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絶望の果てに見えた勝ち筋/Novel by 春風

絶望の果てに見えた勝ち筋

13,191 character(s)26 mins

長いです!
ここら辺からはスバルくんがかっこよいので長々と書けます!
鬱展開はさくっと終わらせたくなっちゃいます。
痛いのはいいんですけど精神的にしんどいのは省きたくて。
前回はちょっと省きすぎなので、今回は長めにしました。
3期来てからスバルくん人気上がってる……?
フィギュア化も夢じゃないかもと希望を抱いています。

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『ようやく、夕餉を遅らせて集められた趣旨が理解できそうだな』
『そうですかぁ?フェリちゃんは正直まだ眉唾にゃんですけどネ。あれだけへたれてた男の子が、急にどうしたらあんな目をするようににゃるのかなって』

「…なるほど、そういう事だったんだネ」
覚えのある会話が、彼の勝ちを証明していた。
「…不思議なものだが、道筋を知れば知る程にナツキ・スバルの異様さが際立つな」
幾度の死を乗り越え、その果てにある願いは一人の少女の幸せなのだから。

『出戻りとはいささか居心地が悪いものです。スバル殿にはこの居心地の悪さを払拭するような、そんなお話を期待させていただきますよ』
『今、レムがもうひとりを呼びにいってるんで、もうちょっと待っててくれ。きてくれるか確実じゃないが……勝算は、ある』
『お早い到着をお待ちしておりますよ。ちなみに、勝算の根拠をお伺いしても?』
『金の臭いには敏感だ、って自分で発言してたからな。それが本当なら必ず顔を出してくる。ラッセルさんもその口だろ?』
『これはこれは……痛いところを突かれました』

「…本当に、さっきまで道筋を絶たれていた人間の顔とは思えませんね」
彼は自分を平凡だと言うが、あれほど凄惨な死を迎えてこうも立ち直れる人間をオットーは平凡とは呼べなかった。

『皆様、大変お待たせしました』
『おーけーです』
『少し到着は遅れるそうですが、必ずきていただけると』
『そうか。よし、よくやってくれたぜ、レム』
『最後の参加者は少し到着が遅れるって話だけど、とりあえず役者は揃ってる。これ以上待たせるのもなんだ。――始めようか』
『スバルくん』
『ひとつ、確認したいところがある、ナツキ・スバル』
『この集りの趣旨を。――卿の口から、な』
『そら、もちろん――』
『エミリア陣営とクルシュ陣営の、対等な条件での同盟――そのための、交渉の場面だ』

「…この短時間でここまでできるなんて、さすがベティーのスバルかしら」
スバルの強みは取り零すことを恐れ、その為に世界をも打ち負かすような一手を盤上に叩き出せるところなのだから。

『同盟……か』
『ロズワール様の言いつけ通り、レムはなにも申し上げていません。――全てはスバルくんが、自分で辿り着いたことです』
『卿の忠義を疑うわけではない。だが、そうか……』
『ならば、此度の交渉役はレムから卿――ナツキ・スバルに権限を委譲されたということだな?』
『ああ、そうなる。ロズワール……うちの主人も、底意地の悪い真似してくれたもんだと思うけどな』
『最初から引っかかるところがなかったわけじゃないんだよ。そもそも、うちの陣営が慢性的な人手不足なのは自明の理なわけだしな』
『あの変態がそんな慈悲心満載な理由だけで、レムを手放しておくとも思えない。なにかしら裏があるに違いない、と考えを詰めてけば……』
『自然、もっとも会見の機会があった当家に白羽の矢が立つ、か』
『夜な夜な、レムとクルシュさんが密会してるらしいのは聞いてたからな。なんの話をしてるのかまで、頭が回ってなかった自分がアホ過ぎて嫌になるけど』

「…気づけるだけでもすごいと思うけど……スバルって、すごーく自分を下に見てるわよね?」
「それは仕方のないことなのよ、スバルはああ見えて繊細な性格かしら。べティーもスバルの繊細さには悩まされたのよ」
「ふふ、何があったかは聞かないでおくわね」
エミリアとベアトリスが楽しそうに会話をする。
何となくスバルが死なないという確信があったからだ。

