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恐怖に溺れてしまったから/Novel by 春風

恐怖に溺れてしまったから

9,299 character(s)18 mins

オボレルルートです!
スバルくんは人を殺すことに向いていて、人を救うことには向いてないのかななんて思いました。
ちょいちょい省いてます。
反応少ないかも?
セシルスはスバルくんの次に好きなのでオボレル大好きです。
ラインハルトが来てからは辛くて読めません。
⚠️この先原作ネタバレあり⚠️
正規ルートのスバルくんはセシルスやハリベルと普通に仲良くできてるのほんとにオボレルくんの存在価値とは?って感じで可哀想で可愛いですね。
帝国編のアニメ化楽しみだ!!
あと今期の演説も!!

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「...これから流すのは、ナツキ・スバルが身投げをせずに逃亡した世界です。存在しないけれど、確かに有り得た世界を...あなたの罪を、受け入れてください。」
声が響く。
「...逃げた、って...そんなこと、スバルくんが」
スクリーンが、映像を映し出す。

壊れていた。
その映像を表す言葉は、それ以外にないだろう。
レムは死んだ。
ロズワールが生きる意味を失っていた。
そんな光景を、フレデリカが何とか支えようと頑張っている。
『ごめんね、フレデリカ。君は何も悪くないよ。――ただ、ボクがボクの一番大事なものを守ろうとするなら、この決断をするのが一番正解なんだ』

「...何ともまあ、滑稽な話だ〜ぁね」
「...存在しない世界...最悪な未来なのよ」
スバルが身投げしたことをベアトリスはこれ以上なく嫌だと思った。
でも、それをしないだけで、ここまで酷いことになるなんて。

何もかもが崩壊していく屋敷の中で、ロズワールは青髪の青年、セシルスと対面する。
『――おや、これを避けられるとは予想外。もしかして、筆頭宮廷魔術師殿は、魔法だけじゃなく体術なんかも齧ってらっしゃったりします?』
『今の動き、端役にできるものではありません。素直に感嘆しましたよ』
『魔法以上に腕に覚えのある方でしたら、僕の方も気が重くならなくて助かります。何しろ、一方的すぎるのは僕の美学に反しますからね。いえ、やれって言われたらやるんですが、なるべく、悪者扱いは避けたいところでして』

「...誰、ですか」
レムはその人物の顔を知らない。
「...この人、見たことある。帝国で...沢山お話した訳じゃないけど...」
エミリアは記憶の隅にあるそれに思いを馳せる。
それから、こんな怖い雰囲気だっただろうか、と思う。
これも、スバルがいないから変わってしまったのか。

『――一番刀、『夢剣』マサユメ』
セシルスが剣を掲げる。
『所有者の魂を蝕む、魔剣の一振りか。――セシルスくん、一つ聞いても?』
『なんでしょう。僕の弱点ですか?僕の弱点なら、人の話を聞かないことと、二十歳を過ぎても落ち着きがないこと。帝国の議会でもよく議題に上がっていました』
『君の、雇い主の名前は?』
『口さがないものは悪党、外道、そのやり口から『粛清王』なんて陰口を叩かれてもいますが……あなたには、正しい名前を伝えるように言われていますので』
静かに、名前を口に出す。
『やはり、君だったか』
音よりも早く、剣が軌跡を描く。

「...なるほど、粛清王だなんて、随分と恐ろしい二つ名だ。幼女使いの方が、似合ってるんじゃないか〜ぁな?」
「...スバルくん、どうして」

『なんて、皮肉なのかしら』
『――よう、ベアトリス』
『お前、なんて目をしているのよ』
痩せて、死人のように白い肌をしている。
元々黒かった目も、光が灯らず。

「...大将ッかァ?」
「...ええ、そうね。...こんなに醜悪な顔をしたのは初めて見たけど」
ガーフィールはそれをスバルだと思えなかった。
いつもの明るい笑みはどこにもなく、事務的に生きているような。

