リノは人を寄せつけない。
冷たいとか、怖いとか、そういう噂は全部正解で、全部どうでもよかった。
隣の席のスンミンも、同じだ。
誰にでも強くて、誰にも期待しない。
だから二人は、同じ場所にいながら一度も交わらない――はずだった。
低く吐き捨てられた声に、リノは顔を上げる。
視線の先にはスンミン。机に置いたリノの腕が、ほんの少し彼のスペースに入っていた。
それだけ言って引っ込める。
謝罪に感情はない。スンミンも同じだった。
周囲がひそひそと笑う。
“相性最悪のコンビ”。
そう呼ばれていることを、二人とも知っていた。
――嫌われている。
そう思い込むのは、簡単で楽だった。
放課後。
人の少ない廊下で、リノは足を止める。
スンミンが、誰かと笑っていた。
それだけで、胸の奥がざわつく。
知らない顔。
知らない声。
自分には向けられない、柔らかい表情。
何かが、音を立てて崩れた。
気づけば、口が先に動いていた。
振り向いたスンミンの目が、一瞬だけ見開かれる。
その言葉が,やけに遠く聞こえた。
静かな声だった。
でも、抑えきれない感情が滲んでいた。
スンミンは黙る。
数秒の沈黙のあと、乱暴に視線を逸らした。
そう言いながら、どこか震えている。
リノは知ってしまった。
スンミンが、自分の言葉一つで揺れることを。
スンミンも気づいていた。
リノが、自分を見失うほど執着していることを。
嘘だった。
その嘘を、お互い一番よく分かっている。
嫌いと言いながら、
離れられない。
独占欲も、不安も、
全部「なかったこと」にして、
相手の存在だけを飲み込んでいく。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。