ガバメントクラウドの根本的な問題点

初出:2026/06/05
断りなく更新します。解決策も追記予定です。

ガバメントクラウドとは

ガバメントクラウド(ガバクラ)という、地方自治体の基幹業務をクラウド上で運用する計画が、2020年にスタートしました。一般に知られるようになったのは、2021年10月のITメディアの記事です。

ガバメントクラウドは、日本政府と地方自治体が共通利用するために整備されたクラウド基盤です。従来は自治体ごとに個別運用していた住民情報や税、福祉などの基幹システムを標準化し、クラウド上で運用することで、コスト削減、セキュリティ向上、災害対策の強化を図ります。デジタル庁が主導し、当初のAmazon Web Service(AWS)とGoogle Cloud Platform(GCP)に加えて、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure、さくらインターネット の5つのクラウド事業者のサービスを活用して運営されます。

クラウド事業者が注目されていますが、彼らは「箱」を提供しているだけで「中身」(アプリケーション・ソフト=業務)が重要です。
以下の20業務が、全国の自治体で共通利用される基幹システムとして標準化され、原則としてガバメントクラウド上で運用されることになっています。
住民基本台帳 住民票の作成・異動管理を行う自治体の基礎システム。転入・転出、世帯管理、各種行政サービスの基盤となる。
戸籍 出生・婚姻・死亡など身分関係を記録するシステム。日本国民の法的身分を証明する基礎情報を管理。
戸籍の附票 戸籍と連携して住所履歴を管理するシステム。パスポート申請や各種本人確認で利用される。
印鑑登録 実印の登録・証明書発行を管理するシステム。不動産売買や契約など法的手続きで利用される。
選挙人名簿管理 選挙権を持つ住民の資格確認や名簿管理を行うシステム。国政・地方選挙の基盤となる。
固定資産税 土地・家屋・償却資産の評価と課税を管理する税務システム。自治体財政の重要な収入源。
個人住民税 個人の所得に応じた住民税の課税・徴収を管理するシステム。給与天引きや納付状況も管理。
法人住民税 企業に課される住民税の申告・課税・徴収を管理するシステム。地域財源の一部を担う。
軽自動車税 軽自動車や二輪車の登録情報に基づき課税・徴収を行うシステム。
国民健康保険 自営業者などが加入する医療保険制度を管理するシステム。資格・保険料・給付を扱う。
後期高齢者医療 75歳以上を対象とした医療保険制度を管理するシステム。保険料や給付を運用する。
介護保険 高齢者向け介護サービスの認定、保険料、給付管理を行うシステム。
国民年金 国民年金加入者の資格や保険料関連事務を管理するシステム。日本年金機構と連携する。
健康管理 住民健診や予防接種など保健事業を管理するシステム。健康増進施策の基盤となる。
生活保護 生活保護受給者の認定、給付、ケース管理を行うシステム。福祉行政の中核業務。
障害者福祉 障害福祉サービスや各種手当の認定・給付を管理するシステム。
児童手当 子育て世帯への児童手当支給に関する資格確認・支給管理を行うシステム。
児童扶養手当 ひとり親家庭などへの手当支給を管理するシステム。所得判定や支給管理を行う。
子ども・子育て支援 保育所利用や認定こども園関連の給付・認定業務を管理するシステム。
就学 学齢簿管理や学校指定、就学援助など義務教育関連事務を管理するシステム。

画像
2021年10月 デジタル庁資料より

ガバメントクラウドの現在(いま)

2025年度末の完成(移行完了)を目標に推進されました。

しかし、以下の報道の通り、完成していません

2025年末時点で、1800自治体中
・全20業務完了自治体は65団体(3.7%)
・遅延自治体は935団体(52.3%) との報告もあります。

報道で繰り返し指摘される問題点は、以下の5点です。
・2025年度末期限に間に合わない自治体が多数
・想定より運用費が高い
・ベンダー・自治体双方の人材不足
・大規模自治体ほど移行が難しい
・標準仕様の改定が続き作業が増える
特に「コスト削減になるはずが、むしろ高くなるのではないか」という議論は、2024~2026年にかけて最も多く報じられた論点の一つです。

