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塞翁が馬/Novel by 春風

塞翁が馬

5,173 character(s)10 mins

聖域は過去に絡んでくるから反応が気まずい

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『――んじゃ、いってくるよ、エミリアたん』
『ん、気をつけてね』
『一両日中に戻るから、無理はしないこと。村の人たちのことがなくなれば、焦る必要はないんだ。ゆっくり、時間かけて攻略しよう』
『そう……かな。うん、スバルがそう言うなら……』

「...これ、まずいんじゃにゃい?」
「...ええ、エミリア様のお気持ちが依存気味になっています。これは……」

『本気でなに言ってんだかわかんなくなってきたんですが、話戻すとリューズ様はこのあたりでお別れ……ってことですかね?』
『そう、じゃな。儂はここまでじゃ。『聖域』のものはどうにもこの結界と相性が悪い。久しぶりにきてみたが……やはり、どうにもならんもんじゃ』
『ひょっとして、それ試す意味でついてきた部分もあったり?』
『存外、儂も都合のいいことを考えたものじゃな。結果は見た通りじゃが。……儂がダメなら、やはり『聖域』は『試練』を終えなくては解放されん。それがわかったじゃろ、スー坊』
『エミリアも、やっぱりここまできたら同じ感じになんのかね』
『中に入った以上、そうじゃろうな。『聖域』の住民の誰も彼もがあそこで生まれ育ったわけではないのじゃ。ロズ坊が時折、外から似た境遇のものを連れてくることがあった。その子らもまた、『聖域』に入った時点で魔女の所有物。エミリア様とて例外ではあるまいよ』

「ロズワールが……」
「本当に、忌まわしい限りかしら」

『一度目はしかし、ひでぇ目に遭ったからな……』
『村の人たち大喜びの、オットーが村にちょい残りするのも前回と一緒。本音を言えば盾代わりのオットーにはついてきてほしかったんだが……』
『なにも、起きてないでくれよ……』
『あと三日……つまり、フレデリカから首尾よく話を聞き出して『聖域』にとんぼ返りして、その足で『聖域』の問題を解決して屋敷に戻る強行軍。単純に時間だけで見ればやってやれねぇこたぁねぇが……』
『問題解決の手段は、いくつか候補があったけど……最善っていうか、ご都合主義万歳なルートはさすがに厳しいか』

「戦力が偏りすぎているのが問題だな...戦えるものが悉く聖域に閉じ込められている」
「...そうだね、時間も無さすぎる」

『今、ちょっとフレデリカ姉様は山の結界の確認に出てるから、戻ってくるまで少し待たせちゃうかも……です』
『村の人たちがみんな戻ってきたら、結界に綻びがないか見回るお仕事が戻ってくると思うけど、今はまだみんな帰ってきてないからフレデリカ姉様が』
『その姉様呼びが知らない間に二人の仲が深まってるのを伝えてきててこそばゆくもいい感じだな。それと、村のみんな戻ってきてるぜ』

「姉様...いい呼び名だわ」
「...ええ、私もそう思いましてよ」

『失礼いたしますわ。――無事にお帰りになられてなによりです、スバル様』
『色々とお聞きしたいことがありますが……それはスバル様も同じことですわね。場所を変えましょう。眠っているとはいえ、あまり聞かれたくないことでしょうから』
『お前の乱暴で口の悪い弟と、見た目ロリなのに中身ババアなギャップ萌え。それから『聖域』に実験場と、ロズワールの思惑。きりきりとどれぐらい、答えてもらえるのか楽しみにさせてもらうぜ』

「...大将……」
「...ガーフ、そう暗い顔をするものではありませんわ。きっと、大丈夫ですわ」

『旦那様がお戻りになられていないということは、まだ『試練』は終わっていないようですわね』
『本気で話が早いな。――そんだけ内情をわかってて、あれっぽっちしか情報くれないで送り出してくれたことに関しては物申したい気持ちもあるけどよ』
『言い訳をしたりはいたしませんわ。私が『聖域』のことも『試練』のことも、不肖の弟のことも語り尽くさなかったことは事実ですもの』
『さっきの部屋でも言った通り、いくつか聞きたいことがあんだけど……それの答えが全部もらえるって期待してても?』
『……その期待にはきっと応えられないと思いますわ。『聖域』の解放がなされていない以上、私と旦那様との間の契約は結ばれたままですもの。その契約に従う限り、私がスバル様にお伝えできる事実は制限されてしまいます』

