悪巧みの最終地点
このシリーズにトッドを追加したい気持ちと絶対エミリア達に殺されるだろうなって気持ちが混ざってます。
あいつ特に大した理由なく殺してたし……
怖いな
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『バルス。――本当に、あの方に期待しているの?』
『…………』
『昨日までのエミリア様の様子を見ていれば、あの方が『試練』を乗り越える明るい材料は何一つない。その上、悪くなりようがないとさえ思っていた状況はさらに悪くなった。大精霊様が、エミリア様の傍を離れたのでしょう?』
『……そこまでわかってるのか』
『あれだけ建物の外にも聞こえるぐらい大声で、何度も何度も叫んでいれば馬鹿でも気付くわ。バルスでも気付けるのならラムでも気付く。当たり前でしょう』
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「……そうね、ラムの言う通りだと思う。この時の私に、期待や信頼する理由なんてほとんどなかったし……」
「……エミリア様」
ラムがその瞳に少しの揺れを宿す。
「でも、スバルはそんな私を信じてくれた。なら、私がしてあげることはひとつでしょう?」
「……そうですね、ラムも、そう思います」
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『それでも、俺はあの子に期待してるし、信じてるよ』
『……晴れやかな顔。いったい、どうしたらそこまで能天気な決断ができるのかしら』
『信じるべきものは信じようって、そう決めたんでな。俺のために頑張ってくれる『友達』の存在とか、愛竜の存在とかに救われて……少しは、自分も信じられるようになった』
『だから、それがエミリア様を信じることとどう繋がりが……』
『自分が信じられるようになったら、自分の思いの矛先も信じたいと思うだろ?俺はエミリアが好きで、あの子の力になりたい。俺があの子を好きなのは、そりゃ見た目が超好みのビジュアルってのもあるが……本気の部分は、もっと別のとこさ』
『俺が、あの子を好きだからだ』
『────』
『俺の好きになったあの子は、頑張り屋で、意固地で、素直じゃなくて、泣きたいときに泣きたいって言えない子で……他人のために一生懸命になることを、躊躇わずにできる子だよ』
『そんなのは、バルスの思い込みかもしれないでしょう。確かにエミリア様は、自分より他の誰かを優先する性質ではあったけど……それは、そうすることで自分の心を守っていたからではないの?侮られる出自である自分を守る手段だったのではないの?その手管にまんまと乗せられて、いいように使われている不安はないの?』
『ないね』
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「泣きたい時に泣きたいって言えないのは、スバルだって同じことかしら。スバルがエミリアを守りたいと思うように、ベティーだってスバルを守りたいのよ」
「本当、そうですね。ナツキさんの優しさが自分に向けられる日を祈るばかりですけど」
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『俺は何も無償の気持ちでエミリアに尽くしてるわけじゃないぜ』
『俺は俺で、エミリアに求めてるもんがある。俺が欲しがってるものは、エミリアの協力がなくちゃ成り立たない。さっきは打算含みにあの子が俺を利用してても、なんて言ったけど……あの子を打算含みで活用しようとしてるのは、俺も同じだ』
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「うん、それもすごーくわかってる。スバルが私に何かを与えてくれるように、私もスバルにそれをお返ししないとね」
「無償の愛──なんてものを私は信じていないけーぇれど、打算的な愛の方が余程健全だと……そう思いはしませんか?エミリア様」
「……どう、かしらね。でも、見返りがないのに頑張るって言うのは……そう、すごーく疲れることだとは、思う」
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『わかっておるつもりじゃが……スー坊は儂に何を語らせたい?『聖域』を取り巻く状況の、何を知りたいんじゃ?』