『毎夜の会談の内容は同盟締結について。こっちから差し出してる条件に関しては……一通り、レムから聞いてる』
『エリオール大森林の魔鉱石、その採掘権の分譲が主な取引き材料だな』
『それはそれは、聞き逃せないお話ですね』
『魔鉱石の採掘権はまさに、鉱石の需要が高まりつつある現状ではこれまで以上の価値がある。ましてやそれが、いまだ手つかずの地のものであるならば当然です』
『鉱石の需要が高まりつつある、ってのは?』
『季節がこれから赤日を終えて黄日、そして青日に入ります。今年は特に水のマナの影響が強く見込まれていますから、暖房設備への利用目的で需要が多いはず』
『魔鉱石自体はマナを含有した純粋な魔力の結晶体。その後の加工次第で属性の指向性を付加し、用途に応じて使い分けることが可能となる。強度に優れ、使い方を誤らなければ耐用年数にも信頼が置ける。これほど扱いやすい商品もないでしょう』
『その代わりに絶対量が少ない。一度、指向性を付加したあとでのやり直しも利かない。採掘場の多くは土地自体を王国に管理されていて、鉱石はかなりの部分が公共事業の方へと流されている。市井に振舞われるのは極々微量、もっとわかりやすい言葉を使えば、国と富裕層にしか出回っていない』
『手つかずの採掘場の発見には飛びつかずにはおれませんよ。それが魔鉱石の出土と取引きで財を為したメイザース卿の使い――付け加えれば王選の候補者であるエミリア様の騎士の言葉です。信憑性、並びに信用は非常に高い』

「…なるほど?つまり、……?」
「分からないなら静かにしておくべきかしら……エミリア、つまり……」
ちんぷんかんぷんと言った様子のエミリアにベアトリスが説明する。
「少し長い交渉になりますからね、分からない点も出てきますよね」
レムがフォローを入れる。
その瞳には、後悔よりも濃い希望が滲んでいた。

『ああ、そこは信用してもらって構わない。これから長いことかかる王選の中で、最初に手ぇ組もうって相手にブラフかますほど外れちゃいないはずだ』
『どうやら、交渉役としての気構えについては心配は不要のようですね。試すような物言い、非礼をお詫びいたします』
『いや、いいよ。こっちもこれからの話し合いで、ラッセルさんの口出しにはガンガン力貸してもらうつもりだから』
『とはいえ、こうやって謝ってもらえたからには、一回や二回の失言は見逃してもらいたいとこですけどね?』
『それを期待してのラッセル・フェローの参加、というわけか。存外、卿も食えない判断をするものだな』
『儲け話ちらつかせた上でアドバイザー確保、ってのももちろん目的ではあるんだが……ラッセルさん呼んだのは、本題の方に関係があるからさ』
『ほう、本題か――』
『認めよう、ナツキ・スバル。卿がメイザース卿の名代、並びにエミリアからの正式な使者であると。この交渉の場において、卿と私の間で交わした内容は、そのままエミリアと私の間で交わされたものであると』

「おォーッ!すげェぜ大将!」
ガーフィールがわっと盛り上がる。
スバルと精神年齢の近い彼からしたら少年漫画のような展開に心沸きあがるのは当然なのだが。
「落ち着くかしらガーフィール。スバルはここからもっと凄くなるのよ!」
存外、ベアトリスもそこまで落ち着いてはいなかった。

『すでに聞いているはずだが、改めて問うておこう。私とそちらの従者……レムとの間での交渉は、採掘権の分譲などを含めた上で合意には至っていない。その点は重々、承知しているはずだな?』
『……ああ』
『こっちも確かめておきたいが、実際、これまでの条件じゃ足りないわけだよな? 互いの陣営への過干渉なしに、エリオール大森林の採掘権の分譲。付け加えて採掘された魔鉱石自体の取り扱いの協定とかのまとめに関しても』
『草案はレムの方から提示されている。さすがはメイザース辺境伯、というべきだろうな。自陣の十分な利益を確保した上で、こちらに十二分の恩恵が流れる。常ならば飛びつき、すぐにでも同意の書状を用意するところだが……』
『今回の場合は取引き相手の側への懸念が大きい。わかるな?』
『ロズワールが信用できない……って、話じゃないんだろうな』
『王選の対立候補。ましてやハーフエルフ……半魔の誹りを受けるエミリアとの取引きだ。後々のことを考えても、慎重にならざるを得ない』
『まさか、断りを入れる建前、か……?』
『スバルきゅーん?大事な交渉の場面で、ポロっとそゆことこぼすのフェリちゃん良くにゃいにゃーなんて思ったり?思ったり?』

