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罪と罰は不仲である/Novel by 春風

罪と罰は不仲である

4,662 character(s)9 mins

エミリア達とは合流するか分かりません。
書いてるうちに「今!!」ってなったらさせるかもしれませんけど。
菜穂子さんたちには夫婦水入らずで愛息子の悲劇を見てほしい気持ちもありますし……。
それに、ロズワールとかガーフィール、kill経験者が危ないですね。
殺されても文句言えませんよ。
殺されたら文句言えないか……

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『待ってくれ。――サテラ!』
『無視、しないでくれ。いなくなったのは本当に俺が悪かった。でも、俺もわけがわからなかったんだ。あのあとも盗品蔵まで探しにいったし、それでも会えなくて……』
『ごめん、自分のことばっかだ。……でも、無事でよかった』
『あなた……』
『どういうつもり――?』

​───────​───────​─────

「……え」
菜穂子が、顔を上げる。
どういうつもり、と彼女は言った。
でも、彼女は自分の名をサテラだと、そう名乗ったのだ。
「どういう、」
菜穂子の瞳が大きく揺れる隣で、賢一は最悪の可能性を思案していた。

​───────​───────​─────

『誰だか知らないけど、人を『嫉妬の魔女』の名前で呼んで、どういうつもりなの!?』

『誰に言われたのか知らないけど、タチの悪い趣向すぎる。乗る方も乗る方よ。――禁忌の象徴、『嫉妬の魔女』。口にするのも憚られる、そんな名前を呼び名に選ぶなんて』

『――用がないなら行くわ。私も暇じゃないの』

​───────​───────​─────

「嫉妬の魔女……?」
魔女、と呼ばれるのだからそれなりに悪い立場の人間だろうか。
彼女の反応を見るに、彼女の名前はサテラではないのだろう。
なら、余計に分からない。何故、何のためにあんなことをしたのだろうか。
「……禁忌の象徴──か」
その言葉に、賢一は眉を寄せる。
「……昴……」
逃げて欲しい、とそう祈った。

​───────​───────​─────

『いい加減にしろよ!性懲りもないにもほどがあんだろうが!』
見飽きた三つのがん首に向かって、スバルは地面を踏み鳴らして苛立ちをぶつける。三度目の邂逅、その全部が路地裏で三対一の状態だ。一度目、二度目とあれだけ徒労でしかない結果を迎えながら、それでもスバルを獲物にする彼らの執念深さには驚嘆する。状況が状況でなければ、拍手のひとつでもしてやったかもしれないが、
『今はお前らに構ってる暇がない。落ち着いたら相手してやるから、そこを通せ』

『あれ――?』
『なん、で?』
この世界へ放り込まれて以来、初めて口にした食べ物であり、盗品蔵でロム爺の憤激を和らげるのに大いに役立った外交手段であり、その結果として中身のなくなったはずのもの。――その菓子が、中身をいっぱいにした状態でコンビニ袋の中に詰まっている。
『食べたはず、だ。ちょっぴしか残ってなかった、絶対に』

​───────​───────​─────

「……やっぱり、時間遡行……だな。魔法なんてある世界だし、昴がそれを与えられた……のか?」
だが、賢一の頭にはひとつの疑問が過っている。
「……だが、何をどうしたら急に転移するなんてことになる?昴がなにか条件に引っかかったのか?」
昴はコンビニ帰りに異世界へと拐かされた。
それは、本人の合意の上とは思えない。
映像を見る限り──という枕詞がつくが。
「……昴、お母さんは……」
菜穂子が絶望を体現したような顔で囁く。
「……元気でいてくれたら、それだけで……よかったんだよ」
それはもう、叶うことの無い慟哭であった。

