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Shall  we dance?/Novel by テンチャ

Shall we dance?

17,342 character(s)34 mins

突発的に書いたから内容ぐちゃぐちゃ。
スバルが姉様怒らせてヴォラキアまでお使いに行かされた挙句アベルが何故かまた女装してるしスバルは何故か貞操の危機に陥ってる。

元々社交ダンスするアベスバが描きたくて書いたのに社交ダンスしてんのまじ一瞬。
あと私が書くアベスバのスバルくん作品ごとに性格微妙に変わるのどうにかしたい。

アベルにはスバルと結ばれないとわかっていても無意識にアプローチし続けて欲しい。
ってかアベ→スバが好きすぎる。

(2025/07/14)修正

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「──はあ、何故だ」

「──もう、何回も謝っただろ。あとその格好で声出さないで?ギャップで脳がバグるから」

そう言うとこちらをキッと睨みつけてくるこの男、今は訳あって女装しているアベルが口を噤む。
グァラルでも見たが、アベルの女装は完璧なんてものではなく、最早女ですと言われれば普通に信じるし男ですと言われれば度肝を抜かれる程だ。俺も負けてないけど。

すると、アベルにスネを蹴られる。
見過ぎたかな、アベル女装好きじゃないし。

「悪い悪い、んじゃまあ犯人探しに行きますか」


▽▲▽▲▽▲▽▲


「なんだと…?」

「だーかーらー! 明日開催される社交パーティに一緒に出てくれって言ってんの」

アベルは明らかに不機嫌になり、スバルを睨んでくる。 正直まじ怖い。でもここで食さがる訳には行かない。

「違う、そこでは無い」

そういい椅子の肘掛けに肘を置き、無駄に長い人差し指を自分の頬にとん、とん、と二回叩いたアベルは、片目を瞑りこちらをじっと睨む。

「なんだよ?」

「何故俺が女役なのだ」

「だって、ヴォラキア帝国で開かれるパーティだぞ?お前がそのままで参加しちゃったら大騒ぎになるじゃん!だから、一晩だけでいいから無名の令嬢としてパートナーになってくれ!」

「断る。帰れ」

「そこをなんとか〜!」

その言葉に手のひらを合わせて懇願しているスバルを、アベルは冷めた目で見下ろしている。
そんなおっかない顔しなくても……俺ら友達だろ?!

「たわけ、誰と誰がだ」

「はあ?ナチュラルに心の声に返事してくんな!」

「なんなのだ貴様は」

そう言って溜息を吐くアベル。まあアベルが素直じゃないのは今に始まったことではない。
しかし、今回ばかりはアベルに折れてもらう必要がある。

「頼むって、ラムからミーティア回収するまで帰ってくんなってルグニカ追い出されてきたんだよ」

「何度頼まれても答えは変わらん。貴様の事情も知らん。俺は暇では無い、さっさと出ていけ」

「薄情者!鬼!馬鹿!この皇帝!」

「なんだその罵倒は、最後のは最早罵倒ですらないではないか」

なんだと、俺の悪口のレパートリーの少なさを舐めるなよ!高校生活でまともに人とコミニケーションを取ってこなかった俺に語彙の多さを求めるな!

──と、ここまでで話についていけてない人のために簡単に状況を説明しよう。
まず、スバルはルグニカで普通に過ごしていた、そしていつも通りエミリアに挨拶しようと部屋を訪れた時……

『スバル!ごめんね。今日はスバルに構ってあげてる時間が無くて…』

『ええ!俺構ってもらってたの?!まさかの事実に涙が止まらない。でもそんなところもEMT!』

『ごめんちょっと何言ってるか分からない。 …じゃなくて!私、とっても急いでヴォラキア帝国に行かなくちゃ行けなくて!』

『ヴォラキア帝国?なんでまたあんな野蛮なところに…』

王国と帝国はエミリアが王になってから暫くして終戦を迎え、今は良好な関係を築いてるはずだ。
まさか、また戦争が始まったなんて言わないよな。

しかし、そんなスバルの不安はすぐにエミリアによって拭われる。

『実は王国で管理してるミーティアの一つが盗まれちゃって。それで犯人は騎士のみんなが追いかけてたんだけど、そのまま帝国に侵入しちゃったらしくて国境にある検問の人に事情を説明している間に逃げられちゃったみたいで…』

『そんなことがあったのか…それで帝国に行くって言っても手掛かりは何かあるのか?』

『手掛かりならあるの!ほら、これよ』

そう言ってエミリアが取り出したのは、指輪のようなものだった。

『なにそれ?』

『これは人や無くし物の追跡に使うミーティアよ、ここの宝石の所に探したいモノの一部をかざすと探したいモノの位置を教えてくれるの』

『へー、便利だな』

『うん、そうなの。じゃあ、早く捕まえないとミーティアが悪用されちゃうかもしれないし、アベルにも直接事情を説明しないと行けないから』

『そっか、なら仕方ないか。ルグニカの事は俺たちに任せて、気をつけて行ってきてね』

エミリアの一の騎士の癖に何を言ってるんだと思われるかもしれないが、これには深い訳がある。

まず第一に俺は弱い。そしてエミリアはこの国の王様、騎士として何としても守らないといけない存在だ。
でもさっきも言った通り俺は弱い、一の騎士が聞いて呆れるぜ。
だからこういう一大事の時はエミリアにはラインハルトが着いていく事になっている。
そりゃあ男心としては俺がエミリアたんを守ってあげたい気持ちもあるけどこればっかりはラインハルトに守ってもらった方が安全なので仕方ない、悔しいが。

