その知らせは唐突だった。
エアコンの効きが悪かったのか、夜中に暑苦しくなって目が冷めて。
一度キッチンに冷たい飲み物を取りに行ったあと、二度寝を試みたけれど、もう目が冴えてしまった。
睡眠は諦めてリビングへ行き、筆と絵の具を取って絵を描いてから数時間。
作業に集中していると、チャニヒョンが突然誰かと電話をしながらリビングにやって来た。
🐺『うん……、あぁ、見たよ。驚いたけど……本人に確認してから……。あ……いや、リビングにヒョンジナがいただけだよ。……やっぱり、こっち来る?……わかった、気を付けて。まだ朝早いから静かにね。……うん、じゃあ後で』
👑「……通話?誰と?」
🐺「向こうの宿舎。もう記事が出回って、皆知ってるって」
チャニヒョンは困ったように短く言って、通話を切った。
👑「記事?」
胸の奥が、嫌な音を立てる。
ヒョンは一瞬だけ俺を見て、それから視線を逸らした。
🐺「……お前、まだ見てない?」
少しだけ驚いたような表情を見せた後、ヒョンは少し迷ってからスマホを差し出した。
英語の記事。タイトルを読んだ瞬間、驚きすぎて思考が止まった。
チャニヒョンは続けて韓国のサイトも開く。
──熱愛。
👑「は?」
急いでスクロールする。
そこに映っていた写真には、帽子を深く被ったあなたの下の名前ヒョンと、お揃いの帽子の長い髪の女性。
距離が、近い。やけに自然で、やけに親密で。
いや、近いなんてもんじゃない。腕が、肩が、触れている。
👑「……違う、合成だろ」
反射的に口から出た。
だって。
ヒョンが、そんなことするわけがない。
あんなに僕たちに「スキズが僕のすべてだから」って言っていた人が。
それでも、チャニヒョンの声は低くて真剣だった。
🐺「昨日オフだったでしょ。記事自体は嘘じゃないよ。アメリカでも先に報道されたみたい」
👑「アメリカ?なんで……」
🐺「相手を見て」
その言葉に、さらにスクロールする。女性の名前を見つけたとき、心臓が止まりかけた。
──ハリウッド女優。
映画のプレミアで見るような人。インタビュー動画も見たことがある。
👑「……なんで」
あなたの下の名前ヒョン、そんな人と接点があったの?
……ヒョンの家族はアメリカにいる。
お父様はニューヨークの弁護士で、お母様はピアニスト。お兄さんはブランドを立ち上げた。
そんなだから、あなたの下の名前ヒョンがこの女性と知り合いだったとしても不思議じゃない。
それから暫くして──。
ほかのメンバーが集まってきて、チャニヒョンがあなたの下の名前ヒョンに、先に事務所に行くよう促してから、また静寂が訪れる。
その間、僕はただ、記事の写真を拡大しながら一人考えていた。
女性の指が、あなたの下の名前ヒョンの服を掴んでいる。
あれは、ただの知り合いの距離じゃない。
皆ずっと黙っていて、それが妙に現実味を帯びさせる。
ヒョンの表情。あんな柔らかい顔、ステージでもあんまり見ない。
仕事の顔じゃない。プライベートの顔だ。
👑「もし本当だったら」
喉がひりつく。信じたくないけど、知らなかったのも事実で。
それに、あなたの下の名前ヒョンの言葉も胸をつく。
──”やっちゃった”
すっかり覚えてしまったその日本語を聞いたとき、ああ、誤報じゃないんだ、事実なんだと、思ってしまった。
いつの日か、ヒョンが満月の夜のVLIVEを忘れ、STAYとの約束を破ってしまったとき。
彼はその言葉を思わずといったように使っていた。
韓国に来る前、家の中以外では英語を使っていたというヒョンが無意識に日本語を使うときは、相当なにかが逼迫しているときだ。
最高に嬉しいとか、酷く傷ついたとか、激怒しているとか、はたまた……とんでもなく焦っているとき。
だから、間違いないのだろう。
👑「お願いだから、早く帰ってきてよ」
時計の針が何回転もするのを見ながら、重い沈黙に耐える。
それでも、頭のどこかでは冷静に、「あのヒョンが、今こんなときにリスクを冒すわけがない。これはデマだ」と理解していた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!