「…本当に、スバルくんには交渉は向いていませんね」
「で、でも!対面じゃなくてたくさんの人に遠くから話す、とかならスバルはすごーく向いてると思うの!」
苦笑いのレムにエミリアがフォローを入れる。
扇動者としては凄くても、やはりスバルは対話が苦手なのだ。

『あまりはっきり返されると、建前で応じた私の方が恥ずべき側に思えるな。これは勉強させてもらった。普段から接しているものばかりだと、こうした機会に恵まれることも稀だ』
『つまり建前は建前で……本音の部分では、クルシュさんはエミリアと同盟を結ぶこと自体への忌避感はないって考えても?』
『ナツキ・スバル、ひとつ考えを正そう』
『そのものの価値は、魂の在り様と輝かせ方で決まるのだ。出自と環境がそのものの本質を定める決定的な要因にはならない』
『あの王選の場で、エミリアが語った言葉に虚実はなかった。そこに確かな覚悟と誇りがあったればこそ、私はエミリアを対立候補の一角であると認めている』
『ややこしいな、つまり?』
『芝居がかっているのは私の好みの問題だ、許せ』
『エミリアがハーフエルフである、という点を私が同盟締結を断る根拠とすることはない。むしろ政策的に敵対しているわけでもないエミリアの存在は、私にとっては積極的に相対する必要のない相手であるともいえる。同盟も、吝かではない』
『それなら……』
『答えを焦るなよ、ナツキ・スバル。卿の申し出を受けるかどうかは、このあとの卿の答えに左右されるといっても過言ではないのだからな』
『エリオール大森林の採掘権、大いにこちらに実りがある。だがその反面、私は王選の事態を急ぎ進める必要もないのでは、と感じている。期限は三年だ。あまり状況を動かすのを早めすぎるのも、後々に禍根を残すこととなろう』
『エミリアと同盟を結ぶことのメリットが、そのデメリットに届かないと?』
『少し違うな。現状、メリットとデメリットは打ち消し合っている。当家の考えとしては、あと一歩、押し出す口実が欲しいといったところだ』

「頑張ってスバル!」
「大将!あとひと押しッだァ!」
外野できゃあきゃあと騒ぐ。
「落ち着くかしら2人とも!スバルが負けることなんて有り得ないのよ!」
落ち着いてるものの方が少なかった。

『同盟締結に向けて、うちから差し出すのは採掘権と……情報だ』
『――情報』
『ああ、そうだ。俺が差し出せるのは、とある情報ってことになる』
『聞かせてもらおう。卿の口にするそれが、はたしてこちらを動かせるものか』
『――白鯨の出現場所と時間、それが俺が切れるカードだ』

息を飲むような、変な音が木霊する。
ヴィルヘルムは小さく微笑み、エミリアはにこにこと笑う。
「大将……!!」
ガーフィールは目をきらきらとさせていた。

『――白鯨』
恐ろしく濃厚な剣気が場を包む。
『失礼しました。私もまだまだ、未熟ですな』
『話の腰を折るような真似をして、申し訳ありません。この場を辞すこともいといませんが……』
『いや、卿は残れ。意見を聞きたい』
『白鯨とは、またいささか唐突な単語が飛び出したな。卿の語る白鯨というのは、『霧の魔獣』のことで合っているか?』
『ああ、合ってるはずだ。霧をばら撒いて、空を泳ぐ巨大な鯨。――その白鯨だ。俺はそいつの次の出現場所と時間、それを知ってる。その情報を、同盟の取引き材料として判断してもらいたい』
『お聞きしてよろしいですか?』
ラッセルが手を上げる。
『まず第一に確認しなければならない話ですが……スバル殿は白鯨、その出現を事前に知ることができる、ということの価値を正しく把握しておりますか?』
『……少なくとも、白鯨の出現に巻き込まれる行商人とかの数は減らせる。前もって荷物の運搬計画も見直しできるし、人的被害も減らせるんじゃないかと思ってるが』
『それはあまりにも、考えが浅すぎます』
『魔女の手で生み出された白鯨により、これまでどれほど多くの命が失われたかご存知ですか?運悪く白鯨の霧に呑まれ、消息を絶った隊商。白鯨の討伐を志し、しかし道半ばで壊走させられたかつての王国騎士団。白鯨はただ巨大で、ただ恐ろしいというだけの存在ではないのです』
『出会わないことがなにより肝要なのです。少なくとも、商家にとって災厄の象徴である白鯨、その出現に先見することができるのならば、万金以上の意味が、価値がある!』

