『間の抜けた顔じゃな。妾の高貴さに目を焼かれたか』
『――っ、頭の後ろに目でもついてんのかよ』
『たわけ。そのような奇形に妾が見えるか? 凡愚の面構えなど息遣いでわかる』
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「プリシラ……!」
顔を見なくてもわかる、自信と高貴さに満ちた堂々とした佇まい。
「……アラキアと、知り合いなのね」
それは、エミリアの知らないことだった。
ただ、プリシラの表情を見れば、
「──喜んで、ないみたい」
それくらいは、分かった。
「──旦那くん……いや、ナツミ嬢に怪我がなくて何よりだ」
「何故言い直したのよ……」
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『アラキア、貴様は今、何故に妾の下へこようとした?』
『え……?』
『まさか、妾が再会に胸を弾ませ、貴様をこの腕に抱くとでも思ったのか? だとしたら、貴様の能天気さにほとほと呆れる他にないぞ』
『ぷ、プリスカ様……』
『プリスカは死んだ。――時が流れ、地位を得てなお、貴様は何も変わっておらぬのか』
『……姫様に、どう思われても、いい。つらいけど。でも、わたしは決めたから』
『――。ほう、決めたとはな。妾の関心を呼び戻せるか? 何を決めたか、申してみよ』
『わたしは! 帝国に! 姫様の居場所をとりもどす! そのために――嘘つき閣下を――ッ!!』
『――やべぇな、兄弟。今、声聞くまでオレでも兄弟ってわかんなかったぜ』
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「──っ!」
スピーカーから聞こえた声。
その声を聞いた瞬間、レムの中に、抱くはずのない感情が過ぎる。
それは、この空間の守り人でさえ取り零した時空の歪みだったのか、意図的なものであったのかは定かではないが──
「──アル、さん」
そう、名を呼ぶ声に、僅かな敵意が滲んでいたことに、レムは気づいていただろうか。
「──お姉さん、顔が怖いわよお? 何か嫌なことでもあったのかしらあ?」
「──いえ」
レムにも、先程の感覚の理由は分からない。
ただ、今は、プリシラとナツミの姿を、目に焼き付けておきたかった。
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『驚いてくれていいぜ。なんせ、一発でうまくいったわけじゃねぇから』
『どいて! 閣下、殺せない!』
『わざわざ邪魔しに入ってんだぜ、どいてやれるかよ』
『プリシラ……』
『縋るような目を向けるな、凡愚。その作り物の美貌は褒めてやってもいいが、それで妾を動かすとするなら不敬もよいところであろう』
『ぐ……っ』
『お願いします。どうか、お力をお貸しください』
『――。ふん、殊勝な物言いよな。凡愚と比べれば、まだ礼儀は弁えていると言えよう』
『……それなら』
『逸るな。それに見ておれ。すでに状況の動く用意は整った』
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「──さらっと見た目に触れるあたり、流石やね」
あのプリシラにすら褒められる女装の腕前に感動するべきなのか、知り合いの女装を見ても平然としているプリシラの度胸を褒めるべきなのかは定かではないが。
「──美貌とまで言いますか……」
「あァ? 不満ッかよ、オットー兄ィ」
「いえ、良いんですけどね……複雑な気持ちですよ」
友人の女装が褒められているのを、どう受け止めたらいいのか、わからない。
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『――せいぜい胸を張れ、鬼の娘。貴様の懇願が妾の一振りを呼び込んだことを』
『ひめ──』
『言ったはずじゃ、アラキア。――次に妾と会うまでに、覚悟を決めておけと』
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「ナツミちゃん、こんなに苦戦してたんだねえ〜……! うう、あたしがもっと動いてればよかったよ……」
「──ミディアムさんが悪いわけではありませんよ。ミディアムさんは、ミディアムさんに出来ることをしてくれていたではありませんか」
「う〜……ありがとね〜!」
ミディアムがレムに抱きつく。
レムは、それを微笑みながら受け止め、
「──プリシラさん……」
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『怖い顔すんなって。せっかくのお化粧とヘアセットが台無しだぜ?』
『生憎と、直前のバタバタで化粧も髪のセットもすでに台無しなんだよ。本当のナツミ・シュバルツはもっと可愛いから、勘違いするな』
