第3話

触れない距離で,壊れていく
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2026/01/02 08:47 更新
スンミンは、眠れなかった。

 目を閉じるたびに、廊下でのリノの声が蘇る。

『俺の前でだけ、そんな顔すんなよ』

 意味なんて考えなくても分かってしまう。
 分かるから、無視できない。

 ――なんで、あんな言い方したんだよ。

 胸の奥が、じわじわと重くなる。
 怒りでも、不快感でもない。
 それよりもっと、厄介な感情。

 翌日。
 教室に入ると、リノはいつも通り無表情で座っていた。

 何もなかったみたいに。

 それが、無性に腹立たしい。
スンミン
スンミン
……昨日の,あれ
休み時間。
 スンミンが声をかけると、リノは視線だけを向けた。
リノ
リノ
スンミン
スンミン
意味分かって言った?
一瞬、空気が止まる。
リノ
リノ
分かって欲しいと思ってない
即答だった。
 冷たくて、距離のある言い方。

 ――ああ、逃げる気だ。
スンミン
スンミン
じゃあ,俺が勝手に勘違いしたってことでいい?
リノ
リノ
好きにしろ
突き放す言葉。
 なのに、リノの指先が微かに震えているのを、スンミンは見逃さなかった。

 胸が、嫌な音を立てる。
スンミン
スンミン
…ほんと、嫌なやつ
そう言って立ち去ろうとした瞬間、
 手首を掴まれた。

 強くない。
 でも、離す気もない。
スンミン
スンミン
離せよ
リノ
リノ
…行くな
低く、掠れた声。

 教室のざわめきが遠のく。
 二人だけ、世界から切り取られたみたいだった。
リノ
リノ
意味分かってないの,そっちだろ
リノが言う。
リノ
リノ
俺は,お前が誰と笑っててもどうでもいい
スンミン
スンミン
…嘘つけ
リノ
リノ
嘘じゃない
でも、その目は逸れている。
リノ
リノ
ただ、、
一拍。
 言葉を探すみたいな沈黙。
リノ
リノ
俺が知らないお前を見るのが、嫌なだけだ
スンミンの心臓が跳ねた。

 それは、
 “好き”よりも、
 “欲しい”よりも、
 ずっと重い言葉だった。
スンミン
スンミン
……重い
 思わず零れた本音。

 リノは一瞬だけ傷ついた顔をして、すぐに無表情に戻る。
リノ
リノ
知ってる
スンミン
スンミン
じゃあやめろよ
リノ
リノ
無理だ
即答。
 迷いがない。

 スンミンは、息を詰めた。

 ――ああ、だめだ。
 この人、最初から壊れてる。
スンミン
スンミン
嫌いだよ,リノ
リノ
リノ
俺も
 手首を掴んだまま、離さない。

 嫌いと言い合いながら、
 触れない距離で、
 互いの呼吸を確かめる。

 その関係が、
 どこにも逃げ場がないことを、
 二人とももう分かっていた。

 放課後、並んで歩く帰り道。

 会話はない。
 でも、離れない。

 スンミンはふと、思ってしまう。

 ――もし、俺が離れようとしたら。
 この人は、どんな顔をするんだろう。

 想像しただけで、
 胸が締めつけられた。

 依存は、もう始まっている。

 静かに、確実に。

 嫌いと言いながら、
 互いを手放す未来だけは、
 想像できないまま。

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