「…おォ、そんなッにすごい話なのかァ」
「当たり前よ、ガーフ。魔獣の情報…それも白鯨となればね」
ガーフィールは話の流れをよく組めていない。
そこにラムが助け舟を出す。

『その万金の価値も、あくまでその情報の確度が信頼できて初めて意味を持ちます。スバル殿は白鯨の出現場所と時間、それらを知っていると仰った。が、それを証明する手段をお持ちでないのなら、気を持たせるだけの言葉遊びです』
『おおよそ、こちらの言いたいことはラッセル・フェローが語った通りだ。卿の発言の根拠を、聞かせてもらいたいところではあるな』
『俺が白鯨の出現を知ることができるってのは、こいつが理由だ』
『ナツキ・スバル』
『ああ』
『これはいったい、なんだ?』
ケータイ電話が、切り札となる。

「なんだこれ!かっけぇ!!」
ガーフィールがハイテンションで立ち上がる。
「ちょっ、座ってくださいガーフィール!てかアンタさっきからめちゃくちゃ喋るな!」
オットーが非力な力で抑える。
ガーフィールはスバルの行動全てに心アゲアゲ状態なため、無意味なのだが。

『知らなくても無理ないさ。これは俺の地元で出土した、いわゆる魔法器ってやつでな。こいつが、俺の発言の根拠になる』
『ずいぶんと、不思議な感触の物質ですね。金属のようでありながらそうではない。表面は滑らかで……ここは、開く?』
『光って、絵が切り替わる……いえ、しかし、内容は判別できませんね。見たこともない文字が、いや、絵……でしょうか?』
『特別な文字だし、誰にも読めないと思うぜ?』
『だが、卿には使いこなせる……というわけか?』
『全部の機能が使いこなせてる、ってわけじゃねぇけどな』
『つまり、卿はこう言うわけだ。――この魔法器とやらが、白鯨の接近を報せる『警報石』のような役割を果たすのだと』
『その警報石ってのが聞き覚えないけど、そうだと思う』
『白鯨の接近に際し、その存在を報せる魔法器……か。目利きはどうだ、ラッセル・フェロー』
『正直なところ、お手上げですね。魔法器に関しては個体差が大きく、同一のものが出土することも稀です。複製法まで確立されている対話鏡などは、あくまで例外の中の例外ですから。……したがって、この魔法器の使い道の真偽については難しい』
『そうなると、真偽のほどを確かめる手段は見当たらなくなるな。それでは卿の主張を鵜呑みにすることは難しい。さて、どうする?』
『確かに、困った事態だな。せめて、なにか証明する手段がありゃぁいいんだが』
『実際に魔獣に近づけて鳴らしてみるか?あるいは、その魔法器が魔獣に反応する道具であると、証明できるものがいるか?』
『一個、訂正するぜ』
『魔法器は魔獣そのものに反応するわけじゃない。そうすると、あちこち生息してる魔獣に節操なしに鳴りまくっちまうからな』
『――つまり、魔獣の脅威に対してのみ反応すると?』
そんな都合のいい話が、とクルシュが一笑しようとした。が、それよりも先にレムが反応した。

