「チャッピー」のおかげでビジネス用語のキモさの理由が分かった
前回の記事に少し書いたが、私は以前、研究者にしては珍しくビジネス用語が飛び交いがちな場所で仕事をしていた。そして、私はずっと「ビジネス用語ってなんかキショイな」と思っていた。私がビジネスという概念を薄っすら軽んじていることを差し引いても、キモい言葉遣いが多いなと感じていた。
一丁目一番地だの、見える化だの、KPIだの、工数だの、タッチポイントだの……。
もっとも、この感覚は感情的な反応に過ぎず、どうしてそう思うのかはよくわからなかった。当時は単に言葉にセンスがないから背筋に悪寒が走るのかと思っていた。が、どうも違うのではないか、ということに最近気づいた。
それは「チャッピー」のおかげだ。いや、ChatGPTに聞いたとかではなく、「チャッピー」という言葉そのもののおかげで分かった、ということだ。
そして、私は前々から感じていた問題「○○ハラという言葉がなぜ不必要に増え続けるのか」の原因も同じところにあるのではないかという考えに至った。今回の記事ではそのことを言語化していこうと思う。
ビジネス用語はコピペに過ぎない
何も考えていないから、同じ言葉をみんなが使う
なぜビジネス用語はキショイのか。それは、その言葉を使うことが使用者の思考停止ぶりを示しているからに他ならない。
チャッピーを例にしよう。Chat GPTをチャッピーなる通称で呼ぶことはいつの間にか定着した。が、冷静に考えれば、既にChat GPTで通っているのだからチャッピーという通称名は本来不要だ。
にもかかわらず、恐らく誰かがそれを使い始めたというだけの理由で、猫も杓子もチャッピーチャッピー言うようになってしまった。自分で考えて使う言葉を選べばこんなことは起きようがない。初めて目にしたものを母親だと思い込む雛鳥のように、目にした言葉をただ口から垂れ流すだけのゾンビでなければこうはならない。
とはいえ、チャッピーという通称が市民権を得る理由はわからんでもない。日本人の感覚からはChat GPTは言いにくいし覚えにくいからだ。GPTなのやらGTPなのやら……。だから、あくまで「チャッピー」という言葉はビジネス用語がキショイ理由に気付いたきっかけに過ぎず、チャッピーチャッピー五月蠅い連中が本当に思考停止でこの言葉を使っているかは断言ができない。
まぁ、チャッピーチャッピー五月蠅い時点で思考停止気味にAIに依存していることは確実だろうけど……。
問題は他の言葉だ。最悪なのが「見える化」というやつで、なぜこんなものが幅を利かせているのかわからない。だから日本は敗戦国のままなんだという支離滅裂な主張をしたくなるほどだ。
日本語には本来「可視化」という言葉がある。別段言いにくくもなければ難しい漢字を使うわけでもない。にもかかわらず、「見える化」というセンスもなければいかにも知能指数も低い言葉が定着している。
ただでさえセンスが終わっているこの言葉をさらに終わらせているのが、「見える化」を「見えるか」とする誤変換である。まともな変換ソフトには当然「見える化」などという馬鹿げた単語は収録されていないので、普通に変換すれば「見えるか」になってしまう。だが、人によっては平気で「見えるか」のまま資料を作ったりメールを打ったりする。ただでさえ単語のチョイスが終わっているのに、その終わった単語を正しく変換することすらできない人間と仕事をしているのかと嫌気がさす。あの現場は離れられてかなりほっとした。
可視化と見える化に違いがあるのかと思って調べてみたこともある。人によっては前者がデータを目に見えるかたちにすることで、後者を業務の進捗状況などを目に見えるかたちにして業務に活用することだと説明する。
見える化と可視化の違い
あらためて、見える化と可視化の違いをまとめてみます。
見える化:業務の進捗や成果、状態など、一見してわかりづらい物事を客観的に認識可能な状態にすること
可視化:目には見えないデータをグラフやチャートを使って見えるようにすること
見える化と可視化は、確かに似ています。しかし、可視化は見えないデータを見えるようにすることに過ぎません。一方で見える化には「見えるようになったデータを業務改善や課題解決に活用する」といった意味まで含まれています。
が、これも意味が分からない。イカレているとしか思えない使いわけだ。可視化する対象が異なるなら目的語を付けて補えば済む話だし、むしろそうすべきだ。一単語に含意していい範疇を越えている。挙句、業務改善に生かす云々はもはや言葉から受け取れる意味合いから飛躍し尽くしている。「調理する」という言葉には適切に食事をとれるように運動してお腹を空かせることまで含まれる、などと主張するに等しい。
そして輪をかけて馬鹿げているのが、現状、ビジネスの現場では「見える化」は業務改善云々という意味まで含んだ使われ方を一切していないということだ。結局、みんな「可視化」の劣化コピーとしてしか使っていない。