『知りたいことは、俺の知らないこと全部ってとこだが……当面としてはズバリ、Σさんが墓所で見たもの、だ。『試練』に挑んだリューズさんが二人って、一昨日のαさんの口からは聞かされてる。Σさんがその一人で、間違いないか?』
『間違いない。儂は、墓所に入ったリューズ二人の内の一人じゃ。と言っても、儂が入ったのは一度きりで、それも短い間……掟を無視して墓所に入ったガー坊を、連れ戻すために踏み込んだに過ぎん』
『踏み込んだに過ぎん……っつっても、中に入ったからには見たんだろ?Σさんも、その……自分の、過去ってやつを』
『────』
『ロズワールみたいに完全に墓所に嫌われてるってんなら、そもそも中に入ろうとした時点で体が拒絶される。ロズワールは体が弾けかけたって話だし、俺を助けようって入ってきてくれたパトラッシュだって傷だらけだった。資格のない奴があそこに飛び込むのは、それこそ『試練』に挑むのと同じぐらいに覚悟がいることのはずだ』
『儂がその、傷付く方の覚悟をしていた可能性もあるじゃろ?』
『それはそれで美しい話だけどな。……それなら、Σさんが『聖域』の解放に反対するホントのところがわからなくなる。辻褄が合わない』
『────』
『Σさんは墓所で、自分の過去を見たはずだ。それが原因で、Σさんは『聖域』が解放される可能性を忌避してる。いったい、何を見たんだ』
『…………』
『可能性があるとしたら、Σさんが生まれた前後の可能性。それはクリスタルから生じたときかもしれないし、もしかしたら……』
『リューズ・メイエルの過去、かもしれんと?』
『見たのがあのクリスタルの中の、本物のリューズさんの過去だってんなら……Σさんが怯える理由もなんとなくわかる。クリスタルに封じられた理由が、理由だからな』
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「リューズ……」
ベアトリスが眉根を寄せて俯く。
「……聖域の解放は」
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『スー坊はいったい、どこまで知っておるのじゃ』
『…………』
『あの中にいるリューズ・メイエルに何が起きたのか、それを知るのはこの『聖域』の中にも極々限られておる。その誰もが、スー坊にそれを語り聞かせるとは思えん』
『ロズ坊も、儂の他に墓所を知るもう一人のリューズも……それを聞かせるとは思えん。さすればスー坊、お前さんはどこからそれを聞いてきたのじゃろうな』
『エキドナから聞いた。墓所の中でな』
『――魔女様、から』
『今は資格を剥奪されちまったが、俺も一時は墓所に挑む資格を持ってたんだ。だから、『試練』で何が起こるのかもおおよそ実体験として知ってる。エキドナが何を企んで、どういう理由でこの『聖域』を作って、Σさんたちみたいな複製体を生み出してるのかも』
『……ロズ坊に聞かされただけにしては、理解が深すぎるとは思っておったが』
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「強欲の魔女と話したという事実が当たり前のように流されていることに、私としては驚かざるを得ないのだが」
「スバルは本当に不思議な体験をしているんだね」
「不思議って言うとふたりも大概だけどネ……」
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『儂が墓所で見た過去、という問いかけなら儂の答えは『知らん』となる。なにせ儂は墓所の『試練』を受けておらん。墓所の中から戻ったのは儂で、間違いないがな』
『……つまり、どういうことだ?』
『簡単な話じゃ。そもそも、スー坊は不思議に思わんかったのかえ?ガー坊を連れ戻すために、墓所にリューズが入る機会は一度きり。だというのに、墓所に入ったリューズ・メイエルの複製体は二人いる。この、機会と人数のズレを』
『中に入ったリューズさんと、外に出てきたリューズさんが違う……』
『そういうことじゃ。スー坊のように言うなら……出てきたリューズはΣである儂。そして入ったリューズは、θであるリューズ。過去を見たのはθの方で、儂はガー坊を担いで外に連れ出したに過ぎん。立ち位置としても、『聖域』の解放に反対というよりは、消去法で中立派といったところじゃな』