「魔法器…切り札にするには使いやすいものを選んだわね、バルス。選定の難しい以上、突っ撥ねることも難しいもの」

『気になる反応をしたな、レム。心当たりでもあるのか?』
『なにかあるなら話してくれていいぜ?』
『――はい。スバルくんがそう仰るなら』
『領内でのことですので、あまり細かなお話はできませんが……先日、魔獣に絡んでの騒ぎがありました。その中で、いち早く事態の収拾に動いたのがスバルくんだったことは、主であるロズワール様もお認めになられるところです』
『魔獣に絡んでの一件――その前触れに、この魔法器で気付いたと?』
『なんの理由もなしに気付くには、勘が良すぎる類の問題でしたので』
『――嘘は、言っていないな』
『まるで相手が嘘言ったかどうかわかるみたいな言い方だな』
『自慢させてもらうと、その通りだ。観察眼――といえば聞こえはいいが、実際には我が身に与えられた『風見の加護』の恩恵だな』
『風を見るということは、目には見えないものを判断材料とするということだ。自然、私の目には相手の取り巻く『風』が見える。嘘偽りを口にするものの下には、当然ながらそういう風が吹くものだ。――レムにはそれが一切なかった』
『へ、へえ、そうなんだ。それは知らなかったなー』
『動揺の風が吹いているぞ、ナツキ・スバル。まあ、交渉の場で私の風見の加護を知らないのは不公平も甚だしいからな』
『今の卿の態度はどうであれ、レムの口にした内容に虚偽はない。少なくとも、卿が魔獣の脅威を事前に察する手段を持ち合わせている、という根拠にはなるだろう』
『魔法器の効果に関して、信じてもらえるか?』
『それも早計だな。あくまで、裏での繋がりがないのが見透かせたとはいえ身内の擁護に変わりはない。王選の今後――ひいては、王国の未来を左右するかもしれない判断だ。軽率には行えまい』
『――その魔法器の商談、ウチも混ぜてもらってええ?』
『呼んだ張本人が一番驚いてるって、おかしいなぁ、自分』
『――アナスタシア・ホーシン』

「…本当に、スバルは恐ろしいね。敵じゃなくて良かったと心底思うよ」
お前が言うな、とスバルがこの場にいたら叫んでいただろう。

『なんや呼び出されたから慌てて出てきたのに、ウチ抜きで商談始めてるやなんてずるいやないの。そんな面白そうな儲け話……ウチも混ぜたって?』
『ユリウスならきーへんから、安心してな?』
『今、ユリウスは団長命令で謹慎期間中。主君の命令もなしに、余所の子ぉにおいたした罰の真っ最中やね。困った騎士様や』
『謹慎……』
『呼び出された……ということは、卿を呼んだのはナツキ・スバルか?』
『そのお付きの可愛い女の子やけどね。ホントなら門前払いやけど……王選の関係者で、おまけに『白鯨』の情報を売るなんて話聞かされたら、こないわけにはいかないですもん』
『失礼して、お聞きしたいことがあります、スバル殿』
『ああ、なんだ、ラッセルさん』
『この場にアナスタシア様をお呼びした真意をお聞きしたい。王選の候補者、そしてホーシン商会は王都の商家の集まりにも、新興ながら発言力がある。私としてはこの会での立ち位置が不鮮明になる以上、尋ねないわけにはいきません』
『天秤にかけるため、とか言ったら怒るか?』
『つまり卿はこう言うのか? ――アナスタシア・ホーシンと当家と、どちらが『白鯨』の情報を高く買うか競わせ、その上で同盟相手を選ぶと』
『だとしたらそれは、あまりにも浅慮な選択だぞ、ナツキ・スバル』

「だ、大丈夫よね?」
エミリアがハラハラして胸を抑える。
「大丈夫なのよ!ぜったい!」
ベアトリスも根拠の無い自信を掲げる。
スバルに少し似てきた。

『ああ、ええなぁ、クルシュさん。上に立ってる人間が、下から追い落とされることに怯える……その顔、見ててゾクゾクするわ』
『いい趣味とは言えんな。もっとも、己の欲の欲するところを正道とする卿ならばあるいは当然の判断か。……だが、私のありようは変わらない』
『聞いての通りだ、ナツキ・スバル。もしも当家とホーシン商会の間で競りが始まることを期待しているのであるとすれば見当違いだと言わせてもらう。当家は商人勢ほど白鯨の情報に固執する理由がない。故に卿の思惑に乗る理由は……』
『ああ、早とちり早とちり、二人とも落ち着いてくれって』
『早とちり、ということは候補者同士に値段を釣り上げさせる目的ではないと?』
『誰かをそんな簡単に掌で泳がせるとかできると思ってねぇよ。俺の手が小さいことは俺がよくわかってらぁ。……誰かの手ひとつ、握るだけで精いっぱいだよ』
『と、まぁこんな感じで誰かの手を握るのが精いっぱい……』
『あー、はいはい、ごちそうさまやね。で、お話の先はどうなりますの?』
『お粗末さまです。えっと、つまりだな……』

