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『Time of Ring』(第十稿)Part.9

第九幕:浸食


転移艇のハッチを開けた大地は、息を呑んだ。

ただ、ひたすらに「静か」だった。

行き交う局員たちの足音が、不定期に途切れる。

温かい飲み物が入った陶器のカップを持っていた女性局員の姿が、
大地の目の前で、陽炎のように不自然に揺らいだ。

次の瞬間、
彼女の服装が、全く見知らぬ灰色の作業着に変わり、
そのまま空間から削り取られるようにフッと消滅した。

カップが床に落ちたが、割れる音は無かった。

「……何かが起きている。」

局長室へ駆け込むと、
藤堂が両手で頭を抱えるようにして
制御盤に突っ伏していた。

彼の右腕もまた、向こう側が透けて見え、
別の「存在しないはずの腕」の幻影と
重なっては激しくブレている。

「……塗り潰されているんだ。」

藤堂は顔を上げず、声を絞り出した。

「遥か先の未来から、
凄まじい力で『歴史の上書き』が実行されている。」

大地の視界の端で、
部屋の分厚いコンクリートの壁が、
冷たい白銀の金属へと瞬時に切り替わり、
再びコンクリートへと戻った。

足元の床も、
音もなく白い虚無へと変わり始めている。

「走れ、格納庫へ!」

「局長……!」

「行けッ!」

藤堂の叫びを背に、
大地は水原の腕を強く引いて走り出した。

背後から、足音が全くしない白い虚無が、
壁や床を舐めるようにして迫ってくる。

強固な鋼鉄の扉も、消火器も、
虚無に触れた瞬間に
ただの真っ白な平面へと変わり、
音もなく空間から削り取られていく。

ミシッ……!

天井を支えていた柱が
足元から白く消え去り、
何トンもの巨大な瓦礫が
水原の頭上へと崩れ落ちてきた。

「危ない!」

大地は迷わず水原を抱き寄せ、
前方の床へと勢いよく転がり込む。

二人が直前までいた場所は、
轟音を立てて落ちた瓦礫ごと
白い虚無に飲み込まれ、
完全にえぐり取られていた。

「大丈夫か!」

「ええ……走って!」

息をつく間もない。

足元の床すらも
端から白く変色し、崩れ落ちていく。

大地と水原は、
途切れていく床をギリギリで跳躍し、
迫り来る虚無から逃れるようにして
格納庫の防爆扉を潜り抜けた。

だが、格納庫の床も
すでに半分以上が白く塗り潰されていた。

その崩落する空間を割って、
無骨な時空艦が現れた。

船体には「NOA2」と刻印されている。

開いたハッチの奥に進むと、
操縦席には、見知らぬ青年が座っていた。

「こっちだ!
早く乗ってくれ!」

青年が身を乗り出して叫ぶ。

大地は警戒を解かず、鋭い声を投げた。

「どういうことだ!
この世界が消えかけているのに、
なぜ平然と存在できる!」

青年は操縦桿を握り直しながら、
切迫した声で答えた。

「あんたたちが過去で歴史を変えたことで、
奴の支配から外れた新しい未来が生まれかけた。

俺は、その『新しい歴史』から迎えに来たんだ。

俺のいた未来も、
50万年後のクロノスの介入によって
今まさに消えかかっている。」

青年が振り返った。

その強固な意志を宿した瞳は、
大地と水原、二人の面影を
不器用に混ぜ合わせたような形をしていた。

「俺の名前は航。
……あんたたちの息子だ。」

「息子……?」

水原が息を呑み、
大地も驚愕に目を見開いた。

「後ろを見ろ!」

航の怒声に振り返ると、
時間管理局という空間そのものが、
無音のまま白い虚無へと
塗り潰されようとしていた。

大地と水原がハッチへ飛び乗った直後、
二人が立っていた床も完全に消滅した。

「……すべての元凶を叩く。」

大地が低く呻くように宣言する。

NOA2は、青白い光に包まれ、
50万年後の未来へと跳躍した。


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コメント

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小ぶりなプログラムを試しに作っているんですが、 ここではその説明書きをしていこうと思います。 こういう機能をつけてみてほしいだとか要望、 コメント欄か、Xのリプライ欄に書いてみて下さい。 ひまをみて対応します。 (未管理著作物裁定制度に定められた問い合わせも受付中。)
『Time of Ring』(第十稿)Part.9|古井和雄
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