各々の暗躍
4章長すぎて心折れそうですが、早く大兎のとこを描きたい!!
エミリアとか発狂しそうですね。
必ず守るって言ったのに。
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『わたくしは同行できませんが、どうぞ道中お気をつけてくださいまし。旦那様にも、フレデリカがお屋敷をお守りしているとお伝えいただければ』
『こっちこそ、慌ただしいときなのにごめんなさい。ロズワールがいないんだし、本当なら領主代行で私がいなくちゃいけないんだと思うけど……』
『なにせそのあたりの実務に関しちゃ俺もエミリアたんもからっきしだ。雑務はこなせても数字関係は門外漢丸出し。オットーにぶん投げて整理してもらったけど、それも焼け石に水だよなぁ』
『地竜の準備、できましたよ。あれだけの大仕事からほんの数日だっていうのに、ナツキさんのパトラッシュはずいぶんとやる気満々なご様子で』
『働き者のいい子だろ?現飼い主じゃなく、たぶん元の飼い主の気質が大きいよ。道案内とか、問題なくいけそうか?途中で迷って遭難とかお話にならないけど』
『フレデリカさんの教え方が良かったみたいで、問題なさそうですよ。半日とかからず到着できると思います』
「パトラッシュちゃんはすごーくいい子よね!スバルの相棒だもの」
「ええ、扱いにくいと聞いておりましたが、スバル様にはそんな素振りもみせませんもの」
『待って、待ってください。スバ、スバル様……っ』
『ご出発になる前にこれをお渡ししたくて。お持ちください』
『刺繍……か。へぇ、上手なもんだな』
『スバルが描いたパックの絵、よね。すごいすごい、上手にできてる』
『俺のデフォルメパックがよくできてんな。そんな見るチャンスもなかっただろに』
『ラジーオ体操のあとのスタンプ、ちゃんと毎朝押してもらってたもん』
『にしてもよくできてる。これは裁縫マイスターとして俺も負けられないな』
『もらってくれる……ううん、もらってくれますか?』
『もらってくださいますか、だな。――もちろん、ありがたく受け取る。血と汗と涙を拭くにはちょっと心が咎めるけど、お守り代わりに懐にな』
「本当に、ペトラはよくできた子ですわ」
「エミリア様も、気を抜いていてはバルスを取られてしまいますよ」
「えっ!だ、大丈夫よ!スバルってすごーく私の事好きなんだもの!」
「青髪の娘が聞いたらキレそうなセリフかしら」
『さて、んじゃ名残惜しいけどそろそろ出発とするか』
『あんまりここで話してても、朝早くに出る意味がなくなっちゃうものね』
『それでは出発します。舌とか、噛まないようお願いしますよ』
『じゃ、『聖域』目指して出発進行――!』
『それじゃ、留守を頼んだ。それと……レムのこと、よろしく頼む』
『お任せくださいまし。その代わり、エミリア様や旦那様をどうぞよろしくお願いいたします』
「聖域……どうか、最低限の苦しみですみますことを、願っておりますわ」
「スバル……」
『じゃ、やっぱりパックの奴はずっと顔出してないんだ』
『うん、そうなの。何度も声はかけてるし、結晶石にも存在は感じるんだけど……こんなに長く表に出てこないの初めてだから、ちょっと心配』
『思い返すと、屋敷に戻る前から顔出してないよな。最後に見たのって……』
『私は王都で、クルシュ様のお屋敷にいたとき。いつも通りだったと思ってたんだけど、どうしてか朝から姿が見えなくて。呼びかけても、顔も見せてくれないし……怒らせちゃったのかなって、不安になってたんだけど』
『パックと話した日の最後の契約が、『髪型は三つ編み』だったから。そのあとはどんな風にするか言われてないから、今はこれを守ってるの』
『髪型がパックとの契約ってマジだったんだ。ずいぶん軽い……軽いか?髪は女の命とも言うし、だったらパックの契約は命握ってんのと同じ意味が』
『すごーく、軽い対価だと思う。森を出るまでは知らなかったけど、パックぐらいの精霊と契約するのに、今みたいな条件なんて軽すぎるってロズワールも驚いてたもの。本当ならもっと莫大な量のマナとか、複雑な条件とか必要なんですって』
『ま、エミリアたんの時間の一部を束縛してるってだけで、それはもう俺からしたらとんでもなく重い対価といってもいいけどね』
『そういうこと、あんまり軽々しく口にしてると上滑りしてきちゃう。大事なことならもっと大事なときにとっておいてほしいかな、私は』
『大事な場面でエミリアたんに伝えるとっておきの台詞は別にちゃんととってあるよ。今のは常日頃から、エミリアたんに伝えてもいい甘い言葉の数々』
『ホント、スバルって口が達者なんだから。……やだ、ちょっと顔が赤いかもしれないからこっち見ないで』
『パックが不在って話になると、真面目に戦力面で不安があるな、この旅路。オットーも武力面で頼りにはできねぇし、俺は言うまでもなくダメダメ。で、エミリアたんもパックなしってんじゃキツイだろ?』
『あ、そういうこと言うんだ。言っておくけど、パックがいなくても私はちゃんと魔法も使えるんだから。パックだけじゃなく、微精霊の子たちとも契約してるもの。その子たちとの意思疎通は問題ないから戦えます。なにかあっても守ってあげる』
「何かあっても……」
守ってあげられただろうか、と思う。
聖域で、スバルはたくさん頑張ってくれたけど、エミリアはそれに匹敵するほどのことが出来ただろうか?