そこに俺が着いていくとどうなるかって?お手軽簡単、足手まといの完成だ。

『何言ってるの、スバルも来るのよ?』

『うぇ?』

『スバルは私の騎士様なんだから、当然でしょ?』

『え、嬉しい…じゃなくて、前に国を跨ぐ要件の時は代理でラインハルトを護衛に付けるって話しなかったっけ…』

『ええ、だからラインハルトも連れていくわ』

『ん?それって俺が行く意味は…』

『だってスバルとアベルは仲良しだから、スバルが居た方がアベルも嬉しいでしょ?』

ん?空耳かな。誰が喜ぶって?
試しにアベルが喜んでいるところを想像してみる。いや、キツイな……

正直帝国には行きたくない。エミリアとラインハルトだけで行ってきて欲しい。
それに、スバルとてとここまで帝国に行くことを拒絶しているのにはちゃんとした理由がある。

『アベルが喜ぶって、それなんの冗談?』

『冗談じゃないわよ?』

『……アベル、俺の事嫌いだと思うんだけど』

『え?それこそ冗談?』

本気で言っているエミリアには申し訳無いがこれはガチだ。スバルはアベルに嫌われている自覚があるのだ。
自分のことが嫌いな相手に会いに行くのなんて誰でも嫌だろう?

今は魔獣もいなくなって世の中平和になったし、エミリアとラインハルトが揃えばまず間違いなく死ぬなんてことは無いから、どうぞ二人で行ってきてください。頼む!

『見苦しいわよバルス』

『はっ!この声は…』

後ろを振り返るとそこには双子の片割れ、スバルに優しくない方のラムが立っていた。

『寧ろ、エミリア様はお忙しいのですからバルス一人で行ってきたらいいんじゃない?』

『え?』
『ええ?!』

スバルとエミリアは声を揃えてラムの意見に首を傾げる。

『でも、流石にスバル一人に任せるのは…』

『うんうん、俺一人は無理!』

『何を弱気なことを言っているの?エミリア様の一の騎士が聞いて呆れるわね』

『それとこれとは話が違くない?!』

『はっ! とにかくここはバルスに任せましょうエミリア様。バルスもいい大人なのだから、これくらいのお使い一人でこなせる様になりなさい』

『うーん、でも…』

『エミリア様。バルスのことを信じてみては?どうせ、こんな平和な世界で万が一なんて事も起きませんよ。それに犯人も一人での犯行であることは調査済み。毎日毎日グーダラ暇そうにしているバルスにはいいお使いでは?』

『確かに…ラムの言う通りかも』

『エミリアたん?!』

『スバルにはベアトリスも付いてるし、たまにはスバルに甘えちゃおうかしら。スバル、ダメ…?』

『え、あ、だ…だめ……じゃないよぉ?!寧ろ俺に任せて!』

好きな子からの上目遣いのお願いを断れるはずも無く。
こうやってカッコつけてしまうのはスバルの悪い癖だ、そして姉様にまんまと嵌められた。
恐らく先日姉様お気に入りの茶器を割ってしまったことを根に持たれている。給料叩いて超高い茶器弁償したじゃん!!

『それじゃあバルス、ミーティアを回収してくるまで帰ってくるんじゃないわよ』

『ええ!それはいくら何でも…!』

『いってらっしゃい』

そのまま事情を知らないベアトリスと共にルグニカを追い出された。あの後ベアトリスにも怒られた。マジごめん。

「──だから俺犯人捕まえるまで帰れないんだよ!少しは協力してくれても良くない?!」

「何故俺がそんな事に協力しなければならんのだ」

「うっ…」

そう言われてしまえば素直に引き下がらずに居られなかった。確かに今回の件でアベルには得がない。
時間は取られるわ嫌な女装はさせられるわで寧ろそれを二つ返事で了承してくるアベルがいるならばそれはもうアベルでは無い何かだ。

それに、回想でも言っていた通りアベルはスバルのことが嫌いだ、そもそも頼もうとしたスバルが馬鹿だったか。
しかし、帝国にはアベル以外にこれといった顔見知りが居ないのだ。まあ、いるにいるのだが…セシルスはそういう隠密行動苦手そうだし、プレアデス戦隊のみんなは恐らく女装似合わん。

「はあああ……仕方ない、セシルスにどうにか頼み込んでみるか」

「………」

まあ隠密行動とか無理そうだけど女装は普通に似合いそうだし、割とチョロいしで意外と何とかなるかもしれない。

そう思い踵を返して言われた通り出ていこうと歩き始めたスバルに、アベルから「待て」と声がかかる。
なんだよ、と振り返ると、そこにはそれはもう極限まで眉間に皺を寄せた顔のアベルが居た。

