リスタートの代償
ここ初めて読んだ時「あ、あなたは……! えっと……あ、ナイフくれた人!」と、アベルを忘れかけていましたが、今読むとなんかアベルの登場の仕方可愛いんだけど
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『──ぜえはあうるっせえぞ、てめえ』
『お前さん、話は聞いてるかい? いきなり捕虜って言われて、それで混乱してるのもわかるんだが……』
『――。いや、そう、だな。混乱はしてる。混乱はしてるんだが、ええと……驚いたけど、捕虜になったってのはわかった。川に飛び込んだことも覚えてる。そこから助けてもらったんなら、あんたたちは命の恩人――』
『──待て』
『え?』
『――お前さん、なんで今、そんな目で俺を見たんだ?』
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「──スバル!」
ベアトリスが、その可愛らしい声を悲痛にひび割らせながら叫ぶ。
あまりにもいきなりに、トッドはスバルにナイフを突き立てた。
怒りやらが訪れる暇もない蛮行に、ベアトリスはただただ呆然としていた。
「──なん、なのよ……わけが、わからないかしら」
◇◇◇
「──腹の底の見えない殿方とは思っていましたけれど……予想以上ですわ。スバル様に、こんなことを……」
フレデリカが、やや恐怖を感じたような顔つきでスクリーンを睨みつける。
「──頭が、常軌を逸してますわ」
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『トッド、話が違うじゃねえか! 貴族のナイフを持ってやがったから、こいつらには手を出すなって言ってたのはお前だっただろうが!』
『ああ、こいつらの素性がわからないうちはそのつもりだった。それに関しちゃ、話が違うってお前が怒るのはわかるよ。失敗失敗』
『……ってことは、こいつがどこの誰なのかわかったのか?』
『さあ? どこのどなたなのかは聞いてないからさっぱりわからん。ただ、俺たちの敵である可能性は高い。だから、先制攻撃だ』
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「──先制攻撃、って……」
メィリィが、悍ましいものを見るような目で、頬を引き攣らせる。
「例えそうだとしても、思い切りが良すぎるわあ。お兄さんの右肩を……左手が折れてるのがわかってるからかしらあ」
◇◇◇
「──スバル」
ラインハルトが、ほんの少し眉を顰める。
トッドの行動は、兵士としては間違っていないのかもしれないが──
「──あまり、良い対応とは言えないね」
大罪司教相手でも対話を大切にするラインハルトには、理解ができなかった。
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『で、なんで刺したんだ』
『目隠しを外して俺を見たとき、俺を操ろうとする目をした。不安とか緊張ならわかる。怯えたり泣いてもいい。――でも、操ろうとするのはおかしいだろう』
『操る、ねえ』
『意識のない奴が、蹴り起こされて目隠し外されて、最初に見た顔を利用してやろうなんて目をするかね? そりゃそういう奴もいるのかもしれないが、そんな奴は怖くてとても対応できんよ。さっさと殺した方がいい』
『起きてすぐにそんなこと考えたのかはわからねえじゃねえか。運ばれてる最中に目が覚めてて、ずっとこっちの話に聞き耳立ててたのかも……』
『いや、それはない。寝たふりしてるんじゃないかはずっと見てた。どこかで意識が戻ったら、そういう生理的な反応をしたはずだ。もしも、寝たふりを俺が見落としたんだとしたら……』
『したら?』
『寝たふりでこっちを騙しながら、計画的に俺を操ろうとしたってことじゃないか。こっちの方がもっと怖い。やっぱり殺しておくのが正解だろう』
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「──どうして、そんなことが言えるんですか」
レムが、青髪の奥から怒りに燃える薄青色の瞳を光らせ、薄桃色の唇を悔しそうに噛む。
「言っていることは分かります。スバルくんがそういった目をした可能性もあるでしょう。ですが……」
頭に過ぎるのは、レムの身に覚えはなかったが、確かにスバルが味わった、レムによる拷問の記憶。
「──あまりにも短慮で、考えなしな行動です。その行動が、自分や、自分の大切な人の首を絞める結果に繋がるかもしれないのに」
