第57話

両親-5
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2025/11/19 10:00 更新
母への花束を購入するだけだったのに、しつこい記者に捕まってしまい、
結局会場に着いたのはコンサートが始まってから1時間も経過した頃だった。
既に興奮した様子のファンたちの間をなんとかすり抜け、着席する。
若い世代を意識してか、普段の厳かなクラシックコンサートとは違い、
クラシックをサンプリングしたものか、ポップスやアニメの挿入歌がセットリストの中心だ。
黒のAラインのロングドレスには、アニメのロゴがラインストーンで描かれている。
長い艶のある黒い髪はシニヨンでまとめられており、久々に見ただけで泣きそうになった。
🐧「あれ?今の曲で終わりなわけじゃないよね?」

オーケストラが最後の音を奏で、母の優雅な手が鍵盤から静かに離れる。
会場にはしばしの静寂——やがて、大きな拍手と歓声がホールを包む。
直後に深く一礼したあと、照明がすっと落ち、ステージは完全に暗転する。

そして、観客が次の展開を探るように息を飲む中、やや時間を置いて、ステージのサイド、これまで使われていなかった小さな円形ステージが、淡い赤の光にぼんやりと浮かび上がる。
母の目の前にあるのは、先ほどまで使っていた黒のグランドピアノではなく、透明なクリスタルピアノ。
照明がゆっくりと差し込み、クリスタルのボディがステージライトを反射して煌めく。
『今から披露するのは、事前に公開していたセットリストには含まれていない曲です。もしかしたら、皆さんの中には原曲を知らない方もいらっしゃると思います。私が一生懸命ピアノに即した楽譜を興したので、知らない方でも楽しんでいただけると思いますが……すごくいい曲なので是非またスマホで検索してみてください』

母が唇に手を当てると、それまでの会場のざわめきが一瞬にして小さくなっていく。
さすがプロだなと悔しく思いながらステージを注視していれば、このコンサートのために覚えたであろう拙い韓国語が紡がれる。
そうして、母の指がそっと鍵盤を押した。
🐧「う、そ……この曲……」

それは、苦しかった練習生時代から、エレベーターのように地獄から駆け上がっていく覚悟を歌う曲だ。

ただ夢だけを追っていた毎日。この道を歩み続けていいのか。
周りから投げられる「諦めろ、出来っこない」という言葉たち。
それでも努力が続く道を明るく照らしてくれると、仲間とともに汗を流した日々。

『I'm on a Hellevator』

誰かが静かに歌っている。
希望も絶望も、すべてが音に溶けていく。
その後どんな話をして演奏を終えたのかは全く思い出せない。
溢れ出る涙で視界がぐちゃぐちゃになり、次に気付いたのはチャニヒョンに声をかけられたときだった。
🐺「雅さん、あなたの下の名前のことちゃんと見てたんだね。もしかしたら、来てたことも気付いてるんじゃない?」
🐶「ヒョンに向けた曲だよ。だって、他にも有名なアーティストが来てるのに、わざわざ僕たちの曲を選んだんだもん」
🦊「サバイバルも見ていたのかもしれないね」
👑「間違いない、これはあなたの下の名前ヒョンへのラブコールだ」
🐥「そう思う!ちゃんと応援してるからねって」
🐿「昔はわからないけど、今はアイドルとしてのヒョンに反対してるわけじゃないんだよ」

🐺「あなたの下の名前ヤ、どうするつもり?」
🐧「どうするって……」
🐰「このまま逃げていいの?」

🐧「……ちゃんと、向き合います」

🐷🐇「よし、じゃあ僕たち、次のライブに向けて全力で挑まないと!」
🐶「いつも全力でしてください、ヒョン」
🐷🐇「いや、もちろんいつも全力でやってるから」
ずっと、誤解していたのかもしれない。
優しく背中を押してくれるヒョン。コンサートに来るように誘ってくれた弟たち。不器用に本音を伝えてくれた母親。

ありがとう、みんな。
感謝の言葉を呟いてから、もうすぐ来るライブに向けて新たな覚悟を固めた。


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