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特別対談「グローバル社会で活躍する子どもたちへ」下田康晴<横浜市教育長>×星友啓氏<スタンフォード・オンラインハイスクール校長>

スタンフォード・オンラインハイスクールの校長を務める星友啓氏。そして横浜市教育委員会を率いる下田康晴教育長。ヨコエデュで、そんな二人の特別対談が実現しました! 世界で活躍する子どもたちを育てるための「教育の未来」を見据えるお二人の対話をお楽しみください。

星友啓氏が語る、世界の教育とその課題


──世界のオンライン教育を牽引するお立場にある星さんから、オンライン教育を含む世界の教育が、今どういう状況にあり何が重視されているか、また課題についてお聞かせください。

星友啓氏:やはりトレンドは「AI」だと思います。ただ、教育を見るうえで大事なのは、一過性のトレンドではなく、背景にある本質的なグローバル課題です。世界のグローバル化や、先進国の経済成長の飽和、後進国の経済成長といった課題に対して、どのようにテクノロジーが応用されているかという視点が大切になってきます。そのなかで教育トレンドを見ていくと、社会の成熟したグローバル化や価値観が多様化するなかでは、皆が同じ授業を受けるこれまでの教育のかたちが変わり、AIを使うことでそれぞれの子どもや環境にあわせて“パーソナライズ(個別最適化)”できるようになりました。このトレンドは今後も続いていくだろうと思います。

スタンフォード・オンラインハイスクール校長の星友啓氏が話している様子。椅子に座り、机の上で両手を軽く広げている。左手前には、話を聞いている横浜市の下田康晴教育長の横顔が写っている。机の上にはお水の入った透明なコップがある。
スタンフォード・オンラインハイスクール校長の星友啓氏

AIの活用は、教える側のサポートにも役立っています。世界的に見れば人口は増加傾向にあり、それに伴って教育需要が拡大している。そうすると教育資源が不足します。日本でも教員不足が深刻化していますが、このような状況に対して教員を補助するAIの活用も、トレンドとして挙げられます。また子どもたちのメンタルサポートにも、AIが使われるようになりました。

一方で、わたし自身がオンライン教育を進めるなかで実感している課題もあります。オンラインやAIを使えば教育資源が増え、世界の教育格差をなくしていける期待がありましたが、結果としてオンライン教育は格差を拡大してしまったということです。オンライン教育には、デジタルディバイド(情報技術〈IT〉へのアクセスや利用能力の格差によって生じる社会的な分断)という問題があります。端末機器を提供したとしても、その使い方を教えるサポートが無ければ、教育格差の根本的な解決につながらない。デジタルを活用する際のきめ細やかな対応が、これからの課題になってくると思いますね。

横浜市教育長が語る、「個別最適」な学び


下田康晴教育長:本当にそうですね。わたしが教育長に就任して約1年が経ちますが、おっしゃるとおり社会的な要請を見ていく必要があることを実感しています。教育委員会に来ていちばん感じたのは、今はかつてない「大転換点」にあるのかもしれないということでした。新型コロナウイルスのパンデミックを経て一人一台端末という状況が、児童・生徒に加え教員も含めると横浜では28万人の規模に広がりました。そこからは、データがいやおうなしに集まってくるわけです。このデータをどう使うかという議論をする前に、つながってしまった。データをどう生かしていくか準備ができていないので、設計をしていく必要性を痛感しました。

下田康晴教育長が穏やかに話している様子。椅子に座り、両手を胸のあたりで軽く広げている。手前にはお水の入った透明なコップがある。背景には黒や木目調の壁が写っている。
下田康晴教育長


星さんのお話しにあったとおり、社会が多様化するなかで、一人ひとりに合った個別最適な学びが実現されつつあります。ひとつの教室に担任の先生が一人いて、黒板と教科書を使って、カリキュラムの内容も学ぶ進度も同じ、これが今までの教育のありかたでした。そのなかで、取り残してきたものがあったのではないかと。たとえば配慮が必要な子どもたち、一人ひとりに寄り添った教育が、今は社会的に求められています。横浜には26万人という非常に多くの子どもたちがいるので、さまざまな課題がありますが、裏をかえすと、データを生かし、行政を超えた社会と連携をすることで、これまでは実現することができなかった一人ひとりの子どもに合った教育を実現できるチャンスでもあります。