◇◇◇
「──彼は……彼の行動は、私は看過しかねる」
ユリウスが、眉を顰め、不快そうな顔をする。
トッドの行動は、ユリウスの性格上、認めることはできなかった。
「──帝国流、か」
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『連れのお嬢ちゃんたちも得体が知れないが、あっちの二人は単純で接しやすい。何か面倒がある前に、病巣は取り除いておこう』
『まぁ、そりゃ構わねえが……』
『それとも、お前さんがやるか? 青い髪の嬢ちゃんに部下がやられて怒り狂ってたのを止めたし、憂さ晴らしする相手は必要だろう』
『──それもそうだな』
『──ッ』
『せいぜい、俺の憂さ晴らしとしていい声で喚け、クソガキ。てめえの女の分も、てめえが体でツケを払ってもら――』
『――『シュドラクの民』』
『へえ、『シュドラクの民』……ここでその手札を切ったか。お前さん、賭け事のやり方をよく弁えてるみたいじゃないか』
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「──ここに、あの面々がいなくてよかったな。ナツキ・スバル」
そう口にして、アベルは少しだけ思案したあと──
「──特に、あの娘は悲しみそうだ」
スバルが聞いていたなら「それフラグだから!」と怒鳴られそうなセリフを得意げに口にした。
◇◇◇
「──どうしてそんなに好戦的なの。意味わかんない」
フェリスが、何もかもが不満だと言いたげにそう声を低くする。
「──スバルきゅんもスバルきゅんだよ。そんな賭け、いいわけない」
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『それで、『シュドラクの民』の名前を出したんだ。お前さんから、何かこっちにとって嬉しい話が聞けると思って期待していいのかな?』
『……ああ。森にいる『シュドラクの民』の、居場所を知ってる』
『――! へえ、そいつはいい! お前さんは、どうして『シュドラクの民』の居場所を?』
『……俺が『シュドラクの民』の一人だから』
『なるほど、やっぱりそうか。肌の色はともかく、黒髪だろう? だから、そうじゃないかとは思ってたんだ。シュドラクが黒髪なのは有名な話だから。そうすると、お前さんの立場は斥候ってところか。服装とあのナイフも、こっちに溶け込むために用意したとか』
『――。ナイフは旅人のを奪った。服も同じだ。そして……』
『こっちの内情を探ろうとしたと。なかなか大胆な作戦だ。溺れてたのは本当みたいで、ナイフに気付かれない可能性もあったのに……』
『でも、その方が真実味は増しただろ?』
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「──ふむ……」
セシルスが、唇を尖らせて顎に手を添える。
「土壇場でついたにしては、なかなかいい嘘ですね。バッスーらしくないですし、あんまり面白くないですけど」
レムのため、離れ離れになったエミリアのためと、スバルは意識して悪役のロールプレイをしている。
それはそれで健気で、まあ退屈ではないが、セシルス的にはここでひとつなにか大きいことをして欲しい。
「うーん、今のバッスーには無理そうですかねえ」
◇◇◇
「スバル殿、それで良いのです。状況を打開するためには、そういった手段も必要になりましょう」
普段なら、そう言ったか分からない。
ただ、今はかなり、心情がスバルに寄っているせいか、スバルを糾弾したくはなかった。
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『──お前さん、命乞いのために部族を売るのかい?』
『……あ、ああ、そうだ。身内を売る。頼む、何でもする。何なら、あいつらを誘き出してもいい。何でも、何でもだ!』
『見下げ果てた野郎だ。気に入らねえ目ぇしやがって』
『――。その必死さ、嘘はついてないみたいだなぁ』
『おい、トッド! この野郎を信じる気か? こんな、自分のために部族を売るようなクズの言い分なんぞ……』
『待て待て、何を言ってるんだよ、ジャマル。自分のために部族を売るぐらい卑屈な奴の言うことなんだぞ? それはもう、必死で俺たちに利得を示すさ。そうじゃなきゃ、大事な命が拾えないんだから』
『命に執着してるのは間違いない。――自分のかはともかく、さ』