「……………」

「ええ…なになに。腹でも痛いのか?」

「違う。余計なことを口にするな、興が削がれる」

「ごめんじゃん…」

アベルは何かを迷っているように見える。
まさかパーティのパートナーとして出てくれるのかな、いやでもさっきまであんな嫌がってたしまさかな。

「えっと…?俺、明日の準備とかあるからもう出てってもいいか?」

「待て。もう少し…俺の気持ちの整理が付くまで待て」

「だから、なんの?」

そして沈黙、なんなんだほんとに。
そしてアベルはその気持ちの整理とやらが付いたのか、深い溜息のあと、スバルを見つめて言った。

「──今回だけだぞ」

「え…?」

「…次はない。そしてセシルスを誘うのはやめろ」

「え、え。それってもしかして一緒にパーティでてくれるってこと!? なんで急に?!」

「…何でもいいだろう。それより、対価は要求させて貰うぞ」

「うん!俺に出来ることならなんでも!」

「貴様…俺以外の前で軽々しくなんでもなどと口にするのはやめておけ」

「え?なんで?」

なんかすごい睨まれた。まあパーティでてくれるって言ってるしいっか。
やったー!これで作戦は上手く行きそう!


▽▲▽▲▽▲▽▲


そして翌日の約束の時間、多少着飾ったスバルはベアトリスと共にアベルを待つ。

「ス、スバル。きょきょ、今日の格好はいつにも増して素敵かしら」

「え?まじ? ベア子のお墨付き貰っちゃった〜!そういうベア子もそのドレスめっちゃ似合ってるぜ!天使が舞い降りてきたのかと思っちゃった!」

「ふふん。当たり前かしら」

ベアトリスも髪型を変え、ドレスもいつものとは少し違う大人っぽいものにしてもらっている。
多少は大人のお姉さん感が出ているだろう。うん、多少はね。

「──おい」

そうしてベアトリスを褒めていると、前から不機嫌丸出しのオーラを纏った人物が近づいて来るのを感じて顔を上げる。

「ああ、アベル。やっと来……」

しかし、スバルはアベルの姿をみて思わず固まる。
それもそのはず、そこには顔、スタイル、どちらをとっても完璧な美女が立っていたからである。

わかっていたことだ、グァラルで見たアベルもめちゃくちゃ可愛かったし。

──でも、でも!!

「──悔しい…!」

「何がだ」

「俺も女装にはそれなりに自信あるのに!」

その言葉にアベルはドン引きしていた。
ベア子もちょっと引いてた、そんな目で見ないで!

「見てくださいよボス!閣下ってば実は女の子だったんですかね?」

「あれ、セシルスも居るの?」

すると、アベルの後ろからひょこっと顔を出したのはヴォラキアでも数少ない顔見知りであるセシルスだった。

「念の為の護衛だ。気にするな」

「もー!花形役者である僕をこの扱い!でも嫌いじゃないです、むしろ好き」

「あーね。確かに女装してるとは言え何があるかわかんないしな」

スバルはアベルの言葉に納得し、早速四人で竜車に乗った。
移動中はずっとセシルスが喋りっぱなしで特に気まずくもならずに移動できた。
こういう時あいつは役に立つな。

「着いたな」

「スバル、ここからは別行動かしら。ベティとセシルスは影から二人を見守ってるのよ」

「うん。じゃあまた後でな」

今回ベアトリスと別行動なのは、スバルとベアトリスが一緒にいると正体がバレる可能性があるからだ。犯人は王国の人間なので当然王騎士であるスバルの顔とその相棒であるベアトリスの顔は割れているだろう。なので今回は目元だけの仮面を被りカモフラージュをした状態で別々で行動しようという訳だ。
まあ、相方が見つからなければベアトリスとペアで入場する他なかったが。

そうこうしていると、ベアトリスはセシルスと共に先に屋敷へ入っていく。
俺達も行くか、とアベルを振り返れば、とても不服な顔をしていた。

「はあ、何故俺がこんなことを…」

「も〜ごめんって。あと会場入ったら喋るなよ?お前声がもろ男なんだから絶対不審がられる」

するとアベルはこちらをキッと睨んでくる。
美女の鋭い視線はとても怖いが、口を噤んでくれたところを見ると一応協力してくれるらしい。

「よし、それじゃあ犯人探しと行きますか」


▽▲▽▲▽▲▽▲


そのまま会場に潜入することに成功したスバルは早速薬指に嵌めていた指輪の反応を探る。
──しかし……

「うーん。確かに反応してるのに、人が多すぎて誰に反応してるのかわかんねぇ」

パーティは始まったばかりなのか、人で溢れかえっている。
特にあそこなんて人集りが……

「うわっ」

自然と視線を人集りの方へ向ければそこにはスバル達よりも早く会場に入っていったセシルスの姿があった。
相変わらず、人気者の名は伊達ではない。そんな人混みに揉みくちゃにされているベアトリスの姿が目に入る。

助けに行きたいが、今は任務を優先しなくては……許せベア子!

「──おい」

するとアベルが小声でスバルに耳打ちしてくる。
突然耳元で囁かれたスバルは「ひゃん!」とあられもない声が出てしまう。
それを聞いたアベルにドン引きされている。

これまえフェリスにもやられたな、傷つくからその顔やめて?

