『――わかるよ、お兄さん』
『──ッ! ふざけるな! お前に俺のことがわかるかよ! 勝手なことばっか言いやが……』
『──父さんと、お母さんに申し訳ないんでしょ? お別れの一つも言えないで、なんて親不孝な息子なんだって後悔してる。ううん、後悔はずっとしてた。今も昔も、ね? どうしてわかるのかって? わかるに決まってるじゃない。だって、あたしたちや私たちほど、お兄さんのことわかってる人間なんて一人もいないんだから』
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「──勝手なこと……言って、」
菜穂子が、辛そうに顔をしかめる。拳を握る手のひらに力が入り、唇を噛み締める音が鳴る。
「昴のことは、私のほうがわかってる。だって、私は昴のお母さんだもの」
金髪の少女は、悪意を絵に書いたような言動をする。怒りが込み上げてくるのを懸命に堪えて、昴の心の声に耳を傾ける。
「──ずっと、探してた」
昴の代わりなんて、この世のどこにもいない。それだけは、絶対だ。
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『お前は、なんなんだよ! 何が言いたいんだ!』
『あたしたちはただ、お兄さんに安心してほしいだけだってば。大丈夫、大丈夫。ちゃァんと、父さんとお母さんへの想いには区切りはついたよ。一方的かもしれなくても、向き合ったつもりでいる。心はすっきりしたって。表向きはね。表向きは、全然健康。心になァんにも抱えてないみたいに見える。上手だね、お兄さん。上手なのが悲しいね、お兄さん』
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「──もう、本当に嫌。すごーく嫌な気持ちになるわ」
エミリアが整った顔に怒りを色濃くにじませ、スクリーンを睨みつける。
「スバルの気持ちを、あなたが勝手に話さないで」
この空間にも、同じことを思う。スバルが隠してきたことを、本人のいないところで暴露するなんて、性格が悪い。
「──もう、怒ってるから」
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『ここは、見ての通りの場所。なァんにもなくなる場所で、だから何もない場所』
『……早い話、ここは魂が濾される場所だよ』
『そのオド・ラグナって神様はずいぶんと意地悪なんだな』
『神様なんて大層な代物じゃないよ、あんなもの。あれには、そんなご立派な思想とかってものはないんだもん。ただの仕組みサ。世界を壊されないための仕組みだよ』
『仕組み……』
『魔女因子も、加護も、『剣聖』も、『魔女』も、全部眼中にないのサ。オド・ラグナにいいところがあるなら、平等で公平で贔屓目なしの無関心ってだけ』
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「──『剣聖』も、『魔女』も」
何かを思うように、ラインハルトがそれを復唱する。オド・ラグナは、世界を壊されないための仕組みだ。
だから──、
「──いや、辞めておこう。考えても、仕方の無いことだからね」
やはり、大罪司教の言葉を聞くと余計なことばかり考えてしまう。
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『──俺の、昨日までの記憶を奪ったのは、お前か?』
『そうだよ?』
『──昨日の俺も、やっぱりここにきたってことか』
『厳密には、ちょっと来方が違ったけどね。でもまァ、目的は同じだった。結果がほんのりと違っただけ。でも、すごいね。素敵だね。何回で、ここまでこられたの? ねえ、答えてよ、お兄さん。私たちは答えてあげたじゃん。――お兄さんは、あたしたちに食べられてから、何回目のお兄さんなの?』
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「──不快なのよ」
言動全てが癪に障る。目の前にいたなら、感情のままに魔法をお見舞していたかもしれない。
「──この女と同じようなものかしら。この空間も」
露悪的で怒りを誘う。こんなことを思いつくやつは、大罪司教並に頭のおかしいやつに違いがないのだ。
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『──知られちゃダメってこと? そのことなら、もう遅いよ、お兄さん。だって、私たちがお兄さんと会ったのって、もう昨日のことなんでしょ? 知られちゃダメの『ルール』なら、とっくの昔に破ってる。でも、記憶の回廊の出来事は簡単には外に漏れない。だから、怖い怖い『魔女』が動かないの。ねえ、お兄さん。何回目?』
『でもまァ、よかったじゃない。『ナツキ・スバル』の記憶なんか取り戻したら、今のお兄さんは死んじゃうわけだし、自殺なんて馬鹿な真似しないで済んでサ』
『……あ?』
『あれ、何その変な反応。まさか気付いてなかったの? 記憶が戻ったら、今の自分に上書きされて、その存在は消滅する。……これって、死んだのと同じだよね?』
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「──! おかしなこと、言わないで……! そんなの、そんなこと……!」
菜穂子が感情のままに声を張り上げる。そんな言い分、納得できない。正しいように聞こえるが、それはおかしいのだと、菜穂子は真っ直ぐに言える。何故なら、それはおかしいと直感的に感じたから。
