ケイ「モ~モ~イ~、また破綻したシナリオを書きましたね!なんですかこれは!」
モモイ「だからロマンだって!あえてやってるんだよ!」
今日も今日とてゲーム開発部は騒がしい。
新作ゲームのシナリオをケイがチェックした結果、いつものようにダメ出しをされたからである。
ケイ「限度があります!なんで中世ファンタジーでいきなり宇宙戦争が始まるんですか!創作は自由ですが、限度とルールがあるでしょう!」
モモイ「うわーん、ミドリ助けて!」
ミドリ「お姉ちゃんが悪いと思う」
モモイ「妹が敵になった!ユズ!」
ユズ「も、もう一回考え直そう?」
モモイ「ユズまで!ア、アリスは!?」
アリス「アリスはモモイのシナリオが好きです」
モモイ「よかった、味方はいたんだ」
アリス「それはそれとしてケイの言う事は聞いた方がいいと思います」
モモイ「味方がいないんだけど!うわーん、ぐれてやる!!」
ケイ「モモイ!どこかに行ってしまいましたね」
ミドリ「ほっといていいよ、お腹が空いたら帰ってくるでしょ」
ケイ「ペットみたいですね」
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"それでここまで来たんだ"
モモイ「そう!皆酷くない!?特にケイ!」
不平不満をぶちまけるモモイをなだめるが、彼女の溜飲は下がらないらしい。
"ケイもゲームを面白くしようと思って言ったんだと思うよ"
モモイ「それでも言い方があるじゃん!私だって傷つくんだよ!?」
"傷心中の人間はゲームしながらポテチ食べつつ、コーラがぶ飲みしないと思うよ"
モモイ「先生まで…こうなったら何とかして仕返しを……うん?先生あの花瓶は?」
"ああ、生徒から育てた花を貰ってね。折角だから花瓶買って飾ってるんだよ"
モモイ「ふ~ん……ねえ先生、ドッキリに興味ない?」
悪い顔をしながらろくでもない提案をしてくるモモイ。
普通の大人ならこういう時諌めるのだろう。事実先生もそうしようとしたがしかし。
"やめといたほうがいいと思うよ"
モモイ「ケイの泣き顔見たくない?」
"話を聞こう"
これでよく教職を名乗っているものである。
モモイ「うわ、じゃなくてそれじゃあ……」
先生とモモイの悪巧みが始まった。
結末はわかりきっているのに止められないのは2人が子供だからである。
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3日後、ケイは当番表に従い、シャーレを訪れた。
オフィスの前で鏡を取り出し、髪型に変なところがないか確認する。
誰がどう見ても好きな人に会う前の女の子ムーブであるが、以前にそれをモモイに指摘されたところ、『人と会う前に身だしなみを整えるのは当然でしょう!』と顔を真っ赤にして怒った。
モモイにはもう少しデリカシーというものが必要だと常々考えるケイだった。
ケイ「おはようございます先生、今日の当番に来ましたよ」
"やぁケイ、いらっしゃい。今日はそこまで忙しくないからゆっくりしていっていいよ"
ケイ「珍しいですね、いつもなら悲鳴をあげているのに」
"私だってやるときはやるさ"
ケイ「まあ仕事が順調なのはいい事です」
"おお、ケイちゃんに褒められた"
ケイ「誰がケイちゃんですか、私だって褒めるときは褒めます」
"そっか、じゃあ私はちょっとコンビニに行ってくるから、お留守番お願いね"
ケイ「わかりました、早く帰って来てくださいね」
"……"
ケイ「何ですか」
"いや、早く帰って来てほしいんだなって"
ケイ「さっさと行ってきてください!!」
追い出すように先生を見送った後、いつもの席に着く。すると同時に見慣れない物が置かれていることに気づいた。
ケイ「花瓶?」
花が活けてある花瓶、いつもの先生からは少し考えられない物である。
あのデリカシーというものが常人よりも欠如気味なあの人にもそういう情緒があったのかと感心する。
しかし、仕事をするには少しばかり……というよりかなり邪魔である為、場所を移動させようと花瓶を手に持った瞬間、先生のデスクの上に置いてあった端末からアラームの大きい音が鳴り響く。
その音に驚いたケイは花瓶を落としてしまった。
ケイ「あっ」
当然床に落ちた花瓶は割れ、破片が飛び散ってしまう。
とりあえず、箒とちりとりを部屋の隅から引っ張り出して破片を集めていく。
散らばった花は適当な容器にとりあえず入れておくことにした。破片をゴミ袋に入れたタイミングでドアが開く音が聞こえた。
"ただいま〜期間限定のお菓子買ってきた……ケイ……それ"
ケイ「すみません、移動させようとしたんですけど、落としてしまって。代わりの物を買ってきますから」
"……いや、いいよ。気にしないで"
ケイ「ですが……」
"本当にいいんだ"
ケイ(どうしたんでしょう)
先生の態度を訝しげに思いながらも、手際よく片付けを終えてお茶の準備をする。
その後は先生が落ち込んでいる以外は特に何事もなくいつも通りに終わった。
当番を終えてゲーム開発部の部室に帰ると、珍しくモモイがシナリオを書いていた。どうやら先日の説教が効いたらしい。
モモイ「おかえりケイ。当番はどうだった?」
ケイ「多少のトラブルがありましたが、いつも通りです」
モモイ「トラブル?何かあったの?」
ケイ「ちょっと花瓶を割ってしまいまして……今度代わりの物を買わないと」
モモイ「え?あの花瓶割っちゃったの?不味いんじゃない?」
ケイ「何故ですか?」
モモイ「だってあれ、先生の亡くなったお母さんから貰った物って言ってたよ」
ヒュッと喉が鳴った。
先生の亡くなったお母さんから貰った物、それを割ってしまった。そんな先生に対して自分はなんと言った?
