現実という名の地獄
シリーズにしました。
コメントで「人の心がない」って沢山来てて笑いました。
人の心はありますよ!
最終的には幸せにしたいと思ってますから!
最後に辿り着くのが理想郷ならその道中に茨が生えていても死体が転がっててもいいと思いませんか?
まあこのシリーズはどう足掻いても不幸ですけどね。
菜月夫妻に幸あれ
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「……昴は、し、んで……でも、また」
菜穂子が動揺を色濃く映す。
「……嘘、だろ」
賢一はその脳裏に最悪の可能性を予感する。
「……時間遡行……とかか?」
感情がぐちゃぐちゃになっても冷静に考えることが出来てしまう自分の脳に、賢一は辟易としていた。
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『なるほど、事情は飲み込めたわ』
『ま、そんなわけで値段の釣り上げ交渉ってわけだ。別にアタシはどっちが徽章を持ってくんでも構わねーし、高い方に高く売りつけるさ』
『いい性格だわ、嫌いじゃない。――それで、そちらのお兄さんはいくら付けたの?』
『俺が出すのはこの魔法器だ。たぶん、世界に一個しかないレアアイテム。そこの筋肉爺さんの話じゃ、聖金貨で二十枚は下らないってお墨付きだぜ』
『魔法器……』
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「……この声、さっき聞いた……」
菜穂子が涙を流しながら、スクリーンへ向き直る。
「お願い、昴をこれ以上傷つけないで……」
菜穂子は現状を理解出来てはいなかった。
が、昴が血を吐くのを確かに見たのだ。
苦しそうに、痛そうに喘ぐのを。
それだけで、許しを乞う理由になる。
「昴!逃げろ!」
賢一が叫んでも、昴にその声が届くことは無い。
「……折角、また顔を見られたってのに……!」
見せられるのが苦悶の表情とは──神というものはいないのかもしれない。
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『儂の見立てじゃ、この交渉はスバルに傾く。お前さんと雇い主には悪いが、この金貨は袋に戻して帰ることじゃな』
『なんだよ!いいだろ、別に!嬉しかったんだよ!ある意味じゃ、こっちで初めての目的達成だっつの!ガッツポーズくらい、なあ!?』
『別になんにも言ってねーのにはしゃぎすぎだよ、兄さん。アタシは儲かればそんでいーし』
『私の雇い主も、別にそれが手元になくても構いはしないはずだから。そこまで食い下がる必要はないの』
『あー、悪いな、エルザさん。たぶん、怒られたりしちまうよな』
『仕方のない話よ。私に落ち度があるならともかく、この場合は雇い主が支出を少なく済まそうなんて考えたのが悪いのだし』
『それじゃ、交渉は残念な結果だったけれど、私はこれで失礼するわね』
『――そういえば、あなたはその徽章を手に入れて、どうするの?』
『……ああ、元の持ち主に返すんだよ』
『――なんだ、関係者なのね』
『あら、避けられたわね』
そう言って、エルザはククリナイフを手にぶら下げる。
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「ひっ……!」
菜穂子の高い声が響く。
声と言うより、息を吸う音に近いが。
「昴……昴……!」
ククリナイフを見て、菜穂子の顔は青ざめる。
そして、脳が段々と現状を把握してしまう。
腹を割かれて血を吐いて死んだ昴。同じ言葉を口にした果物屋の店主。そして、賢一が予想した時間遡行。それらから、菜穂子でも導き出せる答えがある。
「……死を条件にした……時間遡行……?」
もしそれが本当なら、菜穂子が昴を探していた──少なくとも一年間、昴は──
「……嘘よ、そんなの……ありえない」
そう、ありえないのだ。
だが、それなら昴が菜穂子の前から姿を消したこと自体が有り得なくて。
「どうしたら、いいの……?」
菜穂子にはもう、何も分からなかった。
「……ククリナイフ……」
賢一は、この映像が偽物の可能性も視野に入れた。
