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傲慢なる会話/Novel by 春風

傲慢なる会話

12,882 character(s)25 mins

400フォロワー感謝です!!
ちょっと長いので長い文章苦手な方は見ない方がいいかも……?
早く3章終わらせたい……!!
素人文章で読みにくいかもしれませんが、もう少しだけお付き合い下さい!
それから、6章は皆さん希望されてたので、最低でもそこまではやります!
個人的にはナツキ・シュバルツ状態が好きなのでそこまでやりたい気持ち……!
リクエストやアドバイス等ありがたく頂戴しますが、全部のアドバイスを組み込むのは難しいかもしれません!
「もう少し省かないで欲しい」って方と「長いから短くして」って方がいらっしゃるので……!
書きやすい感じでやっていくので、よろしくお願いします!

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――時はスバルがフードを外し、魔女教徒たちの前で素姓を明らかにした場面に戻る。
高々と上げた右手の先で指を鳴らし、スバルが意気揚々と口上を放つと、それまで状況を見守るばかりだった魔女教徒たちが一斉に動き出す。
対話鏡を手にしたひとりと、スバルを挟むように立っていた二人が同時に懐に手を差し込み、そこから十字架を模した短剣を――、
『――判断が遅い』
一言、魔女教徒の判断ミスを端的に指摘し、木々の隙間から剣鬼が舞い降りる。
銀閃が走り、短剣を握る信徒の腕が二の腕半ばで切断されて宙を舞った。
血飛沫が散り、暗がりを迸る刃の煌めきが残酷な美しさを軌跡で描く。
『申し訳ないが、すでに足下はこちらの手の内にある』
踏み込もうとした足先が地に沈み、三者がそれぞれ体勢を崩して膝をついた。
そのまま、体を起こそうとする男たちの首に一本ずつ刃が宛がわれる。
先制したヴィルヘルム、追撃で地面をぬかるませたユリウス。
そして、
『いいとこどりのフェリちゃんでしたー』
ピースサインのようなもので表情を飾り、珍しく短剣を抜いたフェリスがスバルの方へ愛嬌を振りまいていた。
その不真面目な態度はともあれ、概ね想定通りに状況を進められたことにスバルは安堵の吐息をこぼす。
『うまくいってホッとしたぜ。あんだけかっこつけてミスったらダサいなんてもんじゃねぇし。フェリス、止血とか頼む。聞くこと聞く前に死なれると困る』
『顔、青くして言うことじゃにゃいと思うけどぉ?』

「良かった、今回は大丈夫そう……」
「締まりきらないところがナツキさんらしいですね……」

『それにしても、行商人に内通者がいるにゃんてよく目をつけてたネ』
『白紙の親書、って時点ですり替えられてんのは明白だろ。ラムの話じゃ、持ってきたクルシュさんとこの使者は、それ聞いてすぐに取って返し王都に戻ったって話だし……今回に限っちゃ、時間がなかったのもあって足代わりの協力者の選別が雑だ。世の中ってのは最悪の想定より、もうちょい悪いようにできてんだよ』
『思い出した。確かあんた、ケティって人だよな』
『――なぜ』
『さて、なんでだろうな。存分に、俺ぐらい悩んでくれていいぜ?』

「……この人間は、王都で最初の周回で会っていた人間かしら」
「……本当ですね」

『事情に通じてたから、ってわけだ。このまま放置してりゃ、せっかく行き先不明の聖域の場所も、二手に分かれての避難行動も筒抜けになるとこだ』
『だが、幸いにも出がかりを潰すことはできたようだ。付け加えれば、これで森に潜んでいるはずの魔女教に対しても機先を制することができるだろう』
『でも、こいつらってなんかすげぇ口堅そうじゃね?下手に無理やり喋らせようとすると、『魔女教に栄光あれ!』とか言って自殺しそうな気配があるんだけど』
『事実、魔女教徒にはそうした死を恐れない慣習が根付いております。四百年にもわたり、彼奴らの底が知れないのはそのあたりの影響もありますな。捕縛した集団がほぼ一斉に自害、真相は闇の中……珍しいことではありませぬ』
『はいはい、暗い話しにゃいの。そんなことににゃらにゃいために、こーしてフェリちゃんが前線に出張ってきてるんじゃにゃい』
『いや、内通者の心当たりがあるって話したらお前が意気揚々とついてきたんじゃん。戦闘力ないのにどうしてきたのって正直思ってたよ、俺』
『まあ、にゃんて失礼にゃ。そのスバルきゅんのあまりにもあんまりな考えを、フェリちゃんが払拭したげようじゃにゃいの』

