リノは、基本、何も言わない。
おはようも、
気をつけろも、
会いたかったも。
全部、言わない。
その代わり――
行動だけが、異様に多い。
スンミンは、自分の机の上を見てため息をついた。
開けられていないペットボトル。
新しい消しゴム。
プリントの端に書かれた小さなメモ。
名前もない。
字だけで、誰か分かる。
放課後、並んで歩きながら言う。
そう言われると、
少しだけ、残念になるのが悔しい。
歩道橋の上。
風が強い。
スンミンが身をすくめた瞬間、
何も言わず、リノが前に立った。
それだけ。
コートの端が、
スンミンの肩にかかる。
触れてるか触れてないかの距離。
即答。
それが、ずるい。
少し沈黙が落ちる。
言葉を選んでいる間に、
リノが先に口を開いた。
スンミンは足を止めた。
一拍。
聞き間違いかと思った。
顔は見ない。
視線は前。
耳だけが、赤い。
平然と言う。
その言葉で、胸が一気に熱くなる。
好きって言わない。
でも、全部それ。
コンビニ前。
数分後、戻ってくる。
温かい飲み物。
言い切る。
当たり前みたいに。
言いかけて、止まる。
怖い。
でも。
リノは少し考えてから、答えた。
ぶっきらぼうで、
優しさが隠しきれてない。
スンミンは、思わず笑った。
リノは小さく舌打ちして、
でも、否定はしなかった。
家の前。
一瞬、迷ってから。
リノはスンミンの袖を、
ほんの少しだけ引いた。
それだけ。
スンミンは、胸がいっぱいになった。
ドアを閉める直前、
リノが小さく言う。
静かで、低くて、
確実に心臓を撃ち抜く声。
ドアが閉まる。
スンミンはその場でしゃがみ込んだ。
――ずるい。
――言わないのに。
――全部、持ってく。
スマホが震える。
【着いたら言え】
たった一文。
なのに。
キュンキュンは、致死量だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。