ベアトリスを、スバルの後ろにいた獣人...ハリベルが何らかの不思議技により影を縛り動けなくする。
『感謝してるぜ、ベアトリス。……なんであのとき、俺を殺してくれなかったんだよ』
泣き笑いのような顔でそう吐く。
『お前は、ちゃんと色がついてて、綺麗だな……』
痺れた舌で、ベアトリスは呟く。
『――お前が、ベティーの、『その人』なの?』
『俺が、お前の『その人』だよ』
刃が振り下ろされ、ベアトリスは終わりを迎える。

「...っ!こんなの、スバルが言うはずないのよ!スバルが、その人なんて、型にはまりたがらないのは、ベティーがよく知っているのよ!」
ベアトリスに激情がやどる。
こんなの、スバルへの冒涜だ。
「ベアトリス、落ち着いて!...スバルは、きっと、この世界の、スバルは...」
その先は言えなかった。
分かっているから。

『溺れるものは藁をも掴む、って言葉が俺の地元にはあるんですよ』
『藁って、わかります?たぶん、藁はあると思うんだけど……まぁ、麦とかそういうヤツのことです。で、溺れてる人はすげぇ必死だから、掴まっても助かるわけないんだけど、それに掴まっちゃうみたいな』
『わかりやすく言うと、死にかけた人間は生きるために必死みたいな格言ですよ。火事場の馬鹿力とは違うかな。そっちは逆転の目があるけど、藁は悪足掻きだし』
60近い男が、スバルの...粛清王の足元に、床に、頭を擦りつけている。
彼の言葉をひとつでも聞き逃せば、機嫌を損ね殺されるかもしれないという恐怖に苛まれながら。

「...スバル、なのか」
ユリウスには、それがスバルには見えなかった。
冷たい目。
冷たい声。
いつもの温かさがなく、優しさなんてどこにもなかった。

『シグルムさん?』
名前を呼ばれ、シグルムは心臓を掴まれたような感覚に陥る。
『あー、退屈させてすみません。話が逸れるのは俺の悪い癖でして。昔から、回りくどい感じじゃないと、なかなか本題に入れないんですよ』
『い、え……その、私は』
『俺が話してる』
『……すみません。脅かすつもりはなかったんです。ただ、ほら、こっちの二人とか、周りの連中は俺が雇ってるから従ってくれますが、あなたはそうじゃないでしょ?だからなんていうか……安心が欲しくて、すみません』
静かな声で、礼儀正しく。
怯えた瞳で、相手の心を見透かすように。

「...!」
びく、とフェリスは一瞬肩を揺らした。
「...これ、本当にスバルきゅん?」
声も顔も同じなのに、何もかもが違う。
彼が言わないこと、彼がしないこと。
その、記憶上の彼との違和感がフェリスに不快感を与える。
「...怖い目、だね」

『それで……そう、藁の話だ。生きるのに必死って話で……うん、だからわかります。シグルムさんが、うちにこうやって話を通しにきてくれたのは、そういう、ちゃんと筋を通そうとした結果だってことは』
『俺は、筋を通す人は好きですよ。話し合おうって人は、いきなり殴りかかってくる奴よりずっと信用できる。うちの悪い噂をどのぐらい聞いてるかわかりませんけど、俺を噂で判断しないでください。……俺は、なるべく、波風を立てたくないんです』
『ぁ』
『シグルムさん?』
『い、え……申し訳ありません。こちらこそ、申し出は送った書状の通りです。結社の皆様とは、今後とも末永く、お付き合いいただければ』
粛清王が目を細め、薄く微笑む。
『いいお付き合いをしましょう、シグルムさん。詳しいことは、あとで担当の人間と打ち合わせてください。これが、一番賢い選択だ』
『あ……』
『これからも、どうぞ結社をよろしく』
『ありがとう、ございました。今後とも、こちらこそ、ご贔屓に』
『ん』
シグルムが後ろへ下がり、退室しようとした時。
コインが、舞うような音がした。
『裏』
その言葉を最後に、シグルムは死んだ。