「交渉中にここまで巫山戯られるのはもはや才能ですよ……」
オットーが疲弊したように言う。
「その通りだ……」
ユリウスも眉間を押えて言う。
スバルに振り回されがちだからだろうか。

『白鯨ってカードを切って、王都を代表する商人を二人招いて、こうしてこんな大仰な状況を作り上げたわけだが……その上で、提案したい話があるのさ』
『聞いて、もらえるか?』
『――卿の話を遮り、間違った結論を述べたのは私だ。ならば私には、卿の提案を考慮する義務があろう。述べよ』
『クルシュさん、あんたが』
『あんたが目論んでる『白鯨』の討伐に、俺の情報は絶対に有用なはずだ』

「さすがスバルくん……!」
レムがキラキラとした瞳で見つめている。
エミリアは空気に飲まれ固まっている。

『ひとつ、考えを問い質そう、ナツキ・スバル』
『その突飛な発想はどこから出てきた?なぜ、当家がそのようなことを目論んでいるのだと、判断する?』
『レム』
『はい』
『ちょっと背中、思いっきり叩いてくれ』
『はい』
『見苦しくて失礼。ちょっと、喝を入れてもらったところだ』

「…スバルらしいのよ」
カッコつけきれない不器用さが。

『最初に妙な感じを覚えたのは、鉄製品――つまるとこ、武具が高値で売買されてるって話を聞いたときだ』
『それまで二束三文だった武具やら防具やらを大量に集めてるところがある。それがクルシュさんのとこだってのは、まぁ商い通りとかうろついてればそれなりにな』
『市場に影響があるくらいだからけっこうな勢いで集めてたみたいじゃねぇか。そんなに急いで、おまけに自分の領地じゃなくて王都で武器をかき集めてる。なにかあるんじゃないかって、そう考えるのが人情だろ?』
『それで事を『白鯨』を結びつけるのは突飛すぎるな。白鯨の『は』の字も出てこないではないか。当家が武器を、鉄を集めているのは事実だが、それが白鯨討伐を目的としているとは考えられまい?純粋に戦力を集めて、王選の成り行きなど無視して武力による国家制圧を目論んでいるかもしれんぞ』
『そんな暴挙に出る理由がねぇし、そんな人間じゃないことぐらい俺だってわかる』
『それにしても、少しばかり驚かされるな。てっきり卿が日中に下層区に降りているのは、手持無沙汰を誤魔化すための手慰みなどと思っていたのだが――見る目がないのは私の方か。侮ったことを許せ』
『ん、ああ、そうなんだよ。俺もほら、別に遊び呆けてたわけじゃねぇんだ』

成り行きを見れば変に茶化すことも出来ないなとクルシュは黙る。
「本当に、死に戻りってすごーく怖い力よね」
「…その通りなのよ、死に戻りはスバルが善性の強い人間だからこそ成り立っているだけで、悪人が使えば、都市が炎上するなり国家が滅亡するなりしても不思議じゃないのよ」

