COVID-19、RSV、インフルエンザワクチンの効果
Introduction:
2025-2026年の冬、インフルエンザが猛威を奮っています。今後SARS-CoV2の流行が懸念されます。本稿で解説する論文は、The New England Journal of Medicine に掲載された "Updated Evidence for Covid-19, RSV, and Influenza Vaccines for 2025-2026" です。スタンフォード大学やマサチューセッツ総合病院などの研究グループが、最新の科学的知見に基づき、米国で認可されたワクチンの有効性(Vaccine Effectiveness: VE)と安全性についてシステマティックレビューを行いました。本記事では、各ワクチンの「入院予防効果」や「重篤な有害事象」に関する最新のデータを解説します。
Method:
1. 研究デザインとデータソース
ACIPの「Evidence-to-Recommendations」レビューの最終更新日(COVID-19は2024年6月、RSVは2024年8月、インフルエンザは2023年8月)以降、2025年7月31日までに発表された文献を対象としています。PubMed/MEDLINE、Embase、Web of Scienceを検索データベースとし、合計17,263件の文献がスクリーニングされました。
2. 適格基準
対象: 米国で認可または緊急使用許可されているCOVID-19、RSV、インフルエンザワクチン、およびRSVに対するモノクローナル抗体。
研究タイプ: ランダム化比較試験および観察研究。
主要評価項目:
有効性: 検査診断されたウイルス関連入院(COVID-19は接種後6ヶ月以内、RSV・インフルエンザは1シーズン内)。
安全性: 事前に規定された特に注目すべき有害事象。
除外基準: 動物実験、10例未満の症例報告、抄録のみ、プレプリントは除外。
最終的に511件の研究(RCT 12%、コホート 24%、症例対照 16%、その他 48%)が解析に含まれました。
Result:
1. COVID-19 ワクチン(主にXBB.1.5対応株)
【有効性】
成人全般(入院予防):
コホート研究(3件)のPooled VEは 46% (95% CI, 34-55) 。
症例対照研究(4件)のPooled VEは 50% (95% CI, 43-57) 。
JN.1系統が優勢な時期には、VEが14〜54%と低下していました。
免疫不全者(入院予防):
成人における統合VEは 37% (95% CI, 29-44) と、健常成人に比べやや低い値にとどまりました。一方で、末期腎不全患者を対象としたコホート研究では、死亡に対するVEが61% (95% CI, 36-77) と報告されています。
小児(5-17歳):
救急外来受診または入院に対するVEは 65% (95% CI, 36-81) 。
Long Covidのリスク低減効果も示唆されており、少なくとも1つの症状に対して57%、2つ以上の症状に対して73%の予防効果が報告されています。
【安全性】
心筋炎:
若年男性はリスクがあります。韓国の研究では、12-19歳男性における発生率は10万回接種あたり1.30(1回目)〜3.10(2回目)件でした。
接種間隔の延長がリスク低減に関連していることが示唆されました。3回目接種が2回目から213日以上経過している場合、153日未満の場合と比較してリスクが大幅に低下していました(Odds Ratioが6.5から1.6へ低下)。
脳卒中・血栓症:
虚血性脳卒中、出血性脳卒中については、多くの研究で有意な関連は認められませんでした。
ギラン・バレー症候群:
mRNAワクチンとGBSの関連は、多国籍のSelf-controlled case series(SCCS)等で否定的な結果が示されています(IRR 0.39〜0.71)。
2. RSV
【有効性】
母体接種(RSVpreF)による乳児保護:
乳児の入院予防に対するVEは 68% (95% CI, 55-78) 。RCTでは生後180日以内の入院に対し55%の有効性が示されました。
乳児へのNirsevimab投与:
12ヶ月未満の乳児の入院予防において極めて高い効果を示しました。
症例対照研究の統合VE: 83% (95% CI, 74-88) 。
ICU入室予防効果:84% (95% CI, 77-89) 。
高齢者(60歳以上):