本市における「横浜教育データサイエンス・ラボ(以下、データサイエンス・ラボ)」というプロジェクトでは、28万人の教育ビッグデータを活用して、子どもたちの心の状態や、学びのなかにおけるつまずきを分析し、子どもたちの教育に役立てる取組をはじめています。

このような取組に際して考えなければならないのは、データは誰のものなのかということです。わたしが以前、データサイエンス・ラボのシンポジウムで話したことですが、このデータは未来の子どもたちに返していくものだと、横浜市では考えています。それを設計することで、横浜が目指す一人ひとりの子どもたちのための教育を実現する。「横浜教育イノベーション・アカデミア」も、その装置のひとつです。

共創による新しい教育価値の創出──「横浜教育イノベーション・アカデミア」


──「横浜教育イノベーション・アカデミア(以下、アカデミア)」は、学校・大学・企業と、教員を志す学生が参加し、横浜の「未来の教育のデザイン」を共創するための交流と研究の拠点です。6月20日にその共創宣言が発表され、星さんもアクセラレーター(教育研究の促進役)として参加されました。

星氏:アカデミアについてお話をお聞きしたとき、はじめは「産官学」の取組という部分に注目してしまっていました。でもそのいちばんの肝は「教」だということが、先ほどのお話でも、あらためて腑に落ちましたね。データは子どもたちのもの、だからこそ将来の子どもたちに返さないといけない。産官学が共創することで新しいイノベーションが生まれ、新たな製品なども開発されるかもしれません。でもそれはゴールではなく、最後は教育へと返っていくところが大切なポイントですね。

アカデミアのキックオフイベントの様子。大きなスクリーンには「Superintendent of Education」「教員 大学 企業 学生」「共感と共創 地上の星たちと教育の未来をつくる」「横浜市教育委員会 教育長 下田 康晴」と書かれている。壇上には、左から司会者、立って話す下田教育長、椅子に座っている6名の登壇者がいる。登壇者のなかで、星氏も下田教育長に顔を向けて話を聞いている。写真の下部には客席で話を聞く参加者らの後ろ姿も写っている。
アカデミアのキックオフイベントにて、このプロジェクトに込めた願いについて語る下田教育長

下田教育長:そうですね、今お話しいただいた「教」のなかで、教員を志望する学生たちの存在もアカデミアでは大事にしていて、将来の働く現場を一緒につくってほしいという願いが込められています。たとえばメタバースを使った授業を学生が一緒に設計し、それを横浜の教員になって使ってもらえたらいいですね。

星氏:横浜にその拠点をつくることに、大きな意味があるんじゃないかと思います。アカデミアに関わった学生が、たとえ横浜以外の場所で教員になったとしても、ここで刺激を受け、横浜発のものとして、全国へ、世界へと広がっていく。アカデミアでこれから共創されていく教育は、横浜の財産になりますね。

キックオフイベントのブース活動で、学生や教員たちと語り合う星氏の様子。椅子に座り、右隣にいる参加者の話を星氏が聞いている。左手前にはバインダーを持ち笑顔で話を聞く別の参加者の斜め後ろ姿も写っている。3人の後ろでは他の参加者らも丸く向かい合って座り、話し合っている様子が見える。
キックオフイベントのブース活動に参加し、学生や教員たちと語り合う星氏

グローバル社会で活躍する子どもたちへ──何のために教育があるか


──下田教育長はこの1年間、横浜の子どもたちが世界でも活躍できる準備を整えようと、さまざまなプロジェクトに取り組まれてきました。

下田教育長:就任からの約1年間を振り返ると、「そもそも何のために教育をやっているのか」と、よく考えることがありました。いろんな考え方があると思いますが、学校での教育が社会に子どもたちが出ていくための準備期間だとすると、子どもたちを永遠に見続けることはできません。子どもたちが最後は自分の力で考え、判断し、行動していく。それができるようになるための準備期間です。