「...わからない」
『ガーフィールに気をつけろ、か』
『スバルも会ったことってないのよね。私も、名前だけしか聞いたことなくて。フレデリカも詳しくは教えてくれなかったし』
『やっぱ聞き出すべきだったよなぁ。危険人物だってわかってる相手のこと、名前しか知らないとか居直りすぎだと思うんだけど』
『仕方ないわ、誓約だもの。約定は神聖にして不可侵、決して侵すべからず。契約も盟約も誓約も、それらは重さは違えど固さは同じと扱うべし』
『エミリアたんとパックの間に結ばれてるのは契約。フレデリカがロズっちに義理立てしてんのか譲れないのが誓約。んで、王国がドラゴンと交わしたのが盟約……でいいんだっけ?なんか違うの?』
『そこまではっきり使い分けてるわけじゃないけど、私は契約は個々の間の約定。誓約は一方から一方へ誓っての約定。盟約は個人を越えて、時間も越えて結ばれるものだって思ってる。そんな風に教わったから』
『なるほど。確かにその認識なら条件には合うか』
『ずいぶんと大仰な台詞で飾ったよね。約定は神聖にして不可侵、だっけか』
『約定……約束は、大事なものだもの。誓約はもちろんだけど、契約にだって本当ならそれを守らせる強制力なんてないの。ないけど、なくても約束は守る。守るために努力するものでしょ?誰が見てなくても、誰が気付いていなくても約束は守る。相手も自分も、そうするよう尽くす』
『そう信じているから、交わした約定を果たすために頑張れる。約束って、その信頼を互いの間に結ぶためのものでしょ?』
「そう、約束はすごーく大事。約束は守らなきゃダメ、嘘はダメ。」
「...エミリア」
「そうですね、僕も商人ですから、エミリア様の気持ちはわかりますよ。ナツキさんがそれを軽々しく破る人だってこともね……」
「ふふ、オットーくんは楽しそうね」
「楽しそうに見えましたかねぇ!?」
『『聖域』にガーフィール。それにロズワールや村の人たち……話さなきゃいけない人がたくさんいて、今からドキドキしてくるわね』
「話さなきゃいけないことも、やらなきゃいけない事も沢山だったわよね」
「...そうですね、エミリア様。休む暇もなく」
『レムさんのこと、考えてた?』
『フレデリカとペトラに任せてるし、心配はないよ。ないんだけど……ないはずなのに湧き上がってしまうこの不安な気持ちを、俺はうまく言葉にできない』
『心配なのは心配なんだから仕方ないことじゃない。それだけ大事ってことだもの。そんなに思われるのって、ちょっと羨ましいぐらい』
「心配するのはもはやとめられないことですもの、生きていて大切な人と離れたら、誰でも不安はつきまといますわ」
「そうだッなァ、俺様ッにもその気持ちはわかるぜ」
『もっと心配してるのは、ベアトリスのことでしょう』
『心配ってほどじゃねぇよ?ただ、最後に喧嘩別れみたいな感じになったあとで一回も会えなかったからさ。このまま屋敷離れて会わないまんまってのは、ちびっとだけ具合悪くて。そう、ほんのちびーっと。これっぽっちだけ、先っちょだけ』
『あれでベア子の引きこもりがますます悪化するとなると、元引きこもりとしては非常に責任を感じなくもないというかなんというか』
『引きこもり……スバルって、確かそれに詳しいのよね。ベアトリス、出てこれそう?』
『難しいとこなんだよね、これが。大した切っ掛けなしに強引に引っ張ってもよくないし、かといって時間かけてじっくりってのは甘やかし過ぎ。本当に引きこもりってやつはどいつもこいつも手を焼かせて……あ!俺もだった!』
「引きこもり……」
「べ、ベアトリス、スバルも悪気があって言ったわけじゃないのよ?ベアトリスを心配してただけなの」
「わかってるかしら!」
ぎゃんぎゃかと喚き、オットーはその騒がしさに一種の安堵を抱く。