『武器を集めてるってわかったとき、考えたのはもちろん戦争準備だ。問題はなにと戦おうとしてたかって部分だが……そこは、さる商人が口を滑らせた』
『王選でほぼ単独トップをひた走るクルシュさんなわけだが、どうも商人連中からの受けはそんなによくないみたいだな。馴染みの果物屋がこぼしてたぜ』
『否定はしないな。金はあるところから引っ張るのが一番利に適っている。私の領地での商売に、税収がかかるのは認めるところだ』
『その分、治安の保障で還元しているつもりではあるが――傍目から見ればその恩恵が伝わり難いのは承知の上だ』
『実際、クルシュさんとこの領地でその恩恵を受けてる連中と違って、王都にいる商人勢は上っ面の情報でクルシュさんの人となりを判断するしかねぇしな』
『そこで俺はこう考えた。クルシュさんはそういう人を上っ面だけで判断するような連中は好かないと思うが、そんな連中でも味方につけなきゃならないこともある。そうなると、そんな連中の評価を好転させるにはどうすりゃいいか……』
『人の上っ面の悪い話で判断するんやったら……その上っ面、良い話で塗り替えたったらええってことやな』
『まぁ、都合のいい話やんな。事はそんな簡単にはいかないし、そもそもの見込み違いの可能性も高い。だいぶ、都合のええ曲解とかしとるのと違う?』
『否定は、できねぇ。クルシュさんが武器集めてんのと、なにかしらでかいことやって商人味方にしようとしてるってのは間違いない。けど、それが白鯨と結びつくかどうかってのは希望的観測だ。俺が白鯨が近い内に現れるのを知ってるから、それと関連付けてるってだけの話かもしれねぇ』
『改めて言う。エミリアとクルシュの同盟に関して、エミリア陣営から差し出せるのはエリオール大森林の魔鉱石採掘権の分譲と、白鯨出現の時間と場所の情報。つまるところ、長いこと世界を騒がしてきた魔獣討伐――その栄誉だ!』
『俺の言葉が的外れで、全然意に沿わないってんならばっさり切り捨ててくれ。もし違ってんなら、純粋に白鯨の出現情報だけの取引きにしてもらってもかまわない』
『けど、もしもあんたの狙いと俺の望みがかち合うなら――』
『白鯨を、討伐しよう。――ひと狩りいこうぜ』
『ひとつ、問いを発そう』
『卿が――白鯨の出る時間と場所を知っているのは、確実か?』
『ああ、本当だ』
『白鯨の出る時間と場所は俺が保障する。命、懸けてもいいぜ』

「スバルが言うとシャレにならんのよ」
少し呆れたようにベアトリスが言う。
スバルの勝ちを確信して。

『――いくらか疑問点はあるが、こちらの思惑を見抜いたのは見事、というべきか』
『それじゃ……』
『疑惑はある、疑念はある。腑に落ちない点も多く、即座に頷くには難しい。が』
『この状況を作った卿の意気と、この目を信じることとしよう』

「さッすがだぜェ!大将!」
「すごい!!スバル!!」
「べティーは最初からわかっていたのよ」
「流石ですスバルくん!レムは感服しました!」
スバル大好き組が騒ぐ。
「流石だね、スバル」
ラインハルトも、どこか嬉しそうに。

『いくらかひやひやさせられましたが、成立したようでなによりです。スバル殿も、会談の前のお約束は確かに』
『ああ、貧乏くじばっかで悪かったな、ラッセルさん。白鯨の討伐が済んだら、約束通りにケータイはあんたに譲るさ』
『やはり、通じていたか』
『ここに呼んだの俺だぜ?夕方にクルシュさんとラッセルさんの話し合いが決裂したあと、ラッセルさん訪ねたときにある程度の話は通してあったさ』
『悪く思わないでいただきたいところです。実際、私共としては不自然に肩入れはしていないつもりでしたよ。あくまで、同盟成立後を見据えての関係ですので』
『どないしました、クルシュさん』
『ラッセル・フェローとナツキ・スバルの繋がりは理解した。だが、そうなると卿の立ち位置が不鮮明だ。何故、卿はここへ呼び出された?』
『まあ、ひとつは説得力の水増しやろね』
『王選の候補者が二人と、王都有数の商人がひとり。同盟交渉の場にそれだけの関係者を集めて、不用意な情報やら発言ができるもんやないもん。せやから、ウチがここにおるだけで、その子の言葉に重みが出るやろ?』
『ならば、別の理由はなんだ?』
『そっちはもっと簡単やん。――ウチ、商人やから』
『白鯨の討伐、大いに応援しますわ。ウチら商人にとって、白鯨の存在は死活問題やし、討ってくれるなら大助かりや。おまけで準備その他、ホーシン商会をご贔屓してくれるんなら言うことなしやし?』
『お待ちください。その点に関しては王都の商業組合が優先されるはずです。アナスタシア様も、割り込まれるのならば筋を弁えていただきたい』
『待て。卿らの話を聞くと、かなり時間の猶予がないようだが?』
『肝心なとこまでは聞いてないけど、話の振り方がその感じやったから。実際、ちょい焦っとるのと違う?』
『ああ、そうだ。――魔法器によると、白鯨が出るのは今から約三十一時間後。場所は……フリューゲルの大樹、その近辺だ』
『三十一時間……!』
『フリューゲルの大樹』
『三十一時間以内にリーファウス街道に討伐隊を展開し、出現した直後の白鯨を一瞬で仕留めなければならない』
『そのために必要なものは……』
『まず討伐隊の編成。これ自体はすでに数日前より、滞りなく。そも、白鯨の出現時期に合わせての準備です。王選の開始とほぼ同時になったのは、クルシュ様の強運の為せる業だと思いますが』
『話が早いな!白鯨の出る時期って……』
『ヴィル爺の執念の賜物にゃの。もう十四年も、そればっかり考えて色々とやってきてたんだからネ』
『錬度と士気はヴィル爺がいるから心配にゃいけど、準備不足は否めにゃいかにゃーって。クルシュ様が軍勢率いて王都にきたなんて聞いたら、色んなところが騒がしくなっちゃうからこそこそ集まってもらったしネ』
『確かに。いまだ、武器や道具の準備は万全とは言えませんが……』
『そのための、お二人の同席というわけでしょう。スバル殿』
『いやまぁ、こういうこともあろうかとってやつ?』

