継承される営業・編集・販売手法のノウハウ
権威・名誉・信用を媒介とする出版商法
再利用・転載・複製・転売・流通の通俗的な利益手法
被害、誇張、虚飾、恐喝、押し売りを伴う非「遵法」の事例
逆に、制度の隙間を縫って成立した草の根的・自救的出版の手法
つまり「出版民俗学」は、合法と違法の二分法ではなく、濃淡があるその間に広がる出版文化の実態を扱う。
五 「出版民俗学」の理念
「出版民俗学」の理念は、出版の正史からこぼれ落ちた実務知を、”文化”の一部として記録することにある。
”文化”とは単なる情報伝達技術としての出版ではなく、人間の欲望・共同体・見栄・金銭感覚・地方文化・自己顕示欲などを伴う「生活文化」として捉えるものである。
したがって本分野では、
正統/異端
高尚/低俗
合法/半合法
中央/地方
商業/趣味
といった区分を絶対視しない。
むしろ、社会の周縁で営まれた出版実践にこそ、時代精神や民衆感覚が色濃く反映されているという立場を採る。
これは不正を賛美するものではなく、現実に存在した反復的な出版慣行を、忘却から救い出し、歴史化する試みである。
同時に、現代社会における情報商法、信用商法、広告手法、媒体の権威づけの問題を考えるための基礎資料ともなる。
出版民俗学は、出版を「きれいな知の制度として整える」ではなく、欲望、虚栄、恐怖、機会主義、生活知、工夫、詐術まで含んだ、人間的営為として捉えるものである。
六 研究対象の特色
(一)「出版すること」自体を研究対象化する
従来の研究は「何が書かれたか」に重点を置きがちであった。しかし本分野では、
どのように作られたか
誰が資金を出したか
どう売ったか
誰が配達したか
どう誇張宣伝したか
どう延命したか
といった実務・慣習・裏面史を重視する。
(二)失敗や逸脱も記録する
短命雑誌、未完の企画、三号雑誌、資金難、倒産なども重要な研究対象とする。
成功した出版社だけでは、出版文化の実態は理解できない。
(三)地方文化を重視する
東京中心の出版史ではなく、地方の印刷所・謄写版・地方小出版・同人雑誌・趣味誌・地域通信網も重視する。
七 課題と目的
課題
対象が散逸しており、資料化されていない
逸話としては語られても、分類されていない
被害事例・慣行・業界語・流通知識が失われつつある
正規の出版史では扱いにくい
研究対象としての呼称が未整備
目的
1. 出版周縁の慣行を、体系的な項目として整理する
2. 証言・現物・広告・奥付・請求書・DM・名簿などを資料化する
3. 出版と広告、出版と恐喝、出版と営業、出版と権威の関係を分析する
4. 現代の情報商法や媒体不信を考える歴史的基盤を作る
5. 一般読者に対し、出版文化の別の見取り図を示す
八 「出版民俗学」の独自性・強み
本概念を新たに設定することの強みは、出版史・雑誌史・広告史・風俗史・犯罪史・メディア史をまたぐ横断性にある。
通常は「正規の出版」「名作」「出版社の沿革」「名編集者」といった語られ方に偏りがちな出版史に対し、
詐術・インチキ
非合法的な商法(送り付け・買取の強要)
編集・営業現場の伝承的手法(失われた技術・道具)
流通の裏回路
権威づけの装置 (例:賛助員、「賜台覧」)
も前面に出す点で、新しい。
また、単なる告発等ではなく、事例の採集と分類を目指すことで、散発的事件を文化的反復として、後世にも理解可能にする。
九 研究対象(詳細項目)
A. 転載・再編集・複製の民俗
記事転載雑誌(許可・不許可)
新聞切抜き雑誌
ニコイチ再製雑誌(異種雑誌をくるむ)
本文同一、表紙換装(異なる表紙で、本文が同じ冊子をくるむ)
紙型売買
絶版本復刻商法*(限定商法と親和する)
原稿の二重売り
文芸の配信会社
海賊版
江戸本やワ本の翻刻・復刻
B. 広告・営業・勧誘の民俗
広告枠の販売手法(有料でペットや肖像写真を掲載)
名刺広告(盆・正月の付き合い)
タイアップ記事(取材と称しながら、掲載にはタイアップ料金必要)
推薦・賛助員(ホワイトとして「編集委員会制度」)
取り屋、賛助金(企業の不祥事・商店の評判・個人の醜聞の記事を発表を示唆して恐喝、賛助や買取で事態収拾)
町内会名簿受託(会長のお墨付きで商店街営業)
名鑑送り付け(大企業は誰がいつ注文したのか適当な時代あり)
紳士録商法(掲載料)
バイブル商法(健康本の巻末にアンケート葉書で個人情報蒐集)
講義録商法(教育観もなく、俗悪な手本書を発送)
C. 威圧・信用操作・媒体権威の民俗
取材商法(取材をしたいとアポ、広告営業が同行)別途:スター・俳優が取材するので、信用がつくとして高価な掲載料を払う
総会屋雑誌・通信(恐喝で記事差止め・雑誌買取)
インチキ雑誌の製作(賛助先に納品する雑誌のインチキな作り方)
部数水増し(広告料金は部数に相関するため)
赤新聞(スキャンダル・ゴシップ、暴露、提灯記事)
賜台覧(皇室・関係者のお買い上げを表紙で表示)
推薦・賛助員(知らないあいだに、推薦者に祭り上げ)
通信社(地方の通信社、通信社の売買《国鉄無料パスの特典付きなど》)
業界紙(広告ベースで経営)
D. 発行・流通・部数・在庫処理の民俗
ゾッキ本(B勘本のスタンプ、最初からゾッキを製作)
