「“この世界には2人しかいない”感覚を描きたかった」脚本家・渡辺啓が語る金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』岡田将生、染谷将太が演じた兄弟の孤独
TBSでは、毎週金曜よる10時から、岡田将生主演の金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』が放送中。本作は、2010年4月27日に殺人罪などの公訴時効が廃止されたわずか2日前に両親殺害事件の時効を迎えた田鎖真(岡田)と田鎖稔(染谷将太)による“田鎖ブラザーズ”が、法ではもう裁けない犯人を自分たちの手で裁くべく警察官となり、事件の真相を追い続ける完全オリジナルのクライムサスペンスだ。
脚本を担当するのは、『HiGH&LOW』シリーズ(日本テレビ系)などを手掛けた渡辺啓さん。新井順子プロデューサーとの再タッグで生まれた本作について、執筆経緯や物語構造、“時効”というテーマへの思い、そして第7話ラストに込めた真の感情について話を聞いた。
「難しいテーマだからこそ、やりがいがあった」――2年かけて組み立てた物語
――本作の脚本執筆をすることになった経緯を教えてください。
新井さんとは、だいぶ前に何本か一緒に作品をやらせていただいていて、その後しばらくご一緒する機会がなかったんです。その間も、年始に「元気ですか?」とご挨拶するようなやりとりはしていたのですが、2年くらい前に挨拶の流れで、「空いていますか?」と連絡があって。
新井さんから2、3枚ほどのプロットを受け取って、「これ、ちょっと詰めてみませんか?」と言っていただいて。声を掛けてもらえたことがうれしかったです。
――プロットを読んだ時、特に惹かれた部分はありましたか?
一家殺傷事件があって、時効になって、さらに時効撤廃があって、その犯人を兄弟が追う、という物語だったので、「すごいテーマだな」と思いました。同時に、「難しいな」とも感じたのですが、その分やりがいもあるなと思って。
あと、“兄弟”というところにすごく惹かれました。だから頑張りたいなと思って進めていったのですが、やっぱり難しくて…。ずっと悩みながら書いていました。
――終点を先に決めてから、2年かけて物語を作っていたということですが、過去の事件という“縦軸”と、現在起こっている事件の“横軸”は、どのように組み立てていったのでしょうか?
まず、新井さんと縦軸の事件について、「こういう出来事があって、こういう事件が起こった」ということをひたすら話し合いました。そこに結構時間が掛かりましたね。
縦軸を書き終えてから、横軸となる各話の事件を考えていって。最初の事件は第1話、第2話をまたぐ形にしましょうという話になり、「どうやって第2話につなげようか」とやりとりを重ねていきました。
誰が敵で、誰が味方なのか――細部までこだわったセリフ設計
――新井さんとは、どんなことを大切にしながら作っていきましたか?
もちろん縦軸や横軸の調整もしていたのですが、それ以上に、それぞれのキャラクターの“人間味”について話すことが多かったです。
縦軸を進めながら横軸の事件も描くと、どうしてもそれだけで文字量がパンパンになってしまうんです。そうすると、人間味の部分が抜け落ちてしまうこともあって。新井さんから「このキャラクターの人間味を出せないですか?」と提案をいただきました。
――具体的には、どんな部分でしょうか?
第1話で稔が「牛丼を作るよ」と真に言うシーンや、真に趣味を持たせましょうと、スマホゲームで牛のキャラクター“ぺこ”を育て始める設定など、細かい部分を一緒に作っていきました。
――脚本作りの中で、特に意識されていたことはありますか?
今回は犯人がいる物語なので、「セリフを言い過ぎないようにしよう」というのはかなり徹底していました。
「ここまでで止めておこう」とか、「ちょっと言い過ぎているから削ろう」とか。誰が味方で、誰が敵なのか分からない物語なので、後から見返した時にも辻褄(つじつま)が通るように、新井さんや各話を担当している監督と一緒にセリフの調整を進めました。
「この世界には2人しかいない」――兄弟の距離感に込めた孤独
――本作では“時効”というテーマが大きな軸になっています。
まず、時効撤廃当時のニュース映像などを見ていろいろと調べました。その時に、“続く事件”と“終わる事件”に分かれたように感じたんです。
被害者遺族の方々が喜んでいる映像もすごく印象的だったのですが、その光が強いほど、“終わる事件”側の影を濃く感じたというか。
だからこそ、“終わる事件”の傷をしっかり描かなければいけないなと思いました。世の中からどんどん忘れられていく傷って、今も残っていると思うので、そこは丁寧に書きたいなと。
――復讐へ向かう兄弟を描く上で、難しさもあったのではないでしょうか?
この兄弟がやろうとしていることって、決して許されることではないじゃないですか。だからこそ、視聴者の方に“この兄弟の行く末を見届けたい”と思ってもらえるキャラクターにしなければいけないなと。そのバランスがすごく難しかったですね。傷を負い過ぎていても良くないし…と悩み続けました。
そこでたどり着いたのが、“夫婦みたいな距離感”でした。ほほ笑ましいやりとりではあるのですが、裏を返せば、“この世界には2人しかいない”ような感覚でもあって。
“互いしか見えていない、世界から取り残された孤独”が出せたらいいなと思いながら書いていました。
「かつての自分を見ていた」――真の中にあった感情
――第7話ラストでは、真が母親を陥れた犯人に復讐しようとする成田賢心(齋藤潤)を止める場面が描かれました。
真自身、かつての自分を見ていた部分もあったと思います。今は時効が撤廃されているので、当時の自分たちとは状況が違う。それに、犯人が逮捕されているという違いがあるので、そこは大きかったと思います。
あと、賢心には大事なお母さんもいる。だから「やるべきではない」と止めたのかなと。
――真の“本能的な部分”も出ていたのでしょうか?
そうですね。真って、刑事という仕事自体にはそこまで興味があるわけではないんです。でも、本能的に犯人を捕まえようと動いてしまったり、被害者の気持ちになって動いたりするところがある。その本能的な部分でも止めたのかなと思っています。
――作品の中では描き切れていない真のバックボーンも感じました。
そこを感じ取っていただけたらうれしいです。
“犯人探し”だけではない――最終章で見てほしい“背景”
――警察監修の鳴海達之さんからは、どんなアドバイスを受けましたか?
警察内部のことって、調べてもなかなか出てこないんです。知り合いの刑事さんや警察関係者の方に聞いたりもしたのですが、それでも分からないことが多くて…。
鳴海さんには、捜査の進め方や言葉遣いなど、本当にいろいろ助けていただきました。
――鳴海さんが「検視官がリアルだった」とお話されていました。
それは監督や演出部、美術さんが本当にリアルに作り込んでくださったおかげだと思っています。
――最終章の見どころを教えてください。
事件が起きてしまった背景です。そこには、それぞれの“愛”があって。そうした愛の積み重ねの先に、最終章があるんです。
犯人が誰なのかという部分ももちろんありますが、それだけではなく、そこにある感情や背景を見ていただけたらうれしいです。ぜひ最後まで見届けていただきたいです。
「見届けたいと思ってもらえる兄弟にしたかった」という渡辺さんの言葉通り、真と稔の関係性やそれを取り巻く状況は、物語が進むごとに切実さを増している。事件の真相だけでなく、兄弟の行く末にも注目したい。
■番組概要
[タイトル]
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』
[放送日時]
毎週金曜よる10:00~10:54