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英文の「返り読み」は本当に悪なのか—認知心理学におけるreanalysis 〈てにをは読解法#5〉

※ 本記事は連載 「英語を英語のまま“日本語で”読む方法」の第5回です。
→第4回はコチラ


返り読みは本当に「悪」なのか?

「英語は語順通り読め」
「返り読みは絶対にするな」

英語学習の世界では、
もはやお決まりのフレーズです。

皆さんも耳にタコができるほど聞いて、
挑戦して、そして何度も挫折したのでは
ないでしょうか?

しかし、
それはあなたの能力不足ではありません
だってここには
どうしても無視できない矛盾が
あるのですから。


たとえば、前置詞 in の意味は何でしょうか。
「〜の中に」「〜において」
と、多くの人が答えるはずです。

では as soon as はどうでしょう。
「〜するとすぐに」
と習ってきたはずです。

ここで、少し立ち止まって考えてみてください。

「〜」って何ですか?


それが確定するのは、
必ず後続情報を読んだ「あと」ですよね?

この訳し方は、
後ろに続く内容を見てから、
意味を確定させ、
語順に逆らって戻る——
いわゆる「返り読み」を
前提としていないでしょうか。


つまり私たちは、
「返り読みをするな」と言われながら、
実は学習の過程ですでに
返り読みを強いられているのです。

これで
「返り読みは絶対にダメ」
とは、流石に無理な話です。


「返り読み」の是非をどう考えるか

ここで一度、『返り読み』を
冷静に捉え直してみましょう。

私はこう考えています。
「必要最低限の返り読みは、
問題どころか、むしろ不可欠である」


第4回で見てきたように、
「英語を英語のまま読める」上級者であっても、
• 難解な構文
• 抽象度の高い内容
• 初見のテーマ
に出会えば、

情報整理のために
一時的に語順に逆らう
ことは
日常的に行っています。

つまり、問題なのは
返り読みそのものではない
のです。

最初から最後まで
返り読みを前提にした読み方こそが
避けられるべき対象なのです。

「語順を軸に読み進めながら、
必要に応じて
修飾関係や並列構造を
確認するために一時的に戻る」

これは決して「悪」ではなく、むしろ
正確な英文理解のための必須戦略です。


「返り読み」を要求する英語の仕組み

極論すると返り読みそのものを
完全になくすことはできません。

その理由の一角が、
先ほど挙げたinに代表される前置詞と
as soon as, if, becauseなどの従属接続詞
といったものです。

今は文法用語の細かな理解はいらないので
「なんだか “〜”がつくヤツ」
と思ってもらえれば結構です。

さて英語は、
語順と文型によって文の骨格を
非常に早い段階で確定
させます。

日本語と違って
情報の『置き場所』が
ガチガチに決まっている
構造的に不自由な言語なのです。

だからこそ、
無理やり情報を付け足すときには、
「今からここに無理やり
情報をねじ込みますよ!」
という強烈な合図が必要になります。

その強烈な合図というのがこの
「なんだか “〜”がつくヤツ」
(前置詞や従属接続詞)なのです。

これらは、
「これから、すでに伝えた情報の
どこかに新たな情報を足します」
と、あらかじめ予告する装置
です。

この予告があるからこそ、
私たちは
「この後にはどんな情報がくるのか」
「この後の情報はどこにつながるのか」
そこで一旦立ち止まって、
前後の関係性を確認する必要
が出てきます。

つまり、認知的側面から言えば、
語順に逆らった情報処理を強制してくる
のが、これらの語句なのです。

これまで学習者の大半が
「返り読み=悪」と
言われ続けてきたと思います。

そして、その一方でその言葉に違和感を
覚えてきた人もいるかもしれません。

その違和感は決して間違っていません。

英文読解では
「返るべき場所」と「正しい返り方」
があるのです。

それを一緒に身につけていきましょう。



※補足
なお、心理言語学の分野では、
文理解は一度で完成するものではなく、
仮の解析と修正(reanalysis)を繰り返す
動的な過程であると考えられています。
いわゆる
Garden-path 理論 や
Good-enough 理論 と呼ばれる研究でも、
「読み直し」や「解釈の修正」は失敗ではなく、
ごく自然な理解プロセスであることが
示されています。

つまり、「返り読み」を
完全に排除すること自体が、
人間の言語理解の認知過程、
とりわけ言語距離が最も遠いとされる
日本語話者の認知特性と
ズレている可能性がある

ということです。


次回予告

英文を語順通り読む方法として、
まるで万能であるかのように語られる
スラッシュ・リーディング。

次回は、
英語と日本語の情報処理の違い
に注目しながら、
このスラッシュリーディングだけでは
うまく情報処理できない場面
について考えていきたいと思います。

※毎週日曜夜、更新予定。





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