「…やはり魔女教の考えというのは理解できないな」
「理解しようとするだけ無駄かしら。あれは人とは違う生き物と思った方がいいのよ」

『掻き混ざれ――』
『おい!いったいなにを……』
『ちょっと体の中のお水に干渉して、苦しい思いをしてもらってるだけだヨ。心配しにゃくても、廃人にしたりしにゃいから大丈夫。――お人形さんにはするけどネ』
『少々乱暴に見えますが、魔女教と相対する上では必要な処置です。どうか、スバル殿にも堪えていただきたい』
『別に敵が痛めつけられてるの見て心が痛む、とか言い出すほどお人好しじゃねぇけどさ……こんだけ苦しめられてるとこ見ると、説明欲しかったりするぜ、さすがに』
『治療の名目で、フェリスは彼らに水の系統魔法を施しただろう?彼はその内側に通したマナに干渉し、ある程度の影響力を奪い取ることができるらしい』
『……それ、つまるとこ、どういう意味?』
『フェリちゃんが触った相手は、ちょこっと抵抗力が低いとフェリちゃんに対して従順な小猫ちゃんににゃっちゃうってお話』
『制限時間付きだけど、今ならそれにゃりにお話が通じると思うヨ?一度、効果が切れると次またやるのは時間を置かなきゃにゃんだけど』
『まだ、二人もいるから全然大丈夫だよネ』
『時々、お前のSっ気が垣間見える気がしてドン引きだよ、俺は。……本気、じゃないよな?』
『うまく聞き出せたら、本気にしにゃくて済むってお話かにゃぁ』

「いやぁ、スバルきゅんは経験の割に優しーよねぇ」
「……そうね、すごーく優しい」

『人道的に褒められた手段ではないが、大事の前の小事と割り切るよりないだろう。残りの二名に関しても、できるならこのまま王都へ連行したいところだ』
『貴重な情報源ですからな。長きにわたって暗躍し続けてきた魔女教です。その尾を掴むためにも、有益に使わなければなりますまい』
『とりあえず、聞きたいこと聞いていこう。今回、この襲撃に参加してる魔女教徒は何人だ?何組に分かれて、森に潜伏してる?』
『おい、素直に答えるって話なのにだんまり決め込まれたぞ』
『いくらにゃんでも、本人の知らにゃいことまでは答えられにゃいよ。無言が答えってことは知らにゃいんでしょ。切り替えて、次、次っ』
『釈然としねぇ。じゃあ、お前らを率いてるペテ……大罪司教の話だ。名前と風体、なにができるのかを話せ』
『司教様の……お名前、はペテルギウス……。痩せた体つきの、緑の髪の……骨の浮いた顔つきの男性で……』
『使える能力は?』
『森に仕込んでる指先の数』
『誕生日と血液型と好きな女の子の体の部位』
『もうお手上げじゃねぇか!』

「そもそも、下っ端の持つ情報なんて少ないわ。聞き方に頭を使いなさい、バルス」
「でも、こんなに何も知らないってなると、スバルでも難しいんじゃないかしら……」

『もう、仕方ないにゃぁ、スバルきゅんは』
『ん……と、これは』
足下に落ちていた物体――未使用でケティの手から落ちていた、対話鏡を拾い上げる。
草と土を払い、マジマジと見てみればそれはスバルの知る折り畳み式の手鏡にかなり酷似していた。
コンパクト、がイメージ的にもっとも近いだろうか。
『う、お……お?あれ、ひょっとしてなんか変なとこ触った?』
慌てて、手の中の対話鏡をいじくり回してみるが、光は徐々に強くなり、弱まる気配がない。
いよいよ壊した疑いが強くなり、同時に『魔法器は非常に高値で取引されている』というかつての禿げた爺さんとの会話が思い出されて冷や汗が噴き出す。
そうしてひとり相撲で財政危機を迎えるスバルの様子にユリウスが気付き、
『スバル、いったいなにを……』
『な、なにもしてねぇよ!?ちょっとテクマクマヤコってただけで、特別なことはなにもしてないんだって!なのにこれ、ちょっと変な感じになって……』
『まさか、起動術式を解いたというのかい?』
『対話鏡は魔法器の中でも出回る数が多い代物だが、対の対話鏡と繋ぐには相応の手順を踏む必要がある。とりわけ、起動術式は繋いだものの自由にできる部分だけに、知っているものから聞き出す以外に引き出す方法は限られているのだが……』
『え、なに、つまりどゆこと?』
『今、フェリスが聞き出そうとしてくれていた事を、君がほとんどやり遂げてしまったということだよ。対話鏡の起動術式を解除して、繋がる対話鏡を割り出せれば』
『――お手柄だ、スバル。今、これと繋がる他の対話鏡の場所を見つけ出した』