RSVpreF(アブリズボ)およびRSVPreF3-AS01(アレックスビー)の統合VEは、入院予防に対して 79% (95% CI, 72-85) でした。
免疫不全者においても70-73%のVEが維持されていますが、造血幹細胞移植レシピエントでは33% (95% CI, 12-49) と低下が見られました。
【安全性】
早産:
妊娠32〜36週での接種においては、早産との有意な関連は観察されませんでした 。
ギラン・バレー症候群:
60歳以上の高齢者において、RSVpreFワクチン接種後にGBSリスクの軽度上昇が確認されました。推定される超過リスクは100万回接種あたり 18.2件 (95% CI, 9.8-23.3) でした。RSVPreF3-AS01では有意な関連は示されませんでした(IRR 1.5; 95% CI, 0.9-2.2)。
3. インフルエンザワクチン
【有効性】
小児(入院予防):
統合VEは 67% (95% CI, 58-75) と、成人よりも高い効果が示されました。
成人(18-64歳・入院予防):
統合VEは 48% (95% CI, 39-55) 。
高齢者(65歳以上・入院予防):
標準用量ワクチンのVEは42%にとどまりましたが、高用量(High-dose)ワクチンでは53% (95% CI, 35-66)、アジュバント添加ワクチンでは47%の効果が示されました。
【安全性】
妊婦:
流産、死産、先天異常との関連は否定されました。一部の研究では流産リスクの低下(aHR 0.61)も報告されています 。
脳卒中:
高齢者を対象とした研究で、虚血性脳卒中/一過性脳虚血発作のリスクがわずかに上昇する可能性(aIRR 1.10)が示唆されましたが、他の研究では逆にリスク低下も報告されており 、さらなる検証が必要です。
Discussion:
1. 「VE 50%」をどう解釈するか
COVID-19およびインフルエンザワクチンの入院予防効果が40〜50%程度であることに対し、「低い」と感じるかもしれません。しかし、著者はこれが集団レベルでの重症化予防において極めて大きな意義を持つと論じています。
2. ウイルス変異とブースターの重要性
COVID-19ワクチンのVEが、流行株がXBB.1.5からJN.1へ移行するにつれて低下した事実は、インフルエンザと同様に「株の更新」が不可欠であることを示しています。
3. RSV予防
RSVに関しては、母体接種と乳児への抗体投与が共に高い有効性を示しており、乳幼児のRSV入院を減少させる可能性を示しています。高齢者におけるGBSリスクは存在しますが、RSVによる入院・死亡リスクと比較すれば、ワクチン接種によるメリットがリスクを上回ると考えられます。
4. 同時接種
COVID-19、インフルエンザ、RSVワクチンの同時接種に関する研究では、免疫原性の非劣性と安全性が確認されました。これは、接種率向上のための一度の来院で済ませるやり方を支持するものです。
Limitation:
ウイルスの進化と耐久性: 本レビューのデータは特定の時点(XBB.1.5流行期など)のものであり、新たな変異株(KP.2以降など)に対する長期的な有効性を保証するものではありません 。
出版バイアスと未公表データ: 査読済み論文に限定しているため、Vaccine Safety Datalinkなどのリアルタイムサーベイランスシステムから得られる最新の未公表データが含まれていない可能性があります。
観察研究の異質性: 多くのデータが観察研究由来であり、交絡因子の調整が行われているとはいえ、残留交絡の可能性は排除できません。
Conclusion:
2025-2026年シーズンにおいて、COVID-19、RSV、インフルエンザの各ワクチンは、依然として重症化予防の鍵となります。
COVID-19: 最新株への更新を推奨。特に高齢者と免疫不全者での意義が大きい。
RSV: 乳児保護のための母体接種(32-36週)またはNirsevimab、および高齢者接種は有効性が高い。
インフルエンザ: 小児での高い有効性と、高齢者における高用量ワクチンの優位性が示されている。
我々医療従事者は、個々の患者のリスクを評価し、GBSや心筋炎など稀な副反応のリスクについても説明した上で、ワクチン接種を推奨することが望まれます。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa2514268?query=WB


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