それからというものさり気なく男の気配を匂わせるような写真や普段行かないショップ、カップルが食べるようなパフェ、スンミンの手を写り込ませたり服を写り込ませたりと匂わせというものを楽しんでいたがハニから届いたカトクは依然として
『ベイビーが楽しんでるようで何よりだよ!君の帰りを楽しみに待ってるからね♡』
なんて呑気なものしか届かない。
ファン・ヒョンジンという女は一度勝負を受けたら相手を殲滅するまでボコボコにするタイプなので嫉妬のしの字すら見せないハンに半ば苛立っていた。私は貴方が女の子に話しかけただけでも嫉妬でどうにかなりそうなのに貴方はなんとも思わないなんて。
あまりの反応の薄さに流石のスンミンも「兄さんってば…」と呆れた声しか出さない。
「スンミン、申し訳ないけど私と手を繋いでもらってもいいかしら。本当に嫌ならいいんだけど」
初めは乗り気じゃなかった私はいつの間にかハニを嫉妬させることに必死でついに義弟に手を出す羽目になってしまった。スンミンは勿論驚いてたがリノが「早くしなさいよ」とした目で見ていたのでおずおずと私に手を合わせる。リノもリノでどうかと思うけどそんなことはどうでもいい。
「姉さん、ハニにもしバレた時は…」
「大丈夫よ、私が全力であなたを守るわ」
「姉さん…不覚にもときめいちゃった」
「義姉さんに手を出したらあんたの睾丸引きちぎるからね」
オペラというものは素晴らしくとても感動的で尚且つ人をロマンティックな気分にさせる代物だと思う。こんな素敵な瞬間を切り取らないだなんて勿体ないそう思った私は
『オペラ、素敵だったわ』
と舞台を写すと共に写真の左下にスンミン手を繋いだ姿もきちんと写しておいた。どうだ、これで少しは効果が出るだろう。
そうして送信するとすぐに既読がついた。これで気づかなかったら本当にハニの頬を引っぱたいてあげようかしら。
2人と別れて帰路につく。小競り合いをしながら歩いてる2人の背中を見ていると昔を思い出すようだ。右往左往しながら私たちなりの幸せを掴んできたでは無いか。ヒョンジンは昔のハニとの関係を思いだす。付き合った頃はお互いの価値観の相違で沢山揉めてきたし泣いてきたがそれなりに仲良くやってきたつもりだ。
今も変わらずだけど女たらし×激重愛は相性が悪いのではないか、と疑問に感じている部分ではある。そう考えているといつの間にか家に着いていて明かりがついていることを確認すると門をくぐった。
そういえば、先程のカトクには全く返信がなくあれから既読無視されているようだった。すぐ返信する彼がなにもアクションを起こさないだなんて珍しい。なにかあったのだろうか。
そう思いながら玄関を、開けるとすぐそこには彼がいた。
「…ハニ、こんなところまでお迎え?」
「ベイビー、おかえり」
「ええ、ただいま」
広い玄関の壁にもたれかかってなにやら言いがたそうな顔でこちらを見るハニ。一体なにがしたいのかよく分からないヒョンジンは首を斜め45度に曲げだ。歯切れが悪そうなハニを横目にブーツを脱いでいるとハニから信じられない言葉が出てきた。
「ベイビー、君は今日、誰とどこに行ってたんだい?」
「え?友達とランチしてオペラを…ってカトクにも送ったじゃない」
「…それって女の子?違うよね、男…だよね?」
ハッとして顔を上げるとじとっとした視線でこちらを見つめるハンの顔があった。その顔は信じたくないけど疑いざるをえないという顔。
もしかして、写真の存在に気づいたのだろうか。
「なんのことだか分からないけど、私が浮気してるとでも言いたいの?」
「だ、だって…君のあの写真、明らか様に男の手とか服装が写ってた…しかも、手も繋いでたよね?」
「…だったらなに?貴方がいつもしてることなんだけど」
そう告げるとハッとした顔をしてしゅんと凹んだ顔をするハニ。そんな顔をされてしまったら思わず頭を撫でてしまいそうになる。危ない危ない、心を鬼にして。
「ってことは浮気してきたって…こと?ベイビー、君は僕が浮気をするとアレだけ怒るのに…」
「なに?貴方がして私がしていけない理由でもあるの?それともなに?お前は女なんだから家の事だけでもしてろって?」
「ヒョンジナ…そういうことではないけど…」
「ねえ、ハニ。貴方はいつだってそう、自分の意思を持たずに私や周りに流されてばっかり。ね、結局私たちってどんな関係なわけ」
沈黙が玄関で流れる。それが嫌ではあ、と溜息をつく。
ハニの肩がビクッと震えたのがわかった。
わざと怒ったふりをしてリビングに足を進める。そうするとハニはいつも慌てた顔をして謝ってくるのだ。きっと、今日もそうだろう。そう思った矢先、ヒョンジンの視界は突然180度変わった。
体が打ち付けられる。
え?私今、床に転がされた?どういうこと?