この事業には、7000億円もの国費が投入されています。

ガバメントクラウドの根本的な問題点

1.日本に一つのクラウドサービスで済むのに、事業者が多数

「クラウドコンピューティング」とは何かを理解しないで推進されたようで、マルチベンダー方式で、既存のアプリ開発業者が多数、参加しています。

コンピュータ利用の歴史は、以下のように進化しています。
1950年代後半~1970年代 大型電算機(計算センター)
1970年代後半~1980年代 オフコン・パソコン
1980年代後半~2000年代前半 クライアントサーバ・コンピューティング(クラサバ)(LAN)
2000年代後半~現在 クラウドコンピューティング(インターネット)

地方自治体のシステムはクラサバ時代に作られたものが多く、その時代はLAN(Local Area Network)を使い、市町村単位にコンピュータを設置する必要がありました。ですので、上記の20業務にITゼネコンや地域のソフトウェア会社などが参入し、システムを個別に開発していました。
クラウドはインターネットがベースなので、20の業務単位に、日本に一つサービス(プラットフォーム)があれば済むのに、既存のITベンダーへの配慮(民業圧迫)なのか、現行システムが複雑で統一仕様の策定が難しいのか、何なのか理由は不明ですが、7000億円の1/10、700億円もあれば、新規設計で20業務の統一クラウドサービスが完成できたはずです。 一人のアーキテクトが全体を把握し、数十名のチームが生成AIを駆使して新規に設計・開発すれば、もっと安く作れます。

2.「移行」ではダメ

ガバクラ関連の資料には「移行」という単語がよく登場します。クラサバ型からクラウド型に移行するという意味ですが、これも間違っています。クラサバ型とクラウド型ではアーキテクチャ(基本構造)が異なるので、移行ではなく新しく設計し開発でなければ、性能も出ないし、スマホ・タブレット対応も行えません。
政府が一元的に開発すべきものを、1800自治体に分散させたので、僅かな予算しかなく、クラサバ・アプリをクラウド上で動かすだけの「移行」になってしまっています。

3.137万人と1.2億人は誤差範囲

ITやクラウド活用の先進国としてエストニアがよく引き合いに出されます。エストニアの人口は137万人、日本は1.2億人。この差を口実にエストニア型のクラウド+スマホ社会は無理という人がいますが、クラウドはスケールアウト(サーバを増やすことで応答速度や容量を拡張)できるので、利用者数の違いは本質的な障壁になりません。

4.行政事務標準文字による混乱

ガバクラは「行政事務標準文字」という新たな7万文字もの漢字(主に人の姓)が追加され、運用されます。戸籍の文字を整理統合した結果なのですが、これがガバクラでの問題を複雑にしています。
「外字をなくす」という考えは大歓迎ですが、戸籍と住民基本台帳以外でも、この文字コード、文字セットを使うには、多くの課題があります。
以下を参照してください。

以上、ガバメントクラウド事業は基本設計段階から根本的に誤っており、追加投資によって改善できる問題ではありません。 クラサバ型とクラウド型が併存し、1800の自治体と、その20業務の窓口担当が苦労する状態が続きます。


いいなと思ったら応援しよう!

コメント

1
コメントするには、 ログイン または 会員登録 をお願いします。
KCCのプロフィールへのリンク
KCC

自治体システム標準化とガバメントクラウドがごっちゃになっているのが残念です。 「失敗」とされている原因はガバメントクラウドに移行する場合に補助金を出すとしたことで この2つがセットになってしまった事にもありますが、問題点を指摘するのであれば 自治体システム標準化とガバメントクラ…

1
Kazuo Shimokawa いいね
ガバメントクラウドの根本的な問題点|Kazuo Shimokawa
word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word

mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1