「さすがスバルかしら!」
「スバルすごーくお手柄ね!」
「ナツキさんは運がいい人ですからね」
「ああ、スバルは持って生まれた引きの良さがある」
「そうだね、スバルはとてもすごいよ」
「思わぬ高評価で驚きが隠せないね〜ぇ」
「バルスは周りに取り入ることは得意ですからね」

『対話鏡が通じるのは二ヶ所……一ヶ所は森の中だが、もう一ヶ所は少し離れているな』
『そこに、魔女教がいるってのか。……そいつは知らない奴だ』
『対話鏡でわかるのは二ヶ所。他の場所には対話鏡はないと考えていいのか?』
『いくら市場に出回ることが多いといっても、対話鏡も希少な魔法器であることに代わりはない。精製法はわかっているが、かかる資金と時間――労力を考えると、あまりわりに合うものとは言いづらいからね』
『まぁ、携帯電話普及への思いは先延ばしにするとして、それが確実ならいい。綿密な情報伝達が対話鏡頼みで、それの持ち主が二ヶ所だってんなら……』
『後詰めか、隠し札……どっちにせよ掴んだぞ、尻尾』
『二人とも、ラッキーなことに対話鏡が動いてくれた。これで残りの……』
無防備に手を掲げて歩み寄るスバル。
そのスバルの手に、光を漏らす対話鏡があるのを目にした途端、それまで大人しくしていた捕虜の様子が豹変する。
フェリスが術をかけた以外の二人がその顔を凶相へと変えて、縛られたまま跳ねるようにしてこちらへ身を飛ばしたのだ。

「大将ッ!」
「気を抜いちゃダメかしら!」

『――お』
とっさのことに固まるスバル、その喉笛目掛けて、縛られたままだったケティが牙を剥き出しに噛み千切りにかかる。
が、それは届く直前で、
『御免――』
斬撃が走り、長身の胴が上下真っ二つに分かたれて落ちた。
内臓と血を大量にばら撒きながら、ケティはまるで獣のような咆哮を上げて、下半身を失ったまま地面を痙攣――そのまま、凶悪な面貌で絶命する。
そして、ヴィルヘルムの斬撃を浴びたケティと異なり、もうひとりの側は、こちらへ飛びかかる姿勢のまま、前のめりに地面に崩れ落ちて手足を震わせ、喉が嗄れているかのように舌を伸ばして目を血走らせていた。
その肌が暗がりでもわかるほどに赤く染まり、内側からの圧迫に堪えかねて血管が膨張し、びっしりと全身に緑の紋様が浮かんでいる。

「あ、危なかった……」
「それにしても、すごーく怖いことになってるのね…」
「急でしたから加減が効かず……」
「ヴィル爺は悪くにゃいでしょ〜、スバルきゅんが死んじゃったら討伐に支障出ちゃうし〜?」

『戦意の強さのあまり、加減が利きませんでした。申し訳ありません』
『こちらも、もはや息はありませぬ。――フェリス、惨いことをしたな』
『だって、いきにゃりだったから仕方ないじゃにゃい。スバルきゅんの首がかじられて、クルシュ様に怒られるのやーだもん。……どったの?』
『触ってもいなかったけど……これ、お前がやったのか?』
『そだよ。水の魔法のちょっとした応用。――傷を癒す優しいマナも、過ぎた量を注げば毒ににゃる。体の中のお水が元気になり過ぎるのも、問題だよネ?』
『お前は……』
『んー?』
『……いや、なんでもない。もうひとりは、大丈夫なんだよな?』