​───────​───────​─────

手の中のビニール袋を振り上げて、遠く路地の奥まで放り投げる。放物線を描き、飛んでいくビニール袋は暗がりの方へとまっしぐらだ。当然、それを獲物と目論んでいた男たちの視線もそちらにつられる。
その隙を見て、男たちの脇を掻い潜ってスバルは猛ダッシュ。何度も結論した通り、この場は男たちから逃れることが最優先。それから盗品蔵へ赴いて、浮上した疑惑への答えを得なくてはならない。
相反する二つの思考を持ったまま、スバルは路地裏の汚れた地面を駆け抜ける。大通りへ出て、でかい声を出しながら走り回れば奴らも追いかけてくるわけにもいくまい。ビニール袋の中身は惜しいが、直前に抜き取っておいたので中に残っているのは菓子袋と重石代りの小銭が少々――被害としては軽微。
そう結論して足を踏み出し、スバルはふいにその一歩が大きく狙いをずらしたのに焦った。ぐらりと体が揺れて、前に出したはずの足でたたらを踏む。が、今度は膝から力が抜けてその場に跪いてしまう。前のめりに手をついて、このタイミングで転ぶなんて馬鹿かと己を叱咤。しかし、
『あれ、おかしいな……』
立ち上がるために力を込めようとして、地に立てた腕がガクガクと震える。とてもではないが体を持ち上げられない。それ以前に、手に持っていたものも落としている始末だ。
『だから素直に言うこと聞けってったんだよ、バーカ』
嘲りの声が真後ろから聞こえて、スバルはどうにか首をそちらへ傾ける。後ろ、スバルのすぐ側に立っているのは二番目に立っていたから『チン』ともっとも屈辱的な渾名を付けていた男だ。彼はその粗野な態度のままに、口の端を歪ませてスバルを指差す。その指した先を視線で追って、スバルは自分が倒れた理由を把握した。――倒れるスバルの背中、腰あたりにナイフが突き刺さっているのだ。

​───────​───────​─────

「……っ!」
きっと、何度見ても慣れることはないのだろう。
寧ろ、見る度に胸を掻き回すような心の叫びが速度を増していくようにも感じる。
「すば、すばる……」
一体どこまで絶望すれば許されるのだろうか、と思う。
何をしたら昴は助かるのだろう、何がいけなかったのだろう──と。
昴はこんな目に遭わなければいけないような悪い子じゃない。
寧ろ、泣きたくなるほどに優しい子で、だから。
「昴……」
菜穂子の悲痛に歪んだ横顔を見て、賢一は唇を噛む。
「────」
壁に触れ、思い切り力を込めて殴るが、傷一つつかなかった。
腕に痛みが走るも、傷すらも癒えていき。
「昴、お前は……ずっと、こんな世界にいたのか?」
探し続けた。ずっと。どこかにいると信じていたから。なにか事件に巻き込まれたのか、事故にあったのか。警察の捜査も意味はなく、家の空気は沈んでいくばかりだったが。それでも、安全と──幸せを願っていたから。それなのに。
「……ずっと、死を──」
その事実が、賢一の頭を横から殴り付ける。
懸命な捜査も、所詮は独りよがりでしか無かったのか?
昴がいたなら、なんと言っただろう。
「……お前は、笑ってくれるんだろうな」
太陽のように、朗らかな笑顔で。
太陽はもう、昇ることは無いが。

​───────​───────​─────

『ごぁっ……がっ……』
意識した瞬間、堪え難い激痛が走ってスバルの喉を塞いだ。極々純粋で原始的な、鋭い痛みにのた打ち回る自由すら奪われる。
『おい、刺しちまったのか』
『仕方ねえだろ。表に逃げられてみろ。面倒どころの話じゃねえ』
『あーあ、こりゃダメだ。腹の中身が傷付いてっから死ぬな。……着物もびちゃびちゃだ』
人をひとり刺しておいて、他に考えることはないのかと激痛の端で文句を垂れる。別のことに思考を割いていないと、意識が持っていかれかねない痛み。そしてトンの言葉を鑑みるに、一度意識を失えばもう戻ってこれない類の傷だ。
まだ意識のあるうちに対処しなくてはならない。そう決断し、全身に残された力をかき集めて、遠吠え一回分の力を寄せ集める。それを舌に乗せて、いざ咆哮しようとし、
『はーい、何かされる前に二本目!』
二本目のナイフが無慈悲にも、背中のど真ん中へと突き立てられていた。