「...!す、ばる...どうして...」
笑っていたのに。
「...スバル、君が、こんな...」
「...ナツキ・スバルは、こんなことをできる人間、なのか...?」
エミリアが、ラインハルトが、クルシュが、ナツキ・スバルの非道な行為に目を見張る。
生かす気なんてなかったのか。

粛清王が、死体を見て口を抑える。
死体なんて腐るほど見てるくせに、心は未熟なままだから。
『命じておいてそれっていうのは、さすがに死者への冒涜なのでは?死体に慣れろとは言いませんが、せめて死体を作るのを避ける努力をされてはどうです?』
『俺だって、好きで殺してるわけじゃない……ありません。直視できないなりに、現場には居合わせてる。それがせめてもの……』
『欺瞞ですね』
粛清王の青白い顔が、より死人に近づく。
『ボスの矛盾にはいささか以上に呆れます。あんな穏やかに話し合いを終わらせたのに、いきなり殺せなんて、閣下もビックリの心変わりですよ』
『だから、言ってるじゃないですか。俺だって、別に殺したかったわけじゃないんです。その人にも言った通り、できれば信じたかった。嘘つく顔にも見えなかったし』
『では、何故?』
『嘘をついてるように見えなくても、嘘をつく奴は嘘をつくからですよ』
『先に芽は摘む。枝は落とす。俺は、絶対に、二度と、騙されない』
粛清王が肩に爪を起て、じわりと血を滲ませる。
自傷が、彼を保っているのだろう。
『死体、片付けて埋葬してください。あと、その人の店に使者を出すように。全部没収するけど、従えば悪いようにしないと。逆らうようなら家人は皆殺しにして、店は燃やしてください。引継ぎが済んだら、次の担当者に挨拶にこさせるように。それで、残すか潰すか、判断します』
『ボス、上着忘れとるよ』
『ああ、ありがとうございます』
ハリベルが、薄い殺意に目を伏せる。
間違いなく出処は目の前の少年だ。
おそらく、理由は背後に立ったから。
『……ハリベルさん、殺したくねぇなぁ』
『ははは、せやったら殺さんといたらええやん。うまぁく使ってくれたらええんよ』
『でも、道具持て余して自滅とか最悪じゃないですか。……舐めプして死ぬとか、負け方としてクソすぎるし』
『ボス、ボス。この方が持ってきた献上品は、どちらへ運んでおきます?』
『献上品……中身、なんでした?』
『中身は……ああ、魔鉱石ですね。どこでボスの好みを聞いてきたのやら。これだけ配慮してきたのに斬首とは、ますますこの方が哀れで哀れで』
『首を落としたのはセシルスさんの勝手でしょうに……』
『魔鉱石は、俺の部屋にお願いします。それ以外のものは皆さんでお好きに』
『はいはい、確かに。それから、ボス』
『……なんですか』
『隈、だいぶひどいですよ。そろそろ、お姫様のところでひと眠りされては?』
粛清王が強く舌打ちする。
セシルスは笑い飛ばすが、他のものは身を強ばらせる。
不機嫌を理由にセシルス討伐を命じられるのではないかと。
『――考えとく』
『僕も、そんなに団体行動得意な方やないのになぁ……』
『ハリベルさん……適当に、セシルスさんが暴発しないように見ててください』
『ほいほい、任せとき。ボスは、お姫様んとこ?』
『ん』

「...スバル...」
名前を呼ぶことしか、出来なかった。
殺意なんて、スバルが出したことがあっただろうか?
「...こ、れも、レムの、せいで...」
スバルが人間不信なのは、レムの殺害が理由だ。
だから、これから起こる悲劇は、レムが。