『――儂の口から語れることがあるとすれば、それはガー坊がひた隠しにしとる、あの子が目の当たりにした過去、その断片というべきものじゃな』
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「過去……」
ガーフィールが下唇を噛む。
その脳裏に過ぎるのは、水門都市で出会った──
「……母さん……」
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『――あの子が見たのは、母親との別れの時じゃよ』
『別れの、時』
『スー坊は、あの子の母親のことは知っているのかえ?』
『……一応、さらっとだけどフレデリカから聞いてる。二人の母親は普通の人間で、ハーフとその……色々あって、二人を生んだって。それで、二人を『聖域』に残して』
『一人、薄情にもここを離れて幸せになっている……というところじゃな』
『でも確か、フレデリカの話じゃ、母親との別れは二人がまだ小さい頃で……そのときの記憶を見せられてるって言っても、どこまで鮮明な記憶かなんて』
『叡智の書を持つ、エキドナの組んだ『試練』じゃぞ?不確かな記憶、なんて当てにならないものより、もっと当人の原初の記憶に訴えかけて世界を形作るじゃろう。……幼いあの子が見た景色と、寸分狂いない過去が展開されたはずじゃ』
『わかった。そこは納得しとく。ただ、問題なのは……ガーフィールが母親との別れのシーンを改めて見て、それでどうして泣き崩れるほどのダメージを負うんだ?』
『…………』
『こう言っちゃなんだが、あいつにとってしたらそれこそ小さい頃の別れの話で、母親と一緒にいない時期の方がずっと長いくらいのはずだ。過ぎた問題にいつまでも拘泥してってのは、さすがにあいつのキャラに合わなすぎる気が……』
『スー坊にとって、幼い子どもが母親に捨てられたという記憶はそんな傷の浅いもので済むと考えておるのかや?』
『もっとも、周りにいた儂や姉のフレデリカですら、あの子の心の内に刺さった棘がどれだけ大きいものだったのか、わかっていなかったわけじゃがな。あるいはガー坊自身ですら自覚していなかったのかもしれんが、その傷が『試練』で過去と触れ合ったことで表面化した。……今のあの子の、度を超えた保守性はそのためのものじゃと思っておる』
『……つまり、何か?あいつが『聖域』の解放を拒絶するのは、外の世界云々っていうより、自分を捨てて外の世界を選んだ母親への……負の感情からってことか?』
『憎いのじゃろうな、外の世界が。母親を奪い、自分を置き去りにさせた外の世界が。追いかけていこうにも、儂らを連れては外の世界には結界に阻まれて行けない。母親も、『聖域』の住人も、どちらも大事にしたがっていたあの子には耐えられん二律背反じゃて』
『あいつは、母親のことを憎んでるのかな?自分を置いて、外の世界に行った母親を』
『あの子が本音のところで、母親をどう思っておるのかついぞ聞き出せたことはない。儂は臆病じゃったからな。それを聞き出すことであのときの……墓所の中で、ぐずっていたあの子を思い出させてしまいそうで、聞き出すことはできんかった』
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フレデリカが瞳を伏せて俯く。
「……本当に、酷いことをしますわね」
人の心を踏み躙るようなやり方で、過去を露呈されるなんて。
「……ガーフ」
隣にいた弟の金髪に、静かに手を伸ばした。
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『ナツキさんの方こそ、舞台は整えられそうなんですか?エミリア様の方に生じたトラブルとか、正直なところ荷物まとめて夜逃げしようか迷う部分があったんですが』
『足りてなかったピースが続々と集まってきてる確信はある。まだちょっと、はめ込んで完成する絵図が確定しないのが不安点ではあるけどな』
『だ、大丈夫なんですか。もう時間がないんですが……』
『時間までにピースが埋まり切らなかったら、その足りない部分は愛と勇気と友情で補おう。俺の知ってる物語とかだと、それでどうにかなる』
