第233話 オタク、本音を聞く



「はあぁーっ! オタクくんを抱いてごろごろするのが、今のわたしの生きがいですっ!」


 ミリオネラさんはシスター服でぼくを抱きしめたまま、ベッドの上を転げている。

 寝返りを打たれるたびに、シスター服越しに女性の柔らかい身体と、立派な二つのたわわに押し潰されてしまう。


「あの、ミリオネラさん。シスター服、浄化魔法をかけないと、しわになりますよ?」


「ミリーって呼んでください、オタクくん! シスターのおねーさんに甘やかされるのは、嫌いですか……?」


 泣きそうになってしまうミリオネラさんこと、ミリーさん。

 いや、嫌いじゃないですけども。


 スリットから、ニーストッキングの太もも丸出しでベッドで抱きかかえて、本当に大丈夫ですか?

 一応、聖職者ですよね、ミリーさん?


 しかも、ぼくは下着姿だし、ショーツは膨らんでるし。

 こんなところ信者の人に見られたら、確実におまわりさん案件ですよ?


「なんですかーっ。わたしの『初めて』を奪ったの、オタクくんじゃないですかーっ! だからわたしも、オタクくんの操を奪うんですっ!」


 もう何度奪われたかわかりません。

 避妊魔法がなかったら、教会のシスターさんなのに懐妊待ったなしですよ?


「はあぁーっ! 柔らかい……あったかい……! ショーツの下は立派に美少年なのに、抱き心地はほんっとーにオンナノコですねぇ……オンナノコ、サイコーッ!」


 エロ親父みたいなことを言いながら頬ずりしてくるミリーさん。

 これをきっかけに、信者の男の子に手を出してないか心配だ。


「ミリーちゃんは、オタクくんを抱きしめたまま、女にされちゃうのってどーなん?」


「有りですねぇ! もう純潔じゃないので、どんな相手でもどんと来いです! エイジャさんでもクルスさんでも、お一ついかがですか!?」


 ベッドに寝そべったまま片足を上げ、まくれたスリットの下のショーツをずらす聖女様。

 あの。いくら純潔じゃないからって、聖職者にしてははっちゃけすぎだと思うんです。


 あ、クルスさんが準備してる。

 本当にするんですね。あの、ミリーさん。ワクワクしないでください。


「あっはぁ、キタ! クルスさんも美形すぎて見とれちゃいますっ! 美女なのにすっごぉいぃ……! あっ、もっとぐりぐりしてくださいっ!」


「こう? ミリーちゃんはちゃぁんとオタクくんにキスしなきゃダメだよ? 下はボクに任せてね?」


 口づけを通り越して、密着しているミリーさんの舌に、顔をベトベトにされる。

 赤く染まった顔をとろけさせて、聖女様はとんでもない絵面であえいでいた。


「ミリー嬢、すごいはっちゃけすぎてるわねー……理不尽な人殺しされそうになったのって、やっぱりショックが大きかったんでしょうねぇ……」


「当たり前ですっ、ノアさん! 今まで信じてきたものが全部崩れたんですよっ!? こんなシスター服なんてありがたみも何もないんですから、少しくらい楽しんだって良いじゃないですかっ!」


