努力は報われない。 でも、サボった人間が勝ち続けた例を、自分は知らない。
中学生に野球を教えた日に、自分が教わったこと。
── 人口4万人の港町で、毎日5件以上、年間1,200件の経営の相談を受けている、荒川健生です。
今日は休日、いつもと違う話を。
中学生向けの野球教室で、講演と実技指導をしてきた。
でも、そこで気づいたことが、事業の現場とまったく同じだったので、書いておきたい。
■ 正しいことを言っても、届かない
今日は、要請もあり走塁の指導をした。
高校時代は50m6.0 ジャスト、100メートル11秒ジャストと
足には自信があった。
そんな自分が言った
「第二リードを大きく取ろう」。
全員がうなずいた。
※第二リードについて
でも、グラウンドに出たら、
ほとんどの子がベースのすぐ横に立っていた。
わかっていなかったのか。
いや、聞いてはいた。
頭には入っていた。 でも、腹に落ちていなかった。
これは中学生だけの話ではない。
大人でも、毎日のように同じことが起きている。
相談で「SNSで発信したほうがいいですよ」と言う。
相手はうなずく。
でも翌月、何も変わっていない。
理由は同じだ。
「なぜやるのか」が、腹まで届いていない。
正しいことを言っても、人は動かない。
理屈は、体を動かさない。
■ たった一言を変えただけで、全員が動いた
言い方を変えてみた。
「リードを大きく取ると、次の塁に近くなる。それはわかるよね」
うなずく。
「じゃあ、逆にピッチャーの気持ちになってみて。ランナーが大きくリードしてたら、どう思う?」
ひとりの子が答えた。
「……走られるかもって、焦ります」
「そう、焦るよね。その瞬間、バッターへの集中が切れる。コントロールが甘くなる。つまり、君がたった一歩前に出るだけで、味方のバッターが打ちやすくなる。走らなくても、チームを助けてることになるんだよ」
一瞬、間があった。
次のプレーで、全員のリードが明らかに大きくなった。
自分は何も新しいことを言っていない。
「リードを大きく取れ」。
内容は同じだ。
でも、「一歩前に出ると、味方が楽になる」と言い換えた瞬間、子どもたちの体が動いた。
人が動くのは、頭で理解したときではない。
映像が浮かんだときだ。
相手のピッチャーが焦る顔。
味方のバッターが気持ちよく振る姿。
その場面が見えた瞬間に、足が一歩前に出た。
経営相談でも同じだ。
「差別化しましょう」と言っても、何も起きない。
「いま、隣の店とまったく同じ言葉を使ってるよ。お客さんには、どっちも同じに見えてる」と言うと、相手の表情が変わる。
伝えたいなら、正しさを手放す。
相手の頭の中に、映像を届ける。
■ 努力しても負ける。それでも、やるのか
講演の後半で、少し重い話をした。
自分は甲子園に3回出た。 最高でベスト8。
明治神宮大会で優勝したこともある。
華やかに聞こえるかもしれない。
でも、その裏には数えきれない「負け」がある。
真夏に倒れそうになりながら走った日がある。 冬の夜、手がかじかみながら1000回バットを振った日もあった。 毎日振りつづけた。
それでも、打てない、そして、負ける。
努力すれば必ず勝てるか。 勝てない。
相手も、同じだけ努力している。
子どもたちに聞いてみた。
「練習をサボっているチームが、たまたま1回勝つことはあると思う?」
「あると思います」
「じゃあ、そのチームが次の試合も勝てると思う?優勝できる?」
沈黙があった。 ひとりが、小さく首を横に振った。
そうだ。 たまたま1回は勝てる。
でも、2回目はない。3回目もない。
何度も勝つチームを見てきた。
そのすべてに共通していたのは、派手なプレーではなかった。
ベンチでの声かけ。道具の揃え方。
個人個人の食事、睡眠。素振りの1本1本。
誰も見ていないところで、手を抜かない。
「勝敗は細部に宿る。」私が好きな言葉だ。
努力は報われない。
でも、サボった人間が勝ち続けた例を、自分は知らない。