が、昴の言動はあまりにも本人のそれであり──仮に偽物であったとしても、それを確認する術などもうないのだから。
「……昴……逃げろ」
昴の死ぬ姿なんて、見ることは無いと思っていた。
昴は自分よりも長生きするだろうと思って。
「……昴が、何をしたって言うんだよ……!」
それは、確かな怒りであった。
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『お爺さんと女の子は倒れ、なのにあなたは動かない。諦めてしまったの?』
『ああ、やっと立つのね。遅いし、つまらないけど、悪くはない』
『でも全然ダメ』
『てんでダメ。見たまま素人で動きは雑。加護もなければ技術もなく、せめて知恵が絞れるかと思えばそれもなし。いったい、どうして挑むのかしら』
『うるぜえな……意地があんだよ……ごんだげ、やられっだらなぁ』
『飛び抜けた気骨だけは認めてあげる。それがもっと早くできていれば、この子たちも少しは違ったかもしれないけれど』
『終わりにしましょう。天使に会わせてあげるわ』
腹を狙って飛んでくるエルザの攻撃を避け、スバルはエルザの顔面に回し蹴りを叩き込む。
『ああ、今のはとても、感じたわ』
エルザが腰から引き抜いた二本目のククリナイフが、スバルの胴体を七割ほどかっさばいて血と内臓をぶちまけていた。
『──あ?』
一歩、二歩、よたよたとよろめきながら歩き、肩から壁にぶつかり、滑るように崩れ落ちる。見下ろす眼下、腹部からはとめどなく血が溢れ出し、腹圧に耐えかねて中身がこぼれ落ちそうになっている。
震える片腕でその中身を腹に戻そうとするが、こみ上げてくる血塊に遮られ叶わない。
『驚いた?すれ違いざまにお腹を開いたのよ。これだけは私、得意なの』
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「────!」
もはや声にもならないような悲鳴が、賢一の鼓膜を揺らす。
かくいう賢一も、瞳を大きく揺らしたまま何を言うことも叶わないのだが。
「ぁ……あ、あぁあっ……!」
菜穂子が、懸命に涙を堪えるように口を塞ぐが、慟哭は──決して、止まってなどくれないのだ。
暗くて見えなかったが──今ははっきりと見える。
昴の内臓が零れ落ちていく様が。
「う……っ、う、えっ……」
暴れ回るような激情が、吐き気という形で込み上げてくる。
賢一は、そんな菜穂子の背中を摩るが、さして効果はなかった。
「……す、ばる」
賢一の喉にも、じわじわと吐き気が込み上げてくる。
ぐっと抑えるが、耳鳴りと心臓の音が大きくなっていき、自他との境界線が滲んでいくような感覚を味わう。
「……どうして、昴なんだ……?」
それが最低だとわかっていながらも、言わずにはいられない。
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『ああ、やっぱり――あなたの腸は、とてもきれいな色をしていると思ったの』
『ぁぅ……うぁ』
『痛い?苦しい?辛い?悲しい?死んじゃいたい?』
『でも簡単にはダメ』
エルザが、スバルの目を切り裂く。
『――――――――――――――っががあああぁ!?』
地に倒れ伏したまま、スバルは深々と切られた双眸に手で触れる。
血と涙が混ざり合い、絶叫を上げる口からはとめどなく吐血を繰り返し、腹の中身はそれこそ血と臓物とが全てこぼれ落ちたような欠落感に襲われている。
『ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、悶えて』
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「っ、!……どうして、こんな酷いことを……」
昴が苦しそうにのたうち回っている。
涙に溺れてしまうのではないかと思うほど、涙が溢れてくる。
こんなに泣いてもなお水分不足になるような感覚はなく、菜穂子はいっその事死んでしまいたいと思う。
「狂人が……!」
その刃にかけられるのが昴でさえなければと、そう思ってしまう。
「昴を……返してくれ……!」
過程に沢山の犠牲が有る程、結果は美しく輝くのだッ!!!