「なぜ、相手や周りの気持ちがわかりすぎる人ほど生きづらいの?」――。
職場や学校で、「空気」という暗黙のルールの中で生きなければならない私たち。さらに今、激変し続ける社会情勢を受け人々の不安はいや増し、空気の圧力は強まるばかりです。
そこで、中野信子さんが日本人の心性と強みを、脳科学・遺伝学・行動科学をとおして初めてひもとき、多くの共感を呼んだ大ベストセラーに、対処法を加筆したのが『新版 空気を読む脳』です。
日本人に特有の「空気を読む」能力を知ることが、賢く生き延びるための武器となります。この社会は「生贄」を定期的に必要としています。そのターゲットにされる3つの大罪とは何か、さらに空気を味方につける方法を第4回(中編)でお伝えします。
『新版 空気を読む脳』
#1-1 私たちは何を恐れて沈黙してしまうのか……脳科学者・中野信子が分析する「日本人特有の『恐怖』の構造」
#1-2 脳科学者・中野信子が語る「AIと人間」”10年後になくなる職業予測が当たらなかった理由
#2-1 脳科学者・中野信子が分析する「なぜ日本人の多くは空気を読めない人を許せないのか」
#2-2 日本は巨大なブラックボックス。脳科学者・中野信子が解く日本文明の特殊性と「空気」の正体
#3-1 日本人はなぜ空気に支配されるのか。脳科学者・中野信子が伝える「支配力の源」3つの要素
#3-2 「寝ずに頑張った」がいまだに評価される驚きの理由。脳科学者・中野信子が語る「誠意の免罪符」
#4-1 脳科学者・中野信子が語る空気の謎。「上級国民」や「下流老人」という言葉が爆発的に広まった背景
突出した存在は常に生贄の予備軍
「空気」という神を維持するために、なぜ定期的に「生贄」が選ばれ、どのような条件で彼らが祭壇に上げられるのかを考えてみましょう。
日本教において、「空気」=社会の調和を乱す行為は、穢れにつながる悪なのです。この穢れが溜まると、コミュニティ全体が危機に晒されるのではと多くの人には感じられます。そして、穢れを祓うために、炎上というかたちで異分子である誰かを社会的に抹殺する。これを生贄とし、再び「空気」を清浄に戻す、という機構が働きます。
炎上における過激な書き込みは、祭りの熱狂にともなう掛け声のようなものに近く、ほとんど意味を成していません。初期のAIが書いたようなくり返しの羅列で、生贄が誰であっても驚くほど同じ言葉が並ぶことがむしろ興味をそそります。炎上における書き込みは、「わっしょい」「ラッセーラー」のような、それ自体にはあまり意味のない「祭りの掛け声」、もしくは「まじない」なのです。
加担する人々も、正義そのものを重要視しているのではなく、正義を執行する快楽を共有することで共同体との一体感を再確認する喜びに浸っているので、論理的な言葉の運用はむしろ回避されがちとなり、冷静に思考されているようではありません。
生贄が完全に謝罪をするか、社会的な地位(時には生命)を失うことで、儀式は完了です。どんなに凄惨な結果になったとしても、人々は残酷なもので、祭りがあったことなどすっかり忘却の彼方です。次の空気に、何ごともなかったかのように移ります。
生贄(ターゲット)を選ぶための要件として、日本教には3つの大罪があります。
法的に悪いことをした人ではなく、「みんなが信じようとしている空気」に冷や水を浴びせた者が選ばれます。「空気」に対して水を差した者の「不信の罪」、というわけです。不謹慎バッシングなどがこれにあたります。
日本教において、批判された際の唯一の正解は「全面降伏(誠意の提示)」です。にもかかわらず「私の主張の正当性は……」「法律的には……」などと論理(ロジック)で反論する者は、日本教の神(空気)を冒涜する「傲慢な異端者」として、生贄の筆頭候補になります。「誠意」を見せず「論理」で返した者が、「傲慢の罪」を負うのです。
さらに、日本教は「間柄の平等」を重んじるため、突出した存在は常に生贄の予備軍です。上級国民は「自分たちと同じルールに従っていない」と見なされる特権階級として、外国人や主張の強すぎる個人は「何を考えているかわからない(空気を共有できない)」として、「逸脱の罪」を負うことになります。
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