甲子園で見たチームも、経営相談で出会った事業者も、全部同じだ。
うまくいっている人は、地味なことを、ずっと続けている。
■ 13歳は、まだ2回の表だ
空気が少し重くなったので、最後は前を向ける話をしたかった。
「人生を9回までの野球の試合だと思ってほしい。君たちはいま、何回だと思う?」
ひとりの子が答えた。それに対して、
「もっと前だよ。2回。しかも、まだ表だ」
ざわついた。「そんなに早いの?」という顔がいくつも見えた。
「2回の表って、何も決まっていない。でも、強いチームは1回~2回からやることが違う。初球から集中している。ベンチの声が出ている。先頭バッターがきっちり塁に出る。序盤にやったことが、終盤の自分を助けてくれる」
少し間を置いた。
「いま君たちがやっている野球も、勉強も、食事も、睡眠も、全部1回の表のプレーだ。ここで積み重ねたことが、5回、6回、7回の自分たちの人生の中盤以降を必ず助けてくれる。だから、いま目の前にあることを、一生懸命やってほしい」
前の列にいた子が、背筋を少し伸ばしたのが見えた。
■ がんばる人のまわりには、がんばる人が来る
最後の挨拶に、どうしても伝えたいことがあった。
「類は友を呼ぶ」。
使い古された言葉だ。
でも、大人になればなるほど、これが本当だとわかる。
がんばっている人のまわりには、がんばっている人が集まる。
ふざけている人のまわりには、ふざけている人が寄ってくる。
さぼる人のまわりには、さぼる人しかいなくなる。
そして、さぼる仲間、ふざける仲間は「仲間」ではない。
傷のなめあいだ。
楽な方に引っ張り合っているだけだ。
今回の野球教室をつくった監督がそうだった。
あの監督、そして先生には野球への壮大な熱がある。
当然、毎日の一生懸命さがある。
それが言葉にしなくても伝わるから、まわりの大人が「何か手伝えませんか」と集まってきた。
チームができた。
グラウンドが整った。
そこに、君たちが集まった。
誰かの一生懸命が、この場所をつくった。
一生懸命でいると、一生懸命な人と出会える。
振り返ると、自分の人生もそうだった。
いちばんの財産は、そうやって出会った人たちだ。
君たちは、どんな仲間と過ごしたいだろうか。
どんな大人になりたいだろうか。
せっかくやるなら、前を向いていたい。
せっかく生きるなら、全力のほうがいい。
そう思える自分でいられるかどうかは、いまの積み重ねで決まる。
まだ2回の表だ。
試合は、これからだ。
■ 今日の学び ── 教えに行って、教わったこと
帰りの車の中で、今日一日を振り返っていた。
一つ目。
「正しいことを言う」と「伝わるように言う」は、まったく違う。
同じ「リードを大きく取れ」でも、届け方ひとつで、人の体は動いたり動かなかったりする。
これは13歳でも、50歳の経営者でも変わらない。
二つ目。
理屈は人を動かさない。
映像が人を動かす。
「こうしたほうがいい」ではなく、相手の頭の中に場面を届ける。
それができたとき、はじめて行動が変わる。
三つ目。
努力は報われない。
でも、やった人間にしか「次」は来ない。
サボった人間が勝ち続けた例を、自分は知らない。
これは野球でも、事業でも、人生でも同じだと思う。
そして、いちばん大きな学び。
教える側が、いちばん学ぶ。
中学生に「一生懸命やれ」と伝えた自分は、
一生懸命やれているだろうか。
細部まで手を抜いていないだろうか。
相手の腹に届く言葉を使えているだろうか。
教えるという行為は、自分に問いかけることだ。
今日、中学生が教えてくれたのは、そのことだった。
そして、どんな立場の人でも、思うこと。
追伸
「まだ1回の表だ」と中学生に言った。帰りの車で計算した。自分も4回の表あたりだ。 まだまた可能性がある、中学生に負けてられない。
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