『ナツミ・シュバルツ、ねえ。いやいや、なるほど、うまい偽名だって感心しただけだ。女装も様になってるし、金が取れるんじゃね?』
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「たわけが。そんな戯言を交わしておる場合か」
アベルが呆れたように息をつけば、前の席からセシルスが振り返り、
「いや、案外的を得ているかもしれませんよ! バッスーの女装はかなりクオリティが高いですし……何より、バッスーは男を手玉に取るのが上手いですから!」
「──そうか」
頭が痛いと言いたげにアベルは眉を顰め、セシルスはそれを知ってか知らずか「はい!」と返事をしていた。
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『ナツミ嬢、もしもお困りなら私のお隣ではいかがですか』
『あの、もう気付いてると思うんですが、俺は女装ですよ?』
『あなたが女性を装っているのなら、私も男性を装っているようなもの。私の信じる男性像というものは、装っている相手であれ、女性相手には紳士的に振る舞うものです』
『こ、これが『女好き』……』
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「──中々、すごい方だ」
ユリウスすらも呆気にとられるほど、ズィクルの考え方は確固たる意思の元に礎られていた。
「──ほんと、ここまで来たらすごいよネ……」
呆れたような顔で、フェリスが笑った。
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『それに、いくら『九神将』って言っても、ラインハルトみたいなのがいるとはとても……』
『――生憎と、そうでもない』
『ラインハルトみたいなバグキャラが他にもいるってのか?』
『その単語に聞き覚えはないが、匹敵するという意味なら頷こう。『九神将』には、アラキアの上に『壱』がいる。それがそうだ』
『『九神将』の『壱』って……』
『――セシルス・セグムント。『ヴォラキアの青き雷光』と、そう呼ばれる超級の剣士です。ルグニカの『剣聖』やカララギの『礼賛者』、グステコの『狂皇子』と並び称される存在』
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「そう! 僕は超級の剣士──何れ天剣に至る者! いやあ、改めてそう紹介されると照れますね! いえ、僕の強さを形容するのにその程度の言葉では足りないという気持ちもありますが、それは一旦置いておきましょう! バグキャラ……その響きもまたいい! 気に入りました! 使いましょう!」
セシルスが永遠にひとりで話すのを、レムは嫌そうな顔で一瞥し、
「──なんとも賑やかなことだーぁね」
「はい。バルスと同じで、鬱陶しいです」
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『アラキアのため、言葉を尽くすつもりは妾にはない。あれの命運がここに尽きるなら、それもまたアラキアの道であろうよ。――興醒めではあるが』
『……俺には、お前が全然わからねぇよ。でも、死んだら全部終わっちまう。命ってのは戻らないんだから』
『妾に命の価値を説くか。妾が他者の命の価値を測り違えるとでも?』
『――。お前だって万能じゃない。間違うことだって、あるだろ。俺は、間違ってない。お前だって、間違うはずだ』
『――妾とて過つ、か。業腹なことよな』
『――大変なノー! 二人組の帝国兵が乗り込んできて、捕まえてた九神将が逃がされちゃったノー!』
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「ええ!? それってすごーくぴんちじゃない!?」
「ええ。とても……それに、帝国兵……」
レムが顔を顰める。
脳裏に過ぎるのは──
「──トッド・ファング……」
そう、小さく口にした。
と、
「──? 画面が……」
電子音を立てて、場面を切り替えた。
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『……最後の最後まで、お前さんは馬鹿だったな。路地から飛び出したお前さんを追わせれば、連中の注意もこっちからは逸れる。まぁ、カチュアには悪いことをしちまったが……』
『ジャマルの奴、顔のどっちに眼帯してたっけか……?』
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「──っ!」
その言葉に、息を飲んだのは菜穂子だった。
「どうして……友達なんじゃないの……?」
青い顔。
理解ができないと言いたげな顔だった。
そして、トッドの言葉を聞きながら、レムは、
「──あなたは」
酷く、苛立ったような顔をして、瞳に冷たい光を宿したのだった。