さらに、「子どもたちが出ていく社会とはいったい何だろう」という問いがあります。わたしの考えでは、それは多様な文化をもつ人々が共にある「グローバル社会」です。グローバルな社会のなかで、誰かと出会い、共感を得て、ともに新しい価値をつくり出していく。それが組織や社会のなかに出ていく意味ではないでしょうか。違う文化や背景をもつ人たちに、自分の思いや考えを伝え、共創していくためには、交流や対話をする力が必要になります。星さんがスタンフォードで大切にされていることでもありますね。

横浜市の小中学校では、教室というリアルの空間ももちろん大切にしていますが、メタバースの空間も取り入れて海外の学校とつなぎ、特定のテーマでディスカッションをするといった取組もはじめています。

2画面のメタバース空間が映し出された大きなスクリーンに向かって座る生徒たちの斜め後ろ姿。スクリーンを見ている生徒もいれば、手元のパソコンを操作している生徒もいる。
市立義務教育学校西金沢学園での、メタバース空間を活用した国際交流授業の様子。ベトナムの生徒たちとメタバース空間をとおしてつながり、文化交流が行われた

星氏:オンラインの学校であれば生徒たちは世界のさまざまな国に居るので、たとえば同じ内容のニュースが国によって違う報道がされている場合、クラスメイトの話からその違いを体感することができます。そういった生身の感覚が、非常に大事ではないかと思っています。

星氏が話している様子。椅子に座り、片手を机の上に置いている。

下田教育長:デジタル社会のなかで教育を考えるとき、子どもたちに「どういう体験をさせたいか、どんな感情を起こさせるか」という観点から議論することを、横浜市でも大切にしています。テクノロジーを「ツール」のままで終わらせるのではなく、本当に機能する教育にしていくための議論です。

横浜には26万人の子どもがいて、そのデータがあり、インターネットを介してさまざまなつながりが生まれることは一見すばらしいことですが、そのリスクも把握する必要もありますね。安全な空間の設計ができていなければ、子どもたちが危険なところを一人で歩いていくようなことになる。だからこそ我々がつくる空間では、子どもたちを守る設計をしていきたいと考えています。

星氏:横浜が世界とつながっていくという点では、安全面でしっかりとした対応をしていくことは、より大切になりますね。安全と自由のバランスはとても難しいですが、おっしゃるとおり「どういう体験をさせたいか」を突き詰めて考えたうえで、システムをつくっていくことが求められていると思います。

星氏と下田教育長が座って話している引きの様子。左で下田教育長が手でジェスチャーをしながら笑顔で話し、右で星氏が話を聞いている。2人の間には机がある。

これからの横浜の教育が目指すもの


下田教育長:
教育の現場には、子どもたちと日々対話をし、大切な役割を果たしている教員がいます。私たちはそういった教員を「地上の星」と呼んでいます。そんな教員をサポートする行政や企業、そして未来の「地上の星」となる学生たちが出会うアカデミアが横浜にはあります。この仕組みが、未来を担う人材を育てること、未来にとって意味がある装置になることを目指していきたいと思います。

星氏:横浜の教育が目指すものがあり、産官学のなかで活発な相互作用が生まれるアカデミアという場があり、そこから刺激を受けた教育者が、さらに新しい人材を生み出していく。この「好循環ループ」が、横浜発として、世界へメッセージされていくことを期待しています。


星氏と下田教育長が並んで立っている。スーツ姿で真っ直ぐ立ち、顔はカメラを向いて微笑んでいる。背景はガラス張りで緑の植物がぼやけて見える。


参考:「横浜教育データサイエンス・ラボ」の第1回目の経過報告会

参考:アカデミアのキックオフイベント


〈この記事を書いた人〉
ヨコエデュ編集部 おかゆ
休日は、家族で市内の公園めぐりをすることが多いです🌳 アート、エンタメ、書くことが好き。


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