🐥「なんだか静かだね」
早めに食事を終えてから、僕は「お菓子作り」を理由に、あなたの下の名前ヒョンとまた二人だけの時間を過ごしていた。
あなたの下の名前ヒョンがメンバーにご飯振る舞って、わちゃわちゃして、一回賑やかになった。
でもそのあと、皆満足してリビングに行ったり、宿舎に戻ったりする。
だから、人の少ないキッチンだけ少し静かになって。
まるで昔の空気に戻ったかのようだ。
🐧「そうだね……。昔みたいだ」
🐥「だけど以前は、こんなに穏やかじゃなかったよね。ヒョンは火傷しそうで怖かったし」
🐧「……」
🐥「でも今は違う。夕食美味しかったよ。……なんで料理を始めたんだっけ」
🐧「自分で作ったほうが健康的で管理もできるでしょ。皆にも食べてほしかったし」
少ししんみりとした空気になってしまう。
その間にあなたの下の名前ヒョンは、二人で作ったクッキー生地を並べて焼き始めた。
🐥「疲れた?」
🐧「ちょっとね」
そう言いながらも、表情はどこか満足そうだ。
僕はその横で、慣れた手つきでチョコを刻む。
🐧「何作ってるの?」
🐥「もちろんブラウニー」
🐧「今から?」
🐥「食べたいって言われたし」
🐧「うん、言った。……凄いね、ほんと」
🐥「ヒョンも凄いよ」
二人して、また少し笑う。
ボウルの中で溶けていくチョコレートを見ながら、僕はふと声を上げた。
🐥「あ、そうだ。次のステージ、あのシルバーリング借りていい?」
🐧「また?luna llenaのmoon dustシリーズでしょ?」
🐥「衣装に合いそうだったから」
🐧「じゃあ代わりに、前ヨンボガが買ってたピアス貸してよ」
🐥「えー、あれ気に入ってるのにㅎㅎ」
🐧「僕もだよ。だから借りたいの。……今度日本行くとき使いたい」
🐥「え、日本行くの!?いいよ、それならいくらでも貸す!いつ行くの?」
アクセサリーの貸し借りの話が加わって、漸くいつもの『パティスリーズ』になったような気がする。
きっかけはいつだったか、今となってはもう思い出せない。
今どんなアクセサリーを持っているのか、いつ何を借りたいのか、お菓子作りの傍らに話し合うのが、僕たちの決まりだった。
🐧「もうすぐだよ。……まだ内緒なんだけどね」
🐥「そうなんだ。なにしに行くの?プロモーション?撮影?でも、僕聞いてないからヒョンだけのスケジュール?」
🐧「うーん、それも秘密かな。でもいずれわかるよ」
🐥「ヒョンたちは知ってるの?リノヒョンとかチャニヒョンは?」
🐧「いや、今初めてリクスに教えた」
🐥「そっか……じゃあちょっと嬉しい」
焼き上がったブラウニーを取り出して、小さく切り分ける。
その横であなたの下の名前ヒョンもまた、クッキーをタッパーに詰めている。
そのとき、ヒョンはなにを思ったのか、焼き上がったクッキーを一枚割った。
その断面から、ピスタチオが顔を覗かせる。
🐧「これで、蜂蜜とナッツをくれたハニへのおまけは完成。メンバーとスタッフの分も十分あるし、最初の一つは半分こしよう」
🐥「やった!いただきまーす」
お菓子作りを始めて数刻、宿舎の中は、もうかなり落ち着いていた。
リビングから、ゲーム音だけが微かに聞こえる。
こうしてこの夜は静かに更けていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!