最近、リノが近い。
物理的な話じゃない。
距離は前と変わらないのに、視線とか、気配とか、全部が。
教室で、廊下で、帰り道で。
気づけば、必ず同じ場所にいる。
――偶然なわけ、ないよな。
分かってるのに、何も言えない。
名前を呼ばれるだけで、心臓が跳ねる。
最悪だと思う。
どうでもよさそうな聞き方。
でも、答えを待つ沈黙が長い。
決定事項みたいに言う。
断る隙を、最初から与えない。
歩きながら、何度も視線を感じる。
見られてる。
確認されてる。
一瞬、リノの足が止まる。
あまりにも自然に言うから、
一瞬、異常だと気づくのが遅れた。
即答。
胸の奥が、ひやっと冷える。
――この人、本気だ。
言い終わる前に、腕を掴まれた。
力が強い。
逃げようとしたわけじゃないのに、
逃げ道を塞がれたみたいだった。
低くて、静かな声。
怒鳴らないのが、逆に怖い。
迷いがない。
その瞬間、
スンミンは気づいてしまった。
この人は、
自分を失うくらいなら、
壊すことを選ぶ。
――それなのに。
腕を振りほどけなかった。
怖いはずなのに、
胸の奥で、変な安心感が広がる。
誰にも向けられない執着を、
自分だけが向けられている。
それが、
嬉しいなんて。
いつもの言葉。
でも、今日は少し違った。
“嫌い”って言わないと、
本音が零れそうで。
リノが、ほんの一瞬だけ笑う。
ずるい。
そんな言い方されたら、
拒めるわけがない。
でも、否定はしなかった。
帰り道。
肩が触れるほど近いのに、
手は繋がない。
繋いだら、
全部終わる気がしたから。
――もう遅いのに。
夜、布団に入っても眠れない。
リノの声、
掴まれた腕の感触、
あの視線。
頭から離れない。
嫌いなのに。
怖いのに。
それ以上に、
失うのが怖い。
スンミンは、目を閉じて小さく息を吐いた。
――ああ、俺ももう、同じだ。
依存は、
片方だけのものじゃない。
気づいた時には、
もう逃げ道なんて残っていなかった。
嫌いと言えなくなる瞬間は、
こんなにも静かに、
確実に訪れる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。