月遅れ雑誌(露店で販売)
待合室雑誌(銀行向け雑誌・グラフ誌の製作、理容室や食堂へ回す雑誌業)
未来号数の付与(返品日を長期化)
奥付偽装(返品日を長期化、検閲逃れ)
雑誌の割引販売(露店)
号外商法(号外を発行して利益)
三号雑誌(三号発行して廃刊)
取次の支払いサイト(だんだん長くなる、株主版元と零細口座の格差)
取次口座開設の制限(取次の殿様商売、零細版元の口座を謝絶)
学術出版 (助成金による出版)
ハゲタカジャーナル(論文なんでも掲載)
自費出版(暴利としての協力出版)
投稿雑誌ビジネスモデル
書店販売制度(入銀、歩戻し、報奨金、常備寄託、注文買切、帖合、延勘、了解品)
貸本屋流通
通信販売(紙型による辞書や実用本も)
会員制出版
予約出版
百科事典の月賦販売
分冊百科商法
販売店網(即売・他業順路帳活用・赤帽)
出版ブローカー
E. 周縁技術・簡易印刷・配布の民俗
切抜き・転載系媒体
限定版
謄写版印刷
活版印刷技術
交換誌・贈呈誌
新刊案内・版元小冊子
出版目録
「愛読者カード」
郵便制度(第五種で原稿送付・第三種で購読誌の送付)
集金制度(小為替・振替口座・切手代用二割増)
代理部(用便部)
付録文化
投稿剽窃と指摘
文章の批正
ゴーストライター
検閲と発禁本・自主規制
以印刷代謄写(コピーの意味、出版法(納本)に当らない印刷物との表記)
F. 編集手法・頁構成の民俗
「欄別」編輯法
広告頁の紙替え
巻号のインクリメント
読者欄の記者「給仕」の応答
入選者肖像掲載・賞金授与
十 本分野の意義
(一)失われゆく知識の保存
印刷・流通・販売の実務知識は急速に失われている。特にガリ版・青焼き・地方印刷・郵送販売などは継承者が少ない。
(二)「庶民の出版史」を描ける
従来の出版史は出版社・作家中心であった。しかし本分野は、無名人の雑誌実践を対象化できる。
(三)現代ネット文化との接続
現代の、
炎上商法
情報商材
サブスク
投げ銭
同人通販(また、同人誌の合同誌や“ペーパー”)
SNS 宣伝
なども、過去の出版民俗と連続して理解できる可能性がある。
十一 方法論
本企画は、次の方法によって進める。
1. 項目採集
既存文献、業界誌、広告、雑誌、新聞、回想、裁判記録、古書目録、業界証言から項目を抽出する。
2. 型の整理
個別事件や案件としてではなく、
どのような利益構造か
誰を対象にしたか
どの媒体形式をとったか
何を権威として使ったか
何がグレー/違法だったか
を整理する。
3. 語彙の保存
業界内の俗語、蔑称、符牒、営業語、印刷用語、流通用語を記録する。
4. 現物の重視
奥付、広告ページ、申込用紙、請求文面、推薦状、帯、DM、見本誌など、実物資料を重視する。
5. 比較研究
類似する商法の時代差、媒体差、合法化・違法化の変化を比較する。
十二 今後の課題
* 用語整理
* 資料保存
* 個人アーカイブの収集
* 古書店・蒐集家との連携
* 地方資料の掘り起こし
* オーラルヒストリー採録
* 印刷技術継承
* デジタル保存との接続
などが課題となる。
十三 社会的意義
出版民俗学は、単に珍しい話を集めるのではなく、それは、
メディアの信用はどう作られるか
権威はどう印刷物に付与されるか
人はなぜ名簿・名鑑・推薦・広告に騙されるのか
“出版されていること”は、なぜ真実らしく見えるのか
を考える基盤になる。
現代の情報商材、ステマ、フェイク媒体、ハゲタカジャーナル、課金誘導、送り付け商法などを理解するうえでも、歴史的連続性を照らし出せる。
十四 倫理・法的配慮
非合法な出版行為も含まれるが、違法行為や反社会的行為を推奨・礼賛するものではない。対象を扱う際は、以下を原則とする。
現存個人・現存法人への名誉に配慮する
予察よりも資料に基づく事実の記述を優先する
伝聞のみの事例は、伝聞として明示する
被害事例はセンセーショナルに消費しない
再現可能な手口の詳細化には慎重に対処する
資料保存と批判的分析を重視する
十五 今後の展望
出版民俗学は単独のテーマにとどまらず、
広告民俗学
名簿民俗学
印刷民俗学
業界紙民俗学
自費出版民俗学
などへ派生できる。
さらに、「オルタネイティブ民俗学」の一分野として位置づければ、制度の周縁で反復される実務文化を扱う新たな研究群の起点となる。
八 まとめ
「出版民俗学」は、出版文化を「制度」ではなく「生活」の側から捉え直す試みである。
そこでは、雑誌を作る熱狂、広告を集める工夫、雑誌で利益を上げる手法、資金難による休刊、出版人の自己表現欲求、半合法的商法、版元と読者の執念なども、等しく歴史資料として扱われる。
出版の世界に生きた人々の実務、抜け道、工夫、欲望、誤魔化し、信用操作、再利用、商売の知恵といった、正史の外側にある人間の営みを記録する試みであるため、出版文化をより低い場所から、より具体的に、より社会的に理解し直すための、新しい視角となるだろう。
「文豪や大手版元の歴史」ではなく、「出版を生きた人々全ての歴史」を記録する営為なのである。


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