​───────​───────​─────

「どうして、こんな酷いことを……」
幾度目になるだろう言葉を吐いた。
きっと彼らにとって、昴は無数にいる人間の──金を得る手段のひとつでしかない。
なら、せめてもっと平和的にはしてくれなかっただろうか。
「……あなた達にとってはそうでも、私には──私たちにとっては違うの。昴は、たった一人の──」
涙声と共に零れ落ちたそれを、誰がどうして遮れようか。
最も、この空間には遮るような人間はいないのだが。
「……ぐ、っ」
賢一が腹の底から押し上げてくる感情を押し戻そうとする。
そこにあったのは、明確な怒りであった。
「……昴は、笑顔が似合うやつなんだ。最近は、部屋に閉じ篭ってることが多くて前みたいに笑ってはくれねぇけど」
幼い頃のような、一等星と言って差し支えない笑顔。
あれは、昴に一番似合う顔だった。
「……どうしてだ……!」
頭を抱えて、怒声とも言えないそれを吐く。
空気が濁っていくのを、誰も気が付かないまま。

​───────​───────​─────

『――――――ぉぅぐ』
発しようとしていた叫びが、手足の先にまで走る電撃のような痺れにキャンセル。もはや衝撃は痛みを堪えることや、叫びを発するといった行動を許す次元にはとどまっていない。スバルに残された選択肢はもう、何もなかった。
背中の傷が肺に達したのだろう。掠れるような荒い息を繰り返しても、肺が膨らまずに呼吸が苦しくなっていく。酸素不足はスバルの活動に多大な影響を及ぼし、思考は今にも途切れそうなほど弱々しい。
手足の感覚は消え、自分がうつ伏せなのか仰向けなのかもわからない。今回は目は切られていないはずなのに、視界は真っ暗で何も見えなかった。――今回って、なんだよ。
馬鹿馬鹿しいと切り捨てたはずの考えに、縋っている自分がいるのが哀れだった。その哀れな考えに縋るのなら、いっそとことん縋ってやろうとも思う。――死ぬことから意識をそらせ。死ぬ前に、世界を把握しろ。
目は死んでいる。手足も終わっている。残っているのは鼻と耳ぐらいだ。ならばその両方を最大限まで駆使する。どんな残り香でもいいし、罵声を聞かされるのでも構わない。路地の泥の臭い。こみ上げてくる血の鉄臭い香り。今、鼻が死んだ。死んだ。耳も残りわずかしか活動できそうにない。
『……にか、金目……でも持っ……』
『……った!衛兵が……つけ……る!』
『…………げろ!ヤバい!……ったらシャレになら……!!』
拾えたのはそんなごくわずかの会話だけ。拾えたのはいいが、それをどういう意味か理解するための脳がすでに死んでいる。死んでいるから聞いただけ。聞いたそれを覚えておけるかはわからない。覚えておくってなんだろう。おぼえておいてどうしたいんだろう。どうしたいってなんだろう。なんだろうって――。
何よりも先に死んだ脳に従うように、他の機能も次々と息絶えて、最後には抜けるような掠れた音を吐いて、ナツキ・スバルは三度、命を落とした。

​───────​───────​─────

「昴……」
目を見開いて、顔の筋肉が引き攣っていく。
昴の痛みを耐えるような顔が、スクリーンに映し出される。
「お願い、昴……もう、全部捨てて逃げて……昴が、昴が傷つかなきゃいけないなんて……そんなの……そんなのっ……!!」
あまりに酷すぎる、とは口にしなかった。
子供の死体を幾度も見せられるというのは、親にとってはこれ以上ないほどの悲劇である。
「……くそっ……!!」
賢一が髪をかき乱し、その顔を曇らせる。
きっと、これを見終わっても昴は帰ってきてなどくれない。
この馬鹿げた異世界で、死を繰り返すのだろう。
なら、それなら。
「どうせ見るなら……幸せな、夢を」
幸せな夢など見れない、と知っていたのに。

Comments

  • ゆず

    合流してる所見たいです! 休憩時間とか作ってそこで合流させたりしたら良さげかも

    December 8, 2024
  • リコリコ

    聖域やプリステラ、プレアデス監視塔やヴォラキア まだまだ愉しみはありますね。

    December 5, 2024
  • まさかこっちも始まってたとは(笑) 気付かなかった(笑)楽しみだ~ 合流してもしなくても面白い結果になりそうですね(笑)

    December 5, 2024
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