「スバル…?」
「前回の死に方が、気にかかっているのよ……」
「…そ、っか……」
「…フェリちゃんがあの場で出来ることはあれが最善だった。そうだよネ、ユリウス」
「…そう、なのだろうか。わたしには……」
「…ユリウスは、優しすぎるんだよ」

『生き残った奴は王都に連行して尋問……の予定なんだろ?』
『こちらはまだフェリスの暗示が効いておりますので、問題はないでしょう。それでスバル殿、対話鏡が使えたとの話ですが』
『位置が割れたのであれば、奇襲をかけましょう。いずれ、定刻に連絡がないことを不審に思われればこちらの優位が失われます。そうなる前に』
『……それは、そうだな、うん。それはそうする。そうするけど』
『――フェリス』
『にゃーに?』
『その人を操れるって言うなら、対話鏡を使わせて喋らせるってのもできるな?』
『できるヨ?対話鏡で、繋がってる相手に意図的に誤情報を流すにゃんておちゃのこさいさい。――しちゃう?』
『ああ、しちゃおう。ただ、大したことは言わせなくていい。ボロが出て怪しまれても困るからよ。せいぜい、状況に変化なし。待機続行とかそんなでいい』

「…スバルも成長しているのよ」
「そうね、だから私もスバルに負けないくらいすごーく頑張らないと!」

『定時連絡の方法を聞き出して、今の情報を繋がってる二ヶ所に伝えさせてくれ』
『符丁とかあるかもだから、そのあたりも気をつけておいてあげる。ふふーん、スバルきゅんも一皮むけたかもだネ、フェリちゃん嬉しい』
スバルの指示に頷いて、フェリスはなにが嬉しいのか対話鏡を受け取ると上機嫌に男に向き直る。
それから鼻歌まじりに尋問と諜報を行う背中を見ながら、スバルはヴィルヘルムとユリウスの二人を呼び、
『二人に頼み、というか最終局面に入る上で役割を受け入れてもらいたいんだけど、いいかな?』
人事を尽くして天命を待つ――勝利を得るために、できる手は全て打たなくてはならない。
天命がなにもしないでスバルに微笑んでくれることなど、一度たりともあったことはないのだから。

『ま、思うばかりで今は堪える。手、握って怒られなかった思い出は胸にあるから、泣いたりなんてしないもん』
『嬉しい感情で押し流して、状況に乗せてエミリアたんを逃がす。……ずいぶんと俺も人心を弄ぶクソ野郎になったもんだ。人の心も空気も読めないとご近所で噂になってた頃とは大違いだぜ』
あとで彼女がこの全貌を知れば、ひどく軽蔑されるかもしれない行いだ。
死に戻りで未来を知っているとはいえ、それを理由に誰かの心を欺いて、ましてや自分の都合のよいように操るなど許されることではない。
だから、
『もう絶対に一生、このことは秘密にしておこう……』
『村の人間と半魔の嬢ちゃんはもう行ったみたいやな』
『俺の可愛いエミリアたんを半魔とか呼ぶな、半犬』
『おお、半犬とか呼ばれると思った以上に屈辱やな!これは勉強させてもらったわ!傑作、傑作!』

「ス、スバルったら……」
「スバルは喧嘩っ早いところがあるのよ……」
「まあ、ここでこれを言えることは騎士としては落第だが、私個人としてはそこまで悪くは思いませんよ」
「…ユリウスって、本当にすごーくスバルを分かってくれてるのね?」
「いえ、エミリア様程では……」

『それでどうだった?奇襲は』
『向こうの場所がわかってて、こっちの警戒はまるでしとらん。それでしくじるやなんて金もろてる傭兵のやることとちゃうわ。うまーくやってきたわ』
『あー、それとなんやけど、ちょっと問題があってな』
『な、なんだよ。嫌な予感がするから、できるだけ盛り上がった感じで頼む』
『そか?ほんなら、遠慮なく言わせてもらうんやけど!!』
恐いものを誤魔化すつもりのスバルに、真に受けたリカードが馬鹿でかい声で応じる。
鼓膜を破られそうな音量に耳鳴りが頭蓋に響き、顔をしかめるスバル。
『うるせぇよ!そういう意味じゃねぇよ!せっかく静かにみんなを避難させたのにこっちの動向がばれたらどうすんだよ!!』
『兄ちゃん!兄ちゃん!もう兄ちゃんの声も十分でかいで!』