『戻ったら、ベア子と色々話さなきゃな。けっきょく、聞き出さなきゃいけなかったことも聞き出せてねぇし』
『ベアトリスもパックも、なにか知ってて隠してる気がするのよね』
『俺も同感。フレデリカもそうだけど、あの屋敷の関係者って思わせぶりなことだけ言って解答編を先送りにする癖とかあるよね。もはや病気。しかも良くない病気。ベア子の奴、福音書返して気になることだけ言いやがって』
『――森に入ったみたい』
『外も見てないのによくわかったね』
『混じりだけど、エルフの血も入ってるから。森の一族って言われるぐらい、エルフと森は切り離せない関係で――』
『――!?おい、ちょっと!』
ふらりとエミリアの細い体が揺れて、そのまま無防備に倒れ込みそうになるのを滑り込むスバルが受け止める。
床の上をスライディングするような勢いで抱き止めたエミリアは脱力していて、目をつむる彼女は苦しげな表情で小さく喘いでいた。
『え、エミリアたん!?なにが、エミリア!?』
返事もできない様子のエミリア。
苦しげではあるが、浅く早い呼吸と表情を除けば熱もないし汗も掻いていない。
軽い彼女の体を抱き上げ、スバルは自分では埒が明かないと即座に判断。
竜車前方へ駆け寄り、御者台と繋がる小窓へ乱暴に頭を突っ込むと、
『オットー!なんかヤバい、エミリアが急に倒れて!なにか薬とか……』
『あー、ナツキさん、すみません』
焦るスバルの言葉が途切れる。
そして、声を投げられたはずのオットーは額に汗を浮かべ、その声から力をなくしてこちらを振り向いていた。
気付いた変化は二つ――まず、竜車が止まっていること。
パトラッシュとフルフーの二頭は足を止めて、木々の群れの中で立ち往生している。
停車に気付かないぐらい、今のばたばたがセンセーショナルであったということだが、
それ以上の問題が今や発生していた。
それが、大きな変化の二つ目であり――、
『また正面から堂々と、いい度胸じゃねェか、余所者』
「ッ!大将……」
「ガーフィール……」
ガーフィールの表情が曇る。
ベアトリスには、その気持ちが痛く理解出来て。
『どこの誰だか知らねェが、『突き抜ける杭ほど先細って脆い』ってやつだな』
『へ、あ?』
『あァ?ビビってんなよ、おい。確かにてめェらは運が悪ィ。なにせ、忍び込もうとした場所が場所で、おまけに出会っちまったのが俺様だってんだからな』
『このガーフィール様の前に出たのが運の尽きだ。『右へ左へ流れるバゾマゾ』みたいになっちまいな!』
『クソ、なにが――っ』
『パトラッシュ――!!』
『痺れる判断だ。いい地竜……いや、いい女じゃねェか、てめェ。『折れる骨の音もまた愛の証である』たァよく言ったもんだ』
『いいぜ、お前。すぐ行動したのもよし、今も諦めてないのがさらによし。合格だ』
『痛い目にはあわせねェ。ちーっと寝てろ』
『ぱ、パトラッシュを投げただと……?』
『真っ正直な性質だ。素直に投げてやったから痛みはねェよ。立たせる前に終わらせっちまうしな!』
「スバル……!」
「ッ……くそッ……!」
過去の自分に背中を刺される。
そんな感覚が。
『くっ……でも、舐めないでくださいよ!僕はこれでも行商人の端くれ!商いの途上で暴漢に襲われることだって念頭に入れてます。さあ、スーウェン家流暴漢撃退術の餌食になりたくなければすぐにでも投降することをオススメして……だふん!』
『うるっせェよ、ド素人。毛が生えたっ程度の技で俺様に勝てるわきゃァねェだろ、寝てろ』
『さって、見たとこ、残ってんのはてめェらだけみたいだな』
『俺は……』
『『めくってもめくっても青い肌』、聞いてやらねェよ――!』
『反撃もしねェで女守るの優先たァ、どうなんだかな。てめェがやられっちまったらどっちみち女も道連れだぜ。判断が悪ィんじゃねェか?』
