「知らない」が孤立を生む—グレーゾーンの高齢者を支える存在へ
金曜日の夕方。早朝5時から自宅で原稿書きやらMTGやらが続き、集中力が切れたところでカフェに出向く。
この時期、国家試験を迎えた受験生が必死に過去問を解いている。たまたま理学療法士の試験に臨む学生の隣の席に座った。
「約10年前、自分が目指した理学療法士とはどんな姿だっただろうか・・・?」
そんなことをふんわり考えていると、だんだん自分の今の夢についても考えたくなってきた。
「グレーゾーンの高齢者」とは
「グレーゾーンの高齢者」と聞いて、どんな人を想像するだろうか。
・介護保険サービスを利用するほどの状態ではないが、くらしのどこかに不安を抱える人
・そもそも介護保険や保険外サービスについて知らない人
・現行の介護度では、なかなか生活が難しい人
そんな高齢者たちを、私は「グレーゾーン」と考えている。そして、今の日本はこのグレーゾーンの高齢者で溢れかえっていると思うのである。
何を隠そう、90歳を超えて一人暮らしを続ける私の2人の祖母もこのグレーゾーンに差し掛かっているのである。
祖母の場合、もちろん本人のこれまで努力の上で一人暮らしができているのだが、理学療法士の孫が、要所要所で小姑のように茶々を入れるので、なんとかなっている部分もある。
彼らが抱える最大の問題は、必要な支援が届きにくいことだ。
そして、その背景には必要な情報を「知らない」という壁がある。
現場で凍りついた、忘れられない現実
訪問リハビリで関わったある女性のことが今でも忘れられない。
彼女はいつもニコニコしていて楽観的、愉快でとても素敵な女性だった。(プライバシー保護のため、詳細はぼかして説明する)
体は元気のため、一人暮らしで買い物も自分で行けていた。
認知症の進行で、徐々に活動量が低下し、遠方の家族が心配したところから、訪問リハがスタートとなった。
母親思いの彼女の子供たちは、仕事の都合であまり訪問できない代わりに毎日電話をかけてくれていた。特に私が訪問する日は
「訪問リハビリさんが来るから忘れないように」
と訪問時間のギリギリに電話をかけてくれていた。
認知症とはいえ、彼女は家族のことはちゃんと認知できている。また電話の応対も問題なくできる。
つい最近のことを忘れてしまう(例えば、お昼を食べたのか、とか薬を飲んだのかなど)短期記憶に問題があるが、それ以外のコミュニケーションは保たれている。
そんなある日、彼女の家に訪問すると、詐欺の被害に遭っていたのである。
謎の制服を着た見知らぬ男性が訪問しており、何やら書類にサインをしている。彼女の介護関連の契約などに関しては、必ず家族に同行してもらっていたので、「何事か…」と心配になり声をかけると、その男性はそそくさと書類をまとめて帰ってしまう。
「今の方、何かの契約でいらしていたのですか・・・?」
とおそるおそる聞いてみると
とってもいい人でね。・・・(驚きの金額の契約内容)
すぐさま、彼女のケアマネジャー、家族に連絡をし、事なきを得ることができた。まさに危機一髪であった。
もし、認知面に心配が出てきたタイミングで、地域の見守りサービスや成年後見制度などのサポートを早めに活用できていれば、状況は違っていたかもしれない。
※成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力が十分でない方が、自分の財産管理や日常生活の契約(例:施設の入居契約、預貯金の管理など)を適切に行えない場合に、その人を法律的に支援する制度。
彼女の担当ケアマネは、40人近くの利用者を抱えている。比較的支援の少ない彼女の小さな変化にまで気付けないカオスな状況でもあった。
その一件による家族のショックは大きく、この先の一人暮らしは心配ということになった。結果として本人の希望に反して施設入所となった。
この事例はほんの一例に過ぎない。必要な支援があれば在宅生活をもっと安全に続けられたかもしれない。
知らないがゆえに、生活が少しずつ崩れていく。
私はそんな現実を変えたいと、強く思うようになっていた。
医療と介護だけでは支えきれない社会