「な、なに?」

「…犯人は見つかったのか」

「いや、まだ。反応はあるから確実にこの中にはいるんだろうけど…」

「早くしろ」

アベルにそう睨まれ、はいはい、と指輪の反応を頼りに辺りを怪しまれない程度に観察する。

そして、それから数十分後、やっとの思いで犯人を三人まで絞ることができた。
しかし、犯人を探すことに集中していたスバルは、気づいたら先程まで隣にいたアベルの姿が消えていることに気づき辺りを見渡していると、色んな男性に囲まれながら真顔で無視を決め込んでいるアベルの姿が目に入る。

途中で囲まれて抜け出せなくなったのか。全然気づかなかった。 それにしても、囲んでる人達はパートナーどうした?
まあ、傍から見たらただの美女だからなアイツ。男の人が言い寄るのも納得だ。アベルには悪いが、あのまま少し待っててもらうしかない。

そして、三人がそれぞれ別の方向にいる時に指輪の反応を見て、遂に犯人を特定することに成功した。
犯人は金髪にこれまた顔の整っている男だった、なんかムカつくな。

「よし、これでアイツを捕まえれば帰れる──って痛っ!」

突如感じた横腹の痛みに慌てて振り返れば、そこには人一人ぐらい簡単に殺せるんじゃないかってぐらい目つきを鋭くしてスバルを睨んでいるアベルが立っていた。
スバルはその視線と圧に、やばい、めっちゃ怒ってる。と、先程までアベルが囲まれていた場所をちらっと見る。

「ヒェッ…」

そこには先程までアベルを口説いていた男たちが何故かスバルを睨んでいる姿があった。なんで??
すると、アベルがすっ、とスバルに右手を差し出してくる。

「え、何?」

「………」

「……えっと、まさか踊れってことじゃない…よな?」

するとアベルは、スバルの問に静かに顎を引く。
合ってるんかい。ってかなんで??

しかし、ここは社交界の場だ。男が女の人の誘いを断るなど、アベルに恥をかかせてしまう。
ここは素直にアベルの手を取るしかない。

「俺ダンスには自信ないけど、怒るなよ?」

そうこっそりアベルにだけ聞こえるように呟き、その場に跪つくと、アベルの手を取る。

「──ふむ」

そのスバルの行動に一瞬驚いた様子のアベルだったが、直ぐにこちらに合わせてくれる。

すると、そんなスバルとアベルに合わせたかのようにその場に音楽が流れ始める。
その音楽に合わせ、スバルはアベルの手を取りステップを踏む。
それに合わせアベルを軽くステップをとり始める。

「貴様にダンスの心得があったとはな」

ふと、アベルが小声で話しかけてくるのでスバルも小声で返す。

「ああ、前にエミリアと踊った時はそりゃもう酷い有様だったから。それから猛練習したんだよ」

誰かに聞かれるかも、と少し不安だったが音楽のお陰もあって誰にも聞こえていないらしい。

「それにしても、なんで急に?」

「そこな凡夫らがしつこく誘ってくるのでな、不快だったので貴様を使った。それだけだ」

「うわあ、だから俺あんな睨まれてたんだ。まあお前めっちゃ美人だしあの男の人たちの気持ちもちょっとわかるけど」

「不快なことをを口にするな。大体、この姿を褒められようと、何とも思わん。寧ろ不快だ」

「はいはい、ごめんごめん」

スバルの返事が気に入らなかったのか、アベルはわざとスバルの足を踏んずけてくる。
めっちゃ痛い、謝るからやめて。
それにしても、まじかで見れば見るほど顔が整ってるなほんとに。
何食って生きてたらこんな顔になれんだろ…と暫くアベルの顔を見つめているとそれに気づいたアベルが眉を顰める。

「なんだ」

「いや、綺麗だなあと思って」

「…貴様。いや、いい」

アベルは何かを言いかけると、そのまま溜息をつき再びダンスに集中していた。
そのまま音楽はクライマックスに差し掛かり、それに合わせてスバルとアベルも最後にはポーズを取る。
これがなかなかバランスを保つのが難しいのだがアベルの体幹がいいのか、今回はそこまで苦戦しなかった。
そしてダンスも終わりお互いにお辞儀をする。

すると、至る所からパチパチと掌を叩く音が聞こえて来たので振り返ると、気づいたら何故か注目されている。
まじか、全然気づかなかった。
それほど長く踊っていなかったと思うが、これはまずい。
すごい目立ってしまっている。
無意識に犯人の方を見てしまう、するとソイツと目が合った。

(やべっ)

しかし、その男はスバルの視線に意味深に微笑むと、直ぐにスバルから視線を外した。
よかった、まだバレてないっぽい?

「──あいつか」

そして、気づいたらすぐ側まで来ていたアベルがスバルの視線を顎で指し、そう尋ねてくる。

「うん。アイツで間違いないと思う」

「…そうか」

「おい、あんまジロジロ見るなよ。怪しまれるだろ」

「──貴様。一人で行動するなよ」

「?わかった」

スバルの答えに、犯人の方を凝視していたアベルは視線を外しそう言うと、自然にスバルの隣に並んでくる。

「ん?ダンスも終わったしそんなくっつく必要ある?」

「ああ、虫除けだ」

「虫除け?あー」

アベルがなんのことを言っているのか分からずここら辺虫出んの?と辺りを見渡すとチラチラとアベルを見ている男の人たちが目に入る。
恐らくスバル達のダンスを見て次のダンスにアベルのことを誘おうとこちらの様子を伺っているらしい。
アベルはその視線に心底鬱陶しそうな顔をした。

「でもこのままだと犯人見失いそうなんですけど」

「なら俺を置いていくか」

「それは…。あーもうわかったわかった。パーティが終わるまではくっついてるから。流石に逃げられたら困るし終わった後はちょっと離れるぞ」

そう言うとアベルは当たり前だと言わんばかりにスバルの腕に自身の腕を絡ませてくる。
アベルってベタベタ触られるの嫌いなタイプじゃなかったっけ?

