「急に録画が止まる」事故物件のオバケ調査 不動産ベンチャーの挑戦
過去に殺人や自殺などがあった部屋に幽霊はいない? そんな「オバケ調査」を不動産ベンチャーのカチモード(東京都新宿区)が始めた。取引先に告知をしなければならず、不気味さから取引価格が相場よりも安く設定されがちな事故物件に、本来の価値を取り戻す狙いがある。
不動産取引では、殺人や自殺のほか、孤独死などで長時間放置されて遺体が腐敗して特殊な清掃が必要になったケースなどは、買い主や借り主に事項を告げなければならない。賃貸物件では、事故発生や発覚から3年間、売買物件は原則無期限の告知義務がある。心理的に抵抗を感じる恐れがあり、取引の判断に影響を及ぼす可能性があるからだ。
オバケ調査は、オーナーや管理会社からの依頼を受けて、マンションや戸建て住宅で事故の状況や室内、共用部、設備などを確認し、異常が無いか調べる。カチモードの代表、児玉和俊さん(46)が物件に赴き、午後10時から翌午前6時までの8時間、室内で機材を使って行う。ビデオカメラとICレコーダーを設置して記録するほか、大気圧や湿度、電磁波、風力、温度変化などを調べる。
英国で用いられているやり方を参考したという。1回あたり8万8千円(税込み)で、異常の有無を報告書にまとめる。
「なぜか急に録画が止まったり、音声が入らなくなったりすることがある」と児玉さんは言う。
「1時間ごとに機材が作動しているか確認し、その時に私自身の姿もカメラに映しています」
原因不明の異常が検知
児玉さんは2022年12月、カチモードを起業した。賃貸不動産の管理会社で15年間勤務し、多くの事故物件に接してきた。人が亡くなった部屋を特殊清掃やリフォームで見違えるほどにきれいにしても、なかなか借り手が見つからず、家賃を下げて入居者を募らざるをえないオーナーの姿を目の当たりにしてきた。入居しようとする人が感じる気持ち悪さを解消すれば、物件の価値を下げなくてもすむのではないかと、児玉さんが思いついたのが「オバケ調査」だった。
起業して3年余りでこれまで200件余りの相談を受け、80回ほど泊まりがけで調査を行った。そのほとんどが異常なしで終わる。ごくわずかに原因不明の異常が検知されるが、そういったケースでも温度変化による建材のきしみや水道管の水圧で起きる音などと判明することがほとんどだ。異常が何度も検知される一部の物件は借り上げて調査を続け、原因を探っている。児玉さんは「そういう部屋は、逆に大変珍しい物件で研究者も注目する希少性があり、価値がある」と強調する。
調査しても事故の告知義務はなくならないが、不動産情報サイトではオバケ調査済みとうたう物件も出始めた。児玉さんは「入居する人に何もないから大丈夫と伝える際の付加価値になりうる」と話す。オーナーから「報告書を出したら、すんなり契約がまとまった」「もう一度物件を活用しようと背中を押してもらえた」といった声も届いているという。
物件で起きる現象を研究対象にしている明治大学情報コミュニケーション学部の小久保秀之兼任講師は「物件で死人が出たとネット上に一度書かれると半永久的に残り、それを消すのは難しい。そんな悪評を打ち消す効果も期待できる」と話す。
「娘がオバケ?」憤る遺族から感謝の言葉
調査の過程で、遺族に連絡を取ったことがある。東京近郊のマンションで命を絶った女子大学生の父親だった。当初は「娘がオバケになっているとでもいうのか」と激怒された。それに対し、児玉さんは家賃を下げざるを得ない状況を説明し、「物件を紹介するときに、大切な娘さんのことを気持ち悪がられている。オバケを見つける調査ではありません。何も異常がない部屋と証明したい」と説得した。父親は納得し、「調査で何かが出たなら、いの一番に教えてください」と言われた。それは娘だから。「その部屋は一生借りるよ。そこにいれば、娘に会えるんだから」と電話口の声はかすれていた。
2週間後、児玉さんが伝えた結果は、「異常なし」だった。「娘はいなかったんだね。それが分かっただけでもよかった」と感謝された。月命日のたびに現場に足を運び、手を合わせていたと聞かされた。「生前いろんなことがあったのに、亡くなってからもその場所から動けなくなるのはかわいそうだと思っていた。成仏したかどうかはわからないけど、これからは仏壇で手を合わせるだけにする」
児玉さんは言う。「赤の他人だから、オバケが出るかも知れないと気持ち悪く感じるが、誰かにとっては『大切な人』。調査を通じて理解を促すことが、借り手や買い手への心理的な抵抗を和らげることにつながるのではないか」
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- インベカヲリ★写真家・ノンフィクションライター視点
私もボロ家を渡り歩いているので、引っ越して一番気になるのは、オバケが出たらどうしようということだ。 オバケは見えないし、誰のせいでもないし、大家にも言いづらい。それでいて「物が壊れる」「ラップ音がする」「金縛りにあう」など、実害が出るだけに、住む側にとっては結構なストレスだ。不動産を探す際、こうした業者がいてくれたら、これほど安心なことはない。 それにしても、実際にオバケ調査で異常が検知されると、「研究者も注目する希少性があり、価値がある」というのは面白い。 オバケ付き物件が付加価値として認識されるようになれば、大家さんも積極的に依頼するようになるかもしれないし、住みたい人と住みたくない人がそれぞれ選べるようになって、いいことだらけだ。
2026年6月3日 16:25 - 辛酸なめ子漫画家・コラムニスト視点
「オバケ調査」ありそうでなかった画期的な調査だと思ったら、イギリスでは行われている手法なんですね。さすがスピリチュアル先進国。 娘さんが亡くなった部屋の調査でのお父さんとのやりとりが感動的でした。恐怖の対象というのではなく、家族にとって大切な存在だとオバケに伝わったら、成仏へと促されそうです。全ての事故物件や肝試しスポットにも言えること。怖い、気持ち悪い、という意識で行ったら霊に対しても失礼になるので、気を付けねければと思いました。
2026年6月4日 00:03