パックに鍵を開けさせ、エミリアの部屋へと続く扉を開ける。
『ハリベルさん、いっていいよ』
『そう?僕も、たまにはお姫様に挨拶したいんやけど……』
『いっていいよ』
柔らかな口調で、はっきりとした拒絶をする。
​───────​───────​─────
『また、ずっと眠れてないみたい』
『仕方ないよ。この子の今の立場だと、気の休まる暇がないだろうしね。それこそ、たまにリアに甘えにくるときぐらいだろうし』
『今でも、リアはこの子のことを怒ってるかい?』
『……どう、かな』
『でも、私、パックには怒ってるから。私に内緒で、勝手に連れ出す準備までして』
『ごめんよ。だけど、仕方なかったんだ。あんな状態のロズワールにリアを任せてなんておけないでしょ?危ない場所と立場に引っ張り出すだけ引っ張り出しておいて、本人があれじゃ無責任だよ。その点、リアの安全ってだけなら、ここはピカ一だし』
『リアを危険な目に遭わせたくないって考えは、ボクとこの子で一緒だから』
『結局、私は何にもできなかったから……』
『……私の、願いは』
『あのまま、だらだらと何の庇護もない屋敷にいるぐらいなら、森に戻った方がよかったのに、リアはそれもできずにいたからね。さすがに、最初に密使から連絡があったときはボクも驚いちゃったけど』
『……すごーく、驚いた。だって』
ここへきて再会した少年を、エミリアは死んだものと思っていたからだ。

「...監禁、されてる」
「...王戦の不戦敗...ね〜ぇ、何ともまあ、酷い話だ」
聖域でロズワールが『スバルは自分と同じだ』と言った。
それを、こんな形で見せられるとは。

『――旦那様、失礼いたします』
フレデリカが食事を運ぶ。
『入れ』
『旦那様、この、落ちている書類はいつものように?』
『……ん。ああ、頼む。わかりそうな奴に、見せてくれたらいいから』
『その辺は、あんまり役に立たないかも。……エンジンとか、そういうのの仕組みって全然わかんねぇし。やっぱ、食事関係が一番わかりやすいよな……』
粛清王は、元いた世界の知識を活用して、富を手に入れていた。

「...えんじん...?聞いたことありませんね...」
オットーが首を傾げる。
「...少なくとも、この世界の言葉では無いな」
ユリウスの知識にも、そんなものは無かった。

『フレデリカ、食事。先に、一口齧ってくれよ』
『旦那様、これで』
『では、出ておりますので、何かありましたら』
『ん』
『旦那さ――』
『フレデリカ』
『――表』
『表だ、フレデリカ。――弟と、祖母は無事だよ』
『――ぁ』
『出ていけ。いいって言われるまで、入ってくるな』
部屋を出たフレデリカは、こらえることも出来ずに泣いていた。

「...ッ!たい、しょォ...ッ!」
ぎり、と奥歯を噛む。
自分の知るスバルは、フレデリカにも優しくて、こんなことをする人では。
「...どうしてだよ...」
その言葉は、レムの絶望をよりはっきりとさせて。

『本日はお目通り叶いまして、誠にありがとうございます』
『――なんか、堂々としてすごいですね。俺とそんな変わんないでしょうに』
『――。いきなりのお褒めの言葉、恐れ入ります』
『ええと、あなたは確か……』
『実は近々に、こちらの方で色々と手広く商売させていただきたく思っています。ですのでまず、結社の方にご挨拶と、贈り物をする機会をいただければと』
『なるほど、それは、まぁ、お気遣いどうも』
『献上品はこちらです。――代表は、これをお望みとお聞きしましたので』
『へえ』
『何色が多い?』
『赤と、青が多いですかね。でも、奥を見ると黄色と緑も……わりと、一揃いって感じに見えます。いやあ、気が利いてますね』
『そうか、それはありがたい。心遣い、確かに受け取るよ。ええと……』
『ラッセル・フェローの遣いのものです』
『ん、わかったよ。あの、ラッセル・フェローの、な。よくわかった。何か、困ったことがあれば……』
一瞬、室内にざわつく気配が広がる。
王の言葉を遮った、その行いに粛清王がどんな反応を返すか、護衛たちが色めき立つ。
だが、そんな中で、ハリベルとセシルス、そして当事者の青年だけは冷静に、
『待ってください。実は、贈り物はまだこれだけではないんです』
『――へえ。ますます、感心だ』
『――ルグニカ王国から、粛清王の蛮行へ、返礼だそうです』
『――『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア』
全ての努力を台無しにする、理不尽な神の鉄槌が、顕現した。