「あの…」

「ん?俺達?」

「貴方達って言うか、あんたの隣にいる女性をダンスに誘いんだけど」

わーお、心鋼なのかこいつ。
美女にこんなあからさまに嫌そうな顔されてるのにダンス誘ってるよ。

っていうかこのパーティ、パートナーと参加のやつだよね?さっきから思ってたけどこの人らは自分のパートナーそっちのけでアベルにアタックしてんのか?

「ねえ、もし良かったら僕と踊らない?」

「あの、申し訳無いけどこの子そういうのは……」

「は?お前に聞いてないんだけど。ってか大体なんでこんな冴えないやつとこんな綺麗な子がパートナーなわけ?」

「そんなことを言われましても…」

ええ、めっちゃ急に豹変するじゃん。
ってか、冴えない奴って俺の事だよな?普通に傷つくんですけど…。
そんなことよりもアベルめっちゃキレてるんだよなさっきから。ここで男だってバレたらまずいからどうにか宥めないとなんだけど……

アベルは声を出せないしどうしようかな、と頭を悩ませていると突然男の顔面に水のような物が飛んでくる。

「──ぶっっ!? ああ?!誰だ俺の顔面に酒ぶっかけやがったクソ野郎は!?」

「あ〜すいませんすいません。つい手が滑ってしまいました。でも、その方が貴方にはお似合いでは?」

「はあ?! どこの誰だか知らねぇがふざけんのも大概……に…」

「わあ!この国で僕の事を知らないなんて珍しい方ですね!これも僕がまだまだ未熟な証拠!では今日、是非覚えて帰ってくださいね」

「あ、あ、セシルス・セグムント一将が何故ここに…」

どうやらセシルスが助けてくれたみたいだ。後ろには今にもミーニャを男に浴びせようとしているベア子の姿がある。
怒ってくれるのは嬉しいけど、落ち着いてベア子…!人を殺めるのはまずいって…!

「あれ、僕の事知ってるんですか?それは良かった、自己紹介の手間が省けました。それで、さっき遠くから聞こえてきたのですが、嫌がっている女性を強引に誘うのはいかがなものかと」

「そ、それはその…!」

「それに貴方にもパートナーが居るはずでは? 他の女性を口説く前に自分のお相手をエスコートしてあげてはどうです?」

「はい!そうさせて頂きます!!」

セシルスが、ね?と圧力をかけると、男は颯爽と逃げていった。
その後恐らくパートナーであろう女性に平手打ちまでされていた、踏んだり蹴ったりだなあいつ…

「ごめんセシルス、助かったわ」

「いえいえ!とんでもありませんよ!それに、美女のピンチに駆付ける僕も中々絵になると思いませんか?」

「あはは…確かに、今のセシルスは俺でも惚れちゃいそうだったかも」

そう口にした瞬間右足に激痛が走る。
声にならない悲鳴を上げ、なんで?!と右足を見下ろすと、アベルの足が故意的にスバルの右足を踏んでいる。
これさっきもされたやつ!普通に痛いからやめて!

「ごめんごめん!俺なんかした?!」

「あー、僕は飛び火が怖いので失礼しますね〜」

「今のはスバルが悪いかしら」

「ええ?!何の話…って痛たたた!謝るから足どけて?!」

「…………」

アベルは何が不服だったのかそれから機嫌がすこぶる悪かった。
スバルはそんなアベルとの二人きりが気まずくて、「ちょっとお手洗い」と言い残し会場の外に出る。
アベルは何か言いたげだったが、声が出せないことをいい事に無視してきた、許せ。

「ふう」

会場の外に出ると少し肌寒い風が吹いていた。
ヴォラキアに来てから一日とちょっとしか経っていないのにとんでもなく長居した気分だ。
とっととミーティアを取り戻してルグニカに帰りたい。アベルからの視線も怖いし。

「あれ、そういえば盗まれたミーティアって…」

「──こんばんは」

なんだったんだろう、と口にしようとしてその言葉が誰かの声に掻き消される。
誰だろう?と振り返りスバルは目を見開く。

そこに居たのは先程スバルが犯人だと判断した男だった。

「…こんばんは」

「あれ、もしかして警戒されちゃってる?」

警戒するに決まってんだろ。ってかなんでわざわざ話しかけてきたんだ?もしかしてスバルが王国からの追っ手だとバレたのだろうか。
それとなく探りを入れてみるか、危なくなったら直ぐにベアトリスに信号を送ろう。