理学療法士として働いていると、現場の限界を日々感じる。
またケアマネジャーや介護事業の責任者と話していても、どの職種も介護保険内のサービスでの限界を感じている。
理学療法士で言えば、
病院では医師の依頼の範囲内、介護現場ではケアプランに記載の範囲内でなければ介入できない。
また、リハビリの時間もわずか20〜40分しかとれない。
その中で運動や生活機能を支援することはできても、それ以上の支えを提供することは中々難しい。
さらに、ケアマネジャーも手が足りない状況で、全ての支援を提供するのは到底不可能だ。
2025年現在、日本の人口の5人に1人が高齢者になる「2025年問題」が脅威となっている。
医療と介護だけで支えきれない現実は、すでに明らかだ。
にもかかわらず、具体的な対策が現場レベルまで届いていないのも現状である。この状況をどうにかしなければならない。
そのために、私はまず自分にできることから動き出すことにした。
スウェーデンから学んだ、日本へのヒント
2024年12月、私は単身で福祉大国スウェーデンを訪れ、医療・介護の現場を視察に回った。
寝たきりがいない国であり、また在宅で最後まで過ごす、それを叶えている国の実態をこの目でみたかったのである。
そこで見たのは、日本とはまったく異なる支援の仕組みだった。
退院直後の人には、本人が手続きしなくても地域のリハビリスタッフが自宅を訪れ、必要な福祉用具を無償で提供してくれる。
それだけではない。高齢になると管理が難しくなる納税の過不足も、国が自動的に調整し、還付を行ってくれる。
高齢者が安心して暮らせるシステムが、当たり前のように機能していた。
もちろん、日本がすぐにこの仕組みを導入するのは難しい。
しかし、情報の格差を埋める取り組みは、今すぐ始められる。
理学療法士として現場で見てきた課題を発信し、必要な情報を届ける。その小さな一歩が、大きな変化につながると信じている。
書籍出版、ラジオ出演—地道に広げる発信の輪
2024年にはGakkenメディカル・ケア・サービス社より『高齢者のからだ図鑑』を出版させていただいた。
この本は、現場での経験を元に、高齢者とそのケアに関わる人に向け、加齢による体や心の変化を解いた一冊である。
高齢者のケアに初めて関わる際に必要な知識をギュギュッとまとめたものだ。
この本の出版をきっかけに、全国放送のラジオにも出演し、年末年始の帰省時に家族が確認すべきポイントを伝える機会をいただいた。
今までは目の前の患者や家族など、声の届く範囲の人にしか届けられなかった情報を、少しずつ多くの人に届けられるようになってきた。
壮大な夢に向けて、できることから一歩ずつ
私の夢はなかなか壮大である。
グレーゾーンの高齢者が孤立から解放され、安心して暮らせる仕組みをつくりたい。
そして、ゆくゆくは、介護保険外の民間サービスにも現場の声を反映した形で発展させ、高齢者同士がつながりを実感できるコミュニティを作りたいとも思っている。
スウェーデンの地で見てきた高齢者組織の活動を参考に、日本でも楽しみながら地域でのつながりを深められる仕組みを実現したい。
そのために、まずは自分にできることから少しずつ手を動かしている。
現在は、もう少し「高齢者のくらし」に特化した書籍の執筆に明け暮れている。
書いては消して、消しては書いて、文献を読んで、直しては書いて・・・
また、このnoteの媒体を通しても、どんどんこれまでの経験などを発信していきたいと思っている。
いつか自分の大切な人が高齢者になったとき、目指した世界に少しでも近づいていると嬉しい。
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最後まで読んでくださりありがとうございます^^!
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理学療法士として、体のこと、心のこと、高齢者介護のこと、はたまた趣味の海外のくらしのことなど、体験からの学びをシェアしていきますね^^



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