「本当に、バルスは間のいい男だわ」
「奇跡もスバルくんに味方しているのですよ、本当にすごい方です」
姉妹が話す。
ここまでのお膳立てにスバルの死体が必須条件なのは頂けないが。

『すでに組合を動かし、準備を進めております。明日の昼過ぎまでには、王都中の商店から必要なものをかき集めてみせましょう』
『ホーシン商会も同じく、やね。組合所属以外のとこはウチらの領分やし、他にも売り物ならぎょうさん用意したってるから、期待しててえーよ』
『商機を見逃さんのが商人言うもんや。これがウチが呼び出しに応じた理由。ああ、やっぱり人に物を売り付ける瞬間はたまらんなぁ』
『物もそうやけど、売るならやっぱり恩が一番。形ないし、損ないし――値札もついてないし』
『今味方だからアレだけど、改めて聞くとマジおっかねぇな、この商人!』
『交渉の前に道を塞いでいた、か。なるほど。この場面において、覚悟が足りていなかったのは私の方だというわけか。感服したよ、ナツキ・スバル』
『予習復習がうまくいったってだけの話さ。ぶっちゃけ心底ホッとしてるぜ、俺』
『なんとか、王都に残った面目は保てただろ、レム』
『――はい。さすが、スバルくんは素敵です』

「…面目……そうね、スバル」
言いたいことはあるが、それだけに留めておいた。
エミリアが想う以上に、スバルはエミリアを好きだから。

『――スバル殿』
『感謝を』
『我が主君、クルシュ様へのものと同等の感謝を。この至らぬ我が身に、仇打ちの機会を与えてくださったことを感謝いたします』
『えっと、その……え?』
『すでに賢明なスバル殿は見抜いておいででしょうが、改めて』
『以前に名乗ったトリアスは、昔の家名です。先代の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレアを妻に娶り、剣聖の家系の末席を汚した身――それが私、ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアです』
『妻を奪った憎き魔獣を討つ機を、この老体に与えてくださる温情に感謝を』
『あ、ああ。も、もちろん知ってたけど。当然、それ込みでクルシュさんが白鯨討伐に乗っかってくるって思ってたわけで――』
『ナツキ・スバル』
『嘘の風が吹いているぞ、卿から』

「…スバル殿」
「…スバル、君には本当に、感謝してもしきれないね」
スバルに向ける気持ちが温かいものであることに変わりは無いのに、この家族は分かり合えない。
それが、双方に若干の苦味を残したまま。
「…ッにしても、大将はやっぱりすげぇな!」
「スバルがすごいのは当たり前のことかしら!至極真っ当なことなのよ!」
金髪のお子様ふたりは未だ騒いでいた。

Comments

  • Apollo

    激辛料理食った後におしるこ飲まされる気分(褒め言葉)

    Apr 14th
  • レイラ
    Mar 28th
  • kawe

    金髪のお子様2人が可愛い!殺伐とした間に癒されます

    December 30, 2024
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