「契約...」
エミリアが瞳を伏せる。
「...ごめんね、スバル。困らせてばっかりで」

『スバル様は、亜人戦争はご存知ですか?』
『……亜人戦争。字面だけはどっかで、聞いたような気がするな』
『あの『聖域』の存在意義と、ロズワール様のお考え。それを紐解くには、まず『亜人戦争』について少しお話しなくてはなりませんの』
『亜人戦争――そもそも、それがどういった内容の争いだったのか、スバル様はご存知ですか?』
『さっきも言った通り、細かい内容に踏み込んで聞いたこたぁない。ただ……字面と歴史的背景から想像ができないってわけでもないぜ』
『あら、興味深いですわね。どのようにお考えか、お聞かせいただいても?』
『その戦争がどれぐらい前にあったもんなのかもわからないけど、事の起こりが『嫉妬の魔女』と無関係じゃないってことぐらいは想像がつく。エミリアの王城での腫れ物扱いと、ハーフエルフが色んな人に嫌われてんのもわかってっからな』
『ハーフエルフってのはつまり、人間とエルフの間の子ってことだろ?そのハーフエルフを忌み嫌うって流れが生まれるなら……そもそも、人と別の種族の間に生まれるハーフ自体を異端視する偏見が出てきてもおかしくないよな』
『想像の話でしかないけど、ハーフエルフ排斥の流れはハーフ排斥の流れに繋がる。そしてもっと極端なことを言い出せば、そもそもハーフが生まれる原因になりかねない亜人たちそのものの存在がおっかない……なんて考える奴らも出てくるかもな』
『全部が全部、みんながみんなそんな思考に寄ってくとは思わねぇけど、声のでかい奴が目立つってのはどこにいても同じようなもんだろ。それで亜人憎し……本音は亜人恐し、かな。そんな不満が溢れ出してなんやかんやしてる合間に』
『人と亜人種の間で対立が勃発。燻っていた火種はやがて火の勢いを強くして燃え広がり、ルグニカ全土へとその手を伸ばしていったのですわ』

「...本当に、スバル殿は亜人戦争をご存知なかったのだろうか...ここまで言い当てられていて……」
「スバルきゅんは変なとこで勘がいいし、不思議では無いけどネ」

『亜人戦争の始まりは、およそ五十年前。そこから十年近くも続いて……終結は四十年前と記録されていますわ』
『十年……長ぇな。俺の地元でも歴史上、百年戦争とか三十年戦争とかあったみたいだけど』
『ともあれ、一つの亜人族の集落と人族との間から始まった戦争。本来であればその場限りで収まるはずだった争いでしたのに……その後に起きた事件のせいで、戦争の熱は一気に加熱。各地で血で血を洗う凄惨な争いが始まりましたわ』
『最初の争いが起きてすぐ、事態を重く見た当時のルグニカ王は側近を和議の使者として送りましたの。亜人側も複数の種族の族長が集まって、使者を迎え入れての交渉で収拾を図るはずだったのですが…』
『会談に出席した方々――王城からの使者と族長たちが揃って、その場で皆殺しにされてしまったのですわ』
『下手人は今をもって不明。ただ、当時の人族と亜人族は揃って、『相手側の企みだ』と判断したようですわ。結果、小さな火種は大火となり、易々と消し止めることができずに十年……ということになったんですの』

「……話し合いで、解決できなかったの?」
「それが理想論なことは、エミリアなら分かるはずかしら」
「...そう、だけど」

『亜人戦争は最終的に、亜人族の降伏――といった形で終結しています。といっても亜人族が会談の件での加担を認めたわけではなく、純粋に争い続けることの無意味さを先に認めたという形ですが』
『個人的には泥沼のケンカは先に折れた方が賢いって思うけどね。おまけにこれって内戦みたいなもんだったんだろ?国としちゃ得るものがねぇよ』
『実際その通りで、ルグニカはこの亜人戦争にかまけている間に国力を大きく落としましたわ。当時の周辺国の状況が落ち着いてなかったのが幸いしましたが、あるいは疲弊したルグニカは他の国に取って代わられていたかもしれません』
『しかしまぁ、長々続けた戦争を終わらせるって決断できたのもすげぇや。かなり勇気のいる話だろうし、強硬派の反感考えたらなかなかできねぇよ』
『……その強硬派の心が折れるぐらい、とんでもない存在が人族にはいたものですから。当時の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレア様の剣技の冴えの前に、あらゆる亜人族が頭を垂れたとか……どうされましたの?』
『いや、知らないわけじゃない名前が出てびっくりしただけ。世間狭いわ』

