忘れたいほど嫌いな人
人が怒るのは主に二種類あると思っていて、「大切なものを踏みつけにされたことによる原始的な怒り」という他者を守るための怒りと、「自分のコンプレックスを刺激された」という自己を守るための怒りですね。
自己を守ることはすごく大事なのですが、レグルスの場合それが強すぎる感じがしますね。
自分に劣等感がある人間こそ、些細なことで怒りますから。
そりゃあ人間としての尊厳踏み躙られたら誰でも怒りますけど、なかには「あの子可愛いよね」に「私は可愛くないの!?」って怒る人もいるので、やはり怒りと劣等感は表裏一体なケースが多いと思いますね。
春風も前は体調を心配されることが少しだけ嫌だったことがあり、それも虚弱な自分がコンプレックスだったからだったんだなぁ……と思いますね。
なので、人に怒る前に「これは自分の劣等感なのか?」と考えてみるのもいいかもしれません。
難しいですけどね。
妹2がレグルスみたいなヒスり方をするので、そういう人の思考を最近は探っています。
が、探れば探るほど理解はできても納得はできなくなりますね。
我が家もそこまで悪い家庭環境じゃないので、やはり怪物は平屋から生まれるものなのですね。
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『レグルスを『小さな王』にするためには、『国民』である奥さん連中が必要だったんだ。距離が関係あるのかどうかは知らねぇが、その縛りがあるからレグルスは五十人も花嫁を連れてこなきゃならなかった』
『でも、それだけじゃまだ種明かしにはちょっと足りない』
『超強力なバリアーとも違う。考えられる『無敵』な敵の破り方は一通り試した。それから、心臓が動いてないことと、体温がないことは確かめた。なら――』
『肉体の時間が止まってるから、攻撃どころか水に濡れることもない。投げた砂の時間が止まってるから、壁に弾かれることもなく突き抜けるみたいに素通りする』
『――凍れる時の秘宝、それがお前の権能の正体だ!』
『意気込んで言われてもさぁ、知らないよそんなの!君ってアレかな?自分の知ってることは周りもみんな知ってるに違いないって思い込むタイプかな?傲慢にも程があるって自覚しろよ、わがまま野郎がさぁ!』
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「凍れる、時の……?」
聞き慣れない言葉にエミリアが首を傾げる。
だが、直前までの言葉からして、レグルスの権能に関係がある言葉なのだろう。
「スバルって、変なところで物知りよね。私、すごーく驚いちゃった」
スバルの知識量はエミリアと大差ないはずなのだが、変に博識な時がある。
余程良いご両親に育てられたのだろうか。
「スバル風に言うと、ぎゃっぷってやつよね?」
「少し使い方がズレてるような気がしなくもないですけど……そんな感じだと思いますよ」
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『すげぇ意外な話だけど、真っ向勝負ばっかのお前は搦め手に超弱ぇよな。権能の抜き方とは別に、お前の抜き方ならいくらでも思いつくぜ。こんなことばっか繰り返してると、どっちが悪役だかわかんなくなりそうだけどさ』
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「落とし穴……!こんなのに引っかかるレグルスの知能が低いのかスバルの立ち回りが上手いかは分からないけれど……さすがベティーのスバルかしら」
単純な戦闘力ならエミリアの方が強いに決まっているのだが、エミリアは如何せん小細工や卑怯な手が得意じゃない。
その点でいえば、エミリアよりもスバルの方が優れているのだ。
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『馬鹿の一つ覚えっておっしゃいましたけど、それってどっちのお話ですか?人の振り見て我が振り直せと申しますが、まずは鏡をしっかりご確認になっては?』
『こ、こまでぇ……僕を、コケにした奴はぁ……!』
『つっても、俺の方が気ぃ抜いていいわけじゃまったくないけどな。頼むぜ、エミリア。――花嫁の本音、引っ張り出してくれよ』
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「──分かっていたことですけど、ナツキさんは本当に煽るのが得意ですよね……危ないので、手放しには褒められませんけど」
「今回ばかりは、相手が煽りに弱すぎる気も致しますけれどね……。スバル様がそういう言い方に長けているのもあるでしょうが、それ以上に──この、レグルスという男は、劣等感の塊で、他人の一挙一動にそれを刺激されているような……そんな感じが致しますけれど」
早い話が、自分にコンプレックスがあるから相手のちょっとした言葉に突っかかるのだ。
全く、迷惑千万である。
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『いい加減にさぁ!自分の分ってものを弁えて、大人しくくたばったらどうなのかなぁ!?』
『まだか、エミリア。――こいつの、心臓は!』
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美しい街並みが、レグルスの攻撃により破壊されていく。
「スバル……!」
エミリアが、悔しそうにスクリーンを見る。
「私もすごーく急いだけど……やっぱり、見つけるのにも何とかするのにも時間がかかっちゃった」
そして、エミリアはスクリーンの中にいるレグルスを睨みつける。
「もう、奥さんたちの仇はとったけど……それでもやっぱり、私はあなたが嫌いで、絶対に許せないみたい」
だって、今もエミリアの胸の中には、業火のような怒りが燻っているから。
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『そもそもさ、偉そうにご高説垂れてくれたのは立派だけど、君の時間稼ぎが実を結ぶなんて希望、どこから湧いてきたのか僕にはさっぱりわからないなぁ。どういう頭してると、僕の権能に辿り着けるのかわからないけど、それならそれでどうして、僕の権能に辿り着いてまだ戦う気になるわけ?』