「代わりの物を買ってきますから」
代わりの物?そんな物あるわけがない、同じデザインの物は探せばあるだろう。だが母親の思い出の物はあれしかないのだ。
失われたものは戻らない、それはあの鋼鉄大陸でよくわかっている。
どれだけ似たようなもので埋め合わせようとも、それは誤魔化しにすぎない。
自分が先生にかつて言った言葉を思い出す。
「誠実でありなさい」
どの口で言ったのだろうかと切に思う。
青ざめた顔で部室を出ようとすると、アリスが部屋に入ってきた。
アリス「どうかしましたか?ケイ」
ケイ「アリス………ちょっとシャーレに忘れ物をしたので取ってきます…」
ふらふらとした足取りで出ていくケイの背中を見ながら、モモイはアリスに声をかける。
モモイ「ちょっとジュース買ってくるね」
アリス「えっ、はい」
嘘である。この少女、ケイの後を追ってドッキリ大成功の看板を持って現れようとしているのだ。
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シャーレのオフィス前に着いたケイはドアの前で立ち往生していた。
どんな顔をして先生に会えばいいのかわからないのだ。
しかしいつまでもウロウロとしている訳にはいかない。こういう事は時間をおけば謝り辛くなるものなのだ。
意を決してドアを開けて部屋の中に入った。
ケイ「失礼します」
"ケイ?どうかした?"
デスクの前に座っていた先生は穏やかな顔でケイを迎える。
あんな事があったのに、こんな穏やかな顔をしているということは、そんなに気にしていないのかもしれない………と一瞬思ったが、先生の前に置かれていた破片の山を見て、そんな考えはすぐに引っ込んだ。
ケイ「先生……」
"ケイ?"
ケイ「すみませんでした!」
"ち、ちょっとケイ!?"
ケイ「先生がお母様からもらった大切な花瓶を割ってしまって…どうお詫びすればいいか、お金で償えるものではない事はわかっていますが、謝らせてください」
"そ、そんな気にしなくていいから!"
ケイ「いえ!そんな大切なものを壊すなんて許される事じゃありません」
地面にこすりつける勢いで頭を下げる。
そんなケイを見る先生の心情はというと………『ヤッバ』という一言に尽きる。
なぜなら、今回の件について完全なるドッキリ…悪戯だからである。
ケイが先生の大切な物を壊したというドッキリを仕掛けたのだ。ケイが適当に謝ったタイミングでネタバラシといこうとしていたのだが、想像以上に深刻な状態になってしまった。
今『ドッキリでした!』なんて言おうものならとんでもない説教が飛んでくるのは想像に難くない。
ケイの後をこっそりついてきていたモモイもドッキリの看板をいつ出すべきか迷っているようである。
とはいえこのまま黙っていると後々もっと酷い事になるのは目に見えている。
"あの……ケイ……悪いけど後ろを見てくれるかな"
ケイ「後ろ?」
モモイ「ド、ドッキリ大成功〜」
ケイ「……は?」
"いや、そのあの花瓶はそこら辺の雑貨屋で買ってきた物で…別にそんな大した物じゃないっていうか"
ケイ「は?」
モモイ「ち、ちょっとしたおふざけで」
ケイ「あ?」
モモイ「ひえっ」
ケイ「じゃあ何ですか、私の悩みは取り越し苦労だったと……そういう事ですか?」
"ま、まあそうなるかな"
ケイ「……」
モモイ「ケ、ケイ?」
ケイ「グスツ」
"!?"
モモイ「!?」
ケイ「わ、私がどれだけ悩んだと思ってるんですか」
ケイを泣かせるつもりのドッキリだったものの、いざこうなると罪悪感が半端ではなくなる。
とりあえず、泣き止ませようと先生が声をかけようとした瞬間
アリス「何故ケイが泣いているんですか?」
モモイ「アリス!?」
アリス「ケイの様子がおかしかったので追いかけてきましたが、先生とモモイが泣かせたのですか?」
ケイ「王女……」
モモイ(呼び方戻ってるし、そんなにショックだったんだ)
"ち、違うんだアリス。いや違わないんだけど……そ、そうだ!何でも欲しいゲーム買ってあげるからさ"
物で釣ろうとしているあたり、割とクズムーブであるが、こんなに怒っているアリスを見るのは初めてなので先生も先生でテンパっているのだ。
モモイ「え、ほんと?」
"何で自分も買ってもらえると思ってるの?君はこっち側なんだよ?"
アリス「いいえ、要りません」
"え"
アリス「先生、アリスは怒っています。でもこういう時どうしたらいいかわかりません」
"はい"
アリス「だから怒るのが得意な人を呼びました」
"…"
モモイ「……ちなみに誰?」
アリス「ユウカです」
"oh……"
ユウカの名前を聞くと同時にドアに向かうモモイ。
ユウカが現れる前に逃げ出そうというのだろう。
アリス「無駄ですよモモイ。だって……」
モモイが開いたドアから飛び出すと同時に誰かにぶつかる。見慣れた菫色の髪とミレニアムの制服を着ている事から誰かは言うまでもない。
アリス「ユウカと一緒にここまで来ましたから」
それから数時間、シャーレのオフィスからはユウカの説教の声が響いた。後にケイが語ったところによると、その激しさたるや、リオがミレニアムに帰って来た時に匹敵したらしい。
やはりユウカはミレニアムのビッグマザー…