「わっ!ビックリしちゃった……」
「喧しいったらありゃしないのよ!」
「?あっ、これって……」
オットーが、少し引き攣った顔で笑う。

『いいから話せ。なんか問題が発生したんなら、作戦実行の前に聞いておかなきゃ修正が利かねぇ。今はひとつでも不確定要素を省かなきゃで……』
『いや、作戦に問題とかは起こらんで、たぶん。ただ、魔女教徒を捕まえたんはえーんやけど……それとは別口の問題があってな』
『別口……?』
『ちょっと、さっきの奴、連れてきてんか』
命じられた部下が頷いて駆けていき、一頭のライガーを連れてくる。
その背には縄で縛られた人間が乗せられており、次第に近づいてくるそれを見て、スバルは疑念、不安、確信の表情変化を経て、
『魔女教徒のねぐらを奇襲したら、奥におったんや。どうもこの兄ちゃん、運が悪くて連中にとっ捕まっとったみたいでやなぁ』
言いながら頭を掻くリカードの前で、猿轡をはめられた人物がうなりを上げる。
不当な扱いに文句を言っているようでもあり、命乞いをしているようでもあり、なかなか残念なその姿に、スバルは最初の衝撃を乗り越えると、
『ぶっ』
堪え切れず、噴き出して笑う。
指を差して、縛り上げられて身動きの取れない人物に爆笑して、
『お前、いないと思ったら捕まってたのかよ、オットー!』
と、運が悪くてこれまで場面に顔を出せなかった、最後の登場人物の名前を叫んだのだった。

「…そう、でした……」
「オットーくん……」
エミリアが眉を下げて同情の視線を向ける。
「哀れかしら」
「そこまではっきり言わなくてもいいんじゃないですかねぇ!?」

『助けてくれてありがとうございます……って、素直に言いたくない気分なんですが』
『おいおい、命の恩人グループに対してなんて言い草だ。恩知らずなんて名前で周りに覚えられたら、今後の商いがやり辛くなって首絞めるだけだぜ?』
『あー!もう完全にこっちの事情は割れてるわけですね!ありがとうございます!おかげで命拾いしました!生きた心地がしませんでしたからね!』

「オットーくんも無事でよかった……」
「ほんとですよ……」

『で、どういう経緯で捕まったのよ。お前だけとか流れおかしいぜ』
『それは……その、非常に言葉にし難い都合というものがありましてですね』
『今、この領地に足を運ぶ奴は大概、王都からのお触れでロズワール辺境伯の屋敷に小金目当てに集まった行商人が多かったりするんだけどー』
『もうほとんどわかって聞いてますよねえ!? そうですよ!これ幸いにとその儲け話に飛びついて、みんな出し抜こうとして悪路突っ走って一番乗りしようとして、運悪く森に展開してた奴らの住処に出くわしてとっ捕まったんですよ!さあ、笑わば笑え!』
『いや、そんな欲の皮突っ張った話を聞かされて笑えって言われてもちょっと引くっていうか……』
『釈然としませんねえ!!』

「オットーくんって、その、すごーく……」
「運が悪いわね」
「エミリア様が濁した部分を直接的に!?」

『俺も嫌な奴になってきちまったなぁ』
『なんです?』
『お前が無事でよかったな、っていったんだよ。この村にいれば危険はとりあえずないし、今は待機しとけ。儲け話に関してはご愁傷様でした、としか』
『ま、まさか……もしかして、ひょっとして、すでに……?』
『儲け話に乗っかるチャンスは落っことしたってこと。まぁ、命あるだけ儲けもんってことで納得するしかないわな。油、うまくさばけよ』

「本当に運がないやつかしら」
「ベアトリスちゃんのそんな哀れみの顔みたくなかったですよぉ……」
「ま〜ぁ、悪運は強いのだからいいんじゃないか〜ぁな」
「…それはどうも」
「お前の嫌がる顔も大概かしら……」