上掲のサイトでは、「見える化」の諸悪の根源は『トヨタ自動車株式会社の岡本渉氏が1998年に発表した論文「生産保全活動の実態の見える化」だとする説が有力』だそうだ。要するに、当時のイケていそうな会社が使った目新しい言葉だからみんなが飛びつき、そのまま考えなしに使い続けた結果いまに至るということだ。
ビジネス用語はお終いのユーモア
ビジネス用語がキショイもうひとつの、サブ的な理由として、ビジネス用語自体がお終いのユーモアの側面を持っているからだというのもありそうだ。
この記事を書く上でほかにどんなビジネス用語があるか調べてみたら、『令和のマナー検定』というサイトの『さらに役立つビジネス用語集【333選】』という、ダブルパンチで終わっているサイトを見つけた。マジモンの迫力としか言いようがない。
そのなかに「両面」という単語があり、読みが「リャンメン」となっている。流石にこんな用語が使われているのを聞いたことはなく、サイトの質もあって捏造されたものだという気もしなくはないが、一方で別に使われてても不思議ではない用語でもある。要するに中国語風の読みで、麻雀から来ていると思われる。
これは元々、「両面」を面白おかしく読んだところから出てきた用語だろう。初めて言った人は面白いで問題ないが、最悪なのはそれを繰り返し使って陳腐化させたビジネスマンたちである。最初は面白い単語でも、執拗に「これ面白いでしょ」というテンションで使われればどんなものもつまらなくなる。さらっと何気なく使えば面白い単語だった、ということもあるかもしれない。
「鉛筆なめなめ」とかも古臭い単語ではあるが、もとをただせば同じ側面があったかもしれない。真面目なビジネスの文脈を考えれば到底あり得ないワードセンスだからだ。最初の珍妙な面白さが陳腐化した結果、ただなんかキモくて意味の分からない単語だけ残り、オジサンたちは面白つもりでそれを使い続けるという悲劇が生まれる。
最悪なことに、ここへ先ほどの思考停止が絡んでくる。ビジネスパーソンは賢しらなことを言っているようで思考が止まっているが、これは単語の妥当性だけではなく面白さへの批判的観点も止める。だから自分でその言葉遣いが面白いかどう考えることがなく、誰かが面白いと言ったことを繰り返すだけの悲しいロボットになってしまう。
ビジネス用語は「公金チューチュー」と同じ
思考停止のコピペ+終わっているユーモアという要素には既視感がある。「公金チューチュー」を始めとする陰謀論者の語彙だ。
考えてみれば、ビジネス用語と陰謀論者の語彙が重なるのは道理である。陰謀論は特定の教祖が流布する思想や主張を批判的な観点なく繰り返すことで成立する。これは、先駆者とされる人の思想や言葉遣いを後追いのビジネスパーソンが無批判に繰り返すビジネス界隈で起きている現象と本質的には同じだ。
違いがあるとすれば、ビジネスの用語はエビデンスがあるとされていることくらいだが、ビジネスの考え方の多くも無根拠に信奉されていることがあるので、実はビジネスと陰謀論に大差はないのかもしれない。
同時に、終わっているユーモアセンスを持つという点でも共通点がある。どういうわけか、陰謀論者の語彙には幼稚なセンスのものが多い。「公金チューチュー」はまさにそれだが、別の陰謀論に目を向ければ「氣」とか「和多志」といった正気ではない語彙がごろごろ溢れている。
陰謀論のユーモアセンスが終わっているのは単にその背景に支離滅裂な思想があるためだから、ビジネス用語の終わりユーモアとは原因が異なる。だが、面白さへの批判的思考も止めて同じ言葉を繰り返しているという点ではやはり共通している。
ここまででわかる通り、ビジネス用語はいわゆるネットミームを指す用語としての「コピペ」と同じ性質を持っている。ネット上でコピペされる単語も、その意味や必要性、面白さを一切考えられず繰り返されては捨てられる消費財に過ぎない。その性質はビジネス用語と全く同じである。唯一異なるのは、ネットのコピペは消費速度がすさまじく速い反面、ビジネス用語を使うのはオジサンしかいないから全然新陳代謝されないということくらいだ。
なにせ、「見える化」の由来は98年の論文だ。Z世代はおろかゆとり世代よりさらに前の年代の言葉を未だに使い、更新すらされていない。こんな言葉遣いを良しとする思想形態で現実を捉えられるはずがないのだ。
なぜ「○○ハラ」は増え続けるのか
「ハラスメント」で伝わります
ここからは、ビジネス用語のキショさを解き明かした発想で「○○ハラ」という用語の無限増殖の原因を明らかにしていく。
この記事は『九段新報+α』の連載記事です。メンバーシップに加入すると月300円で連載が全て読めます。
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