「さすが大罪司教、反吐の出るような言い分ね。大方、バルスをいいようにするための言い訳でしょうけど……両方合わせたら、もっといい存在になるかもしれないじゃない。もっとも、バルスはいつまでもバルスだけれど」
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『──今、『ナツキ・スバル』は死んでるよね。どこにもいないんだもん。でも、『ナツキ・スバル』が戻ってきたら、今度はお兄さんが死ぬよね。どこにもいけないんだもん。あのさァ、そこまでして『ナツキ・スバル』って取り戻す価値があるのかい? お兄さんだって、同じことができるはずだろ? お兄さんだって、同じように周りにいる人たちのことを好きになったはずじゃない。周りの人たちだって、おんなじようにお兄さんのことを好きになってくれる。――それの、何が悪いわけ?』
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「自分で奪っておいて、よくもまあそんなことが言えますわね」
「──反吐が出るッぜ……」
「それとこれとは話が別でしょうに……全く、理解ができない」
怒りの声が響く。やはり、大罪司教は悪だ。その考えは、揺るがない。
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『あたしたちが『ナツキ・スバル』の記憶を食べた結果、お兄さんがここにいる。つまり私たちって、お兄さんの生みの親みたいなもんじゃない。その親の目の前で、自分が死ぬ選択肢を選ぼうとするなんて、親不孝ってヤツじゃないの、お兄さん』
『今のお兄さんには、今のお兄さんが作った関係がある。新しく、前向きに生き直してみたらいいじゃない。それも一つの手だと思うよ、あたしたちは。それに、こんなこと言ったらなんだけど……『ナツキ・スバル』って、あんまり理想的な男性像って感じじゃないよ?』
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「──生みの親? それは、絶対に違うと思うわ。昴を産んだのは私だけ。勝手に、おかしなこと言わないで。……それに、昴はすごく優しくていい子よ。それが分からないなら、変なこと言わないで」
菜穂子が怒りを露わにする。こんなに頭に来たのは、この空間に来て初めてだ。
「──大罪司教って、こんな人ばっかりなのね。嫌な気持ちになってくるわ」
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『可哀想なエミリア! その生まれがかつての魔女と同じというだけで、誰からも忌避される哀れな娘! ああ、それでも一緒にいてあげる自分はなんて優しいんだろう!』
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「────!」
エミリアの紫紺の瞳が見開かれる。驚きではない。失望でもない。ルイの意図も、エミリアは完全に理解した。した上で、エミリアの胸の内を占めるのは──
「──勝手な、こと!」
──怒りだった。
スバルの気持ちを、そんなふうに言われたことへの。
これを目の前でされたスバルの気持ちを考えれば、怒りは増幅していく。
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『弱く脆いベアトリス! 頼れるものもなく、たった一人で孤独の時間を過ごしてきた寂しがりな女の子! 暗く危うい道筋を、自分が手を引いてあげなくちゃ!』
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「──スバルはそんなふうに言ったりしないかしら。曲解なのよ、ベティーとは解釈違いかしら」
冷静なふうに言いながらも、ベアトリスの声からは怒りが滲んでいる。これ以上聞けば、怒りが爆発することは避けられない。
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『献身的で無償の愛を捧げようとするレム! 愚かで美しくて、なんて清らか。きっと彼女は自分以外の、誰かのために必死になることで生きる実感を得る不完全な存在。これこそ、俺という存在が導いてやらなきゃならない!』
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「──バルスは馬鹿で愚かよ。レムの隣には、相応しくないわ」
ラムが、瞳を静かに閉じる。
「──でも」
ラムの力に手が入り、椅子が破壊される。それもすぐに直されるが。
「──バルスの、レムへの気持ちをラムは知っている。戯言は辞めることね」
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『何の……何のつもりだ!?』
『『ナツキ・スバル』が思ってたことの代弁だってば。欲しいのは優越感。いつだって、誰かのためだなんて思っちゃいないサ。都合のいい連中だけ周りにはべらして、手を差し伸べる快感に酔ってる。懐かない子犬には餌もやらない。遠ざける。そんな『ナツキ・スバル』に、本当に今の自分を譲り渡すつもりなの?』
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「お兄さんがそんな人なら、私は殺されてるわあ。お兄さんにとって、私は都合が悪すぎるものお」
「──そうやね。でも、このナツキくんがこの誘いを断るんは、簡単やないよ」