「テレシア……」
その名前に、ヴィルヘルムの顔が固まる。
ラインハルトも、顔を背けて。
「...剣聖……」
エミリアが、そう呟いた声が反響した。

『人数が少なくて、余所者が入ってこない閉塞的な村だとか……そういうとこにちょっと問題を抱えた奴がいると、集中砲火を浴びる気がするよな』
『私と弟は父親違いの姉弟ですの。名乗っている家名が違うのはそのせいで……私は父の家名を。弟は母の家名を名乗っていますわ』
『母はその……とても要領が悪い人で、それと運も悪い人だったようで』
『母は借金の形に売り払われそうになるところ、その奴隷商人を狙った亜人族の盗賊団に身柄を拘束されて……そこで出会ったのが私の父だとか』
『ただその父ともすぐに死に別れてしまって、まだ赤ん坊だった私を連れて途方に暮れていたところを別の亜人族の集団に捕まって。またそこで今度はガーフィールの父親と出会うことになって……』
『そこでガーフィールが生まれるんですが、やはり弟の父とも一緒にいられなくなって親子三人途方に暮れて、どうしようもなくなっていたところを、このメイザース家に拾われた形ですわ』
『当時、すでにメイザース家の当主は十代前半だった旦那様……ロズワール様が継いでらしたので、私と弟にとっては旦那様は本当の意味で恩人ですわ。こうして身の回りのお世話をさせていただけるのも、光栄に思っていますもの』
『それで二人は『聖域』に入れられて、そこで暮らしてたってことか……ところで、ちょっと聞きづらいんだけど、お母さんってどうなったんだ?』
『心配されているようですけれど、ご安心くださいまし。母は私と弟をロズワール様に預けると、その足で屋敷を出て行方をくらませましたの。その後の足取りはわからないまま。息災であれば、ぐらいには思っておりますけれど』

「...姉貴……」
「...ガーフ……」
姉弟が痛ましい視線を交わす。
「...こんな会話、記憶には……」

『スバル様。――『聖域』の結界が、どうやって対象を選別しているかご存知ですか?』
『正直、わかってない。結界の有無は間違いないとはいえ、そもそもその結界を俺は感じたりしないからな。魔法的なもので、通る人間をチェックしてるんだろうとは思ってるけど……』
『結界は通り過ぎる存在の、その体の中の血脈を探っているのですわ。そこに人族の血と亜人族の血。その二つをはっきり確認できる相手を弾く、それがあの結界の本質ですわ』
『私が結界を抜けて、『聖域』の外へいる理由がお分かりになりますか?』
『……条件が同じなら……なんで、結界近くまできてたガーフィールの野郎はあんなピンピンしてやがったんだ?』
『先祖帰りの特性がありますから、弟は一見、亜人族の血が濃いように思えるんですけれど、実際はそんなことはないんですのよ。――私と、同じで』
『待て。じゃあ、つまりガーフィールも『聖域』の外に出られるってことなのか? その気になれば、『試練』の成否なんて関係なしにあいつは』
『あいつが外に出られるっていうんなら、それなら……』
『確かに、弟は私と同じで『聖域』の外へ出ることができます。私が『聖域』を出る際にも、一緒に行こうと結界の傍までは行きましたから。でも……』
『弟は『聖域』へ残りました。そして、『聖域』が解放されない限り、ガーフィールが外へ出ることは絶対にないと思います。情の強い、優しい子ですもの』
『外に出られない『聖域』の住民たちを置き去りにして、それで外へ出てこれるような子じゃありませんの。良くも悪くもまっすぐで……手のかかる、弟ですわ』

「...くッそォ……」
ガーフィールの呻きが聞こえる。
エミリア達は、言葉を紡ぐことすら出来ず、動き続けるスクリーンを眺めるのみであった。

Comments

  • シン
    May 19, 2025
  • しいゆ
    November 12, 2024
  • 心響
    November 12, 2024
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