『ってなわけで、森の山賊――お前はもう知ってるだろうけど、魔女教を倒すための討伐隊がここの面子。その間、戦場になるかもしれないんで村人を避難させるのに行商人を集めてたわけ。完全に行き違いになったお前には悪いけど、もう今さら村から出してやるわけにもいかないから、決着がつくまではここで待機だ。オーケー?』
『お、おけー?』
『受け入れてもらえてなによりだよ。何人かは残るから、その人たちから離れないように頼む。んじゃ、全部片付いたらまた話そう』
『知人との再会だったのだろう?もう十分、旧交は温められたのかい?』
『馬鹿笑いして馬鹿話して、その裏っ側になんにも隠してないかじろじろ覗き見てきたんだぜ。我ながら性格悪すぎて馬鹿になった気分だよ』
『満足はできているようでなによりだ。疑いたくない相手を疑う必要がなくなったのなら、それで十分といえるだろう。――彼はどうする?』
『村に残すさ。どっちにしろ、待機班はいる予定なんだからそこで守ってもらう。今さら避難した連中の後を追わせて、面倒事を増やすのはごめんだしな』
『それがいいだろう。では、時間をかけるのも不要なリスクを生むだけだ。そろそろ、動くとするかい?』
『――やろう、手筈通りに頼む』
『んじゃ、やろうぜ、みんな。頼りにしてっから、力貸してくれ――!』

「…結構疑り深い僕としては耳の痛い言葉ですね」
「疑うのは悪いことじゃないかしら、疑うことで何かを守れるのならそれでもいいと思うのよ」
「ベアトリスちゃんが僕に優しい……?」
「むきー!かしら!ベティーはいつでも優しいのよ!お前はスバルの友達なのだから優しくするのはスバルのためなのよ!」
「勢いがすごい……」

『――よく、おいでになりました、寵愛の信徒よ』
森が開けて視界が広がり、スバルは瞼に日の光を、足裏に固い岩肌を感じる。
細めた目で前を見れば、高々と切り立った断崖が視界を塞いでおり、その手前に立つ痩身が両手を広げてこちらを歓待しているのが見えた。
『ワタシは魔女教大罪司教『怠惰』担当。ペテルギウス・ロマネコンティ……デス!』
『良き日デス、素晴らしき日デス。まさかまさに試練を決行しようと決めていたこの運命の日に、こうして新たな愛の寵児を迎え入れることができるとは……!感涙、感激、感嘆でワタシの胸が張り裂けそうでたまらないのデス!』
『お初にお目にかかります、大罪司教殿。この度は試練を執り行う直前での合流、誠に汗顔の至りです。ですが、この身、この魂を、此度の試練を行う信徒の末席にお加えくださればこれ以上の栄誉はありません』
『おぉ、おぉ、なんと素晴らしき志か!なんと澄み切った愛の示し方か!これほど!我が身の怠惰さを呪ったことは記憶にないのデス! アナタの!アナタのような敬虔なる愛の信徒を!これまで同胞と迎え入れずにきたのは魔女教の、ワタシの怠惰が為した不徳に他ならないのデス!あぁ、お許しください!アナタが世界に注ぐ愛の導を、一滴でも見落とすワタシの怠惰をお許しください――!』

「き、もちわるいかしら……」
「何度見ても不快感が拭えないわね。バルスはよくこんなやつと何回も会話ができるものだわ」
「うん、それに、魔女教っぽく喋るのも大変そう……」

『司教様、おやめください。そのような行い、魔女様もお喜びにはなりません』
『あぁ、しかししかししかししかしかしかしかしかしかししししししぃ!ワタシの行いの怠惰さを!愚かしさを!愛に報いれぬ不実さを!お許しいただくには自らを罰し、律するより他に方法がないのデス!』
『そんなことはありません。魔女様ならば愛すべき信徒の傷付く姿より、寵愛に報いるよう、試練の遂行をすることを喜ばれるはずです』
『――全て、アナタの仰る通りデス』
『あぁ、ワタシは誤っていたのデス、間違っていたのデス、正しくあれなかったのデス! そう!試練、今、ワタシが行うべきは自罰でも自傷でも自死でもなく、試練!愛しき魔女の寵愛に応えるために、試練を取り行うことこそがワタシに与えられし身命を賭すべき使命!それを忘れて自虐で悦に浸るなど、なんと愚かしい!あぁ、アナタの言葉で目が覚めたのデス!素晴らしい、素晴らしい、素晴らしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ――!』
『怠惰である我が身になどなんの価値もないのデス。勤勉であることがこの世でもっとも尊きことであり、怠惰であることはこの世でもっとも唾棄すべき悪徳。なればワタシは勤勉さでもって、宿業である怠惰を永遠に遠ざける。あぁ!アナタ、実に勤勉な方デスね!新たな信徒としてアナタを迎え入れることができるのは、実に実に実に実につにつにつににににににに、喜ばしいことデス!』