「...ぼ、くが」
オットーが、そう呟く。
最も、自分とは思えないほど酷い顔をしていたが。
「...また、か」
ラインハルトはそう呟く。
ラインハルトは、スバルが大罪司教の世界線でも、スバルの前に立ちはだかった。
これが現実にならないことを祈りながら。

『……届かなかったか』
『ああ、ボスには届きませんでしたね。まぁ、僕とハリベルさんが守ってるところへの一撃ですから、なかなか難しいところではありました。ぶっちゃけ、僕はボス守る動きとか全然してなかったので、ハリベルさんの功績が十割ですけども』
粛清王は、変わらず頬杖をついて。
『これ、スーさんの仕業。……この玉座、やたらと強力な力で守られてるみたい。僕らも、聞いたことなかったけど』
『――お前の一発は盗品蔵で見てんだ。備えてるに決まってんだろ』
『スバル……!』
『外れ籤引いたもんだな、ラインハルト。お前が盗品蔵で俺を助けなかったら、今頃はこんなことにならなかっただろうよ。――その場合、大切なご主人様にも会えなかっただろうから、お前にとっちゃそうでもないのかな?』
『――なんだ。お前、やっぱり白黒のままかよ』
『――?白黒?それはいったい……』
『黙れ、嘘つき野郎。――そんなんじゃ、お前には殺されてやれねぇよ』

「スバル...」
その瞳は、今まで向けられたことの無いもの。
「スバル殿...」
彼は悪役が向いている。
正義の味方をするために何回も死ぬのに、悪役になったら大成功とは。
皮肉な話だ。

『セシルス、好きにしていいです。俺はもう、興味がなくなったので』
『――。僕にはイマイチわかりませんが、どうやら僕とボスとでは見えているものが違うようですからね。ありがたく、好敵手はいただきましょう』
『見えてるものが違う……ははっ、道理だ。最後まで笑わせてくれるぜ』
『それなりに楽しかったよ、セシルス。お前は弱味がなくて、苦手だった』
『僕はあれです。――マヨネーズが怖い』
粛清王はハリベルに抱えられ、闇へ溶ける。
『待つんだ! まだ話は……』
『――終わりですよ、『剣聖』。終わりにしたくないのであれば、また追いついて始めてください。その前に、『粛清王』の忠実といえば忠実な部下が立ちはだかります』
ゆっくりと、セシルスに終わりが。
​───────​───────​─────
『フェルトあたりを、ちゃんと、人質にしとけばよかったかな……』
想定通りだったが。
『裏社会の大ボス気取りも、ちょっとは楽しかったかな……』
『――世界中の人間の弱味が、握れたらなぁ』
そうしたら、怖くないから。
『……ラインハルトには、ちょっと期待してたんだけどな』
モノクロに見える世界で、カラフルでいてくれると。

「世界中の人間の弱味を...スバル、そんなのは無理なのよ。信じられる人だけを、信じるしか...」
「...君にとって、僕は」
絶望が伝染する。
まるで水門都市での悲劇のように。
スバルのあの目が、絶望を広げていく。

フレデリカがスバルを殺そうとし、ハリベルに阻止される。
スバルはハリベルに背を向け、歩く。
と、その時。
ドスッと鈍い音を立てて左脇に刃物が刺さる。
『――ぇ』
場面は変わり、エミリアは。
『ご無事でしたか、エミリア様。またお目にかかれて何よりです』
『ラインハルト、ひどい怪我よ。大丈夫なの?』