「あー、俺になんか用すか?」

「ああ、うん。君のパートナーすっごく綺麗な人だよね。恋人?」

「……もしかして狙ってます?ならやめておいたほうがいいですよ。あいつそういう男大っ嫌いなので」

あー、こいつもアベル狙いね。
ほっと胸を撫で下ろす。バレた訳ではないらしい。
それにしてもあいつモテすぎじゃないか?俺だって女装してればこれくらい……

「いや、狙っているのは彼女の方じゃなくて」

「え?」

アベル狙いじゃない?だったら誰狙いだよ。
スバルが男の言葉に首を傾げていると、男の腕がすっとスバルの頬に触れた。

「………は?」

驚きのあまり取り繕うのも忘れて素で声が出てしまう。
もしかして、こいつ……

「──ねえ、このまま二人で抜け出さない?」

「…………」

絶句した。こいつ、もしかして俺の事口説いてんのか?
は?趣味悪すぎだろ。ってかこの状況かなり不味いのでは。

そういいながらこちらを品定めするような目で見てくる男に吐き気をもようす。
まずいまずいまずい、とにかくこの状況をどうにかしなくては。

「えっと、悪いけどあんたに興味無いから。俺、そろそろ会場戻……」

すりすりと許可もしてないのに勝手に頬を撫でてくる男の腕を振りほどき踵を返そうとするが…

「まって!そんな事言わずに、悪いようにはしないから」

「ひっ…」

振り返り会場に戻ろうとした腕を強引に掴まれる。
やばい、どうしよう。
そうだ、こういう時は大声を出して助けを呼ばないと、

「だ、誰か──」

しかし、叫ぼうとした口も強引に塞がれる。
なんだこいつ、ってか力強すぎだろ。

スバルは男をキッと睨みつけ必死に抵抗するが、掴まれた腕も塞がれた口も一向に振り解ける気がしない。

「あはは、いいね。そういう顔嫌いじゃないよ」

男は必死に抵抗するスバルを押さえつけ顔を恍惚とさせて笑っていた。
クソっ!この変態野郎!離しやがれ!
せめて誰かがここを通れば…。
しかし、そんなスバルの願いも虚しくいつの間にか物陰の方まで来ていたらしく、人っ子一人通らない。

「さっき一目見た時から君のこといいなって思ってたんだよね」

「んー!んん!!」

「あはは、なんて言ってるか全然分かんないや。ねえ、これなんだからわかる?」

「っ…!」

すると男が懐から取り出したの恐らく王国から盗んだであろうミーティアだった。
スバルはそれを見て、やっぱり犯人こいつじゃねぇか!と未だ男を睨みつけながら。ふと、何故今それを見せてくるのかと疑問に思う。

「まあ知らないよね。これはね、首に嵌めると、嵌められた人は嵌めた人の言うことなんでも聞いてくれるようになるって優れもののミーティアなんだって」

「んん~!?」

なんだそのとんでもねぇミーティア!?誰だ作ったやつ!!
スバルは何故今この瞬間に男がそれを見せてきたのか察して、いやいやと首を振る。

「僕、昔から男の人が好きだったんだ。でも誰にも理解されなくて。だから運命の人をずっと探してたんだ」

男はそう言うとスバルに馬乗りになり口を塞いでいた手をパッと離すと右手でスバルの腕を拘束し、左手でミーティアを持つ。

「お前…!こんなことしてただ済むと思ってんのか!」

「済まないだろうね、でもこれがあればどうだろう?」

そう言うとスバルに見せつけるようにミーティアに視線を移す。

「これがあればあとは運命の人を見つけるだけで良かったんだ。今日はこの屋敷にきて良かった、君に会えたから」

「やめろっ…!」

男は訳の分からないことを口にしながらスバルに顔を近づけてくる。
すると、そのままスバルの首筋に舌を這わせた。

気持ち悪い。首にねっとりとした感覚が残りスバルは涙目になりながら男を見上げる。

「そんな顔して、可愛いなあ。大丈夫、すぐに僕のものにしてあげる」

そう言うとスバルの首にミーティアを嵌めようと男の手が伸びてくる。

……怖い、嫌だ、誰か…!

「た、助け…」

「──ぐあぁっ!」

すると、今にもスバルに首輪を嵌めようとしていた男が凄い勢いで吹っ飛んでいくのが見えた。
何が起きたのか分からず呆然としていると「スバル!」と聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、無意識に今まで我慢していた涙が溢れた。

「たわけが!帰りが遅いからと見に来てみれば、貴様は…!」

「あ、あべる…ごめっ…」

「っ…泣くな。貴様に怒っているのではない」

アベルが来てくれたことへの安堵でポロポロと流れる涙を目にしたアベルが目を見開き、そっと流れる涙を拭ってくれる。
それから直ぐに先程蹴飛ばした男に目線を移す。

「だ、誰だよお前!邪魔をするな!」

「一時的とはいえ、この男は今宵俺のパートナーだ。貴様が何者かなど興味もないが、俺のモノに手を出してただで済むとでも?」

「はあ?!ってかお前、男…?いや、まさかお前…」

アベルの正体に気づき顔を青ざめる男を無視して、アベルは何処から取り出したのか分からない護身用のナイフを男に向ける。
スバルは二人のやり取りを呆然と眺めていたが、アベルがナイフを取り出した辺りで正気に戻り、今にも男を切り殺そうとしているアベルに待ったをかける。

「ま、待てアベル!流石に殺すのまずいって!」

「なに?……貴様、正気か?」

「正気も正気だよ!お、俺は大丈夫だから。だから、殺しちゃダメだ」

「……そんな姿で、よくそんな言葉を口にできるな」

「え?」

「気づいてないのか。震えるほど怖かったのだろう。 何故止める」

アベルは心底理解できないといった顔でアベルの行いを止めようとするスバルを訝しむ。
スバルはアベルの言葉で初めて自分が震えていることに気づく。情けなくて恥ずかしい。

