支配をしたたかにかわす「日本教の歩き方」
炎上時には、言葉が事実を伝える機能を失い、相手を呪い殺すための「言霊」「まじない」に変わります。たとえば「売国奴」「老害」「サイコパス」といった極端な言葉を投げつけることで、相手から「人間」としての尊厳を剥奪し、単なる「穢れ」として処理しやすくします。そして一点でも非があれば、その人の全人格、過去の功績、家族に至るまでを「穢れ」として一括で排除しようとします。
「空気」論を提唱した山本七平は日本教を捨てよと呼びかけましたが、これは自ら日本人であることをやめるのと同義であり、今度は日本教の「棄教者」として生贄にされ、排除されるリスクを高めてしまいます。そうではなく、この強力な「空気」をハックして味方につけ、利用するというやり方はできないものでしょうか。私たちは現実に生きていかねばならないのであって、研究室や書斎に引きこもって安全を確保しようとしても、いずれ野垂れ死ぬだけだからです。
日本教の教義の基礎を熟知したうえで、神たる「空気」の支配をしたたかにかわしながら、逆に「空気」を利用してコントロールする側に回るための、「日本教の歩き方」を考えてみたいと思います。もちろん、これは2026年時点の考えですから、もっと先にはもっと洗練された戦略が出来上がるかもしれません。
「誠意」という最強の通貨を管理する
まずは「誠意」を戦略的リソースとして管理する必要があるでしょう。日本教において「誠意」は論理を超える最強の通貨です。これを無駄遣いせず、決定的な場面で「演出」として有効活用できるように管理するのです。「誠意=自己犠牲」ではなく、「誠意=相手のメンツを立てるための形式」と割り切ることも重要でしょう。
実践編としては、自分のミスではないことでも、早い段階で「相手の感情(空気)を浄化するための謝罪」を最小コストで済ませる、というトレーニングを徹底することです。アメリカでは謝らないことが重要、などといった言説が流行ったことがありましたが、間違えないでほしいのは、ここは日本だということです。どんなにグローバル化が叫ばれようと、おそらく半永久的に単立の文明であり続ける、「空気」の支配する日本なのです。
優秀なホテルスタッフや、VIP対応を任されるような広報担当者などはやはり身のこなしが見事で、実に参考になります。伝統宗教の僧侶や神職の方々にもこうした態度が洗練されている方が多く、非常に勉強になりますし、日本というのは長らく、超宗教的にこのような行動をとることが、もっともすぐれた戦略になりうる国だったのだということがよくわかります。
◇続きは、後編「脳科学者・中野信子が伝える、「空気」を味方にして賢く生き延びるための「3つのステップ」」にて詳しくお届けしています。
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