 少しくらいではないと思う。

 でも、自暴自棄になりそうな気持ちはわかるくらいに、ミリーさんは乱れていた。


 そりゃ、今まで教会のために人生を捧げて、いざ人命まで奪おう、ってなったときに。

 それが全部、騙されてました、って知っちゃったらねぇ。


「あっ! うんぅっ! もう、異端審問部なんて辞めたいですっ! むしろ、そんな存在、知りたくなかったですーっ! ぉおぅっ!」


 クルスさんに攻められながら、ミリーさんは本心を吐露していた。

 ああ、そうだよね。聖女に就任したばかりだもんね。


 もうちょっと、ステラさんが王都に現われるのが早かったら。

 もう少し早く、教会の方針が否定されていたら。


 聖女になる前に、ステラさんが現われて教会を否定していたら、ミリーさんは普通のシスターとして修行を続けてたんだろうな。


 みんな信仰自体は否定していないから、精霊と神を信仰する敬虔なシスターとして、そのまま教会で務め続けていたに違いない。


 そう考えると、殺人を犯す前の、ギリギリ間に合ったタイミングではあっても、

 聖女になった後の、ギリギリ遅かったタイミングでもあるんだよね。


 それはまぁ、確かに荒れても仕方ない。


「わかってくれますか、オタクくん!? 教えるならもーちょっと早く教えてください!」


「ミリーちゃん……大丈夫だよ、ボクらがついてるから……ね?」


 クルスさんが腰を動かしながら、ミリーさんに覆い被さってくちびるを奪う。

 ミリーさんは遠慮せずに舌を動かして、クルスさんに夢中になっていた。


「ひゃぁぁ……! 右を向いても左を向いても美形……! 美女と美少女に挟まれて、ミリー、アタマとろけちゃうっ!」


 ぼくは男ですよ、ミリーさん。


 脚を抱えられてびっくびくにけいれんしたミリーさんは、改まって、ぼくとクルスさんの間に座った。

 シスター服でぼくら二人を手に取って、両手で掴みながら左右交互にぺろぺろとして、うっとりしている。


 ぼくらはどこの男優ですか?

 並んで立っているクルスさんが、ミリーさんにさせるがままにしながら、ぼくの頬を両手で挟んで口づけてきた。


「ヤバ……尊いわ……景色が尊い……! このまま時間が止まって欲しい……!」


「統括長も混ざってくるかい? 頼めば、同じことをしてくれるんじゃないかな?」


 アイルマンさんの指摘に、「有りね」とノアさんが真面目に考え込んでいた。

 もしもし? おまわりさんですよね、あなた方?


「あの。止めてくださいよ、ノアさん、アイルマンさん」


「もうちょっと見せて。もう少しで、目が孕みそうなの」


 んなわけありますか。

 もうダメだ、このおまわりさんの元締め女騎士。



***********



「……というわけで、急いで、ミリーさんの心のケアをしましょう」


「それは、オタクくんを一晩抱き枕にさせてくれれば」


 それ以外でお願いします、ミリーさん。

 とは言え、最終的にはそれも考えなきゃいけないかも知れない。


「まーね。考えてみれば、貴族令嬢とは言え、ふつーのシスターがさ? いきなり暗殺集団に放り込まれてんっしょ?」


「で、神様のためだからがんばるかーって歯を食いしばってみたら。実は全然神様のためなんかじゃありませんでした、って。そりゃ……ねぇ?」


 エイジャさんとリーシャさんも、ようやくミリーさんの境遇に気づいたらしい。

 二人ともミリーさんに、実にお労しそうな目を向けていた。


「あーしらみたいに、魔獣相手でも命のやり取りしたことあんなら、ともかく……」


「貴族のお嬢様で、教会育ちだもんねー。いきなり暗殺集団はヤバすぎるって」


 もっと正確に言うと、地下賭博とかも仕切る、凶悪な犯罪集団ですね。

 殺人以外も色々やってそうです。


 箱入りのお嬢様育ちの聖職者が、いきなりマフィアに放り込まれたようなものだ。

 それは、普通の神経じゃ耐えられない。


「もー限界なんですぅ……! 早く、早く異端審問部なんてぶっ潰してくださいぃ……!」


 改めて現状を言葉にしてしまったミリーさんは、ぽろぽろと泣いていた。

 いたって普通のお嬢様にとって、今までの暗殺訓練は相当、精神的にきつかったらしい。


「どうだろう、統括長。ミリー嬢の安全のために、騎士団を動かせないかい?」


「保護することはできるけど……騎士団にも教会の信者がいるのよ? まだ何も変わってない状況でミリー嬢が教会から逃げ出したら、騎士団内部から手引きされて、今度はミリー嬢が狙われるわよ」


 ノアさんの言葉を聞いて、ミリーさんはわっと泣き出した。

 逃げ場がなさすぎる。


「はぁ……! 仕方ない」


 ステラさんはため息をついて、空中に指を動かした。

 その指に、光の玉がふわふわとまとわりつく。


「里からもう一人、精霊に来てもらった。里の警備をしている一人だから、エカナより強いぞ。そいつを護衛につけてやるから、何とか生き延びろ」


 光の玉が移動して、泣いているミリーさんに触れる。

 ミリーさんはその光に温かさを感じたのか、泣き止んで呆然と光の玉を眺めている。


 光の玉は白い小鳥に姿を変えて、ミリーさんの肩に止まった。

 白い虎の姿になれるステラさんと同じように、この精霊の持つ姿の一つなんだろう。


「この……精霊様の、お名前は……?」


「ウルスラだ。大丈夫だとは思うが、もしそいつでもどうにもならなかったら、私を呼べ」



 ミリーさんは、小鳥のウルスラさんを手に抱いて、涙の残る顔で安心したように笑っていた。

 ステラさんのおかげで、何とかなりそう……なのかな?


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