「こ、いつらは、良くもこんな訳の分からない事ばかり話せますね……」
「魔女教を理解するというのは難しいね。僕がたとえどんな加護を授かっても理解はできそうにないよ」

『――試練の、話をいたしましょう』
『合流に当たり、是非ともこの度の活動の目的を――試練のことをお聞かせ願いたいのです、司教様』
『――試練』
『試練!そう、試練デス!試練なのデス!試練を執り行わなければならないのデス!試さなければ、試されなければ、ワタシはそのためにきたのデスから!』
『試すのデス!此度の、新たに存在の発覚した半魔のその身が、魔女を降ろすにふさわしいかどうか試すのデス!器にふさわしき身ならば確保し、そうでないならば不敬な出生の対価を支払わせるのデス!』
『魔女を降ろす?器?……対価?』
『孤独を!負感情を!鬱屈としたそれこそが器のありようを!魔女のそれにふさわしからんと高めるのデス!なればこの怠惰な我が身、我が意、我が指先を持って万全に施さなければならない!あぁ!愛に!愛に!報いねば!』
『試練の結果、その半魔が器にふさわしいとわかれば……その器に魔女を降ろして……』
『嫉妬の魔女、サテラは再び世に顕現せり――デス!その日、そのとき、その瞬間をどれほど、いかほどに、これほどまでに待ち望んでいるのデス!その助けに、一助に、礎にワタシがなれるのであれば……これ以上の喜びは、ないデス!!』

「サテラを顕現させる……恐ろしい計画だ。そんなことをされては、私たちは一溜りもない」
「そんなこと実現するのは不可能に近いかしら、不可能を可能に出来ると信じ込むこいつらの狂信っぷりには辟易するのよ」

『エミリアには、なんの価値も見てないのか』
『――怪物め』
『司教様、御高説拝聴いたしました。魔女教の理念、聞きしに勝るお言葉に感服いたしました。試練、必ずや成し遂げましょう』
『おォ!やはりアナタは素晴らしい!そうデス、そうなのデス、そうでなくてはならないのデス!一丸となり、一心不乱に、一身を投じて本懐に挑まなければ我々は我々としての意義を見失う!ワタシの指は、ワタシの足は、ワタシの目は、ワタシの鼻は、ワタシの口は、ワタシの舌は、ワタシの血は、ワタシの骨は、ワタシの肉は、ワタシの魂は、それ全て魔女に捧げるためのものなのデス!寵愛を受けたそのときから、愛されていると知ったそのときから、ワタシという存在は全霊をもって愛に報いるだけの塵芥……あぁ!なんと、怠惰なことか!!』
『福音書に刻まれし言葉が、愛を物語るそれが!ワタシに行動を決意させるのデス!愛を貫くために、行いを貫徹するために、障害は不可欠!障害はあって然るべき!障害は当然の存在……!故にこそ、ワタシの日々の勤勉さが、怠惰に抗う信仰が試される、試される、ワタシに与えられし試練のとき――!』

