速読のための「英文の休憩所」ー「文型完了ポイント」〈てにをは読解法#10〉
※本記事は「英文を語順通り“日本語で”読む方法」である「てにをは読解法」の総論最後の記事となります。
本記事中の「ワード・フロー」、「フローマーカー」、「オープン/クローズ」といった用語が気になる方はリンク先でご確認ください。
・ワード・フロー▶︎#3
・フローマーカー、オープン/クローズ▶︎#8
・配置スロット▶︎#9
マクロなクローズ「文型完了ポイント」
これまで9回に亘りお話ししてきた
「てにをは読解法」。
その総論とも言うべき部分は
今回で最後となります。
これまでの記事を通して
「英文をどこまで処理すれば
安心できるのか」
という感覚を磨いてきました。
さて、「てにをは読解法」最後のピースは
「文型完了ポイント」という感覚です。
皆さんもSVCやSVOといった
5文型については聞いたことが
あると思います。
本連載では、
文の要素が一通り揃って
もう「ピリオドを打ってもいい形」が
完成した時のことを「文型完了」と呼び、
その文型が完了する地点を
「文型完了ポイント」
と名付けたいと思います。
文型完了ポイントとは、
まずは本動詞(述語になる形)。
そして準動詞(to V、Ving、Vp.p.)。
これらが要求する要素が
構造上すべて満たされた地点。
これを文型完了ポイントと呼びます。
これは「もう読まなくてよい地点」ではなく、
「ここまでを確定情報として固定してよい地点」を指します。
前の記事で述べた
「オープン/クローズ」の感覚は、
「前置詞の後に名詞があるか」、
「従属接続詞の後に完全文があるか」
などといった、いわば
ミクロのオープン/クローズ感覚ですが、
この「文型完了」ポイントとは、
文単位で一旦クローズするのを意識する
よりマクロな感覚です。
クローズポイントと文型完了ポイントの違い
前回と同じ例文を使って
「文型完了ポイント」を考えてみましょう。
Mrs. Johnson showed a surprisingly calm attitude toward the unexpectedly large audience because she had prepared carefully.
いかがでしょうか?
「ここでピリオドを打ってもいいよね」
と思える箇所はいくつあったでしょうか?
まず一つ目は
Mrs. Johnson showed a surprisingly calm attitude
の時点です。
SVOが揃う時点がここで、
ここまで行くとしっかり述語に戻って
訳し切ることができます。
次に
toward the unexpectedly large audience
の時点です。
ここまで訳すとattitudeに修飾させ
再度showed「示した」という
述語に戻っていけるので、
ここも文型完了ポイントです。
3つ目に
because she had prepared
の時点です。
because節が一旦クローズし
showed「示した」という
述語につながるのでここも文型完了です。
(※carefully は had prepared に後から付加される副詞で、文型完了自体はSVが揃った時点で成立しています)
そして最後の文型完了ポイントは
もちろんピリオド時点です。
「彼女は念入りに準備していたので」と
訳し切った上で、「示した」という
述語につなげることができます。
このように、訳をつなげていって
最終的に主たる述語に終着できるとき
それが「文型完了」だと言えます。
さて、ここまで見ると
「なんだ要は文型完了ポイントって
クローズポイントのことか」
と思ってしまうかもしれません。
確かにミクロのクローズポイントは
マクロな文型完了ポイントと
一致することも多いです。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
例えば以下の文を“語順通り”ご覧ください。
The calm attitude that she showed despite the large audience was surprising.
The calm attitude that ... →thatが関係代名詞でフローマーカー。(ここでオープン)
↓
that she showed→一旦クローズ。「彼女が示した」(+「落ち着いた態度は」につなげる)
↓
despite...→フローマーカーでまたオープン。despite O=「Oにもかかわらず」(+「示した」へのつながりを確認)
↓
despite the large audience→クローズ。「その多数の聴衆にもかかわらず」(+「示した」)
→thatから始まる関係詞節はここまで
しかし、まだ文型は完了していません。
「文型完了ポイント」はお分かりの通り
was surprising
のピリオド時点のみです。
「文型完了ポイント」とは
主たる述語を訳し切れる地点
なので、述語がでてくるまでは
ミクロで何度クローズしても
「文型完了」とは言えないのです。
ちなみに例文の訳は
「彼女がその多くの聴衆にもかかわらず見せた落ち着いた態度は驚くべきものだった」
となります。
さて、ご覧いただいたように
文型完了ポイントとクローズポイントは
必ずしも同義ではありません。
前回のオープン/クローズは
頻繁に発生しますが、
文型完了ポイントは
述語につなげられるときのみなので
それほど多く発生しないとも言えます。
文型完了ポイントの意義①ー認知負荷の解放
スラッシュリーディングは
後ろの形の予測
という意義がありました。
では文型完了ポイントを意識することの
意義は何でしょうか?
それは認知負荷の解放と
カタマリの認識です。
英文を語順通り読む際は
・ワード・フローを感じ取りながら
・後ろを予測しつつ
・前とのつながりを考える
というかなりのオーバーワークを
脳に要求しながら進んでいます。
クローズポイントを迎える度に
認知負荷は多少下がりますが
やはり文が一区切りするまでは
安心できません。
しかし、逆に文型完了ポイントが分かると
その地点で「一旦文は終われる!」と
脳の認知負荷が一気に解放されます。
文型完了ポイントとは、
いわゆる文中の “休憩所”なのです。
この“休憩所”に気付けると
それまで負荷の高かった文でも
以後の情報はすでに確定した情報、
付属的なもの(いわゆる副詞)として
認知負荷を下げて処理できるのです。
つまり語順通りの処理が加速します。
文型完了ポイントの意義②ーカタマリの終わり
もう一つはカタマリの意識です。
「文型完了」という認識は、
準動詞(to V, Ving, Vp.p.)も含め
動詞的なものを通過すると
必ず意識しなければなりません。
この意識を持っておかないと
読み違えてしまう文があります。
以下の例文を見てみましょう。
Unlike birds, humans don’t change where they live seasonally.