「──スバル! そんな言葉に騙されないで! スバルはそんな人じゃないし、完璧じゃないけど、すごーくいい子よ!」
覚えている。スバルは自分を取り戻した。だが、その過程までは、エミリアは──。
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『嫌だ……嫌だ、嫌だ、嫌だ……嫌だぁ……っ』
『そうだよ。当然サ』
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「──スバル」
ユリウスが、静かに名を呼ぶ。悪意が人の形をしたような少女が、ユリウスには酷く禍々しく見える。そんな少女の言い分に耳を貸して欲しくは無いが、スバルの気持ちになれば、それも。
「──当然だ。けれど、」
それでも、ユリウスは、スバルならきっとその過ちに気付くと、信じている。
信じることしか、出来ないからだ。
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『だから、俺は、お前じゃない! お前と俺は……!』
『……誰と、話してるの、お兄さん。── 誰も、誰もいないのに、誰と話してるの、お兄さん。ここは、あたしたちの場所……邪魔は入らないはずなのに。この場所で、私たち以外の誰と話して……やめてよ。お兄さんはあたしたちの、私たちの……ッ!』
『──どうして、どちらか一つだけを選ぼうとするんですか?』
『──立ちなさい!!』
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「──レム」
ラムが、小さく口にする。
青い髪の下に可愛らしい顔を晒し、美しく微笑んだまま、この世で最も厳しい言葉をかける。世界に奪われた記憶を超えて、ラムの頭の中に、レムの声と姿が刻み込まれていく。
「──レム」
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『立って……! 立って! 立って! 立ちなさい! 立ちなさい、ナツキ・スバル! 立ちなさい! ――レムの英雄!!』
『立ち上がれたなら、いってください。いって、救ってきて、全てを。全ては全て。何もかも。全部、全員、自分も、最も身近な他人さえも!』
『やれますよ。だって──スバルくんは、レムの英雄なんです』
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「────」
その言葉の意味を、オットーはようやく正しく理解した。
これは、スバルを無条件に肯定する言葉ではない。信頼し、頼りきる言葉でもない。
──スバルが後悔する決断を、この少女は許さないのだ。
諦めることを、スバルはきっといつか悔やむ。それを、この少女は認めない。「諦めるな」と「やれるはずだ」と鼓舞し、甘えることをよしとしない。
それは、なんて厳しく、辛く、酷く、そして──、
「──似たもの同士ですね、本当に」
レムとオットーなのか、レムとスバルなのか。誰に向けたのか、オットーにすら分からなかった。ただ、
「──ナツキさんも、これを望んでいたんでしょうから、文句なんて言えませんよ」
こんなに元気な姿を見ていない少女に向かって、恨み節を言う気はしなかった。
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『こいよ、――コル・レオニス』
『──ナイフとフォークは片付けろ、食い逃げ犯。お前に食わせるタンメンはねぇ』
『あァ……あァ、クソ、クソ、クソ。あと一歩、あと一歩だったのに。あと一歩だったのに、なァ。惜しかったのに、なァ。なんで、どうして、しくじったのか、なァ。――お兄さんを、誰が、たぶらかしたのか、なァ。あと一歩で、完全に『ナツキ・スバル』とナツキ・スバルを引き剥がせたのに……!』
『……なんだそりゃ。なんで、そんな真似を』
『──そんなの、同じ人間を二度は食えないからに決まってるでしょッ!? 別々でなきゃいけなかったんだよ! 一度食べた『ナツキ・スバル』と、食べ残されたナツキ・スバルは別々でなきゃいけなかった。そのために、あれこれ趣向を凝らしたのに……全部パーだ! 笑っちゃうね!』
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「勝手に笑っていればいいのよ。そんなくだらない理由に、スバルを付き合わせるわけにはいかんかしら」
ベアトリスが可愛らしい顔を顰めて、少しだけ低い声でそう口にする。
「そうよ。いくらスバルが優しくても、そんなことに付き合ってあげるのは私が許さないんだから」
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『老若男女、ありとあらゆる人間、人種、立場も何もかも飛び越えて色々食べてきた私たちだけど、唯一、知らないものがあるの。なんだかわかる?』
『なんだろ。わかんない。ろくでなしな自分の嘆き方とか?』
『――『死』の経験だよ。どれだけ他人の記憶を喰らっても、ありえないの。『死』の記憶だけは、絶対に手に入らないんだ。だってそうでしょ? 記憶って、生きてる間の記録だもん。だから、死んだときの記憶なんて存在しない。――お兄さんだけが、例外。ねえねえ、死ぬってどんな感じなの? きっと辛いんでしょ? 苦しいんでしょ? 大変なんでしょ? 痛いんだよね? 痛くないときもあったんだよね? 気持ちいいって話もあるけどホント? 死ぬとき、ホントはいつも喜んでるの? それとも、もうどうでもよくなっちゃってる? 楽勝? ねえ、ねえねえ、ねえねえねえ!』