「……だって、アベルが人を殺してるところとか見たくないから…」

でも、アベルがスバルのせいでに人殺しになるのは嫌だった。だから、柄にもなくアベルの前でそんな弱々しい声が出てしまったのは仕方ないことだ。

「──おい、お前」

「な、なん…」

「命拾いしたな、だが次はない」

アベルは最後に男にそう言うと蹴り飛ばされた拍子に飛んで行ったミーティアを拾い上げ、スバルに手渡す。

「貴様の目的はこれであろう。後処理はセシルスに任せ一度屋敷に戻るぞ」

「う、うん」

アベルに手を引かれるがまま歩く、そのまま会場の入口で姿の見えなくなったアベルとスバルを待っていたセシルスとベアトリスに事情を説明する。

「な…!?──その男はどこにいるのよ。今すぐ八つ裂きにしないと気が済まないかしら」

「ベアトリス、俺は大丈夫だから落ち着けって」

「そんなに目を腫らしてよく言うかしら!だからあれほど気をつけろと言ったのよ!」

「今回に至っては言い訳の余地がねえな。ごめん」

「…セシルス、わかっていると思うが」

「あーはいはい。言われなくてもわかってますよ」

すると、セシルスとアベルも何やら話し合っているみたいだった。
アベルの鋭い視線に降参のポーズで手を上げたセシルスはスバルの視線に気づくとわざわざ近づいてきて頭を撫でてくる。

「なんだよ」

「いえ、さぞ怖かったでしょう。安心してください、あの男はこちらでしっかり処理しますから」

「うん、なんか悪いな」

「ボスが謝ることじゃないですよ。それでは僕は閣下にお使いを頼まれているのでこれで」

「あ、セシルス!色々ありがとな!」

そう声をかけると後ろ手でブラブラと手を振られる。

そんなセシルスを見届けたあと屋敷に帰ってきたスバルとベアトリスとアベルはまずお風呂に入り、その後スバルだけアベルに呼び出されていたためベア子と離れてアベルの自室まで歩く。


▽▲▽▲▽▲▽▲


扉をノックすると直ぐに「入れ」と一言だけ声をかけられ遠慮なく扉を開け中に入る。

「お邪魔します」

一応声をかけるが、普通に無視される。
すると、いつもの仕事机ではなくベッドの端に腰掛け、既に女装を解き寝間着状態のアベルと目が合う。

「あれ、仕事終わったの?」

「ああ、今日の分は予め終わらせている」

「そっか」

スバルは、何故か寝間着でベッドの端に腰掛けているアベルを不審に思い、なんで俺呼び出されたんだろうとなんとなく考えているとアベルから「おい」と声をかけられる。

「え、なに」

しかしその後にアベルから続く言葉はなく無言でスバルを見つめていたかと思えば自分の隣をポンと叩く。
もしかして隣に座れって言ってる?なんで?
暫くスバルが首を傾げているとアベルの目つきが鋭くなる。

「え、逆に座っていいのかよ」

「俺がいいと言っている」

「あ、そう」

アベルがそう言うので遠慮なく隣に座る。
これ以上機嫌悪くなられても困るし。
そして無駄にでかいアベルのベッドはとてもふんわりしていて座り心地が非常にいい。毎日ここで寝られるとか最高かよ。

「で、何?」

「何処を触られた」

「え?な、なんで?」

「なんでもだ」

アベルの問いかけにスバルは口篭る。
要件ってこれ?なんでそんな恥ずかしいことをアベルに教えないといけないんだよ。

「やだ」

「やだでは無い。言え」

「やだったらやだ!」

「…パーティーに行く前にした約束を覚えているな?」

「へ?」

頑なに口を割らないスバルにアベルが眉を顰め、そんなことを聞いてくる。
パーティに行く前、パーティに行く前?何か約束しただろうか。

「貴様は俺にまだ対価を支払ってないだろう」

「あ、あー」

アベルの言葉に、そういえばそんなことも言ってたなと思い出す。

「対価はそれでいい」

「え」

「何処を触られたか答えろ」

「な、何か違うのに…」

「何でもと、そう言ったのは貴様ではなかったか?」

アベルの言葉にアベルの忠告を思い出す。なんでもなんて気軽に言うべきではなかった。

「まさか今更取り消すなどと言うまいな」

「うう、わかった!わかったからちょっと待って…」

一旦アベルに離れて貰い、深呼吸する。
くそ、めっちゃ恥ずかしいんだけど!

「──えっと、確か最初に頬を撫でられて、」

「…続けろ」

「その後逃げようとした時に腕を掴まれて、その後押し倒された時に胸を触られたのもか?……なあ、これほんとに全部言わないとダメ?!」

流石に恥ずかしくなってきてそうお願いするが、アベルはそれを許さず感情の読めない顔で「続けろ」とだけ言ってくる。
クソ〜〜!!