問題:上の文 のseasonallyはどこにかかるでしょうか?
さて、この文の中には、
changeとliveという2つの動詞があります。
それぞれが述語として機能している以上、
構造上は文型完了ポイントが
最低でも2つは想定される、
ということになります。
では、これを語順通り読み
配置スロットを意識しながら
情報処理してみましょう。
Unlike→前置詞でオープン
(Unlike O=「Oと違って」)
↓
birds→unlike birdsでクローズ
(Unlike birds=「鳥と違って」)
↓
humans don’t change
→「人間は変わらない」ならここでクローズ、
「人間はOを変えない」ならオープン
↓
where
→文中のwh-は名詞のかたまりの
スタートなのでオープン
(よって先ほどのchangeは「Oを変える」)
↓
they live
→liveは自動詞なので一旦クローズ
さて、注意すべきなのは
この地点は、実は
liveにとっても
changeにとっても
文型完了ポイント
だということです。
その後に出てくる最後の
seasonally「季節的に」「季節によって」。
一体、どこにかかるのでしょうか?
正解はchangeです。
修飾先は基本的に近いところを見るので
seasonallyの直前にあるliveにかかる
と考えてしまうかもしれませんが、
実はそこを飛び越えてchangeにかかる
というのを見抜けなければいけません。
どのように気付くのか?
まず、liveの時点で、changeも
一旦文型が完了したことを確認しましょう。
なぜならwhere they liveで一つのOになり、
change Oの配置スロットが埋まるからです。
図解すると以下の通りです。
Unlike birds, humans don’t change [where they live] seasonally.
英文は必ず語順通り処理していく
のが鉄則ですが、ただ漫然と語順通り
読んでいると修飾を読み誤ります。
今回の例でも、
「liveの時点でwhere節はクローズ。
changeの要求する形もクローズ。
つまりここが文型完了ポイントだ!」
と認識できれば、seasonally は
changeにかかると
分かってくるのです。
ちなみに訳文は以下です。
「鳥と違い、人は自分たちの住む場所を季節ごとに変えることはない」
なお、先ほども触れたように、
準動詞(to V, Ving, Vp.p.)も
「文型完了ポイント」を持ちます。
その見極めができると、
チャンクの終わりが明確になります。
具体的な判断基準は、各論で扱います。
以上見てきたように、
文型完了ポイントの意義の2つ目は
カタマリの認識を高めるため、
「チャンクの区切り」「修飾関係」を
より正確に認識できるように
するためであると言えます。
総論まとめ
さて、本記事まで全10回に亘りお話ししてきましたが、今回で「てにをは読解法」の理論骨格は完成しました。
本連載で扱ってきたのは、難解な英文解釈でも特殊な文法知識でもありません。
英文がどのように「見えて」、どう「処理できるのか」という、wpm250に至るまでの私自身の思考OSを言語化したものです。
確かにこの方法は即効性のあるテクニックではありません。一定の訓練は必要です。
しかし、これは「英語を英語のまま」を字義通りに実践するのではなく、私たちの母語である日本語の情報処理回路を利用して、英文を高速処理するための方法です。
なので日本語話者なら誰でも実践できますし、一度習得すれば読解速度と安定性の両面で、目に見えるほどの大きな変化をもたらします。
ここまで読んでくださった方は、
かつて教え子たちが口にした
「英文の見え方が変わった」という感覚を、
すでに体験し始めているかもしれません。
次回以降の各論パートでは、この総論を具体的な英文に実装していきます。
理論が実際の読解の中でどのように機能するのかを、一緒に確認していきましょう。
次回予告
ここまで10回に亘る連載の中で
「てにをは読解法」の総論すべてのピース
・語順通り処理
・助詞
・ワード・フロー
・順行/保留/逆行
・フローマーカー
・オープン/クローズ
・配置スロット
・文型完了
が揃いました。
次回は各論へ移る前に
総論を体系的にまとめ
各論への準備をしていきたいと思います。
過去記事について
本記事は連載記事「てにをは読解法」の総論を締めくくる第10回です。
過去記事はこちら。
総論第0回|「英語を英語のまま読む」が、なぜできないのか
総論第1回|英文を読み解く日本人特有の武器
総論第2回|英文誤読は「助詞のつけ間違い」
総論第3回|「英語を英語のまま読む」の正体とは何か
総論第4回|「英語を英語のまま読む」までに起きる4段階の変化
総論第5回|英文の「返り読み」は本当に悪なのかー認知心理学におけるreanalysis
総論第6回|スラッシュリーディングの限界ー足りないピース
総論第7回|英文を語順通りに読めない瞬間があるー英文理解に必須の「保留」と「逆行」
総論第8回|英文は「意味」ではなく「未完か完了か」で読む
総論第9回|英文の予測精度を高める「配置スロット」
総論第10回|英文のマクロな区切りー「文型完了ポイント」(※本記事)



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