『……俺の、昨日までの記憶があるなら、それも知ってるんじゃねぇのか』
『記憶としてはね! でも、それってやっぱり古いし、リアルじゃないから! 私たちはもっと生の感覚が欲しいの。使い回しの古臭い食材じゃ満足できない。あたしたちを満たしてくれるのは、新しくて、瑞々しい、誰も知らない境地ッ! この世で唯一の、他の誰にも経験できないスペシャルな記憶! それだけじゃなく、何かを間違ったらすぐ死んでやり直せばいいお手軽さ! 自分の最高の人生を見つけたあとだって、何かの失敗で台無しにする可能性はあるでしょ? でも、お兄さんの人生ならそれがない! 大丈夫、バレないようにうまくやってあげる! エミリアも、ベアトリスも、ラムも、メィリィも、ユリウスも、エキドナも、シャウラも、パトラッシュも、ペトラも、オットーも、ガーフィールも、フレデリカも、リューズも、ロズワールも、クリンドも、アンネローゼも、フェルトも、ラインハルトも、ロム爺も、トンチンカンも、クルシュも、フェリスも、ヴィルヘルムも、リカードも、ミミも、ヘータローも、ティビーも、プリシラも、アルも、シュルトも、ハインケルも、キリタカも、リリアナも、誰も彼も誰も彼も誰も彼も! 騙し切って、幸せに生き切ってあげる! だから、お願い。――お兄さんの人生、お腹一杯、食べさせて?』
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「──レムを忘れているわ。そんなのじゃラムですら騙せないわよ」
ラムは桃色の瞳に僅かに影を落とし、
「死んでやり直せばいい、ね。生きたことのない人間特有の言い草だわ。バルスの味方をするつもりなんてないけれど、死なんて体験するものじゃないわ。──見ているだけでも、嫌な気持ちになるのだからね」
「──この子、レグルスと同じで話が長いわね。もう少し短くして欲しいわ」
エミリアが眉を顰めてそう口にする。それはそうだが、突っ込むべきはそこではない。
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『──三度目はねぇ。俺の苦悩も、俺の死も、俺の人生も、何もかも俺のもんだ。お前にくれてやるもんなんか、一個もねぇよ! 飢え死にしろ、馬鹿野郎。人生で一個しか死に方が選べねぇなら、俺がお前にオススメしてやるのはそれだ。――世界中で、一番苦しめ』
『失敗、した。したよ。しちゃった。したんだ。してしまった。しちゃいました。しちゃったので。しちゃったから……あァ、あァァァァ』
『お前の望んだ通りにはならない。俺の名前はナツキ・スバル。菜月・賢一と、菜月・菜穂子が付けてくれた名前だ。――他も何もない。俺は俺だ』
『上書きされて、消えるかもしれないのに?』
『魔法の呪文を教えてやる。――それはそれ、これはこれだ』
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「魔法の呪文……! かッけェ……!」
「今そこに食いつきます?」
そんなふうにガーフィールとオットーが言葉を交わす後ろで、
「──うん。そう。私たちがつけた名前。それは、忘れたりしないでね、昴」
「──親からの、人生最大のプレゼントだからな」
「──そう。手放さないでね、昴」
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『──スバル』
『ベアトリス……?』
『シャウラは、塔の外から何かが向かってきていると言っていた。その後の彼女は素早くてね。異変の原因を確かめにいくと、止める暇もなく飛び出してしまって……』
『何があったのか結論から話すよ。――レイドの本を読んで、あいつの過去を探る作戦は失敗した。過去は見られなかったし、それどころじゃなくなっちまった』
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「本の中に大罪司教がおるなんて、初見殺しもいいとこやねえ。これ、使い方あっとる?」
「──あってますよ。多分、ですけど」
「それでええよ。この場でナツキくんの言葉一番分かっとるんが誰かは、比べるまでもないやろ?」
「そうですか」
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『目覚めてくれたか、スバル。それは僥倖だ。私が誰かはわかるか?』
『そうだな、最初にその心配だよな。ええと、あなたは……?』
『──やはり』
『嘘だよ! 冗談だよ! お前はユリウス・ユークリウスだよ! 真剣な顔で何がやはりだよ! ちゃんと戻ってきたわ!』
『ふ。私の方も冗談だ。君の治らない幼稚さへの意趣返しだと思ってほしい。――このあと、少し笑えない話をさせてもらうのでね』
『──アウグリア砂丘の各所に存在した魔獣が、一挙にこの塔へ押し寄せている。シャウラ女史が応戦しているが、中へ押し込まれるのも時間の問題だろう』
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「ユリウスって意外と子供っぽいところがあるの?」
「──エミリア様、これは……」
言い訳をしようと口を開くユリウスに笑みを向け、
「大丈夫よ。ユリウスのことを覚えてるのはスバルだけだし、不安になっちゃったのよね? 私も気持ちはわかるから」
「エミリア様、お話を聞いていただきたいです」
「ハッ」
ラムがそれを笑い飛ばし、エミリアとユリウスの会話は終わった。