スンミンの部屋は、セミダブルのベッドが薄明かりで照らされていた。
ランプの柔らかな光がシーツの白を淡く染め、静寂の中に温もりを落としている。
ドアを閉めた途端、外の喧噪はまるで別世界のことのように遠のき、ここだけが切り離された小さな空間になった。
相変わらずスンミンの部屋は簡素で、物が少ない。
セミダブルのベッドと、小さなランプ、机の上に積まれた数冊の本だけ。
余計な装飾がないぶん、視線は自然とベッドへと引き寄せられてしまう。
近い将来、自分がそのベッドに横になると思うと、心臓を掴まれたように意識が跳ねる。
軽口のつもりだったのに、言葉の端にドキドキを隠しきれず、情けないほど赤い顔をさらす。
強がったはずのセリフが、かえって自分の動揺を暴いてしまっていた。
スンミンはリノのほうを見ずにそう答えると、
何の躊躇いもなくベッドに身を横たえた。
少しだけベッドの端に体をずらし、ベッドの片側を空ける。
その動作だけで「ここに来い」と告げられているようだった。
リノは思わず目を逸らす。
2人の間にしばらく沈黙が続いたあと、スンミンはようやく口を開いた。
スンミンの低い声は穏やかで、逆らう隙を与えない。
当たり前のように横になって、空いた場所を残して待つその姿は、拒む言葉をすべて奪っていった。
リノの喉が小さく鳴る。
観念して空いているベッドの端に横になると、嗅ぎ慣れたスンミンの香りに包まれた。
背中越しに伝わるわずかなスンミンの温もりがリノの意識をかき乱し、眠気を感じるところではなくなっていく。
心臓の音がうるさすぎる。
ごまかそうと深く息をついたその瞬間。
背中に、確かな重みと熱が重なった。
驚いて声を飲み込む間に、
スンミンの腕がそっと回される。
背後から抱き寄せられるような格好になり、
リノは驚きで身じろぎもできなくなった。
吐息が首筋をかすめ、
リノは反射的に布団を握りしめる。
言葉の真意を問おうと顔を向けた瞬間、スンミンの熱を帯びた唇が静かに重なった。
リノの呼吸は奪われる。
声も、言葉も、何もかもが途切れ、ただ鼓動の音だけが全身を支配していく。
一度だけで終わると思っていた。
けれど、スンミンは離れたかと思えば、またすぐに重ねてくる。
次第に深く、繰り返し、息継ぎすら許さないほどに。
気づけば、隣に横たわっていたスンミンの影が動いた。
体勢を変え、すっと上に覆いかぶさる。
目の前に迫る熱と重み。
視界をスンミンに奪われる。
淡いライトに照らされたスンミンは、
涼しい顔は崩さずに抗いがたい男らしさを宿している。
理性は必死に何かを言おうとするのに、
言葉は喉に貼り付いたまま動かない。
その一言で、スンミンの瞳がわずかに揺れる。
次の瞬間、唇が再び触れ、熱を奪っていった。
一度、また一度。
浅い呼吸の隙間を縫うように、重ねられる口づけは止まらなかった。
抗う理由も、逃げる言葉も、もうすべてが意味を失っていく。
やがて時計の針は幾度も進んでいく。
リノが最後に覚えているのは、繰り返し奪われた唇の熱と、名前を囁くように呼ぶ声。
──その夜、ふたりは朝を迎えるまで、途切れることなく唇を重ね続けていた。
翌朝。
身支度を整えてスンミンの部屋から出ると、待ってましたとばかりにリビング組から質問攻めにあう。
言えない。一晩中互いを求め合ってキスしてたなんて。
リノは慌てて首を振り、
耳まで真っ赤にしながら叫んだ。
その声、表情が全てを物語っている。
スンミンはいつもの涼しい顔で
1人ソファーに腰掛け、ふっと微笑んだ。
End.
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!