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「──うーん、こんなことせなあかんなんて、ちょっと可哀想やわ」
スバルひとりなら、こんな行動をする必要は薄かっただろう。
彼にとって、自分の命に対する執着は然程強いものではない。
ただ、レムの身に危機が迫っているなら、スバルは、自分の尊厳など簡単に捨てるのだ。
健気で素敵なことだが、それは他人から見るとかなり痛々しく、自己を犠牲にした行動だ。
「──あの子と仲直りできるとええなあ」
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『──っ! 待ちなさい! その人をどうするんです!? ──っ!? さっきよりも、もっと臭いがひどくなって……なんなんですか、これは』
『……ずいぶんとややこしい関係なんだな? あのお嬢ちゃん、お前さんの連れのはずだったのにあの調子だよ』
『あの子……いや、一緒にいた二人は』
『二人は?』
『――。どっちも、あんたたちに接触する小道具として買ったんだ。だから、何も知らない二人だよ。あれこれ聞くだけ無駄……あんたは大方想像がついてたみたいだったが』
『まぁ、演技には見えなかったかな? 小さい嬢ちゃんの方は、あれは本当に頭がイカれてるんだろうし、あの嬢ちゃんの方も嘘はついてない。それはそれで、自分でも暴れてる理由があやふやなんで厄介なんだが』
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「──足が使えないレムを危険に巻き込まないようにしたことは、褒めてあげる。でも、嘘でもレムにそんなことを言うのはやめなさい。ラムが怒るわよ、バルス」
「──ナツキさん、あなたは本当に無理をするんですね。もう少し自分を大切にしてくれませんか」
ラムとオットーが、口を揃えてスバルの行動に苦言を呈する。
両者とも、スバルを心配してのことだと、間にいるエミリアは思っていたが。
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『それで、集落まではどのぐらいかかる?』
『……大体、二、三時間くらいですかね』
『二、三時間! ずいぶん早いな。それぐらいで済むなら御の字だ。こっちからしたら、何年がかりになるかってはずの任務だったんだから』
『──でも、俺はレムの方が大事だ』
『──?』
『──ぁ?』
『魔獣だあああぁぁぁ――っ!!』
『――ッ、魔獣だと!? 聞いてねえぞぉ!!』
『今すぐ──』
『レム……レム……れ、む……ぅ』
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レムを助けるため、スバルはトッドたちを魔獣の元へと誘った。
が、スバルがレムの元へ向かおうとするのと同じタイミングで、トッドの凶刃がスバルの元へと飛来する。
「──スバル!」
エミリアが、そう、立ち上がって叫ぶ。
「──嘘をつくのはいけないことだけど……お話で、分かり合える相手じゃなさそうだもの」
目を見ただけで殺しにくる相手と、分かり合うのは難しい。
「だからスバル、無茶しないでね。レムだって、そう思ってるわよ」
◇◇◇
「──昴……」
意識が落ち、暗転するスクリーンを、菜穂子は悲しそうに見つめる。
「──トッドさんは、すごく危険な人だったのね」
昴の肩にナイフが刺さったのを見て、菜穂子は痛そうに顔を顰める。
「──レムちゃんのことも、心配だけど……」
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『――いつまで眠っているつもりだ、戯けものが』
『……あ、れ? 俺は……ぐがっ……死んで、ない』
『当然であろう。死者がモノを語るか? 今の貴様の有様たるや、生中な道化の振る舞いよりよほど見応えがあったわ。褒めてつかわすぞ』
『そう急くな。貴様の追手はここにはおらぬ。安心せよと告げるには、いささか窮屈な状況であることは否めんがな』
『あんたは……』
『まさか、また貴様の顔を拝むとは思わなかったぞ。――ナツキ・スバル』
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「──ああ、スバルくん……! 無理をしないでください、スバルくんの気持ちも知らずに酷いことを言うような輩は、レムが全員鉄槌を下します」
「そうよ、無理しないでスバル。大丈夫、アベルがいるなら、少しは安心できるんだから」
「閣下この包帯ダサくないですか?」
「張り倒すぞ貴様」