『自分で言うのもなんだけど、あの人の生演奏はほんとに凄いよ。後悔しないから、是非コンサートに行ってあげてよ。……それこそ、僕の代わりに』
部屋を出る前、そう呟いたあなたの下の名前ヒョンの淋しそうな顔が忘今もれられない。
それもあって、勝手だと思いながらもMIYABIさんのコンサートのチケットに応募するときに、
こっそり僕たちのほうであなたの下の名前ヒョンの分も加えておいた。
それは、両親との関係性を聞かせてくれたあなたの下の名前ヒョンが辛そうで、
でも母親のことを憎んでいるとか嫌っているとか、
そんな様子は一切なくて、ただ力になりたいと思ったからだ。
それでもあの日以来あなたの下の名前ヒョンはコンサートの話を避けていて、
折角勝ち取ったチケットをどう渡せばいいかわからずにいる。
🐿「皆ヒョンが来ないかもって残念そうにしてるし……」
🐺「なんの話?」
🐿「あ、ヒョン!どうしたらいいですか!?」
🐺「うん、だからなんの話かな?ㅎㅎ」
🐿「MIYABIさんのコンサートだよ。あなたの下の名前ヒョン、ほんとに来ないんですか?うちのマンネが全員分のチケット当てたのに」
🐺「ああ、あれね〜。この前1日オフを貰えたって伝えたら、『よかったね、チャニヒョンのお陰だよ。楽しんできて』って。他人事だと思ってるよ、きっと。午前は出かけてくるって言ってたし」
🐿「え!?僕たちが説得に必死になってるのに、ヒョンもう予定入れたの!?」
🐺「午前だけね。コンサートは午後でしょ」
🐿「でも間に合わないかも。ああもう、行かないなんて……!」
そう、強運の持ち主イエニが、あの高倍率のチケットを9枚当てたのだ。
残念ながら席は二つに分かれてしまったが、連番で取れたから文句なんてない。
世界的に有名なピアニストMIYABIさんの初めての韓国公演、
しかも日本で大ヒットしたアニメの新作公開に合わせたイベントだからと、
もう何ヶ月も前から話題になっていたコンサートなのだから。
SNS上には落選を悲しむたくさんの声もまだまだ溢れている。
🐥「そうだよ、行かないなんてあり得ない!僕もヒョンと行きたいし、お母様のステージならなおさら!」
🐿「リクス」
🐥「誘おうとしたけど無理だった……」
🐿「僕もだよ。あなたの下の名前ヒョン、僕を見つけた瞬間作曲の質問してきて、話し終えたらすぐに部屋に行っちゃったんだよ。チケット持ってたのがだめだったかも……」
🐥「チャニヒョンも手伝ってくださいよ〜」
🐺「う〜ん、そう言われてもな……。一応説得はしてるけど、微妙だね」
🐿「ヒョンもっと頑張って……」
僕たちがそれらしく「あなたの下の名前と一緒に行きたい」と伝える一方で、
チャニヒョンだけは一歩引いている感じがする。
「あなたの下の名前のプライベートな問題だから、行くか行かないかもあなたの下の名前が選べばいい」
なんて言っているあたり、
どのくらい本気で説得しているかも定かでない。
チャニヒョンのほうがずっとずっとあなたの下の名前ヒョンと一緒の時間を過ごしてきたのだから、
あなたの下の名前ヒョンに寄り添った対応をしているのだろう。
自分もそうすべきなのかもしれないが、
彼と一緒にコンサートに行きたい気持ちも拭えない。
🐿「……チケット、あなたの下の名前のベッドにでも置いてたら、受け取ってくれると思いますか?」
🐺「そうだね、手書きのメッセージも添えてたら、気持ちは伝わると思うよ」
🐥「そうする!そうします!」
コンサートは明後日だ。
結局、これ以上しつこく誘ってあなたの下の名前に嫌われたくなくて、声掛けは諦めることにする。
せめてもの思いで、イエナも交えて書いた短い手紙とチケットを同封して、あなたの下の名前ヒョンの目を入りそうなところに置くことにした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。