『挙句にゃ戻ってくんのも遅ェ。動けた分、見込みがねェってわけでもねェが……使い物にならねェのは間違いねェな』
『お、お前は……』
『あァ?』
『声ちっせェよ、もっとでっけェ声で言えや。んだよ』
『お前、ガーフィール……で、いいんだよな。ロズワールとかフレデリカの知り合いの』
『――フレデリカ?』
『なんでその名前が……いや、ちっと待てや。てめェが抱いてる女、そりゃ銀髪の……半魔か?』
「!くッそォ……」
ガーフィールが髪を掴み頭を掻き回す。
「ガーフィール、私は気にしないから大丈夫よ。だから、そんな顔しないで?」
「エミリア様、今は放っておきましょう。外野が何を言おうとも、これは本人の気持ちの問題です」
「で、でも……」
「エミリア様」
「……わかった」
『ハーフエルフだ。本人の前で、そんな言い方するんじゃねぇよ』
『――はッ。なんだよなんだよ、急に気合い入った面しやがって』
『っつーか、そうするとこれが噂のエミリア様ってやつか。今、ここに近寄るような半魔なんてロズワール絡みしかいねェはずだしな』
『『焼けた鉄を齧る馬鹿は痛いだけ』ってな。てめェじゃ俺様にゃ勝てねェよ。実力差省みて大人しくしとけや。――痛い思いはしたかねェだろ?』
『痛い思いはしたくねぇ。俺はお前にボッコボコにされるだろう。でも、だ。――この子が悲しむだろうって見下しを見逃す理由にはならねぇ』
『そのふざけた呼び方を撤回して、二度と使うな』
『……俺様に言うこと聞かせたきゃ、色んなもんが足りてねェんじゃねェか?横っ面、土手っ腹、向こう脛、全部ひっくるめて痛めつけてやっか、おォ?』
『やってみろや。タダじゃやられねぇよ。顔を殴る手に噛みついて、腹パンしてくる腕にしがみついて、蹴ってくる足に唾かけて、一矢報いてやる』
「スバル……」
「何でッ……今更ァ……ッ!」
『ひははは!いい啖呵じゃねェか、おい。やりゃァできんじゃねェか!』
『なにを……痛ッ!え、なに、痛い、ちょ、痛いっつの!』
『いいぜ、合格だ。通してやんよ。半魔……ハーフエルフは気に入らねェが、そこまでして女庇うって根性据わってんならてめェに免じてやらァ』
『言い直してくれたのはいいとして……っつか、痛いっつってんだろ!いつまで叩いてきやがんだよ、殺す気か!』
『つれねェな。さっきまでのことなんざ水に流して忘れっちまえよ。器が小せェと男はモノが小せェ証拠だぜ?』
『初めてお前が口に出した慣用句的表現に聞き覚えがあるけど、余計なお世話だよ!と・に・か・く!』
『お前がガーフィールで、ロズワールの知り合いでいいんだよな?いきなりの接触でビビりはしたけど、今は敵対の意思とかなしってことでよろしいか!』
『ぴーすか騒ぐなよ、やかまっしい。んな慌てなくても取って食いやしねェよ』
『さっきまでのお前の凶暴な態度で誰がそれ信じるんだよ……?』
『そ、だ……それどころじゃねぇ!エミリアが急に倒れちまったんだ。さっきまで普通に話してたってのに』
『倒れたって、そのハーフエルフかよ。そら、当たり前だろが。ここがどこだと思ってやがんだ、慌てることかよ』
『ロズワールとフレデリカに、この場所がなんなのか聞いてっきたんだろ?んならあって当たり前の……まさか、知らねェのか?』
『フレデリカもなにも言ってねェってのか。あの性悪、しっばらく見ねェ間に飼い主の性格に似ちまったってことかよ。救えねェ』
『具合悪そうに見えっけど、命に別条はねェよ。ただ、それ以上苦しそうな面が見たくねェってんならこっからとっとと離れろ。村までは案内してやっからよ』
「……」
フレデリカが眉を顰める。
各々の決意と背景がある。
それが、スバルをどうしようもなく苦しめるとしても。