「離婚するつもり」相手を信じたら不倫で訴えられた 最高裁の判断は
職場の女性から、夫婦仲の悪さについて相談を受けた男性。親身になって話を聞くうちに、女性から「離婚するつもり」と打ち明けられ、2人は親しい関係になった。
だがその後、離婚した女性の元夫から、男性は訴えられた。元夫は「不倫のせいで離婚を余儀なくされた」と主張し、男性に慰謝料を求めた。
「離婚する」という女性の説明を信じた男性は、元夫に賠償する必要があるのか。この点について一、二審の判断が分かれていたのに対し、最高裁が5日に判決を言い渡した。男性の責任はどう判断されたのか。
一、二審判決によれば、経緯はこうだ。
いまから数年前。女性と当時の夫の間に会話はほとんどなく、関係は冷め切っていた。夫から「離婚を考えている」というメールを受け取り、女性は了承した。ただ、子どものことも考え、すぐには離婚しなかった。
遅い帰宅…夫は探偵に依頼
そんな状況について女性が相談したのが、パート先の飲食店の代表を務めていた男性だった。相談を重ねるうち、女性は男性に好意を抱くようになった。離婚届の一部の欄に記入して男性に見せ、「離婚するつもり」と伝えた。
一方、夫は女性の帰宅が遅いことを怪しむようになった。探偵に調査を頼むと、女性が男性宅に2回、深夜にかけて数時間、滞在したことがわかった。その後、夫婦は離婚した。
元夫は2023年、「不貞行為によって離婚を余儀なくされた」と主張し、男性に慰謝料など330万円の賠償を求めて提訴した。女性が男性宅で長時間過ごしたことについて「不貞行為に及んだのは明らかだ」と主張。男性は相手が既婚者だと知っていたはずだとして「著しい過失がある」と訴えた。
訴えられた男性側は、自宅に女性が出入りしたことは認めたが「不貞関係はなかった」と反論。仮に肉体関係があったとしても、女性から離婚届まで見せられており、過失はないと主張した。
一審判決は、不貞行為があったと認める証拠がないとして、元夫の訴えを退けた。「男性宅に3~4時間いたことをもって、ただちに性行為に及んだとは推認されない」と述べた。
高裁は「離婚を信じるほどの理由ない」
だが、二審は判断を一転させた。
判決はまず「肉体関係があったと推認される」と認めた。食事のためだけに深夜に数時間会うとは考えがたい▽女性は恋愛関係を進展させるのに意欲的だった▽男性は交際への抵抗感が薄れていた――ことなどを挙げた。
そのうえで、男性には過失があったと判断した。判決は「婚姻関係が破綻(はたん)している」とうそをついて不貞行為に及ぶ人が多いのは、世間でよく知られたことだと指摘。男性が説明をうのみにしたのは注意不足であり、「離婚したと信じる相当な理由があったとはいえない」と述べ、男性に慰謝料など55万円の支払いを命じた。
男性側はこの判断に納得できず、最高裁に上告した。
今年4月10日、最高裁第二小法廷(尾島明裁判長)は、当事者双方の意見を聞く「弁論」を開いた。男性側は法廷で、改めて「過失はない」と主張。「(夫婦の)不仲を相談され、裏付ける夫婦間のメールのやりとりや離婚届も見せられていた」と説明した。一方、元夫側は「二審の判断は妥当だ」と訴え、男性の上告を退けるよう求めた。
そして、判決が5日に言い渡された。結論は、二審で審理がきちんとされていなかったとして「やり直し」というものだった。
第二小法廷はまず、男性が肉体関係を持つまでに、一部の欄に記入した離婚届や「今後は家計を別々に管理する」という趣旨の夫婦間のメールを見せられていた、と指摘した。
こうした事情を踏まえれば「夫婦のいずれも離婚への強い意志があった」と男性が認識したとしてもおかしくない、と判断。「婚姻関係がすでに破綻していると信じるだけの理由があれば、過失はない」との考え方を示した。
そのうえで、この点について検討を尽くさずに男性の過失を認めた二審の判断は誤っているとして、審理を二審に差し戻した。最高裁は「法律審」と呼ばれ、事実関係の有無は基本的に扱わないルールであるため、裁判が二審でやり直されることになった。
◇
離婚は18万件超、裁判例は
厚生労働省の統計では、24年の離婚件数は約18万5千件。司法統計によると、24年に家裁に離婚を申し立てた理由で「異性関係」としたのは、妻からの訴えが5743件、夫からの訴えが1820件だった。
既婚の男女と肉体関係を持った第三者に対し、不貞行為をされた側が慰謝料を求める裁判は少なくない。
最高裁は1979年の判決で、相手が既婚者であることを知っていた場合や、知らなかったことに過失がある場合は、不貞行為をした第三者が賠償責任を負うと判断した。
すでに夫婦関係が破綻していたといえる場合はどうか。
最高裁は96年の判決で、この場合は「婚姻生活の平和の維持という法的保護に値する利益があるとはいえない」と指摘。不貞行為をした第三者は「特段の事情がなければ、不法行為責任を負わない」との判断を示している。
今回の最高裁の判断は、この96年の判決を参照したものだ。「夫婦関係が破綻していた」場合に加えて「破綻していたと信じるだけの理由があるかないか」も、賠償を命じるかの判断のポイントになりうることを示したと言える。
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