「…よッくもまァ、こんな長々と気持ち悪ィ講釈を垂れ流せるもんだよなァ」
「魔女教は理解の範疇にいませんからな。人間とは別の生き物と認識した方がよろしいかと」

『――福音の、提示を』
『福音の提示をお願いしマス。アナタに魔女が、いったいなにを賜わしたのか――是非に是非に是非に是非に是非に是非にひにひにひにひにににににに、お教えいただきたいの、デス』
『福音、なのですが……』
『ええ、福音デス。アナタも教徒として認められたのであれば、その手に渡っているはずで……』
『実はなにかの手違いなのか、私の手には福音は届けられていないのです』
『確かに私は福音を持ってはおりません!おりませんが……しかし、魔女様への愛は確かにこの胸に、この内に、溢れんばかりに持っております!形ある福音が手元になくとも、形なきこの想いが、与えられた愛に報いるための我が魂の嘆きでないとするならば、いったいなんだと言うのでしょう!!』
『形は違えど!私もまた、司教様と同じく魔女様に心酔する一葉に過ぎません。全霊で試練をお手伝いいたします。全てを捧げて、魔女様を想います。いいえ、すでに魂の一片に至るまで、私の存在は魔女様に譲り切っているのですから!』
『それとも、司教様は!ペテルギウス様は、私のこの魂の嘆きを否定なされますか!形のない愛に縋る私の姿を、惨めで愚かだとお笑いになられますか!それもよいでしょう、そうされるのも仕方なしと思うこともできる!ですが!それでも!私のこの信仰は誰にも砕けない。愛は、愛こそが、全てなのですから!』

「!…ナツキさんの演技力には驚かされますね……」
「…本当に、魔女教徒のようだわ。」
「…スバルは元々芝居がかった喋り方をするから、演技がうまいのは不思議ではないかしら」

『なんと瑞々しき、愛の囁きデスか……』
『アナタを疑った、ワタシの怠惰をどうぞお許しください。アナタは素晴らしい、掛け値なしに素晴らしい。形なくして、福音書なくして、愛されていると声を大にして語る自信を持てない、そんなワタシとは大違いデス。語らずしてわかる、濃密な寵愛――アナタはまさしく、それにふさわしき存在デス』
『顔をお上げください、司教様。そのように扱われるほど、私はだいそれた存在ではありません。なにより、我々は魔女様に――等しく愛を注がれ、その愛に報いるために協力し合う間柄ではありませんか』
『大罪司教などと名乗りながら、ワタシはあまりにも視野が狭かったようデス。自分を恥じマス。その上で、アナタの心遣いに感謝を。そしてこの出会いをもたらしてくださった魔女の愛に、最大限の勤勉でもって応えることを誓いマス!』
『ええ!まったくその通りです!これからも、切磋琢磨していきましょう!』
『おぉ、喜ばしき言葉デス。福音なくともその志、実に見事――強い寵愛、やはりアナタは『傲慢』なのではありませんか? だとすれば福音書なくとも、魔女因子を取り込んだ自覚はあると思うのデスが』
『魔女因子――?』
『信徒たちには福音が、そしてワタシのような大罪司教の身には福音書と同時に魔女因子が届けられるのデス。魔女因子なくして、試練を語ることは……』

「…自分一人で会話終わらせんの、気色悪ィな…」
「全くかしら、会話と言うより、主張を押し付けてるだけなのよ」

『申し訳ありませんデス。ワタシの指先から連絡が……なにか、状況に変化があったようデスね。我々の合流があったこともありマス。朗報だと良いのデスが』
『ワタシデス。なにか、異変が――』
『えーっと、にゃんだっけ。あ、そうそう。トラトラトラー!』
『は?』
『アナタはいったい……?ワタシの指先はどうして……』
『トラトラトラ』
『は?』
『我、奇襲ニ成功セリ――って意味だよ』
『なに、を?アナタの仰る意味がワタシには……』
『わかりませんってか?ああ、安心しろよ』
『――お前の言ってることも、俺には同じぐらいさっぱりだったからよ!!』
渾身の右ストレートが狂人の顔面を直撃――我慢に我慢を重ねた鬱憤がついに爆発し、痩身を大きく吹き飛ばす。
『色々と我慢もしたが、もう限界だ。さあ、終わりにしようぜ、ペテルギウス・ロマネコンティ!!』

「うぉぉおおおお!!大将ッ!かッけェぜ!!」
「思いっきりやってしまうかしら!!」
「バルス、完膚無きまでに叩きのめしなさい」
「味方陣営が好戦的すぎる……」
「君も大概だと思うよ〜ぉ?」
「そうですか」
「本当に君は分かりやすいね〜ぇ」

Comments

  • レイラ
    Mar 28th
  • シン
    November 10, 2024
  • 愛飢え男歌聴く毛子

    これ無理だろうけどジュース→ペテルギウスまでの流れも見せたい

    October 22, 2024
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