『あのですね、ナツキさん。僕は確かに勝算度外視とは言ったんですが、それはちゃんと勝負として成立する場合で、勝ち目ゼロの方に賭けるのは単なる馬鹿というより死にたがりの所業というべきでして……』
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「この期に及んで諦めの悪いやつかしら」
「いやいやこの状況見て粉骨砕身出来るほど僕の覚悟は決まってないんですよ!」
「あれだけ無茶をしておいてよく言うわ」
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『ロズワール、俺だ。入ってもいいか?』
『おーぉや、きたね。どーぅぞどーぉぞ』
『ああ、そういうことか』
『わーぁざわざ途中経過の報告だーぁなんて、殊勝なことだね。嫌いじゃーぁないよ、君のそういうところはねーぇ』
『お出迎えにばっちりメイク済みとは、気合い入れておめかしてされると照れるぜ』
『もともと、私にとってはこの顔の化粧は戦支度のようなものでね。福音書の通りに物事を押し進めるためには、常に気を緩めず立ち回る必要があったわーぁけ。そうして気を張り続けるための、自己暗示の手段として化粧をしていたんだーぁね』
『とか、思わせぶりに言ってみてるだけじゃねぇのか、お前』
『素直に信じてくれたらいーぃのにね。まーぁ、ご想像にお任せするとも。福音書の記述とずれたことで、世界の継続を諦めた私は化粧をするのもやめていたわけで……その私がまた、こうして化粧をしている意味がどーぅいうことか、それも一緒にねーぇ』
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「世界の継続を諦めた……ね。なんか、世界は自分の手のひらの上って言ってるみたいでフェリちゃん嫌なんだけど」
「そうですね……」
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『いずれにせよ、確約をいただきたい。辺境伯。あなたは僕たちが何を企てて、どう実行したとしても……三日後の、期限のときまでは極端な手段に出ないと』
『確約しろとは、また大きく出たものだーぁね』
『邪魔が入るか入らないか、背中を気にしながらではとてもやり切れるとは思えない博打ですんでね。ナツキさんが負ける方に確信を持って全賭けしているのなら、手を加えないことなんてさしたる問題でもないでしょう?』
『いいさ、約束しよう。いずれにせよ、三日後に雪を降らせるために私もマナを練る必要がある。言っておくけど、私ぐらいの実力者でもさーぁすがに天候を操るのは一苦労だったりするんだーぁよ?一時的に、限られた場所だろーぉとね』
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「オットーくんすごい……!」
「そこまでじゃないですよ……僕も内心怖かったですから」
「さッすがだぜェオットー兄ィ!」
「うわっ急に飛びつかないで!」
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『時に、スバルくん』
『──あ?』
『エミリア様の下から、大精霊様が離れたと耳にしたんだーぁけどね』
『エミリアとパックの契約に不備が生じて、繋がりがご破算になった。精霊使いとしての見方をするなら、エミリアにそう呼ばれる資格は今はない』
『たいそうな悲しみようだったと聞いたけど……この土壇場、すでに傷付いていた心をさらにひび割れさせるようなことが重なって、大丈夫なのかね?』
『……どう、だろうな。少なくとも、今夜の『試練』は見送らせるしかない。明日以降にどう影響が出るかは、エミリアが目を覚ますまではわからない』
『少しばかり、不思議だったんだーぁけどね』
『今のスバルくんを見ていると、確かにエミリア様をどう立ち直らせるかについては腐心しているように見えるけど……大精霊様とエミリア様の契約が切れたことに関しては、さしたる驚きを抱いていないよーぅに見えるんだよ。これは、どういうことかーぁな?』
『君は……この状況をすでに、知っていたのではないかな?エミリア様の傍を、大精霊様が離れるという事実を。それがどういった経緯で知り得たものかは別としてねーぇ』
