運命は彼を許さない
3章です。
ここでリタイアした人多かったらしいですね。
個人的には最初からスバルくんに感情移入してたので「言い方は悪いけど間違ってはない気もする」くらいの気持ちでした。
まだ子供なのでね。
正直廃人状態のスバルくんはちょっと可愛くて好きなんですよ。
あとスバルくんが自分の意思でレムの隣に座って「きっと全部が上手くいく」って思うレムも可愛そうで。
スバルくんは精神が強いんじゃなくて「蹲ってても人は死ぬからやるしかない」って思ってるだけだという解釈です。
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「……只今より、第三幕を放映します」
声が響く。
「……」
何だか、みんな少しだけ憔悴していた。
スクリーンには平和な映像が流れている。
スバルに懐いたレム、それから王都に向かうエミリアについて行きたいと話すスバル。
エミリアは、この先の未来が見たくないと心から思った。
スバルとエミリアの、心が少しずつすれ違っていく。
2人とも精神的に未熟だから、相手の気持ちを図ることは、とても難しくて。
『俺の名前はナツキ・スバル!ロズワール邸の下男にして、こちらにおわす王候補――エミリア様の一の騎士!』
『――話を、しましょう』
ああ、とエミリアは顔を歪める。
「スバル...」
ユリウスが、小さく声を漏らす。
あの場での、最善だった。
だが、スバルの内心を知ってしまった今、それは、あまりにも。
『……だってスバルは、私がいるとそうやって無理をするんでしょ?』
『初めて会ったときもそう。屋敷で色々あったときだってそうだった。それに、今日のことだって……全部みんな、私と一緒にいるからなんでしょ?』
『俺はただ、エミリアたんのために、なにかしてあげたいって、そうやって』
『私の、ために?』
『――自分の、ためでしょう?』
それは、あまりにも酷い言葉で。
「...違う、スバル...私は...」
知らなかった。
スバルが死を重ねていることも。
エミリアはスバルの全てを知らなかった。
「...ただ、傷ついて欲しくなかっただけなの...スバルに、私と居たら……」
言い訳にしかならない。
スバルの死を、全てを、エミリアは否定したのだ。
『そうやってなにもかも、私のためだって嘘をつくのはやめてよ――っ』
「嘘なわけない...スバルは、ずっと私のために……」
絶望が、後悔が、エミリアを蝕む。
スバルが正しいわけじゃない。
でも、エミリアの言葉は、スバルに、幾度となく死んだスバルにかけるにはあまりにも、酷いものだったから。
『わからないよ、スバル……』
『――わからないって、言ってるの!』
「...違う!忘れてるのは、私の方なの!スバルは、ずっと覚えてて...全部!痛みも、記憶も、スバルだけが……」
エミリアの言葉は間違っていない。
分からないに決まっている。
でも、この場でエミリアにその言い訳はもう許されないのだ。
『……また、なにも言ってくれないのね』
「...言えないの、スバルは...ペナルティがあるから……」
ああ、とエミリアは視界が涙に溺れていく。
もう思い出せない。
スバルは、この言葉をかけられた時、どんな顔をしていた?
『どうして、わかってくれないんだよ……』
『俺は、エミリアたんなら……君ならわかってくれるって、思って……っ』
『スバルの中の、私はすごいね』
『なにもかも、全部すべて、聞かされなくてもわかってあげられる。スバルの苦しみも、悲しみも、怒りも、自分のことみたいに思ってあげられる』
『――言ってくれなきゃ、わからないよ、スバル』
「もう、やめてよ……!私は、そんなつもりじゃ」
エミリアには、スバルの気持ちはわからなかった。
「...どうして、スバルは……」
こんな思いをしても、エミリアを好きでいられるのだ。
「...」
聖域での言葉を思い出す。
その言葉が揺らぐことは無い。
それでも。
「...もう、傷つかないで……スバル...」
スバルの激情が、鼓膜を揺らす。
その言葉は、正しくて。
今までを見た、今なら。
分かって、あげられるのに。
『そう、よね』
『私はスバルに、すごい、いっぱい、たくさんの、借りがある』
『だからそれを全部返して、終わりにしましょう』
『期待、してたの。ひょっとしたらスバルは私を……スバルだけは私を特別扱いしないんじゃないかって。他の、普通の人と同じように、普通の女の子と同じように、区別しないで見てくれるんじゃないかって……』
「...違う、どうして……!どうして分からないの...!スバルの苦しみを...!」
自分が憎くてたまらない。
どうして、こんなに酷いことが言えるんだろう。
視界が歪んでいく。
自分の過ちに、涙に、溺れていく。
そうして、エミリアは罪を重ねるのだ。
スバルが、少しづつ壊れていく。
知らない世界に1人で、大好きな少女に見捨てられて。
彼の心は、きっと、とうに限界を。
レムが共感覚で異変を感知し、スバルとレムが屋敷へ向かう。
途中の宿でレムが手紙を残し、スバルを置いていく。
スバルが竜車を探し、オットーと出会う。
霧が出て進めないというオットーと、降りて向かうスバル。
そして、辿り着いた先で、ナツキ・スバルは幾度目かの絶望にあう。
ペトラが、目をくり抜かれて死んでいて。
レムは、背中に刃を刺されて。
『俺のせいじゃない……俺のせいじゃない……俺のせいじゃ、ない……』
スバルの心が、壊されていく。
屋敷へ入り、何体もの死体を見る。