ハニが私の腕を掴みその勢いで私を床に押し倒したのだと瞬時に察した。ご丁寧に私の頭はしっかり支えられていた。そんな筋力があったんだと驚きの気持ちで彼を見るとその目には不安げな光が宿っていた。
「……ハニ?」
「ごめんね、僕って馬鹿だからさヒョンジナが妬きもち焼いてるのを見るのが凄く好きで、からかいたくて仕方なくて、でも君の立場になって考えたことがなかった
「僕って嫉妬深いだろう?だから」
クル
「…君は、とても魅力的だから」
「例え僕のことをどれだけ嫌いでも浮気だけはしないで」
……嗚呼、なんて可愛いのだろうか。
自身の頬が緩々になっている自覚がある。
貴方だって自分のこと言えないじゃない、散々他の人によそ見してちょっかいかけてるくせに。自分がされたら、そんな切羽詰まった顔ができるだなんて誰が予想するだろうか。
自分の腹奥がキュンキュンと疼く気配がする。
本人にとっては大事なのかもしれないが私にとって今のハニは可愛いとしか言いようがない。
「不安なんだ。君は、僕なんかに相応しい人じゃないから、もっといい人と幸せになるべきだったのに、僕が鎖で繋いでるかのように愛を溢しているから」
「だから、浮気をして私の心を冷めさせようと?」
「違う…!でも、とにかく君はダメなんだ。ね、ずっと一緒にいて?一緒にお墓に入って?ヒョンジン、僕は君がいないと生きている意味がないんだよ…」
「人にはちょっかい出すくせに私はダメなんだ」
「君はダメ、息子は愛しいよ?でもそれは全て君の努力の結晶だからこそ更に愛しているんだ、君もそうだろう?僕たちにはあの2人を育てる義務がある」
浮気を散々してる身でよく言うわ。
そう思ったが心のうちをずらずらと並べるその姿に驚いて。そして嬉しくて。思わず笑い声が出てしまった。そんな私を見て『なにがおかしいの、僕真剣なんだけど。なんなら怒ってるんだけど』と頬を膨らませてそう言う。
本当に…この男は。
私がどれだけ貴方のことが大好きか知りもしないくせに。
「ね、私、綺麗?」
普段は全くとしてしないアイシャドウのキラキラと光るパールを見せつけるように上目遣いで見つめれば
「世界一だよ」
とやけに真剣な顔をして言い放つハニ。
そんな堅苦しい顔をしないで、いつもみたいにベイビーって微笑んでくれたら私はそれだけでいいのに。
「私が言うことは一つだけよ」
『ならもう、私以外見ないで』
そっと頬を両手で挟みその鼻にキスを落とすと安堵したのか盛大なため息をつき私を抱き抱えた。ふわふわとした髪の毛が、優しい香りがふんわりと入ってきて思わず頭を撫でる。
「私は、初めて会った時から貴方に一目惚れしてるのよ?私だけのハナ」
ふふと笑って頬をつんつんと触れば『もう!ジナったら本当に人たらし!イケメン!大好き!抱いて!』とキツく抱きしめられた。愛おしくて仕方がない旦那様に私はいつまでも勝てないのだろう。
「そんな顔をしないで、ハニ」
「本当に…本当に浮気なんてしてないんだね?」
「スンミンとリノさんに手伝ってもらっただけ」
「な…スンミン…?」
一番聞きたくなかった名前を聞いてしまったのか暫くぷんすかと怒ったハニに夜中永遠と付き合わされたのは置いておいて、ハニへの愛情がまた一つグレードアップしたなと感じた日だった。
ねえ、旦那様。この先もどうかこんな愛の重たい私を末長く愛していてね。
お読み頂きありがとうございました。この作品は支部にございます。
リクエストお待ちしております。また界隈ルールは必ずお守りください。どうぞお贔屓に🌸
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。