『あ、ぐ……』
『散々、好き放題に逃げ回ってくれたもんだけど、いざ倒れるときは呆気ないもんだよ。まぁ、そうだよね。そうじゃないといけないよね。僕と君の間にある差を考えれば、収まるべきところに収まるべき結果が収まっただけの話じゃないか。これでやっと、不条理に余計な気を取られずに済むってわけだね』
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「なんッだァこいつ……一々話が長ェんだよ!」
スバルが苦しそうに倒れているのを、楽しそうに、満足そうに嘲笑うレグルスに、ガーフィールは怒りを募らせる。
勿論、オットーやベアトリスも静かに怒っていたが。
「他人を下げないと自分を正当化できないなんて、なんて悲しい人間なのかしら。お前は満たされてなんて居ない──誰よりも、孤独で欠けた存在なのよ」
ベアトリスが静かに冷たく言い放つ。
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『し、ぬ前に……お前の、力の……』
『は?ああ、いわゆる『冥土の土産』ってやつ?こんな古臭い言い回しよく知ってるもんだね。そういう無意味な知識の蓄積が僕に届いた、そういうことなのかな?そうだねえ、そこまで言うんだ。最後にちっぽけな君に、頑張ったご褒美でもあげようか。君が必死になって時間稼ぎしたこと全部、無駄だったことを教えてあげるよ』
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レグルスは、勝ち誇ったように話し出す。
花嫁に心臓を寄生させていること──つまりは、レグルスを殺すには、花嫁の心臓を止めるしかないと。
「──随分と、醜悪な手段を使うのね。魔女教らしいといえばらしいけれど……凡そ、倫理観と知性の欠けた鼠どもにはふさわしい手段だけれど」
ラムが、腹立たしいと言いたげにそう吐き捨てる。
レグルスのやることは、全部が全部癪に障る。
人の心を踏み躙って、それを是とするのだから。
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『死んだふり……あ、違う。死にそうなふりだ。飛んできた石で額切ったから、ちょっと試してみた。信じてたよ。お前は死にかけの敵を見つけたら、絶対に偉そうに勝ち誇ってべらべら喋る馬鹿だって』
『おいおい、それはちょっと……お前は!これがやりたかったのか!これが人間のやることなのか!?人が愛してやまないものを、身勝手に奪い去る!いったい……いったいどれだけ冷酷になればこんなことができるんだよぉ――!?満足か?満足なのかなぁ!?僕だけを殺すそのために、何の罪もない妻たちの命を奪って、それで大喜びだなんて人間性が――』
『――今のは、あなたの花嫁さんたちからの絶縁状だと思って』
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教会から立ちのぼる氷柱に、レグルスは顔色を変える。
そして、そのレグルスの横っ腹にエミリアが攻撃を叩き込み、合流する。
「死にそうな振り……本当に、すごーく危ないことするんだから。私があと少しでも遅れてたら、本当に危なかったと思うんだけど」
エミリアが眉を下げる。
スバルは本当にびっくりするような手段をとるから、エミリアとしては驚かされてばかりだ。
「いうことが全て自分に跳ね返る……本当に、中身が空っぽな人だ」
ラインハルトが眉を顰める。
言うことが二転三転して、信念も何も無い。
今まで関わったことの無い人種だった。
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『本当に笑っちゃうほど不遜で、どうしようもなく低俗で、呆れるぐらい無能で、信じられないぐらい厚顔で、救いようがないぐらい劣等……!で、どうするわけ?君たちはさぁ、どう責任を取るわけ?あれだけ偉ぶって色々と言いたい放題してくれたわけだけどさぁ、それ全部が見当違いの大失敗に終わって、残ったのが犠牲だけみたいなこの状況、どう挽回するのかなぁ!?』
『そんなわけねぇ!『獅子の心臓』の権能は、お前もべらべら喋って……あそこでハッタリかますような頭が、お前にあるわけないだろ!』
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流れるようにレグルスを罵倒するスバル。
そして、それよりも──
「──不遜も低俗も無能も厚顔も劣等も……スバルには当てはまらないのよ。そっくりそのまま返してやるかしら。ブーメランなのよ」
ベアトリスはそれこそ、すごく怒っていた。
人の命を軽んじるのも、ベアトリスにとって一番であるスバルをバカにしたのも、何もかもがベアトリスの怒りを踏み抜いていた。
「見ているだけでこんなに腹立たしいんだから……この場にいたら、ベティーは怒りでどうにかなっていたのかもしれないのよ」
「私も、すごーく怒ってる。やっぱり、本当に嫌な人はどれだけ時間が経っても許してあげられない。人の心を踏み躙って……すごく、すごーく最低なことをして」
エミリアもベアトリスも冷たく静かに怒る。
その二人だけでなく、ラインハルトもヴィルヘルムも、ガーフィールも怒っていた。
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『大丈夫よ、スバル。もう全部、わかってる』
『わかってるって……』
『それに私、すごーく怒ってるから……もう、許してなんてあげない。レグルスの心臓はここ――今、私の胸の中にあるわ』
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「よくもエミリアの心臓に……!!エミリアの心臓が穢れてしまうのよ……!」
ベアトリスが嫌そうに顔を顰める。
「べティーにここまで言わせるなんて相当なのよ、暴食と同じくらい嫌いかしら」
スバルが傷つくようなことをするあいつと、見るだけで不快なこいつは、本当にすごく嫌いだ。
嫌になる。
「──言うことがぐるぐるするなんて、本当に可哀想な人。今まで、会ったことがないくらい」