「っ…その後、馬乗りになられて、く…く…首舐められた…」

スバルの言葉でその場の空気が凍りつくのを感じる。
だから言いたくなかったのに!アベル絶対引いてるじゃん!
そもそもなんでこんなこと聞いてくるんだろう、とアベルの方を見れば一切の感情が抜け落ちたアベルの顔が目に入る。

「え?おーい、大丈夫か?どうした?もしかして俺の話がキモすぎて引いてる…?」

「違う、少し待て」

そう言うとアベルは頭を抱えため息を深く吐いた。
やっぱ引いてない?だからヤダって言ったのに…

「だから話したくなかったのに…」

「…触れてもいいか」

「え?」

すると、アベルが真剣な顔でそんなことをお願いしてくる。
聞き間違いか?聞き間違いだと思う。

「なんて?」

「触れてもいいかと聞いている」

「…なんで?」

聞き間違いじゃなかった。だったら尚更なんでだよ。
するとアベルが「嫌ならいい」と言ってくるので、思わず

「別にいいけど…」

と、口にしてしまった。
もしかしたら選択を間違えたかもしれない。

しかし、それを聞いたアベルの腕がすかさずスバルの頬に触れる。

「ん、なに?」

「不快か?」

「いや、別に」

いちいちこちらの反応を気にするなんて実にアベルらしくない。もしかしてスバルに気を使っているのだろうか?
確かにさっきはびっくりしたけどもう落ち着いたし大丈夫なんだけどな。
しかし、珍しくしおらしいアベルが面白くて何も言わないでおく。

それにしても、俺は今何をされているんだろう。

「……楽しい?」

「いや」

「ならなんで触ってんの?」

スバルの言葉にアベルの手が止まる。
そしてこちらに視線を向けたかと思うと、ふっと意味深に微笑む。
うわ、その顔は何か企んでいる時の顔だ。嫌な予感がする。

そしてそんなスバルの勘は的中してしまう。

「え…ひょえええええ!」

「なんだその間抜けた声は」

「ひっ…おま、そこで喋んな!」

何故かアベルに首筋を舐められている。え、なんで?
思わず素っ頓狂な悲鳴をあげてしまったスバルだったが、くすぐったい感覚に思わずアベルの肩に縋ってしまう。
アベルはそれを咎めるでもなく、未だにスバルの頬を撫でていた腕を舐めているのとは逆の首に添えた。

「ちょ、くすぐったいんですけど! 何してんの?!」

「上書きだ」

「はあ?!なんの?!」

しかし、それ以上アベルからの返事はなく、スバルはその夜アベルが満足するまで首筋をぺろぺろと舐められていた。

お前は猫か!!!



▽▲▽▲▽▲▽▲




「──あーあ、ボスも可哀想ですよねぇ。閣下に目をつけられるなんて」

そう思いませんか?と質問してくる目の前の男に、恐怖でガタガタと体を震わす。

「それにしても貴方見る目はあるみたいですね。まあもうすぐ死んでしまいますが」

あの後、運命の人と引き離された俺は、突然目の前に現れたこの男にここまで連れてこられ、死なない程度に拷問された。
その時の傷が痛くて、まともに息すらできない。
なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ、俺はただ運命の人と結ばれたかっただけなのに…

「まあ相手が悪かったとしか言いようがありませんが。何せボスは閣下のお気に入りですから」

「──おい、余計なことは言うな」

「あ!閣下!やっと来てくれたんですか、あと少し遅かったらもう僕が殺しちゃうところでしたよ」

すると、扉の奥からもう一人入ってくる。
俺はその顔をみて唖然とすることしかできない。

「な、なんで皇帝が…」

「…貴様に教えてやる義理はない」

すると、皇帝は空から紅く輝く剣を抜き取る。

「なんで、なんで邪魔するんだよ!」

「…邪魔だと?」

「ああ、そうだ!!俺はただ運命の人と幸せになりたいだけなのに…!なんでどいつもこいつも俺の邪魔をするんだ!こんなのおかしいだろ!?」

その言葉に皇帝も青髪の男も何も答えなかった。
代わりに、皇帝が俺の首に剣の先端を向ける。

「──貴様、何か勘違いをしているようだな」

「は…?」

「ナツキ・スバルの運命は貴様ではない。あの青髪の娘でもなければ精霊の娘でもなく。──俺でもない」

「なにを、言って…」

「ナツキ・スバルの運命はあの娘ただ一人であり、手に入れることは叶わん」

それから皇帝は宝剣を構え、男を冷たく見下ろすと…

「最も、貴様にはもう関係の無い話だがな」

「ま──ッッ!!」


……
……………


「──相変わらず容赦ないですねえ」

動かなくなった男を見下ろし、そうセシルスが皇帝を評価する。

「ふん、このような凡夫にかけてやる情けなど俺には微塵もないからな」

「その割にはあの場で殺さなかったんですね」

「……あいつが駄々をこねるからだ」

そう言って陽剣を空の鞘に納めた皇帝は、恐らく未だに皇帝のベッドを占領して爆睡しているであろう男に、思わずふっと笑みがこぼれる。

「…うわあ、ほんと丸くなりましたよね閣下。丸くなったというか、もう怖いです」

「そうか、ゴミ処理は任せたぞ。俺は寝る」

「ああ!都合が悪くなったらすぐそういうこと言う!僕も徹夜なんですけど?!」

煩く騒ぐセシルスを無視して、疲れて寝ているであろう男は、朝起きた時どんな反応を見せてくれるのか。
珍しく機嫌のいい皇帝の後ろ姿に、セシルスは深いため息を吐いた。




終わり。

Comments

  • 侍@アイコン変更

    大好きすぎる🥲

    Feb 22nd
  • Lu
    February 20, 2025
  • min
    February 15, 2025
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