『仮に、そうだとしても……お前にとやかく言われる筋合いはねぇぞ。俺は俺の持てる力を尽くして賭けに勝ちにいく。それを責められる謂れは……』
『いーぃや、けっこう。――その言葉が、聞きたかっただけだからね』
『そーぉれにしても……エミリア様の傍を大精霊様が離れるのが既定路線だとすると、こーぉれはなかなかに私にとって困った事態と言えるじゃーぁないの』
『……そうか?むしろ、お前の目的からしたら良い傾向じゃ……』
『とんでもない。確かにエミリア様の心が折られているのを見ていられない、君の心の火を焚きつけるだけなら条件としては適っているけど……エミリア様が精霊使いとしての力を失うということは、即ち『聖域』に雪を降らせることができなくなるということだーぁからね。これは、私にとってかーぁなりの痛手だよ』
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「……ふーぅむ。こうして見ていると、全ての穴が塞がるような感覚がするねーぇ。彼の立ち回り方でこれ程変わっていたとは……少々、驚かざるを得なかった」
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『ロズワール、ずっと思ってたんだが……』
『うん?なーぁにをだい?』
『お前が持ってるていう、完全版の福音書の不備についてだ』
『続けたまえよ、スバルくん。この、福音書の不備と……そーぅ言ったね』
『も、もともと……福音書の記述に従うお前の言葉に、違和感はあったんだ。ただ、それ以上に気になることが多くありすぎて、これまではその違和感を見逃し続けてきた。……けど、落ち着いてお前や福音書について考える時間をとって、その違和感を突き詰めて……気付いたことがある』
『聞こうじゃ、ないか』
『魔女教の奴らが持つ福音書の……不完全版でもそうだったけど、不親切な記述内容はこの際は置いておく。問題はお前の持つ福音書の、決定的な欠陥だ』
『────』
『お前の言葉を聞くに、福音書には今回の『聖域』での一連の事態の内容と、その収束までの道筋が記述されてる。お前の中でそれは『墓所の攻略に失敗したエミリアに代わり、俺が墓所を攻略する』って流れだ。エミリアに攻略を失敗させるために、あの子を追い詰める条件として雪を降らせ、大兎に『聖域』を襲わせる。俺の覚悟を促すために、屋敷を窮地に追い込んで俺って存在の『無駄』をそぎ落としていく。――それで、いいな?』
『おおよそは、その通りだーぁとも。して、欠陥とは?』
『……お前は雪を降らせる結果が、大兎を招くとまでは知らなかったはずだ。だからお前の福音書には、雪を降らせた結果までは書いてない。単純に『雪が降る』とだけあって、お前はそれが必要な内容だから実行に移す――本の操り人形だな』
『自覚はある。たとえそうであったとしても、私は構いはしない。本の内容に従うことで、私は私の望む未来を得ることができる。ならば心も形もない文字に踊らされることに、何の躊躇いが生まれるというのかね』
『話を戻そう。福音書には『雪が降る』という記述がある。それは本来、エミリアが降らせる類のもんだと仮定しよう。エミリアがそれをできない、もしくはやらないから代わりにお前が雪を降らせる。福音書の記述に、従って』
『繰り言になる。結論を急ぎたまえ。その内容の、何に不備が、欠陥が……』
『それはつまり、エミリアが雪を降らせない場合、福音書がなかったらお前が雪を降らせることもない。『聖域』には雪が降らないって、そういう意味でもある』
『予言書がなくちゃ成立しない予言書――そんなもんの、どこが予言書なんだよ?』
『どんなに信じられない、あり得ないようなことが起こっても、それを先んじて記述しておくからこその予言書だろうが。魔女教が持つ、不完全版は記述が追記される形だ。だからそっちなら、変わった歴史に対応して文章が形作られる理屈はわかる。けど、お前が持つ福音書はどうだ。完全版なんて、ご立派な冠ぶら下げてるそいつは』
『すでに記された内容に、帳尻を合わせるために文章の整合性だけ合わせてどうなる。そうなる結果を招いた、その他諸々は全無視して、記された通りの時間が刻まれるなんてどうして信じられる。頭のいいお前が、そんなことに気付いてなかったはずがねぇ』