『とにかく、エミリア様がご無事でよかった。……僕と一緒に、ここを離れましょう。城の外に竜車があります。それで、ルグニカへ』

『エミリア様、今はこの場を――』

ラインハルトの腹部を、背後から氷の剣が貫通する。
青白い氷の刀身を血が伝い、内臓を破壊と氷結に侵され、『剣聖』がかつてない衝撃に血を吐いた。
『だ、め……ダメよ。スバルは、ダメなの。ラインハルト、ダメよ。スバルは、傷付けさせない。スバルには、私が、必要なの……』
ラインハルトがスバルを追い詰めるとわかったから。
そうさせたくなかった。

「...う、そ。わたし...?」
「エミリア、さま」
衝撃が、みなの頭を殴る。
もう、この世界は何一つ正しくないのだと。
そう、なれないのだと。

『お願い、ラインハルト。このまま帰って。私と、スバルのことは放っておいて』
『結社『プレアデス』代表、『粛清王』ナツキ・スバルはすでに、ロズワール・L・メイザース元辺境伯を始めとした王国民、並びにヴォラキア帝国、カララギ都市国家、グステコ聖王国の臣民を、合わせて十二万六千七百二人、死なせています』

「嘘、です。スバルくんに、そんなに人を殺すなんて……」
「出来るのよ。スバルなら、その優しさが許さなかっただけで。」
スバルが人を殺せないのは、哀れな程に優しいからだった。

エミリアとラインハルトが戦い、スバルはオットーに刺される。
こんな悲劇が。
『――スバル』
『よかった、スバル……ちゃんと会えた……っ』
『エミリア……?』
『――でも、なんで』
色を持つエミリアが、痛々しいほどに赤く。
『スバル、一緒に逃げましょう。今なら、誰も私たちを追ってこれないから』
『――逃げるって、俺と?』
『そうよ。他に誰がいるの。変なこと言わないの』

『私、スバルに怒ってたと、思う。でも、それってホントに最初だけで……あとは、ずっとスバルに助けられてたって、思うの』

『私を、スバルが必要としてくれたから。誰にも必要にされないって、そんな風に諦めてた私を、スバルが許してくれた気がして、だから……』

『スバルと、一緒にいたいの。だから、逃げましょう?』

『――だったら、一緒に死んであげる』

『一緒に終わってあげる。あなたが、必要としてくれない場所に、私はいたくない』

『お願い、スバル。あなたが、必要なの。私と、一緒にいてほしいの』

流れる言葉に、スバルが、絶望する。

『う、そだ……』
『嫌だ、やめろ、やめてくれ。なんで、俺を、今さら、なんで!やめろ!やめろやめろやめろ!やめてくれよぉっ!!』
『そんなこと、俺が知るかよぉぉぉぉぉ――ッ!!』
鈴の音はもう聞こえない。
『俺を!嫌っていてくれたらよかったんだ! 俺を、疎んでいてくれたらよかった!』
エミリアまでも、モノクロに。
『優しくなんて、するなよ……!』
『どうせ、俺のことを、嫌いになるんだろ。疑うんだろ?俺が邪魔になって、殺したいと思って、憎んで、呪って、裏切るんだろ!?』
『だったら、最初から俺を憎んだままでいてくれよ!変わらない、そのままであってくれたらそれでよかったんだよ!憎んだら、そのままだ。憎んだら、そのままで……!』
『いつか俺を裏切るくせに、俺を愛したふりなんか、しないでくれよぉ!!』
色を失ったエミリアを突き飛ばす。
走る。
走って、藁にすがる。
『――やっと、死にたくなったの、バルス』
――憎悪だけを理由に、自分を殺してくれる女の微笑は、血の色をしていた。

「ぁ……スバル……」
絶望しか、残らなかった。
エミリアは、スバルに拒絶された。
それが、こんなにも。
「...ど、うして」
レムは、もう音が聞こえなかった。
自分の不始末を、姉にさせたのだから。

「...少しの休憩を取ります。」

そんな声が聞こえて。
「待って!スバルを……!」
エミリアが手を伸ばし、力なく倒れる。

「...」

スピーカーが少し揺れ、やがて空間に無音が走る。

Comments

  • レイラ
    Mar 28th
  • kazu
    February 5, 2025
  • シン
    November 10, 2024
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