押しの強さで知られた八代市議、机たたいて職員説教も…「復興の象徴」新庁舎を食い物に
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熊本県八代市議が業者から賄賂を受け取ったとしてあっせん収賄容疑で逮捕、起訴された事件は、熊本地震からの復興の象徴とされた新庁舎の建設工事が舞台となった。市幹部らの証言からは、経緯に疑念を抱きながらも、有力市議に異を唱えることなく、行政がゆがめられていった実態が浮かび上がる。(小松大樹、水俣通信部 白石一弘)
ちゃんこ店で
「足らんばい。10億か11億円」。2019年11月、八代市議の成松由紀夫被告(54)は自らが経営する市内のちゃんこ料理店に市幹部3人を呼びつけ、そう切り出した。
約2か月前に行われた入札で、準大手ゼネコン「前田建設工業」(東京)を含む共同企業体(JV)が118億円(落札率99・9%)で落札した新庁舎建設工事による利益のことだった。
前田建設は元々、採算性から応札を見送る方針だった。「金額は契約後に協力する」と約束し、応札を促したのが被告だった。3人のうちの1人は「ちゃんこ店で初めて、前田建設と成松さんがつながっていると疑いを持った」と振り返る。
16年の熊本地震でひびが入って使えなくなった旧庁舎に替わる新庁舎は、「復興のシンボルタワー」と位置づけられていた。翌月、被告は市の会議室で職員を前に、元請けであるJVが十分な利益を得られなければ、下請けや孫請けに入る地元業者にしわ寄せがいくと強調した。「『トラウマタワー』になったらいかん」
前田建設との関係に疑念を抱いていた市幹部らは、その発言を額面通り受け取れなかった。だが、JVの利益の上積みを検討した。結局、市は工事費の増額や外構工事などの追加契約で、JVの請負額を落札額から約12億円増やした。
「天の声」
地元出身の成松被告は、日大相撲部から角界入りし、幕下で引退後、地元でちゃんこ料理店の経営を始めた。05年の市議選で初当選後、教育や子育て施策などに力を注いで頭角を現し、副議長や議長を歴任した。
6期にわたる議員活動は押しの強さで知られた。意見が通らないと机をたたいて職員に説教することもあったという。
「市長も了解済みの案件だ」。元市幹部は、被告からよくその言葉を聞いた。前市長との関係を強調して案件を通そうとすることが度々あったという。
「影の市長」「議会のドン」。いつしかそう呼ばれるようになった被告。職員の間では「市の幹部人事に影響を持つ」とささやかれるようにもなった。
被告は入札方式の決定を巡っても影響力を発揮したとされる。
「『天の声』によるもの。変更しないように」。庁舎建設工事の入札公告が迫った19年7月頃、市契約検査課の女性職員は上司から入札の「評価基準案」を渡され、そう念押しされた。
捜査関係者によると、被告はこの頃、価格だけでなく技術力や実績を加味する「総合評価方式」で入札を実施するよう副市長に要求し、前田建設の社員が作成した評価基準案の採用を求めていた。
女性職員が渡された基準案は、過去1年以内に指名停止となった業者を大幅な減点としていた。前田建設と競合すると目されていた大手ゼネコンは、リニア中央新幹線建設工事を巡る談合事件で指名停止措置を受け、案が通れば前田建設側が有利になるのは明らかだった。
「告発」放置
22年に完成した新庁舎は地上7階、地下1階で、延べ床面積は旧庁舎の約2倍になった。総事業費約168億円の多くは、国が交付金で手当てする災害復旧事業債などで賄われ、市の実質負担は37億円だった。
前田建設側に有利な条件を採用するよう市に求め、利益が増えるよう動いた見返りに、成松被告らが賄賂として受け取った現金は6000万円に上ったとされる。新庁舎建設課の係長が、「不公正な評価基準による入札が行われた」などと公益通報窓口のある市人事課に「告発」したこともあったが、訴えは放置された。
なぜ行政はゆがめられたのか。当時の新庁舎建設課長は今年4月、疑惑を調査する市議会の百条委員会で「(被告の)意向に逆らえないという恐怖心があった」とうなだれた。
弁護士によると、成松被告は事件への関与を否定しているという。