『お前のそれは、ただの思考停止だ、ロズワール』
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「思考停止……」
ユリウスが瞳を揺らす。
「そう言われれば、確かに……予言書と呼ばれるべきそれとは……乖離している」
「そうか、だからスバルは……」
ラインハルトの声が重なる。
「こんな簡単なことに気づけなかったとは……」
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『予言書が……福音書があることを、前提とした歴史だ。その通りに動くものがあることを念頭に、福音書の記述内容が刻まれることは当然の流れで……』
『そうだな。そういう反論も、正直あると思ってたぜ。――だから、それに対する俺の方の反論も、きっちり準備してた』
『お前が持つ福音書を、俺に見せてみろ。どういう文章が綴られてるのかが見えれば、俺の方でもお前の言い分に納得もしてやらぁ』
『――っ。それは、できかねる。福音書は、所有者として認めたもの以外には内容を決して見せようとしない。この福音書の所有者は私だ。君が見たとしても、その記述内容を理解することはできないし、書に認められていないものが触れれば脳を焼かれる危険すらも……』
『ずいぶん饒舌だな、ロズワール。そんなに、その本を俺に見られたら困るのかよ』
『ナツキさん、これ以上は……』
『――ロズワール、あと三日だ。明日、明後日。そして、最後の一日。そこまでに全てにケリをつけてみせる。お前はお前で、俺の言ったことを噛みしめてみてくれ』
『私に一つ、貸しでも作ったつもりかね。――友人に、オットーくんに感謝するといい。私にとっても君にとっても、良くない分水嶺を見極めてくれた』
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「白熱すると周りが見えなくなるのはスバルの悪いくせかしら」
「まあ、その時は僕がちゃんと止めますから、大丈夫ですけど」
「ベティーだってそうするかしら。スバルの足りない全てをベティーが補うのよ」
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『お、きたのか……エミリア、大丈夫か?』
『──スバル』
『ああ、俺だ。体、問題ないか?ずっと眠ってて……待ってろ、水でも汲んできて』
『いいの』
『……エミリア?』
『いいの。大丈夫だから……ここにいて』
『状況は、わかってるのか?』
『……うん。今日、一日を寝過ごしちゃったんだよね。ただでさえみんなを待たせてるのに、私、何をしてるんだろ……ごめんね』
『そんなこと!誰も責めたりしねぇよ。それより、問題は……』
『心配しないで、スバル』
『う、え……?』
『私、パックがいなくなっちゃったことを……忘れたりしてない。ちゃんと覚えてるから。忘れて逃げたり、してないから』
『そう、なのか……?』
『ごめんね、スバル。私がいっぱいダメなところ見せたから……すごーく、心配かけちゃったんだよね』
『いや、心配なんていくらでもかけてくれていいんだ。俺はそんなことは気にしない。気にしないけど……むしろ、今は君の方が……』
『――いっぱい、ね。考えること、あったの。できたの。夢の中で』
『きっと、朝には大丈夫になってるって、そう思いたいから……スバル、お願い』
『手、握ってて。朝まで、ここにいてくれる?そうしたらきっと、私は……』
『そんなことでいいなら、お安い御用だ。でも、エミリア……』
『ごめんね、スバル。話したいことも聞きたいことも、きっといっぱいあると思う。だけど……朝まで、待って。そしたら私、頑張れるから』
『だから、朝までこうしてて――スバル』
『わかった。――そうしよう、エミリア』
『ん……ありがと』
『……信じてるから』
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「……あ」
エミリアは思い出す。
朝目覚めて、何も掴めなかった手の感触を。
何よりも忌避すべき、嘘の味を。
「……スバル……」
トッドさん入れるの物凄く不安すぎるけど、、入ったらものすごく面白いのは確定だから欲しいな、、