通路を通って、ドアを開けて。
指に激痛が走って。
『――もう、遅すぎたよ』
「...スバル...今の、パックの、こえ」
エミリアが、虚ろに呟く。
スバルがこの先、幾度となく死ぬのがわかってしまった。
白鯨や怠惰を倒すために、ナツキ・スバルは死体を連ねるのだ。
巻き戻り、ナツキ・スバルはついに壊れる。
引き攣ったように笑い、堰を切ったように泣いて。
フェリスでもどうしようもなくて。
レムは、動揺を隠せなかった。
「...スバル...」
当然のことだ。
もう彼には、心の支えなどなかったのだから。
「大将ッ...!」
彼にはもう、生きる意思は無い。
『スバルくん、もっとこっちに』
竜車をレムが引き、スバルに体を預けさせる。
無防備に、無警戒に、ろくに言葉を話せず、たまに笑うか泣くかするだけ。
廃人、と呼ぶ他にない。
『スバルくん、大丈夫ですからね』
そんなスバルに、頼られて、そばにいられて、レムは少しだけ嬉しかったのだ。
全てが上手くいくと、レムは信じていたから。
「...レムは、いつだって自分勝手ですね」
スバルの笑う顔が好きなのに、幼子のように無防備になったスバルに対して、頼られて嬉しいだなんて。
そして、この記憶が無いレムにとって、スバルの死は約束されていた。
魔女教が、スバルとレムに襲いかかる。
「...魔女教...!!」
レムの顔が歪む。
歯痒い。
目の前でスバルが傷つけられても、レムには黙ってスクリーンを見るしかできないのだから。
魔女教のひとりに、スバルが攫われる。
『お前……たちは……』
『レムから、生きる理由を奪っただけじゃ飽き足らず……』
『今、この場で死にに行く理由すら奪うのか――!!』
「...スバルくん、レムは」
あなたを必ず守る、と言いたかったが、結局このルートでスバルを死なせてしまったレムに、そんな言葉を吐く傲慢は許されなかった。
『――見つけ、ました』
スバルが鎖に繋がれ、ペテルギウスに一方的な会話で詰られ、そんな中でレムはスバルを見つける。
『よかった、スバルくん――』
レムは死の香りを纏わせ、スバルを見て安堵する。
「...れ、む」
ラムが、小さく呟く。
肘から先を失った、その痛々しい姿を。
「...魔女、教...!」
ぎり、と奥歯を軋ませる。
怒りの矛先がスバルに向かないのは、彼女の優しさだろうか。
『その人に、触るな!』
無理やり髪を掴まれ、嫌がるスバルの顔を見て、レムは怒りに体を突き動かされる。
レムが命を削り戦っても、スバルは自分可愛さに行動を起こせない。
でも
『……れむ』
囁くような弱々しい声で、名前を口にする。
レムが、嬉しそうな顔で微笑み、体中に十字架の刃が突き刺さる。
「レム!」
ラムが叫ぶ。
エミリアは、目の前の光景を信じられなかった。
スバルは、見たことの無いくらいに弱々しく、少し引っ張れば死んでしまうように。
「...う、そ」
スバルが強くないのは知っていた。
でも、彼は最後には人のために動ける人だから。
それさえも、彼の死体の上にあった、幻想だったけれど。
『逃げることは、許されないのデス』
前髪を掴み、顔をあげさせられる。
衝撃と痛みに顔を顰めるスバルに、なおも言葉は続く。
『見ろ、見なさい、見るのデス。少女は死んだのデス。愛に殉じたのデス。傷を押して戦い、恐怖に抗って前に出て、なにも果たせず終わったのデス』
『うぁ、あ……』
レムの死体が、破壊されていく。
『ーーーーーーー』
スバルが我を取り戻し、叫ぶ。
それは、あまりにも遅い抵抗だったけれど。
「...すば、る」
エミリアが吐き気に口元を抑える。
酷い光景だった。
「...わたしの、せい?」
それも、エミリアがスバルを突き放したからなのか。
スバルは、こんなに強く人を憎んだことは無かった。
幾度となく死に、その運命と世界こそ恨めど、個人を恨むことは無かった。
でも、憎悪だけが、スバルを狂わせずにいたから。
『れ、れむ……?』
死んだはずのレムが、気配を取り戻した。
ずるずると体を引き摺り、スバルの体に手を添える。
『 』
小さく、聞こえない魔法の詠唱。
手枷が、壊れる。
『レム……待て、レム。待って……俺を』
置いていかないで、と言いたかったのか。
憎んでいるんじゃないか、と聞きたかったのか。
そのどちらが真意だったとしても、自分本位な自分にスバルは絶望する。
この期に及んでまだ、自分という弱い生き物を守ろうとする浅ましさに。
レムが文字通り、死を覆してスバルを救ったというのに。
それを最後に彼女の命の灯火は、今度こそ本当に消えていこうというのに。
『い、きて』
『だい、す、き』
「...ぁ」
レムが情けない声を漏らす。
スバルは、またレムのせいで自分を嫌いになるのだ。
誰かに守られる度、彼は自分を嫌いになる。
村へ向かう。
そして、悲劇はスバルを離さない。
見知る人達の死体が、転がっている。
そして、嫌な音を立てて大精霊が……パックが、崩壊した屋敷の上に。
《眠れ――我が娘とともに》
ごき、と首が折れて、落ちる。
その死体に、雪が降り積もっていた。
「……パック!どうして……!?」
エミリアは確信する。
スバルは、パックに2回も。
「……こ、れは」
ユリウスが言葉を失う。
ラインハルトは、自らの手を見つめ、目を泳がせていた。
スバルが正解を引く男だと、そう思っていた。
だが、それは傲慢すぎる勘違いだ。
スバルは、その死体の多さゆえ、そうせざるを得ないだけだったのに。
やばい、学校あるのに、寝れない